ゲスト
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【羽冠】イスルダ島『魔の森』の制圧戦
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/16 12:00
- 完成日
- 2018/04/24 09:23
みんなの思い出
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オープニング
黒大公ベリアルが討伐されたイスルダ島攻防戦について、『報告』を行う為に島を離れていた歪虚の飛翔騎士団長ラスヴェート・コヴヘイル・マーロウが、魔の森の奥に隠れされた駐屯地へと帰還した。
それを出迎え、腹心の騎士、『爺』ことブリアック・エティエンヌ・エルヴェシウスが主の前に跪き、両膝と両拳を泥塗れの地面に突いて、泥水に額を擦りつける。
それは騎士の礼ではなかった。無論、ブリアックは異世界の土下座など知る由もなく──全ては彼の内から発した想いが自然とその形を取らせたものだった。
「申し訳ありませぬ……! 留守役を仰せつかりながら、この爺、王国軍の侵攻を止めることも出来ませなんだ……!」
あたら貴重な騎士や兵らを失ってしまった── 噛み締めた奥歯の間から振り絞る様に慟哭を滲ませるブリアック。その姿は誇り高き騎士としても傲慢の歪虚としても有りうべかざることだった。
ブリアックと共に戦った騎士がラスヴェートにそっと耳打ちをした。──主の不在の間に王国軍の攻勢圧力が強まったこと。多くの騎士が島を離れていた状況ではそれに抗しきれなかったこと。失われた騎士の中にはブリアックの子息もいたこと、等々──
話を聞いたラスヴェートは暫し立ち尽くし……泥塗れになるのも構わずブリアックの前に膝をついた。
「それは私の責だ、爺」
指揮官は部下の前で己の不明を詫びてはならない──その原則をラスヴェートは放り投げた。主の率直な態度に、騎士たちは大きく息を呑んだ。
「……しておかねばならぬ事が多過ぎたとは言え、騎士らを外に出し過ぎた。お前の所為ではない。……お前まで失うわけにはいかぬ。不甲斐ない主であるが……またついてきてくれぬか」
ラスヴェート・コヴヘイル・マーロウ── 先代ウェルズ・クリストフの後を継いでマーロウ大公家の当主となった男。ホロウレイドの戦いにおいて、王の政治的な判断によりなされた最後の突撃に異議を唱えつつ、最後には王命に従って王と共に戦い、王を守って果てた騎士。知勇共に優れ、人格的にも成熟した、貴族領民に慕われた領主。あのウェルズ・クリストフが憂いなく次代の大公家と王国を託した一人息子──
あの戦いで彼が喪われなければ、王亡き後の王国の混乱もそこまで大きなものとはならなかったかもしれない。或いは、セドリック・マクファーソン大司教と協力し、暴走する貴族たちを抑える柱となっていたかもしれない。
……だが、それも、所詮、喪われた可能性の一つにすぎない。彼は今、歪虚の騎士たちの頭領としてここにいる。
「本土に情報収集にやった騎士から報告があった。どうやら、親父殿がまたぞろ何事か企んでいるらしい」
●【羽冠】イスルダ島『魔の森』の制圧戦
後方のVolcanius隊が放った炸裂弾の雨が自分たちの頭上を跳び越え、前方の歪虚残党軍の防御陣地に降り注いだ。
砲弾が炸裂し、破片が周囲の樹木型歪虚の森を切り裂いて── その後を、抜剣した兵たちが喚声と共に突入していき、生き残りと切り結ぶ。それを巨大な岩々をその身に纏ったトーチカの様な固定陣地型の巨大ヤドカリ系歪虚がその『銃眼』の奥から礫弾を連射し、迎え撃ち。その弾幕を潜り抜けながら兵たちは地面を這い進み、『鉄条網』──棘の生えた茨型歪虚の蔦が張り巡らされた移動阻害の為の防御線──に取りつくとそれを高枝切狭で一本ずつ切除していく……
イスルダ島の一部に広がる『魔の森』の討伐隊は遂に、森の中に隠れ潜んだ飛翔騎士たちの残党の、その隠れ家の外郭防衛線へと達した。
各所に置かれた『トーチカ』と、幾重にも張り巡らされた『鉄条網』──その姿はおよそ騎士という呼称からは程遠いものであったが、自分たちよりも兵数に勝る歩兵を相手にするには理にかなった戦い方ではある。
防御線正面の攻撃を担当する第一中隊──
バチンッ、という音と共に、高枝切狭によって切除された茨の蔦の一本が、まるで鞭の様に跳ね回って兵たちを薙ぎ払う。蔦の棘にその身を切り裂かれ、血塗れになって悲鳴を上げる兵たち── そこへ左右方向に位置する『トーチカ』から礫弾の集中攻撃が浴びせられて兵たちがバタバタ倒れ、死神が鎌を振るうようにその悲鳴を断ち切っていく……
別の個所──味方がトーチカからの銃撃を引き付けている間に、長い板を『鉄条網』に被せて一気に突破を図ろうとした一隊は、茨を板で圧し潰しつつその上を半ばまで渡ったところで、周辺の茨がまるで対人地雷よろしく一斉に棘を周囲へ弾き出し── 撒き散らされた棘に身体を穴だらけにされなかった兵たちが慌てて逃げ出したところを、トーチカからの『銃撃』が無慈悲に、のべつ幕無く、平等にあらゆる者を撃ち倒す……
「…………」
歩兵第一中隊長は、かつて経験したことのないその被害の大きさに、敵外郭防衛線に対する歩兵のみの突破を諦めた。
未だ高価で配備数の少ない無線機を持つ通信兵を呼び寄せ、砲兵隊に繋ぐよう指示を出す。
「こちら第一中隊。砲撃支援を要請する」
「第一中隊、こちら砲兵隊。現在、第二中隊に対する支援砲撃を実施中」
第一中隊長は舌を打つと、通信兵に今度はCAM隊に対する支援を要請させた。それを受け、戦場を飛び回っていたCAMの一小隊がスラスターを噴かせて飛んできた。
「こちらCAM一中二小。これより正面の敵防衛線に対して攻撃を開始する」
ビジネスライクな落ち着いた声音で仲間に指示を出すCAM隊長。火力を集中させて『トーチカ』を一つ一つ潰した後、前進して『鉄条網』を踏み潰す。蔦が暴れて棘を放つが、それもCAMの装甲は貫けない。
兵たちに上がる歓声── 『鉄条網』の只中にCAMが地ならしで突入路を拓き、歩兵の先頭に立って前進する。
再び彼らの眼前に現れる第二の防衛線── 同様に突破するべく機を前進させたパイロットは、しかし、その『鉄条網』の直前で生じた浮遊感にその目を見開いた。
「落とし穴だと──ッ!?」
落下の衝撃を受けて揺れた頭を振りながら、驚愕するパイロット。そう、敵第二防衛線の『鉄条網』の手前にはCAMの下半身がすっぽり嵌る程の落とし穴が掘られていた。しかも、穴の底には『ワイヤー』(茨の蔦)が縦横無尽に張り巡らされており、その中に突っ込む形になった脚部が絡まり、引き抜けない。
そのすぐ横の地面にボコリと穴が空いた。そこから顔を出した『モグラ人』型歪虚に続いて出て来た全身鎧の『飛翔歩兵』2人が、擱座したCAMに向かって魔力の槍を投げつけた。
槍はCAMの頭部カメラと腕部肘関節に直撃し、貫通して爆発した。破壊されたパイロットを助けるべく突撃を仕掛けた歩兵たちは、『トーチカ』からの銃撃によって薙ぎ倒された。
「後退だ! 後退しろ!」
中隊長の指示に雪崩を打って退く歩兵たち──
魔の森最後の攻略戦は、一筋縄ではいかなかった。
それを出迎え、腹心の騎士、『爺』ことブリアック・エティエンヌ・エルヴェシウスが主の前に跪き、両膝と両拳を泥塗れの地面に突いて、泥水に額を擦りつける。
それは騎士の礼ではなかった。無論、ブリアックは異世界の土下座など知る由もなく──全ては彼の内から発した想いが自然とその形を取らせたものだった。
