ゲスト
(ka0000)
【血盟】メイルストロム討伐戦 「星の傷跡突入支援」リプレイ


作戦1:星の傷跡突入支援 リプレイ
- 葛音 水月(ka1895)
- ミオレスカ(ka3496)
- シルバーレードル(魔導型デュミナス)(ka3496unit001)
- 榊 兵庫(ka0010)
- 烏丸 涼子 (ka5728)
- ノエル・ウォースパイト(ka6291)
- ラン・ヴィンダールヴ(ka0109)
- ドゥアル(ka3746)
- 白山 菊理(ka4305)
- ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)
- 黙示騎士ラプラス
- 十色 エニア(ka0370)
- 羊谷 めい(ka0669)
- メトロノーム・ソングライト(ka1267)
- ブラウ(ka4809)
- Holmes(ka3813)
- Василий(イェジド)(ka3813unit001)
- 天竜寺 詩(ka0396)
- アリア・セリウス(ka6424)
- フラメディア・イリジア(ka2604)
- アグニ(イェジド)(ka2604unit001)
- ミグ・ロマイヤー(ka0665)
- ジャック・エルギン(ka1522)
- エアルドフリス(ka1856)
- ゲアラハ(イェジド)(ka1856unit001)
- アウレール・V・ブラオラント(ka2531)
- オルテンシア(ユグディラ)(ka2531unit002)
- ミィリア(ka2689)
- 叢雲(イェジド)(ka2689unit001)
- パトリシア=K=ポラリス(ka5996)
●
「あはっ、四方八方から。すごい数が向かってきてますねー」
愛機フレイアに搭乗しこの地に立った葛音 水月(ka1895)が見たものは、空を覆い尽くさんばかりの歪虚の群れだった。
CAMのカメラを傾け上空に焦点を合わせれば、おびただしい数の敵対反応を示す警告文が表示される。
「そちらにも重要でしょうけど、僕らにとってもなのでここは死守させてもらいます」
葛音はレバーを倒す。するとフレイアはその手に持つライフルを真上に向ける。そしてボタンを押せばライフルに光の線が浮かび上がり、程なくして弾丸が発射された。
火花を散らしながら飛ぶ弾丸が一体の歪虚を貫く。それが戦闘の開始を告げる合図となった。
魔導型デュミナス・機体名シルバーレードルの機動用スラスターが開く。その反動で弾かれるように飛ぶ機体に天空から降り注ぐ狂気の歪虚は光線を浴びせかける。
そのうちの一本が機体の脚部を焦がすが、その程度では止まらなかった。
「強欲王の最期、見送りさせていただきます」
搭乗しているミオレスカ(ka3496)は自分の位置を確認していた。すぐ側には星の傷跡のクレバスが広がっている。そこを目指して飛び込んでくる歪虚達をこの位置からならまとめて狙える。彼女はモニターを一瞥し、そして射撃を開始した。
「……中で戦う仲間達の為にもこれ以上の敵の増援を通らせるわけにはいかない。全力で阻止することにしよう」
その頃榊 兵庫(ka0010)も自分の機体である烈風を駆って目的の場所に到着していた。カメラを水平位置に傾ければそこにはミオのシルバーレードルが見える。この位置ならできる。
榊がボタンを叩けば機体の背後にマジックエンハンサーが展開していく。カメラを上に向ければそこには押し寄せる歪虚達。
榊はそれを一瞥すると、照準を合わせ発射ボタンを叩いた。マテリアルの弾丸が一直線に走り、今まさにクレバスに飛び込もうとした歪虚を貫き四散させる。
榊が対応できない歪虚はミオが、ミオが対応できないものは榊が。互いが互いに補うように、蹴散らしていく。
しかしこの場にいる敵は狂気の歪虚だけではない。広げられた翼が機体に影を落とす。空にはワイバーンが、そして何よりドラゴンが舞い、こちら側を狙っていた。
「それじゃあ、新型の実力を披露しましょうか」
それに対しR7エクスシアが駆ける。搭乗者は烏丸 涼子 (ka5728)。彼女は己の機体がどういうものか理解していた。その機動力では先行する者達と共に行こうとしても足を引っ張るだけだということも。
だから彼女はライフルを構える。全長6m50cm、その銃の先端は遥か彼方の空の上で我が物顔で羽ばたいているワイバーンを狙っていた。そして響く銃声、放たれる非実体の弾丸。