「申し訳ありませぬ……! 留守役を仰せつかりながら、この爺、王国軍の侵攻を止めることも出来ませなんだ……!」
あたら貴重な騎士や兵らを失ってしまった── 噛み締めた奥歯の間から振り絞る様に慟哭を滲ませるブリアック。その姿は誇り高き騎士としても傲慢の歪虚としても有りうべかざることだった。
ブリアックと共に戦った騎士がラスヴェートにそっと耳打ちをした。──主の不在の間に王国軍の攻勢圧力が強まったこと。多くの騎士が島を離れていた状況ではそれに抗しきれなかったこと。失われた騎士の中にはブリアックの子息もいたこと、等々──
話を聞いたラスヴェートは暫し立ち尽くし……泥塗れになるのも構わずブリアックの前に膝をついた。
「それは私の責だ、爺」
指揮官は部下の前で己の不明を詫びてはならない──その原則をラスヴェートは放り投げた。主の率直な態度に、騎士たちは大きく息を呑んだ。
「……しておかねばならぬ事が多過ぎたとは言え、騎士らを外に出し過ぎた。お前の所為ではない。……お前まで失うわけにはいかぬ。不甲斐ない主であるが……またついてきてくれぬか」
ラスヴェート・コヴヘイル・マーロウ── 先代ウェルズ・クリストフの後を継いでマーロウ大公家の当主となった男。ホロウレイドの戦いにおいて、王の政治的な判断によりなされた最後の突撃に異議を唱えつつ、最後には王命に従って王と共に戦い、王を守って果てた騎士。知勇共に優れ、人格的にも成熟した、貴族領民に慕われた領主。あのウェルズ・クリストフが憂いなく次代の大公家と王国を託した一人息子──
あの戦いで彼が喪われなければ、王亡き後の王国の混乱もそこまで大きなものとはならなかったかもしれない。或いは、セドリック・マクファーソン大司教と協力し、暴走する貴族たちを抑える柱となっていたかもしれない。
……だが、それも、所詮、喪われた可能性の一つにすぎない。彼は今、歪虚の騎士たちの頭領としてここにいる。
「本土に情報収集にやった騎士から報告があった。どうやら、親父殿がまたぞろ何事か企んでいるらしい」
●【羽冠】イスルダ島『魔の森』の制圧戦
後方のVolcanius隊が放った炸裂弾の雨が自分たちの頭上を跳び越え、前方の歪虚残党軍の防御陣地に降り注いだ。
砲弾が炸裂し、破片が周囲の樹木型歪虚の森を切り裂いて── その後を、抜剣した兵たちが喚声と共に突入していき、生き残りと切り結ぶ。それを巨大な岩々をその身に纏ったトーチカの様な固定陣地型の巨大ヤドカリ系歪虚がその『銃眼』の奥から礫弾を連射し、迎え撃ち。その弾幕を潜り抜けながら兵たちは地面を這い進み、『鉄条網』──棘の生えた茨型歪虚の蔦が張り巡らされた移動阻害の為の防御線──に取りつくとそれを高枝切狭で一本ずつ切除していく……
イスルダ島の一部に広がる『魔の森』の討伐隊は遂に、森の中に隠れ潜んだ飛翔騎士たちの残党の、その隠れ家の外郭防衛線へと達した。
各所に置かれた『トーチカ』と、幾重にも張り巡らされた『鉄条網』──その姿はおよそ騎士という呼称からは程遠いものであったが、自分たちよりも兵数に勝る歩兵を相手にするには理にかなった戦い方ではある。
防御線正面の攻撃を担当する第一中隊──
バチンッ、という音と共に、高枝切狭によって切除された茨の蔦の一本が、まるで鞭の様に跳ね回って兵たちを薙ぎ払う。蔦の棘にその身を切り裂かれ、血塗れになって悲鳴を上げる兵たち── そこへ左右方向に位置する『トーチカ』から礫弾の集中攻撃が浴びせられて兵たちがバタバタ倒れ、死神が鎌を振るうようにその悲鳴を断ち切っていく……
別の個所──味方がトーチカからの銃撃を引き付けている間に、長い板を『鉄条網』に被せて一気に突破を図ろうとした一隊は、茨を板で圧し潰しつつその上を半ばまで渡ったところで、周辺の茨がまるで対人地雷よろしく一斉に棘を周囲へ弾き出し── 撒き散らされた棘に身体を穴だらけにされなかった兵たちが慌てて逃げ出したところを、トーチカからの『銃撃』が無慈悲に、のべつ幕無く、平等にあらゆる者を撃ち倒す……
「…………」
歩兵第一中隊長は、かつて経験したことのないその被害の大きさに、敵外郭防衛線に対する歩兵のみの突破を諦めた。
未だ高価で配備数の少ない無線機を持つ通信兵を呼び寄せ、砲兵隊に繋ぐよう指示を出す。
「こちら第一中隊。砲撃支援を要請する」
「第一中隊、こちら砲兵隊。現在、第二中隊に対する支援砲撃を実施中」
第一中隊長は舌を打つと、通信兵に今度はCAM隊に対する支援を要請させた。それを受け、戦場を飛び回っていたCAMの一小隊がスラスターを噴かせて飛んできた。
「こちらCAM一中二小。これより正面の敵防衛線に対して攻撃を開始する」
ビジネスライクな落ち着いた声音で仲間に指示を出すCAM隊長。火力を集中させて『トーチカ』を一つ一つ潰した後、前進して『鉄条網』を踏み潰す。蔦が暴れて棘を放つが、それもCAMの装甲は貫けない。
兵たちに上がる歓声── 『鉄条網』の只中にCAMが地ならしで突入路を拓き、歩兵の先頭に立って前進する。
再び彼らの眼前に現れる第二の防衛線── 同様に突破するべく機を前進させたパイロットは、しかし、その『鉄条網』の直前で生じた浮遊感にその目を見開いた。
「落とし穴だと──ッ!?」
落下の衝撃を受けて揺れた頭を振りながら、驚愕するパイロット。そう、敵第二防衛線の『鉄条網』の手前にはCAMの下半身がすっぽり嵌る程の落とし穴が掘られていた。しかも、穴の底には『ワイヤー』(茨の蔦)が縦横無尽に張り巡らされており、その中に突っ込む形になった脚部が絡まり、引き抜けない。
そのすぐ横の地面にボコリと穴が空いた。そこから顔を出した『モグラ人』型歪虚に続いて出て来た全身鎧の『飛翔歩兵』2人が、擱座したCAMに向かって魔力の槍を投げつけた。
槍はCAMの頭部カメラと腕部肘関節に直撃し、貫通して爆発した。破壊されたパイロットを助けるべく突撃を仕掛けた歩兵たちは、『トーチカ』からの銃撃によって薙ぎ倒された。
「後退だ! 後退しろ!」
中隊長の指示に雪崩を打って退く歩兵たち──
魔の森最後の攻略戦は、一筋縄ではいかなかった。
リプレイ本文
前進を続けていた3機のCAMが突然、落とし穴に掛かって撃破され── 後続していた歩兵たちは敵前での後退を余儀なくされた。
「にゃぁ~っ!(ご主人様、無理はしないでにゃ~!)」
「あ? 私の事はいいから、一人でも多くの怪我人を癒しやがれです」
塹壕から放たれる豪雨の如き魔力の矢── 戦友であるサクラ・エルフリード(ka2598)と共に、逃げ散る味方の最後衛に立って後退していたシレークス(ka0752)に、ユグディラ『インフラマラエ』が心配そうに声を掛ける。
最後まで敵防衛線上空にとどまってその撤退を支援していた岩井崎 旭(ka0234)(ワイバーン『ロジャック』騎乗)、クルス(ka3922)(グリフォン騎乗)、鞍馬 真(ka5819)(ワイバーン「蒼空の」『カートゥル』騎乗)の3騎もまた、味方の後退を確認して戦場を離脱した。
「あちこち罠だらけだ。前途多難だなあ……」
「やっぱ攻めるのは守るよりも怪我人出るよなあ……」
後退しながら、眼下の地面に倒れ伏した歩兵たち(その一部はまだ生きていて微かに動いている)を見下ろし、沈黙する真とクルス。
「つーか、この森自体が罠みてーなもんじゃねーか…… 魔の森とはよく言ったもんだぜ」
一面に広がるのは化石化した森。そこから上空の3騎へ向かって伸ばされる野良植物型歪虚の蔦を切り払いつつ、旭がやれやれと嘆息する……
「なかなか一筋縄ではいかないようですね。ここまで色々と仕掛けられているとは……」
地上へ下りて来る3騎のランディングを遠目に見ながら、頭の上にユグディラ『ヤエ』を乗せたままでサクラがポツリと呟いた。