その弾丸は150mを超える距離を一直線に飛び、偽竜と呼ばれるそれの翼を貫いていた。悲鳴が轟き、撃たれた竜はフラフラと木の葉のように宙を舞う。しかし彼女の視線はまだ外されていなかった。
ワイバーンは落ちていないし、彼女が狙う本命はそれよりも遥かに大きいドラゴンの首だ。それを貫く最善の位置を目指し涼子は機体を駆る。
「龍に仕える者が竜を斬る、というのもおかしな話ですが……私はあくまで仕えた者の”末裔”ですからね。王を守ろうというその強欲に、私もまた強欲で以て応えます」
そして地上へ向かってゆっくりと滑空するそのワイバーンへ向けて、ノエル・ウォースパイト(ka6291)が翔んでいた。彼女が跨るのはこれもワイバーン。青龍の加護を受けた青きワイバーンだ。
青きワイバーンが空を駆け歪虚に近づく。敵に迫りくるその中でノエルは呼吸を整え意識を集中した。
「我が刃、我が魂が求めるは……その血、その首、その命。渾身の一太刀にて、貴方の全てを頂戴致しましょう」
そして鍔鳴りは確かに二度鳴った。刃渡り七尺を超える龍をも斬る彼女の太刀が、一瞬の間に二度振るわれた時、ワイバーンの命脈はそこで尽きていた。
ノエルがワイバーンを斬り捨てた頃、それを追い抜くようにラン・ヴィンダールヴ(ka0109)がワイバーンとともに空を駆けていた。彼が狙うドラゴンの元へとその身を踊らせる。
近づいていけばその大きさがはっきりと分かる。今彼が乗るワイバーンの倍、いや、それよりも遥かに大きい。
そこでランは身体を傾け正面を避ける。その時、彼の身体は一瞬の内に巨大化した。
白狐の姿と化しそこに立つラン。もちろんドラゴンに比べればまだ小さいが、これで十分だった。
ワイバーンが羽ばたく。ドラゴンへと向かい、すれ違うその刹那ランはその手に握った槍を振り回した。青く輝く穂先がその軌跡を残し、確かに一撃を与えていた。
しかしドラゴンはこの程度では地に堕ちない。息を大きく吸い込み、次の瞬間その口から炎が吹き出された。
「……長く続いた、この地の戦いを終わらせる為に……」
その時ドゥアル(ka3746)がその前に身を躍らせた。吹き付けられる炎の息が一瞬の内に彼女の身を覆う。しかしその炎が晴れた時、そこには傷一つ無く立っている彼女の姿があった。
手には盾、そしてブレスレット。この二つだけで彼女はドラゴンブレスを受け止めたのだった。
「奥に向かった仲間達の為にも、ここは一歩も通さないんだからっ!」
そしてCAMと魔導アーマー。一組のそれがその時を待っていた。CAM・黄泉に搭乗するは白山 菊理(ka4305)。魔導アーマー、いや、命名者曰くニンジャアーマー・花鳥風月に搭乗するはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。
「花鳥風月と黄泉、素敵に和風で雅なのです!」
二機の動きは対照的だった。マジックエンハンサーを展開し、その一瞬を待つ菊理。対してクレバスラインを動き回りつつ、突っ込んでくる歪虚達を落としていくルンルン。
勿論数が違う。どうしても漏らした歪虚達が光線を放ち、それは容赦なく二機を傷つけていく。しかし二人は、狙う一瞬のために耐えていた。
ルンルンはマシンガンを放つ。バラ撒かれた銃弾は歪虚達を動かし、まとめていく。そしてその時が来た。
「ニンジャ八門、月門忍法ゼロ……花鳥風月ちゃんが私の進む未来を見せてくれる。シノビ大筒充填率120%、今です菊理さん、一緒に!」
その瞬間、紫色と青白く、二つの色に輝く光線が二機から放たれた。その光線は一瞬で戦場を突き抜ける。そしてそのまばゆい光が晴れた時、その光の軌道上に居た歪虚達の姿は皆消え失せていた。
敵が払われ、一瞬の凪が産まれた瞬間にハンター達は次々とクレバス内へ飛び込んでいく。だが、それを押しとどめようと一度蹴散らされた歪虚達もその物量で持って襲いかかる。
「シルバーレードルの力、新型に劣る物ではないはずです」
その時、ミオが動いた。まず弾丸をバラ撒き、歪虚達が自由気ままに動き回るのを防ぐ。その隙にハンター達は通過していく。
そしてミオはモニターに映る歪虚達を一気に選択した。ロックオンを示すカーソルが次々と現れ、歪虚達に重なっていく。
あとはトリガーを引く。それで放たれた弾丸は一発づつ正確に彼女が狙った歪虚達を貫いていった。