やはり前に戦ったあの騎士たちでしょうか…… 呟くサクラの頭の上の、ヤエをジッと見上げるインフラマラエ。その視線が自分へと向けられたのを確認してスチャッと彼(?)が片手を上げて挨拶するが、そのヤエは主人の頭の上で垂れたままジッとインフラマラエを見返し続け…… 片手を上げたまま固まったインフラマラエがピュピュピュピュピピュイ~! とほのぼの汗を飛ばす。
「な~にしてやがいますか、お前は」
そんな相棒を呆れた様に見下ろしてから、シレークスは地面に座り込んでしまった兵たちに仁王立ちで向き直った。
「おらおら、おめーら! 消沈している暇はねーでやがりますよ! おめーらには自分たちがいる。すぐに増援のCAMや砲兵たちも来る。何より光の大精霊様がおめーたちの戦いを見守っておられます!」
その呼び掛けに呼応して分隊長らがはっぱをかけるも、それに応じる兵らの歓声には疲労の色が濃い。
その様子を、他の飛竜乗りらと共に相棒に餌をやりながら、クルスは難しい顔をして見ていた。
(落ちた士気をもう一度上げるには、何かきっかけが必要かもしれないな……)
その横で、旭が飯も食べずに何事かを考えこんでいた。
(なんか敵の人型が少ねー気がする…… 前に見た時は、連中、それこそ軍と呼べる規模だったと思うんだけど……)
違和感がある。が、その正体までは分からない。
●
戦闘はそのまま膠着状態に入ろうとしていた。
第一中隊は指揮所に状況を伝えると新たなCAMを要請し、その到着を待って再攻勢に出る方針を決定した。歩兵だけでは防衛線をどうにもできないとの判断だ。
だが、敵はこちらが動かないと見ると、塹壕から姿を現して、擱座したCAMに向かって魔力の槍を投擲し出した。
一人ずつ交代しながら、嬲るように少しずつコクピット周辺の装甲を削りつつ──
「遊んでやがる……」
ハンターたちは呻いた。
──敵は誘っているのだ。救出しに来たこちらを再びキルゾーンに誘い込むべく──
だからと言って、黙って見ているつもりはハンターたちには毛頭なかった。
すぐにシレークスとサクラが幹部たちの許可を得て、兵たちから有志を募ってパイロットの救出に向かう。
だが、その前進は、塹壕に戻った敵とトーチカからの猛射撃に阻まれ、彼女らは盾の壁を作ったままその場に釘付けを余儀なくされ……
しかし、その間に木々の上を枝葉に隠れるようにして飛んできた3騎のハンターたちが逆落としに戦場へ突入した。
驚く敵兵たちが籠る塹壕の真上に侵入しながら、蒼い翼を広げて滑空しつつ『レイン・オブ・ライト』──対地攻撃向けの光の槍を雨霰と降らせるカートゥルと真。高い地形効果を発揮する塹壕も上空からの攻撃にはその効果も弱くなる。
降り注ぐ光線を喰らいながら、上空へ魔力の矢を連射する敵歩兵たち。構わず真が放たせた第二撃が再び地上へ降り注ぎ…… だが、その光条が巻き起こした爆煙が晴れた時、姿を現したのは、光の豪雨に晒されてなお健在なトーチカの姿だった。
「堅いな…… カートゥルの爆撃をまともに喰らわせて、岩肌一枚剥がすのがやっととは……」
呟く真に対してトーチカから放たれる対空砲火。真は鐙を踏み込んで愛竜に回避運動を指示しながら自身は魔導剣を引き抜くと、再び塹壕上空へと侵入しながら魔力を乗せた衝撃波で地上を薙ぎ払うという、一撃離脱を繰り返す。
一方、クルスと旭の2騎は、真がそうして敵陣を掻き乱している間に落とし穴上空へと侵入。それぞれパイロットたちの救出に掛かっていた。
旭はロジャックと生命力をリンクさせると、作業中、壁になるよう指示を出してからCAMへと飛び降りた。クルスもまた自身と相棒に『ホーリーヴェール』を使用するとCAMの真上でホバリングをさせ、ロープを垂らしてラペリング。辿り着いたコクピットを強制開放して気絶している兵を引っぱり出す……
その作業中。ボコリとすぐ傍の地面が動いて…… まるで水の中からそうするようにモグラ型歪虚がひっそりと顔を出した。そして、旭とクルスが気付いてないのを確認するとするりと『浮上』し、運んできた2体の敵歩兵を地上に展開させる。
作業中の2人の背後から弩を向け、魔力の矢を速射する敵歩兵。だが、直後、その眼前に何かが跳ね転がったと思った瞬間、周囲を白煙が包み込む──! それは盾の壁の中にいたサクラが投擲した発煙手榴弾だった。そして、その只中を身を屈めて突破してきたシレークスが煙幕の帳を抜けて飛び出して来たと同時に、「どりゃあ!」という雄叫びと共に驚くモグラをぶん殴る。
特殊な能力を持つモグラの戦闘能力は高くなく、シレークスが繰り出したコンパクトなワンツーによって瞬く間に地面へ打ち倒された。白一色に染め上げられた拳型格闘武器の拳骨部分にあしらった光の聖印からモグラの血以外の何かを滴らせながら、同様の装飾の施されt聖盾を翳して次の獲物へ殴りかかっていくシレークス。その背を狙い撃たんとしていたもう1体の敵歩兵には、後続していたサクラがルーンソードを投擲してその射撃を妨害した。そのまま敵へと肉薄しながら、クルクルと回転しつつ戻って来た投擲剣を掴み取り。盾ごとぶつかっていくような勢いで敵へと切りかかっていくサクラ。
「モグラたちは引き受けます。今の内に救助を」
彼女の言葉に感謝しつつ、作業を続ける旭とクルス。旭は救出したパイロットを両手で抱えると、祖霊の力を自身に下ろして幻影の翼にマテリアルを込め、そのミミズクの翼をはためかせて上空のロジャックの元へと飛び戻った。一方、クルスは気絶したパイロットを肩に抱え上げつつ口笛を吹いて相棒を呼び、低空飛行で侵入してきた鷲獅子から垂れ下がったロープに飛び捕まってその場を離れた。そして、最後のCAMの傍らへ走り込むように着地すると、先行して救出していた旭から最後のパイロットを受け取り、鷲獅子が装備したキャリアーへ転がり込みつつ、離脱指示。旭の飛竜と共に対空砲火の五月雨の中を空へ向かって駆け戻り、急ぎ戦場を離脱する。
その間に、煙幕の陰で盾の壁を広げた歩兵たちも、先の戦いで生じた負傷兵たちを可能な限り回収しつつ一気に戦場を離脱した。最後の発煙手榴弾を投げて彼らに続くサクラ。その背を守るようにしながら愛猫と駆けるシレークス。それを確認した真は最後にカートゥルに地上へ幻獣砲を撃ち込ませると、その翼を翻して後退する。
殆ど損害らしい損害もなく帰還した彼らを兵らが歓声でもって出迎える。
兵たちの士気は大いに上がり、逆に敵はこちらの増援が到着するまでにこちらを攻撃する手段を失った。
●
「一瞥以来であるな。息災であったか?」
同様の敵防衛線を攻略中の第三中隊の後方で。戦場に到達したミグ・ロマイヤー(ka0665)は、島の攻略戦の際に見知った兵に挨拶の言葉を掛けていた。
横たわった兵は弱々しく笑みを返し……そのまま担架で後送されていく。それを無言で見送った後……ミグは当初の目的地であった支援部隊指揮所の天幕の中へ入った。そこには既にメイム(ka2290)とアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が到着していた。
「ミグ・ロマイヤー、招集に応じ罷り越した」
「来たか。すまんが君らには第一中隊の支援に向かってもらいたい」
それを迎えた指揮官は、目の下に隈の浮かんだ疲れ切った表情で3人にそう切り出した。大砲にVolcanius、CAMといった大火力を有する支援兵種を一括して指揮・派遣しているその指揮所の内情は、控えめにいっても業務過多だった。前線からはひっきりなしに支援要請が寄せられているが、受けるべき仕事量に対して戦力は圧倒的に足りていない。
「それで自分たちが、ですか……」
3人のハンターは顔を見合わせた。指揮官は言いたいことは分かっている、とばかりに片手を上げて彼らを制した。
「増援に避けるのは3機だけだ。それ以上は割ける戦力がない」
「……それで足りるの?」
「ハンターたちが踏ん張っている。あそこが一番状況がマシだ」
3人は再び顔を見合わせ…… 敬礼と共に命令を受領した。そして、すぐに機体に戻り、戦場への移動を開始する。
「第一中隊、第一中隊。こちらハンター造園。支援可能位置に到達した。開墾予定地の状況知らせ──」
Volcanius『ホフマン』と共に第一中隊の後方へと至ったメイムが通信機で呼び掛けた。
他の中隊の様子からどれだけ切羽詰まっているかと思っていたメイムだったが、通信機の向こうの様子は存外明るい様子であった。報告された状況は──先の増援として到着したCAM3機が落とし穴に落ちて擱座したこと。それでも、どうにかパイロットたちの救出に成功したこと。『トーチカ』が固いこと。『鉄条網』が健在であること。そして、それらを突破する為にCAM等が必要であること。そして──
「君たちが到着次第、我々は再攻勢に出る」
「ほへー……」
メイムは思わず唸ってしまった。これは思っていたよりも随分と士気が高いじゃないか。
攻撃開始時刻── 一切の遺漏なく、予定通りに攻撃は開始された。
小隊長らの指示が飛び、前進を開始する歩兵部隊。移動速度の差から、有翼3騎が進発するのはまだ後だ。
アウレールも砲戦機を後方に残し、シレークス、サクラを含む歩兵たちを随伴しつつ、彼らの足に合わせて機体を歩行、前進させた。
やがて見えて来た『トーチカ』と『鉄条網』は、話に聞いていたよりも随分と『近代的』な造りに見えた。
「塹壕戦に対戦車壕…… 歪虚のくせにどこで近代戦を知った?」
擱座したCAMが嵌った落とし穴を見やりながら、アウレールが眉根を寄せる。
「だが、古い。百年古いぞ。習うなら最新のものでないとな」
同刻── 後方の砲兵、ミグとメイムの元に、第一中隊長から通信で支援砲撃の要請が入った。前進支援射撃──攻勢の嚆矢だ。
「ホフマンー、歩兵中隊の攻撃開始と同時に煙幕を展張するよー。準備してー」
「…………」
「……あ、そうか。コマンドは簡潔、明瞭に、だっけ…… コホン。ホフマン、その場で砲撃体勢。煙幕弾装填。以後、指示あるまで待機」
メイムの指示に従い、片膝立ちの姿勢へ移行する砲戦ゴーレム。そこからより後方に位置するミグのダインスレイブも既に射撃準備に入っている。機体名『ヤクト・バウ・ツインタワー』──愛機ハリケーン・バウの流れを汲む重装型砲戦機。トップヘビー気味(通常より大型化した二門の砲を通常よりも高い位置に装着している)のため機動性はお世辞にも高いとは言えないが、アウトレンジから砲弾を送り込む魔弾の射手をコンセプトに、より砲撃支援に特化した改造が成されている。
「鞍馬殿、稜線の陰に位置するこちらからは目標を視認できぬ。弾着観測を願いたいのじゃが」
「弾着観測……? 了解した。どれだけ砲弾が外れたか伝えればよいのだな?」
滑走路に見立てた森の広間を走り、空へと上がっていく旭とクオン── ミグから要請を受けた真は魔導スマホを首から提げるとカートゥルに頷き助走を開始。最後に空へと舞い上がり、歩兵が歩いた戦場上空へあっという間に到達する。
「真よりミグへ。目標上空に到達した」
「了解じゃ。これより砲撃を開始する」
ミグは機体のサブアームを操作すると、鈴生りに装着した弾薬箱から貫通徹甲弾を取り出した。同時に、二門の大型滑腔砲を砲撃位置へと展開開始。ツインタワーの名の通り、長大な二本の砲身が空へ向かって屹立していき……やがて重量感たっぷりに前方へと振り下りてきて、肩部装甲フレームに保持、固定される。
砲弾装填。周囲へ(無人だが、一応)警告しつつ、『FCS』に事前に位置を測定しておいた座標を入力し、引き金を引く。
発砲── 衝撃波が機体の周囲に円を描き、放たれた砲弾が丘を越えて宙を飛翔していき……瞬く間に地上の『トーチカ』へと迫り、その前面を直撃する。
貫通力に特化したその砲弾はあっけなく『トーチカ』──ヤドカリ型の厚い岩盤を貫いた。射入口と射出口に小さく穴の開いた岩盤が1枚ずつ砕け割れ、同時にその内部から果物やらホヤやらを砕いた時の様な体液がドッと外へと溢れ出す。
「初弾命中。目標はいまだ健在。……凄いな。見えなくても当たるのか」
「まあ、固定目標じゃしな…… 了解。沈黙するまでぶっ放す」
更なる砲撃が加えられ、続けてもう1基の『トーチカ』も間もなく無力化される。兵たちの間に沸き上がる歓声と、前進命令。砲をしまって前線へと歩き出すミグ機の横で、いよいよ出番を迎えたメイムが愛機に砲撃指示を出す。
「ホフマン、前方『鉄条網』奥を照準……撃てー! 煙幕弾再装填! 完了次第、照準を左右に振って次弾撃てー!」
愛機のすぐ後ろで指示を出しつつ指で耳を塞ぐメイム。軽快な砲声と共に12ポンド砲から放たれた砲弾が丘を越え、敵陣の塹壕と鉄条網の間へ正確に横一列で次々と着弾し、敵前に緞帳を下ろすが如く白煙を撒き散らす。
「よし。味方の戦線を押し上げる。アウレール殿、一端駆けを」
「承知した。これより吶喊し、敵防衛線を突破。味方の突破口を抉じ開ける」
アウレールは味方に先駆け、ローラーダッシュで機を敵陣へ向け突入させた。彼の駆るPzI-3B『ルー・ルツキン』はR6系の機体とされてはいるが、部品共有率は2割に満たない。最早亜種と言う分類にも収まらぬ別系統の機体とも言え、特にその中身──制御系や操縦系統等は、CAMというよりむしろ魔導アーマーのそれに近い。アウレールにとっての鋼鉄の軍馬であり、戦車であり──騎士の甲冑でもある。
「……アウレールと歩兵たちが突撃を開始した。俺たちもいくぞ」
「相手にとって不足はなし! 落とし穴だろーが鉄条網だろーが、全部飛び越えて引っ掻き回すぜ! 行くぜロジャック! ダイヴ、ダイヴ、ダイヴ!」
地上の攻勢開始を見て、上空のクルスと旭も航空攻撃を開始した。敵の真上から逆落としに急降下しつつ、対空砲火の只中を抜けて地上へ火炎の息や竜巻の魔法を叩き込む。
一方、アウレールはプラズマライフルで行く手の地面を射撃して落とし穴の有無を確認しながら前進しつつ、機に『ウッドペッカー』──単発使い切り式のマテリアル兵装を取り出させ、そこからマテリアルの光条を放って前方の『鉄条網』を薙ぎ払った。そして、啓開したその突入路『以外の』場所からスラスターを噴かして跳躍。鉄条網と敵防衛線を一気に跳び越えつつ真下へ機の左腕を突き出させ、塹壕の真上から『プラズマクラッカー』を撃ち下ろす。
「さあ、ホフマン、敵陣まるごと耕すよ! 弾種『炸裂』……撃てー!」
煙幕の展張を終え、目標を敵『鉄条網』へ変更して砲撃を続けるメイム。鉄条網の只中へ砲弾が次々と着弾し、鉄条網の撒かれた杭ごと、地面ごと吹き飛ばす。ハンター造園の面目躍如だ。
「光が我らを導いて下さりやがります。さあ、私たちと共に行きやがりますよ!」
その砲撃が終了すると同時に、歩兵たちに檄を飛ばしながらシレークスが立ち上がり、アウレールやメイムが拓いた進撃路から敵陣への突入を開始した。
更に別の個所からも、歩兵小隊の先頭に立って前進したミグ機がアーマーペンチでジョキンジョキンと『鉄条網』を切断し、新たな突入路を開拓していく。跳ね回る茨の鞭も放たれる棘の散弾も、その重装甲はものとももしない。
攻勢は順調に推移していると言ってよかった。
だが、飛竜ロジャックを駆って飛ぶ旭は更なる違和感を感じていた。
(なんだ……? 救助の時より更に敵歩兵の数が少ない……?)