●
「ふむ、始まったか」
己の頭上で戦いが始まったことをラプラスはクレバスの中で感じ取っていた。
「我にとっても余り意味の無い戦いではあるが、あなた達がどのように戦うかを我は知りたい。その力を学ばせてもらえるといいのだが」
誰にも聞こえぬその場所でラプラスはそう独り言ちていた。
「わたし達も、譲れないものがあるのよ」
一方その頃、クレバスの上部では十色 エニア(ka0370)を始めとする者たちがラプラスを抑えるため、下へ下へと進んでいた。
エニアは先を急ぐ。脚を宙に踏み出し、その身を踊り出せば重力に引かれ一気に急降下。そんな中でも油断しない。その下に何があるか、耳を澄まし目を凝らし確認して下へ行く。そしてその身体は宙を浮かぶ龍鉱石へと着地した。しかしそれで止まらない。すかさず再び下へと降りていく。
「行きましょう、ネーヴェ」
羊谷 めい(ka0669)はネーヴェという名のイェジドを呼ぶ。イェジドは彼女を背に乗せひらりと舞い上がる。その大きな体からは想像もつかない程軽やかに、龍鉱石の上へと降り立った。一人と一匹は先を目指し、次々と石から石へ飛び渡っていく。
そうやって龍鉱石伝いに降りていく者達の間を青きワイバーンが滑るように飛ぶ。
「水晶の歌姫(いしのひめ)から龍の遺志(いし)たちへ 小さな加護を願う祈りの歌を捧げます」
その背にはメトロノーム・ソングライト(ka1267)が乗っていた。目指すはラプラスが待ち構えるその場所。
三人が通り過ぎた後、ブラウ(ka4809)も慎重に確認しながら下へ進んでいた。確実に着地できそうな場所を探し、そこへと進む。そこで改めて確認してから先へ。少し遅れるのは仕方ないと割り切る。
「さて、フェアに行こうじゃあないか」
その時ラプラスのもとにはHolmes(ka3813)が居た。横にはイェジド。
そしてイェジドは吼えた。生命の根源から刷り込まれた恐怖を思い起こさせる様な雄叫びを上げる。
それと同時にホームズも純粋な「敵意」をぶつける。純粋故、その敵意をまともに受ければ正常な判断は行えなくなるであろう。
「これは失礼した」
しかしそれを同時に受けて、ラプラスは何一つ反応を変えることは無かった。
「おそらく並の生命なら恐怖し混乱するのであろう。だがあいにく我は元より恐怖することは無い。つまりそのような行動は我にとっては無駄になる。そのことを伝え忘れていた」
そしてラプラスは剣を手に出す。
「それでは改めて、フェアに戦おうではないか」
そこにハンター達が集まってくる。彼らの後には続く者が入る。その物達を通すために何としてもラプラスを止めねばならない。
「私の力は小さな物だけど、強欲王討伐に向かう人達を無事通過させる為に全力を尽くすよ!」
天竜寺 詩(ka0396)はこれからラプラスに挑もうとするハンター達に祈りを込めた。彼女が一つ祈るとその周囲に一瞬、茨のような幻影が広がる。そしてそれは回りにいる仲間たちを包み込み、その身を守る。
「ちょっと私と、踊ってくれない?」
そしてエニアは前に出た。その身には緑の風が纏われていた。その風はまるで妖精の羽のようにも見え、その体を軽やかに羽ばたかせる。
「良かろう」
ラプラスは剣を繰り出す。だがそれをエニアはほんの少しだけ身体を動かして交わし、切っ先は空を切る。
そしてその時だった。その小さな体を龍鉱石の影に隠し、じっと息を潜めていたブラウが躍り出た。
刀を納めたまま前に出るやいなや抜き打つ彼女の姿は白く光っていた。相棒たるユキウサギ、グリューンの協力を受け身を守った彼女は攻撃を放つと、すかさずその場から離れる。
「ふむ、フェイントか」
しかし、ラプラスはそれをこともなく受け止めてみせる。そして追撃を浴びせようとする。だが。
「貴女の語る公平さを聞いていて思いましたが、傲慢の歪虚だったりしませんか? その能力も懲罰に似ていますよね」
その時ラプラスの足元にカードが投げつけられた。地面に突き立ったそれが黙示騎士に先へ進むことを一瞬思いとどまらせる。
それを投げつけたのはワイバーンの背に乗った保・はじめ(ka5800)だった。彼のパートナーである三毛丸という名のユグディラが、そこに追いつきワイバーンに飛び乗ってくる。
「あなたのその考えは思い込みだ。思い込みは正しい判断を妨げる。我は――」