マテリアルの爆発を背景に装輪で着地したアウレール機はそのまま地面を走りながら転回。敵防衛線の背後から移動しつつ射撃を浴びせかける。
(ジグザグに掘られた塹壕……一網打尽とはいかないか。これも砲兵やCAMを相手にする為に考え抜いたものではあろうが)
恐らく、現場にあるものだけで試行錯誤して構築された防衛線──だが、それはリアルブルーの戦史で既に人類が通った道だ。
(しかし、これだけ大規模な陣地造成……特にCAMを落とせる程の壕をいったいどうやって…… 大規模な土木ユニットでもいるというのか)
同様の見解はシレークスも持っていた。歩兵たちと共に前進しつつ、こうしてすぐ近くで見てみれば、それは自然の地形ではなく明らかに後から掘られたもので……
「何か嫌な予感がしやがりますね…… まだ何かいやがるのかもしれません」
「確かに。これ以上、変な仕掛けはないと嬉しいのですけど……」
同意を示して頷くサクラ。……正直に言えば、まだ何かしら起こりそうな予感がする。──悲しいかな、そのテの勘だけは往々にしてよく当たるのだ。
●
「歩兵の皆が敵陣に突入した…… ホフマン、私たちも支援の為に前進するよ!」
ただ一人と一機、砲撃支援の為に後方に残っていたメイムは、戦線の押し上げに合わせるべくその場から移動しようとしていた。
ゴゴゴ……という微かな振動を感知したのはその時だった。
メイムはホフマンに停止を命じると、『超聴覚』を使用してその鳴動の正体を探ることを試みた。
聞こえて来るその音は足元から……それは何か巨大なものが地中を蠢いているような……
その音は、次第に大きく、身体で感じられる程に大きくなっていった。それは、そう、自分たちを通り過ぎて後ろの方へ…… そう、すぐ近くまで……!
どっおーん……ッ! と地面を割る様な轟音がして、ハンターや兵たちは慌てて後ろを振り返った。
見えたのは、丘の稜線を越えて尚その姿を確認できる程の巨大な何か──例えるなら、そう、地面からにょっきりと生えた巨大なミミズの様──
「背後、じゃと!?」
呻いたミグの通信機のレシーバーから、メイムの「うきゃあ~!」という悲鳴が聞こえた。
「どうした!? 何があった?!」
「ミミズ! いきなり地面からでっかいミミズが!」
敵の正体はまんまミミズであったようだ。……あり得ないくらいに巨大だという一点を除いて。
「行って、あんず!」
メイムは咄嗟に桜型妖精のあんずちゃんに『ファミリアアタック』による迎撃を命じた。ミミズは地面にでっかい穴を開けていた。そして、その穴から多数の敵飛翔歩兵が飛び出して来ていたからだ。
命じつつ、メイムはその身体に合った小さめの突撃銃を肩から下ろして構えると、その穴に向けフルオートで連射した。同時にゴーレムに周囲の敵へ(と言っても既に周囲は敵だらけだが)機銃を撃ち捲るよう指示を叫んだ。
「え~い、もうとにかく撃ち捲っちゃえ!」
その曖昧な命令に応じて軽機関銃を撃ち捲り始めるホフマン。心が通じた──?! ……わけではなく、何度もやり取りを行っている内に、簡略化された命令が何のコマンドを指すのかを統計から学習してるのだ。
たった一人と一機の防衛線── 圧倒的に不利な、言ってしまえば一瞬後には敗北へと転落しかねないタイトロープな戦場に、想定よりずっと早くシレークスとサクラが現れた。嫌な予感を抱いていた中で足の下に振動を感知し、それを追ってここまで戻って来ていたのだ。
「あぁ~、もう! にゅるにゅるにょろにょろ系は嫌いだってのに……ッ サクラぁ! やりやがりますよぉっ!」
「後方から味方を奇襲させるわけにはいきません…… ここから先は行かせませんよ……!」
サクラはメイムたちに群がっていた敵の只中に飛び込むと、『セイクリッドフラッシュ』で周囲の敵を吹き飛ばし。シレークスは敵の出て来る穴へ向かって逆に突進して行き、そこから出て来る敵へと向かって好機とばかりに衝撃波を叩き込んだ。
「てめぇらは地の底にいやがるのがお似合いでやがります。出て来るんじゃねぇ!」
「ヤエ、回復は任せます。しっかりお願いしますね」
切りかかって来る敵の剣を盾で受け、倍返しの衝撃波でカウンターを決めるシレークス。サクラの言葉に無言で頷き、主人やメイム、シレークスらにユグディラたちが回復の光を飛ばす。
乱戦である。後方にいたユグディラたちは自然と主人たちの元へと集まった。サクラは黒き呪縛の刃で足止めを計るも、敵はあまりに多すぎた。
敵は一隊をもってその場のハンターたちを押さえると、残る主力は地を這うような高速飛行で丘を越え、味方歩兵の後方に迫りつつあった。
「地下トンネルか…… 一気に50年ほど進んだな」
アウレールと飛行班は直ちに反転した。ミグもまた背後を振り返って徹甲榴弾を敵飛翔歩兵らに叩き込んだが、そこへ塹壕から飛び出してきた敵兵たちが群がり、次々と魔力の槍を投擲する……
地面より生えた巨大なミミズ── その頭部付近に纏わりつくように飛行しながら、クルスは鷲獅子の背で敵へ向けて『セイクリッドフラッシュ』の光を放った。
戦闘の為、若干の視力を付与されたミミズの視界にチカチカと瞬く閃光──それにイライラとしたように、ミミズが巨大な口をクワッと開く。
シールドマシンのカッターヘッドの如く内側にびっしり牙の生えた口がクルスと鷲獅子に伸ばされ……それを加速して回避したクルスが大きく安堵の息を吐く。
彼がミミズの注意を引き付けている間に、真と旭は前進する敵飛翔歩兵らの頭上を押さえた。上空から敵前面を薙ぎ払うように牽制の衝撃波を放つ真。何人かを巻き込んで大地を砕いたその一撃にバラけた敵へぶつかる様に肉薄しながら、鏡の様な心持ちで冷静に放つ渾身撃。背泳の様に身体を引っ繰り返して放たれる対空砲火をものともせずに背後から斜めに突っ込んだ旭は、その巨大な戦斧で敵歩兵を右へ左へ吹き飛ばし、地面へ叩きつけていく……
「今日は騎兵は出し惜しみか?! だったらバッサリ行くぜ!」
そう、敵には騎士がいない。それが違和感の正体だった。
だが、それが何を意味するのか──とにかく今はこの場の敵をやるしかない。
●
かくて味方後方を襲撃しようとしていた敵騎兵は追い散らされ……味方は態勢を立て直した。
唯一、残ったミミズに対して、クルス、真らがその周囲を飛び回りながら一撃離脱による近接戦闘を仕掛け。彼らが距離を取った瞬間、タイミングを合わせてミグとメイムが砲撃を浴びせ掛ける。
たまらず倒れたミミズの巨体がのた打ち回って地上を薙ぎ払い…… その上空へ侵入してきた旭が斧を掲げて落とす『レイン・オブ・ライト』──慌てて地中へ逃れようとするその胴へミグが貫通弾をぶち込んで──真っ二つに千切れたミミズの半身がビチビチ地上を跳ね回る……
やがてそれが動かなくなると、メイムはホフマンに命じて地中の半分を引っ張り出して、ミミズの撃破を確認した。
その頃には歩兵たちも塹壕を制圧。ここに敵防衛線は攻略された。
数時間後──
王国軍は敵の防衛線の中核──敵本陣へと突入した。
抵抗は受けなかった。ありていに言えば、そこは既にもぬけの殻だったのだ。
ラスヴェートの騎士たちは魔の森から忽然と姿を消していた。
その行方はようとして知れなかった。
「にゃぁ~っ!(ご主人様、無理はしないでにゃ~!)」
「あ? 私の事はいいから、一人でも多くの怪我人を癒しやがれです」
塹壕から放たれる豪雨の如き魔力の矢── 戦友であるサクラ・エルフリード(ka2598)と共に、逃げ散る味方の最後衛に立って後退していたシレークス(ka0752)に、ユグディラ『インフラマラエ』が心配そうに声を掛ける。
最後まで敵防衛線上空にとどまってその撤退を支援していた岩井崎 旭(ka0234)(ワイバーン『ロジャック』騎乗)、クルス(ka3922)(グリフォン騎乗)、鞍馬 真(ka5819)(ワイバーン「蒼空の」『カートゥル』騎乗)の3騎もまた、味方の後退を確認して戦場を離脱した。
「あちこち罠だらけだ。前途多難だなあ……」
「やっぱ攻めるのは守るよりも怪我人出るよなあ……」
後退しながら、眼下の地面に倒れ伏した歩兵たち(その一部はまだ生きていて微かに動いている)を見下ろし、沈黙する真とクルス。
「つーか、この森自体が罠みてーなもんじゃねーか…… 魔の森とはよく言ったもんだぜ」
一面に広がるのは化石化した森。そこから上空の3騎へ向かって伸ばされる野良植物型歪虚の蔦を切り払いつつ、旭がやれやれと嘆息する……
「なかなか一筋縄ではいかないようですね。ここまで色々と仕掛けられているとは……」
地上へ下りて来る3騎のランディングを遠目に見ながら、頭の上にユグディラ『ヤエ』を乗せたままでサクラがポツリと呟いた。
やはり前に戦ったあの騎士たちでしょうか…… 呟くサクラの頭の上の、ヤエをジッと見上げるインフラマラエ。その視線が自分へと向けられたのを確認してスチャッと彼(?)が片手を上げて挨拶するが、そのヤエは主人の頭の上で垂れたままジッとインフラマラエを見返し続け…… 片手を上げたまま固まったインフラマラエがピュピュピュピュピピュイ~! とほのぼの汗を飛ばす。
「な~にしてやがいますか、お前は」
そんな相棒を呆れた様に見下ろしてから、シレークスは地面に座り込んでしまった兵たちに仁王立ちで向き直った。
「おらおら、おめーら! 消沈している暇はねーでやがりますよ! おめーらには自分たちがいる。すぐに増援のCAMや砲兵たちも来る。何より光の大精霊様がおめーたちの戦いを見守っておられます!」
その呼び掛けに呼応して分隊長らがはっぱをかけるも、それに応じる兵らの歓声には疲労の色が濃い。
その様子を、他の飛竜乗りらと共に相棒に餌をやりながら、クルスは難しい顔をして見ていた。
(落ちた士気をもう一度上げるには、何かきっかけが必要かもしれないな……)
その横で、旭が飯も食べずに何事かを考えこんでいた。
(なんか敵の人型が少ねー気がする…… 前に見た時は、連中、それこそ軍と呼べる規模だったと思うんだけど……)
違和感がある。が、その正体までは分からない。
●
戦闘はそのまま膠着状態に入ろうとしていた。
第一中隊は指揮所に状況を伝えると新たなCAMを要請し、その到着を待って再攻勢に出る方針を決定した。歩兵だけでは防衛線をどうにもできないとの判断だ。
だが、敵はこちらが動かないと見ると、塹壕から姿を現して、擱座したCAMに向かって魔力の槍を投擲し出した。
一人ずつ交代しながら、嬲るように少しずつコクピット周辺の装甲を削りつつ──
「遊んでやがる……」
ハンターたちは呻いた。
──敵は誘っているのだ。救出しに来たこちらを再びキルゾーンに誘い込むべく──
だからと言って、黙って見ているつもりはハンターたちには毛頭なかった。
すぐにシレークスとサクラが幹部たちの許可を得て、兵たちから有志を募ってパイロットの救出に向かう。
だが、その前進は、塹壕に戻った敵とトーチカからの猛射撃に阻まれ、彼女らは盾の壁を作ったままその場に釘付けを余儀なくされ……
しかし、その間に木々の上を枝葉に隠れるようにして飛んできた3騎のハンターたちが逆落としに戦場へ突入した。
驚く敵兵たちが籠る塹壕の真上に侵入しながら、蒼い翼を広げて滑空しつつ『レイン・オブ・ライト』──対地攻撃向けの光の槍を雨霰と降らせるカートゥルと真。高い地形効果を発揮する塹壕も上空からの攻撃にはその効果も弱くなる。
降り注ぐ光線を喰らいながら、上空へ魔力の矢を連射する敵歩兵たち。構わず真が放たせた第二撃が再び地上へ降り注ぎ…… だが、その光条が巻き起こした爆煙が晴れた時、姿を現したのは、光の豪雨に晒されてなお健在なトーチカの姿だった。
「堅いな…… カートゥルの爆撃をまともに喰らわせて、岩肌一枚剥がすのがやっととは……」
呟く真に対してトーチカから放たれる対空砲火。真は鐙を踏み込んで愛竜に回避運動を指示しながら自身は魔導剣を引き抜くと、再び塹壕上空へと侵入しながら魔力を乗せた衝撃波で地上を薙ぎ払うという、一撃離脱を繰り返す。
一方、クルスと旭の2騎は、真がそうして敵陣を掻き乱している間に落とし穴上空へと侵入。それぞれパイロットたちの救出に掛かっていた。
旭はロジャックと生命力をリンクさせると、作業中、壁になるよう指示を出してからCAMへと飛び降りた。クルスもまた自身と相棒に『ホーリーヴェール』を使用するとCAMの真上でホバリングをさせ、ロープを垂らしてラペリング。辿り着いたコクピットを強制開放して気絶している兵を引っぱり出す……
その作業中。ボコリとすぐ傍の地面が動いて…… まるで水の中からそうするようにモグラ型歪虚がひっそりと顔を出した。そして、旭とクルスが気付いてないのを確認するとするりと『浮上』し、運んできた2体の敵歩兵を地上に展開させる。
作業中の2人の背後から弩を向け、魔力の矢を速射する敵歩兵。だが、直後、その眼前に何かが跳ね転がったと思った瞬間、周囲を白煙が包み込む──! それは盾の壁の中にいたサクラが投擲した発煙手榴弾だった。そして、その只中を身を屈めて突破してきたシレークスが煙幕の帳を抜けて飛び出して来たと同時に、「どりゃあ!」という雄叫びと共に驚くモグラをぶん殴る。
特殊な能力を持つモグラの戦闘能力は高くなく、シレークスが繰り出したコンパクトなワンツーによって瞬く間に地面へ打ち倒された。白一色に染め上げられた拳型格闘武器の拳骨部分にあしらった光の聖印からモグラの血以外の何かを滴らせながら、同様の装飾の施されt聖盾を翳して次の獲物へ殴りかかっていくシレークス。その背を狙い撃たんとしていたもう1体の敵歩兵には、後続していたサクラがルーンソードを投擲してその射撃を妨害した。そのまま敵へと肉薄しながら、クルクルと回転しつつ戻って来た投擲剣を掴み取り。盾ごとぶつかっていくような勢いで敵へと切りかかっていくサクラ。
「モグラたちは引き受けます。今の内に救助を」
彼女の言葉に感謝しつつ、作業を続ける旭とクルス。旭は救出したパイロットを両手で抱えると、祖霊の力を自身に下ろして幻影の翼にマテリアルを込め、そのミミズクの翼をはためかせて上空のロジャックの元へと飛び戻った。一方、クルスは気絶したパイロットを肩に抱え上げつつ口笛を吹いて相棒を呼び、低空飛行で侵入してきた鷲獅子から垂れ下がったロープに飛び捕まってその場を離れた。そして、最後のCAMの傍らへ走り込むように着地すると、先行して救出していた旭から最後のパイロットを受け取り、鷲獅子が装備したキャリアーへ転がり込みつつ、離脱指示。旭の飛竜と共に対空砲火の五月雨の中を空へ向かって駆け戻り、急ぎ戦場を離脱する。
その間に、煙幕の陰で盾の壁を広げた歩兵たちも、先の戦いで生じた負傷兵たちを可能な限り回収しつつ一気に戦場を離脱した。最後の発煙手榴弾を投げて彼らに続くサクラ。その背を守るようにしながら愛猫と駆けるシレークス。それを確認した真は最後にカートゥルに地上へ幻獣砲を撃ち込ませると、その翼を翻して後退する。
殆ど損害らしい損害もなく帰還した彼らを兵らが歓声でもって出迎える。
兵たちの士気は大いに上がり、逆に敵はこちらの増援が到着するまでにこちらを攻撃する手段を失った。
●
「一瞥以来であるな。息災であったか?」
同様の敵防衛線を攻略中の第三中隊の後方で。戦場に到達したミグ・ロマイヤー(ka0665)は、島の攻略戦の際に見知った兵に挨拶の言葉を掛けていた。
横たわった兵は弱々しく笑みを返し……そのまま担架で後送されていく。それを無言で見送った後……ミグは当初の目的地であった支援部隊指揮所の天幕の中へ入った。そこには既にメイム(ka2290)とアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が到着していた。
「ミグ・ロマイヤー、招集に応じ罷り越した」
「来たか。すまんが君らには第一中隊の支援に向かってもらいたい」