「戦の答えと想いは、口先で語れるものじゃない」
その言葉を切る声。その時ラプラスの横側から黒い砲弾のように何かが飛び込んできた。
「初めまして。そして、これより先は剣にて」
それはコーディという名のイェジドに跨ったアリア・セリウス(ka6424)だった。彼女の手に握られた黄昏色の刃を持つ十字剣がその勢いとともにまっすぐ黙示騎士の胸元へと繰り出される。
「これは止めるしかあるまい」
ラプラスはそれを自らの剣で受け止める。金属と金属がぶつかり合う澄んだ高い音。戦いは始まったばかりだった。
●
ラプラスとの戦闘が始まった頃、クレバスの上の方ではハンター達が次々と飛び込んでいた。黙示騎士や歪虚達と交戦しているがこれはハンター達の真の目的ではない。真の目的はクレバスの奥底に居る。
「さて、強欲王の討伐は任せた故、ここは我の戦場じゃ、いざ尋常に参るぞ!」
その真の目的、つまりメイルストロムを目指し先を急ぐ者達を守るべく、この場所で戦う事を決めた者達が居た。アグニという名のイェジドに騎乗したフラメディア・イリジア(ka2604)もそうだった。彼女の背後を今まさにハンター達が通り抜けていく。そこへと歪虚達は集まり、光線を浴びせてくる。
しかし彼女はそれを盾で受け止めようとする。一つ一つは決して強くはない歪虚だが、量が圧倒的に多い。受け止めきれる量ではない。時には受け損ねた光線が被害をもたらし、彼女の腹部を光線が焼く。
それでも彼女は止めようと立ち向かい。アグニと共に踏み出し、そして斧を振るって歪虚達を真っ二つにしていく。
「たとえ無理とわかっていてもやらなければならん時はある物じゃ」
そんなフラメディアの少し上の方、クレバスの入り口近くにデュミナスが立っていた。搭乗者はミグ・ロマイヤー(ka0665)。
不安定な龍鉱石の上に無理やりCAMで乗っているのである。いつバランスを崩してもおかしくない。それでもこうしないと出来ないことがある。
「さて、歪虚共、ロマイヤー流の戦争を教育してやろう」
カメラを上に傾ければ今自分がいるこの穴へ吸い込まれるように歪虚が殺到してくる。ミグはそこに照準を向けると搭載されたマシンガンを思い切りぶっ放した。
銃弾の嵐が穴から吹き出し、そこに飛び込もうとしていた歪虚達を貫いていく。しかしその反動がCAMにまともに来た。
そしてそれを支えるのに宙に浮いた龍鉱石はあまりに心もとなかった。一瞬でバランスを崩し、投げ出されるミグのCAM。
この緊急事態にミグはアンカーを発射した。それはクレバスの壁に突き刺さる。その瞬間ワイヤーを一気に引き戻し、その反動で機体を立て直してクレバスの外へ飛び出す。無茶なアクロバットでなんとか立て直した。
しかし、この様な芸当が二度も三度も出来るようなことでないことは彼女自身が一番良くわかっていた。それでも、マシンガンが歪虚達を押しとどめたことに彼女は満足していた。
そんなミグのCAMと入れ替わるように、二人組が上から降ってきた。二人が龍鉱石に着地すると、一人がこう叫ぶ。
「『アンタら』がもう心配せずに済むよう、きっちりカタを付けてやるぜ!」
そう叫んだのはジャック・エルギン(ka1522)だった。
「ソサエティも大きく出たな。だが世界の因果の糸を解き明かすとなりゃ興味は尽きん。これでも世の理は尊重しているつもりなんだ」
そしてそんなジャックの横でそう呟いていたのはエアルドフリス(ka1856)だった。しかし彼らの前には狂気の歪虚が、そして竜たちが居る。
「先々何が出てくるかも気になるが、先ずは目の前の龍共をどうにかしようかね」
その言葉と共にエアルドは詠唱を開始し、ジャックは武器を構える。睨み合う歪虚とハンター達。
その間を青き竜が滑空していく。その背にはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)。そしてオルテンシアという名の相棒。
ユグディラであるオルテンシアは猫らしく軽やかに飛び降りる。その様子を見ながらアウレールはもう少し竜の背に乗る。そして思い描いたような龍鉱石を見つけ出し、そこへと飛び降りる。
その龍鉱石からはちょうど周囲の視界が開けている。ここからなら待ち構えられる。彼は魔導銃をセットし、膝をついて身体を安定させ索敵を始める。
だが、彼が双眼鏡を取り出したその刹那、次々とつむじを描く様に歪虚が飛び込んでくる。索敵の間もない。