それを迎えた指揮官は、目の下に隈の浮かんだ疲れ切った表情で3人にそう切り出した。大砲にVolcanius、CAMといった大火力を有する支援兵種を一括して指揮・派遣しているその指揮所の内情は、控えめにいっても業務過多だった。前線からはひっきりなしに支援要請が寄せられているが、受けるべき仕事量に対して戦力は圧倒的に足りていない。
「それで自分たちが、ですか……」
3人のハンターは顔を見合わせた。指揮官は言いたいことは分かっている、とばかりに片手を上げて彼らを制した。
「増援に避けるのは3機だけだ。それ以上は割ける戦力がない」
「……それで足りるの?」
「ハンターたちが踏ん張っている。あそこが一番状況がマシだ」
3人は再び顔を見合わせ…… 敬礼と共に命令を受領した。そして、すぐに機体に戻り、戦場への移動を開始する。
「第一中隊、第一中隊。こちらハンター造園。支援可能位置に到達した。開墾予定地の状況知らせ──」
Volcanius『ホフマン』と共に第一中隊の後方へと至ったメイムが通信機で呼び掛けた。
他の中隊の様子からどれだけ切羽詰まっているかと思っていたメイムだったが、通信機の向こうの様子は存外明るい様子であった。報告された状況は──先の増援として到着したCAM3機が落とし穴に落ちて擱座したこと。それでも、どうにかパイロットたちの救出に成功したこと。『トーチカ』が固いこと。『鉄条網』が健在であること。そして、それらを突破する為にCAM等が必要であること。そして──
「君たちが到着次第、我々は再攻勢に出る」
「ほへー……」
メイムは思わず唸ってしまった。これは思っていたよりも随分と士気が高いじゃないか。
攻撃開始時刻── 一切の遺漏なく、予定通りに攻撃は開始された。
小隊長らの指示が飛び、前進を開始する歩兵部隊。移動速度の差から、有翼3騎が進発するのはまだ後だ。
アウレールも砲戦機を後方に残し、シレークス、サクラを含む歩兵たちを随伴しつつ、彼らの足に合わせて機体を歩行、前進させた。
やがて見えて来た『トーチカ』と『鉄条網』は、話に聞いていたよりも随分と『近代的』な造りに見えた。
「塹壕戦に対戦車壕…… 歪虚のくせにどこで近代戦を知った?」
擱座したCAMが嵌った落とし穴を見やりながら、アウレールが眉根を寄せる。
「だが、古い。百年古いぞ。習うなら最新のものでないとな」
同刻── 後方の砲兵、ミグとメイムの元に、第一中隊長から通信で支援砲撃の要請が入った。前進支援射撃──攻勢の嚆矢だ。
「ホフマンー、歩兵中隊の攻撃開始と同時に煙幕を展張するよー。準備してー」
「…………」
「……あ、そうか。コマンドは簡潔、明瞭に、だっけ…… コホン。ホフマン、その場で砲撃体勢。煙幕弾装填。以後、指示あるまで待機」
メイムの指示に従い、片膝立ちの姿勢へ移行する砲戦ゴーレム。そこからより後方に位置するミグのダインスレイブも既に射撃準備に入っている。機体名『ヤクト・バウ・ツインタワー』──愛機ハリケーン・バウの流れを汲む重装型砲戦機。トップヘビー気味(通常より大型化した二門の砲を通常よりも高い位置に装着している)のため機動性はお世辞にも高いとは言えないが、アウトレンジから砲弾を送り込む魔弾の射手をコンセプトに、より砲撃支援に特化した改造が成されている。
「鞍馬殿、稜線の陰に位置するこちらからは目標を視認できぬ。弾着観測を願いたいのじゃが」
「弾着観測……? 了解した。どれだけ砲弾が外れたか伝えればよいのだな?」
滑走路に見立てた森の広間を走り、空へと上がっていく旭とクオン── ミグから要請を受けた真は魔導スマホを首から提げるとカートゥルに頷き助走を開始。最後に空へと舞い上がり、歩兵が歩いた戦場上空へあっという間に到達する。
「真よりミグへ。目標上空に到達した」
「了解じゃ。これより砲撃を開始する」
ミグは機体のサブアームを操作すると、鈴生りに装着した弾薬箱から貫通徹甲弾を取り出した。同時に、二門の大型滑腔砲を砲撃位置へと展開開始。ツインタワーの名の通り、長大な二本の砲身が空へ向かって屹立していき……やがて重量感たっぷりに前方へと振り下りてきて、肩部装甲フレームに保持、固定される。
砲弾装填。周囲へ(無人だが、一応)警告しつつ、『FCS』に事前に位置を測定しておいた座標を入力し、引き金を引く。
発砲── 衝撃波が機体の周囲に円を描き、放たれた砲弾が丘を越えて宙を飛翔していき……瞬く間に地上の『トーチカ』へと迫り、その前面を直撃する。
貫通力に特化したその砲弾はあっけなく『トーチカ』──ヤドカリ型の厚い岩盤を貫いた。射入口と射出口に小さく穴の開いた岩盤が1枚ずつ砕け割れ、同時にその内部から果物やらホヤやらを砕いた時の様な体液がドッと外へと溢れ出す。
「初弾命中。目標はいまだ健在。……凄いな。見えなくても当たるのか」
「まあ、固定目標じゃしな…… 了解。沈黙するまでぶっ放す」
更なる砲撃が加えられ、続けてもう1基の『トーチカ』も間もなく無力化される。兵たちの間に沸き上がる歓声と、前進命令。砲をしまって前線へと歩き出すミグ機の横で、いよいよ出番を迎えたメイムが愛機に砲撃指示を出す。
「ホフマン、前方『鉄条網』奥を照準……撃てー! 煙幕弾再装填! 完了次第、照準を左右に振って次弾撃てー!」
愛機のすぐ後ろで指示を出しつつ指で耳を塞ぐメイム。軽快な砲声と共に12ポンド砲から放たれた砲弾が丘を越え、敵陣の塹壕と鉄条網の間へ正確に横一列で次々と着弾し、敵前に緞帳を下ろすが如く白煙を撒き散らす。
「よし。味方の戦線を押し上げる。アウレール殿、一端駆けを」
「承知した。これより吶喊し、敵防衛線を突破。味方の突破口を抉じ開ける」
アウレールは味方に先駆け、ローラーダッシュで機を敵陣へ向け突入させた。彼の駆るPzI-3B『ルー・ルツキン』はR6系の機体とされてはいるが、部品共有率は2割に満たない。最早亜種と言う分類にも収まらぬ別系統の機体とも言え、特にその中身──制御系や操縦系統等は、CAMというよりむしろ魔導アーマーのそれに近い。アウレールにとっての鋼鉄の軍馬であり、戦車であり──騎士の甲冑でもある。
「……アウレールと歩兵たちが突撃を開始した。俺たちもいくぞ」
「相手にとって不足はなし! 落とし穴だろーが鉄条網だろーが、全部飛び越えて引っ掻き回すぜ! 行くぜロジャック! ダイヴ、ダイヴ、ダイヴ!」
地上の攻勢開始を見て、上空のクルスと旭も航空攻撃を開始した。敵の真上から逆落としに急降下しつつ、対空砲火の只中を抜けて地上へ火炎の息や竜巻の魔法を叩き込む。
一方、アウレールはプラズマライフルで行く手の地面を射撃して落とし穴の有無を確認しながら前進しつつ、機に『ウッドペッカー』──単発使い切り式のマテリアル兵装を取り出させ、そこからマテリアルの光条を放って前方の『鉄条網』を薙ぎ払った。そして、啓開したその突入路『以外の』場所からスラスターを噴かして跳躍。鉄条網と敵防衛線を一気に跳び越えつつ真下へ機の左腕を突き出させ、塹壕の真上から『プラズマクラッカー』を撃ち下ろす。
「さあ、ホフマン、敵陣まるごと耕すよ! 弾種『炸裂』……撃てー!」
煙幕の展張を終え、目標を敵『鉄条網』へ変更して砲撃を続けるメイム。鉄条網の只中へ砲弾が次々と着弾し、鉄条網の撒かれた杭ごと、地面ごと吹き飛ばす。ハンター造園の面目躍如だ。
「光が我らを導いて下さりやがります。さあ、私たちと共に行きやがりますよ!」
その砲撃が終了すると同時に、歩兵たちに檄を飛ばしながらシレークスが立ち上がり、アウレールやメイムが拓いた進撃路から敵陣への突入を開始した。
更に別の個所からも、歩兵小隊の先頭に立って前進したミグ機がアーマーペンチでジョキンジョキンと『鉄条網』を切断し、新たな突入路を開拓していく。跳ね回る茨の鞭も放たれる棘の散弾も、その重装甲はものとももしない。
攻勢は順調に推移していると言ってよかった。
だが、飛竜ロジャックを駆って飛ぶ旭は更なる違和感を感じていた。
(なんだ……? 救助の時より更に敵歩兵の数が少ない……?)
マテリアルの爆発を背景に装輪で着地したアウレール機はそのまま地面を走りながら転回。敵防衛線の背後から移動しつつ射撃を浴びせかける。
(ジグザグに掘られた塹壕……一網打尽とはいかないか。これも砲兵やCAMを相手にする為に考え抜いたものではあろうが)
恐らく、現場にあるものだけで試行錯誤して構築された防衛線──だが、それはリアルブルーの戦史で既に人類が通った道だ。
(しかし、これだけ大規模な陣地造成……特にCAMを落とせる程の壕をいったいどうやって…… 大規模な土木ユニットでもいるというのか)
同様の見解はシレークスも持っていた。歩兵たちと共に前進しつつ、こうしてすぐ近くで見てみれば、それは自然の地形ではなく明らかに後から掘られたもので……
「何か嫌な予感がしやがりますね…… まだ何かいやがるのかもしれません」
「確かに。これ以上、変な仕掛けはないと嬉しいのですけど……」
同意を示して頷くサクラ。……正直に言えば、まだ何かしら起こりそうな予感がする。──悲しいかな、そのテの勘だけは往々にしてよく当たるのだ。
●
「歩兵の皆が敵陣に突入した…… ホフマン、私たちも支援の為に前進するよ!」
ただ一人と一機、砲撃支援の為に後方に残っていたメイムは、戦線の押し上げに合わせるべくその場から移動しようとしていた。
ゴゴゴ……という微かな振動を感知したのはその時だった。
メイムはホフマンに停止を命じると、『超聴覚』を使用してその鳴動の正体を探ることを試みた。
聞こえて来るその音は足元から……それは何か巨大なものが地中を蠢いているような……
その音は、次第に大きく、身体で感じられる程に大きくなっていった。それは、そう、自分たちを通り過ぎて後ろの方へ…… そう、すぐ近くまで……!
どっおーん……ッ! と地面を割る様な轟音がして、ハンターや兵たちは慌てて後ろを振り返った。
見えたのは、丘の稜線を越えて尚その姿を確認できる程の巨大な何か──例えるなら、そう、地面からにょっきりと生えた巨大なミミズの様──
「背後、じゃと!?」
呻いたミグの通信機のレシーバーから、メイムの「うきゃあ~!」という悲鳴が聞こえた。
「どうした!? 何があった?!」
「ミミズ! いきなり地面からでっかいミミズが!」
敵の正体はまんまミミズであったようだ。……あり得ないくらいに巨大だという一点を除いて。
「行って、あんず!」
メイムは咄嗟に桜型妖精のあんずちゃんに『ファミリアアタック』による迎撃を命じた。ミミズは地面にでっかい穴を開けていた。そして、その穴から多数の敵飛翔歩兵が飛び出して来ていたからだ。
命じつつ、メイムはその身体に合った小さめの突撃銃を肩から下ろして構えると、その穴に向けフルオートで連射した。同時にゴーレムに周囲の敵へ(と言っても既に周囲は敵だらけだが)機銃を撃ち捲るよう指示を叫んだ。
「え~い、もうとにかく撃ち捲っちゃえ!」
その曖昧な命令に応じて軽機関銃を撃ち捲り始めるホフマン。心が通じた──?! ……わけではなく、何度もやり取りを行っている内に、簡略化された命令が何のコマンドを指すのかを統計から学習してるのだ。
たった一人と一機の防衛線── 圧倒的に不利な、言ってしまえば一瞬後には敗北へと転落しかねないタイトロープな戦場に、想定よりずっと早くシレークスとサクラが現れた。嫌な予感を抱いていた中で足の下に振動を感知し、それを追ってここまで戻って来ていたのだ。
「あぁ~、もう! にゅるにゅるにょろにょろ系は嫌いだってのに……ッ サクラぁ! やりやがりますよぉっ!」
「後方から味方を奇襲させるわけにはいきません…… ここから先は行かせませんよ……!」
サクラはメイムたちに群がっていた敵の只中に飛び込むと、『セイクリッドフラッシュ』で周囲の敵を吹き飛ばし。シレークスは敵の出て来る穴へ向かって逆に突進して行き、そこから出て来る敵へと向かって好機とばかりに衝撃波を叩き込んだ。
「てめぇらは地の底にいやがるのがお似合いでやがります。出て来るんじゃねぇ!」
「ヤエ、回復は任せます。しっかりお願いしますね」
切りかかって来る敵の剣を盾で受け、倍返しの衝撃波でカウンターを決めるシレークス。サクラの言葉に無言で頷き、主人やメイム、シレークスらにユグディラたちが回復の光を飛ばす。
乱戦である。後方にいたユグディラたちは自然と主人たちの元へと集まった。サクラは黒き呪縛の刃で足止めを計るも、敵はあまりに多すぎた。
敵は一隊をもってその場のハンターたちを押さえると、残る主力は地を這うような高速飛行で丘を越え、味方歩兵の後方に迫りつつあった。
「地下トンネルか…… 一気に50年ほど進んだな」
アウレールと飛行班は直ちに反転した。ミグもまた背後を振り返って徹甲榴弾を敵飛翔歩兵らに叩き込んだが、そこへ塹壕から飛び出してきた敵兵たちが群がり、次々と魔力の槍を投擲する……
地面より生えた巨大なミミズ── その頭部付近に纏わりつくように飛行しながら、クルスは鷲獅子の背で敵へ向けて『セイクリッドフラッシュ』の光を放った。
戦闘の為、若干の視力を付与されたミミズの視界にチカチカと瞬く閃光──それにイライラとしたように、ミミズが巨大な口をクワッと開く。
シールドマシンのカッターヘッドの如く内側にびっしり牙の生えた口がクルスと鷲獅子に伸ばされ……それを加速して回避したクルスが大きく安堵の息を吐く。
彼がミミズの注意を引き付けている間に、真と旭は前進する敵飛翔歩兵らの頭上を押さえた。上空から敵前面を薙ぎ払うように牽制の衝撃波を放つ真。何人かを巻き込んで大地を砕いたその一撃にバラけた敵へぶつかる様に肉薄しながら、鏡の様な心持ちで冷静に放つ渾身撃。背泳の様に身体を引っ繰り返して放たれる対空砲火をものともせずに背後から斜めに突っ込んだ旭は、その巨大な戦斧で敵歩兵を右へ左へ吹き飛ばし、地面へ叩きつけていく……
「今日は騎兵は出し惜しみか?! だったらバッサリ行くぜ!」
そう、敵には騎士がいない。それが違和感の正体だった。
だが、それが何を意味するのか──とにかく今はこの場の敵をやるしかない。
●
かくて味方後方を襲撃しようとしていた敵騎兵は追い散らされ……味方は態勢を立て直した。
唯一、残ったミミズに対して、クルス、真らがその周囲を飛び回りながら一撃離脱による近接戦闘を仕掛け。彼らが距離を取った瞬間、タイミングを合わせてミグとメイムが砲撃を浴びせ掛ける。
たまらず倒れたミミズの巨体がのた打ち回って地上を薙ぎ払い…… その上空へ侵入してきた旭が斧を掲げて落とす『レイン・オブ・ライト』──慌てて地中へ逃れようとするその胴へミグが貫通弾をぶち込んで──真っ二つに千切れたミミズの半身がビチビチ地上を跳ね回る……
やがてそれが動かなくなると、メイムはホフマンに命じて地中の半分を引っ張り出して、ミミズの撃破を確認した。
その頃には歩兵たちも塹壕を制圧。ここに敵防衛線は攻略された。
数時間後──
王国軍は敵の防衛線の中核──敵本陣へと突入した。
抵抗は受けなかった。ありていに言えば、そこは既にもぬけの殻だったのだ。
ラスヴェートの騎士たちは魔の森から忽然と姿を消していた。
その行方はようとして知れなかった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/15 10:45:37 |
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相談 サクラ・エルフリード(ka2598) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/04/16 11:47:14 |