ならば、と彼はそのまま銃のトリガーを引いた。軽快な音と共に連射される弾丸により、歪虚は少しずつ払われていく。
「みんな、伝えたい想いがあってここにいる。ミィリアに今、できることは……行こう叢雲、ちょっとどころじゃなく派手な散歩といこうじゃない!」
ミィリア(ka2689)はイェジドである叢雲の毛並みを一撫でしながら、そう語りかけた。その気持ちを汲み取ってか、叢雲は一つ頷く。
それと同時にミィリアはその黄金色の毛並みに飛び乗り、一気にクレバスの中を急降下していった。
狙っていた着地点の龍鉱石がみるみる近づいていく。だが、彼女は着地を叢雲に委ね、その桃色の瞳は別のものを見ていた。
下ではアウレールの掃射を浴びて歪虚達が次々と消滅している。だが、多勢に無勢。少しずつその包囲網は狭まっていた。その一点を彼女は見ていた。
そしてその小柄な身体を目一杯使って弓を引く。ギリギリと引き絞られた弓が解き放たれると、一直線に矢がクレバスの中を飛び、そして歪虚を貫いた。
たった一体。だがそれに意味があった。知性の無いであろう狂気の歪虚達も、上空に居る敵がこちらに向かって降りてきていることを知ってか、そちらへと向かっていく。包囲網が薄くなった。
それを感じアウレールはもう一度引き金を引く。連なって撃ち出される銃弾が狭まり始めていた包囲網を再び押し広げ始める。
そしてこちら側に飛び込んでくる歪虚を見てミィリアは弓を仕舞い、刀を抜く。
飛び込んでくる歪虚達。そこに呼吸を合わせ、彼女は水平に構えた刀を真っ直ぐ突き出した。
切っ先が一直線に走る。ほんの一瞬の間を開けて、一帯に桜吹雪が吹き荒れた。それは水平に渦を描いて走り、次々と歪虚を巻き込み吹き飛ばしていった。
「何回も助けてもらた青の子たちと、気持ちひとつに頑張るんダヨ!」
クレバス内で戦いが繰り広げている最中、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は一人この穴の中を読み、ワイバーン達に指示を出していた。
その指示を受けワイバーン達は背にハンターを乗せ飛んでいく。その先達をパティが務める。
そこに居る歪虚の数はあまりに多い。飛び交う光線がもっとも少ない場所を札で読んでパティは指示を出すが、それでもその読みを抜け、漏れ出る光線がハンター達を傷つけていく。
「!」
たった今も、パティの身体を光線が貫いたところだった。彼女の脳裏に月面での悪夢が蘇る。今急所をまともに貫かれた。
だがあの時とは違った。彼女は倒れなかった。痛む身体を起こし、己の身を捨て置いて神殿へと向かうハンター達へと守護の符を打っていく。
彼女は皆が無事にクレバスの上に戻ってくることを――それはハンターだけでなくワイバーンも含めてそうであることを――願っていた。
エアルドフリスは上下をもう一度確認した。下ではラプラスとハンター達が戦っている。上ではクレバスの縁に陣取った者達が、ワイバーンにまたがり上空を飛ぶ者達が少しでも侵入を防ごうと体を張っている。
「あんた方には俺の相手をして頂くぞ。可愛らしいお嬢さんじゃあなくて申し訳無いが」
だからこちらが守るのはこの場所だ。エアルドフリスは今自分たちがいる場所を防衛ラインとして引く。
「ハッ、そんな遠くに居たんじゃ狙えねーぞ。かかってきやがれ!」
そんな中、ジャックはイェジドと共に龍鉱石から龍鉱石へと次々飛び移りながら、マテリアルを燃やしていた。
燃え上がったマテリアルが彼の身体を覆い、燦々と輝く松明の様に照らす。それは狂気の歪虚にとって見逃せるものではなかった。そこら中に居た歪虚達がわらわらとジャックのもとに殺到し、光線を引っ切り無しに浴びせかける。
だがジャックはかわした。かわした。かわしつづけた。たとえ一発一発の狙いは甘くても、それは到底かわせる様な量ではない。ジャックの身体が傷つけられ地に落ちるのも時間の問題のはずだった。だが、その光線をジャックは全てかわしきってみせた。
そしてエアルドフリスは見る。防衛ラインをたった今一体の竜が乗り越えた。
竜は息を吸い、一帯を焼き尽くすように炎の息を吹き出す。
「熱ぃ……! けどまあ、あの赤金鱗龍の時に比べりゃあマシだな」
熱風はここまで迫る。だが、それすらもジャックの身を焦がすことは無かった。そして彼は弓を引きしぼる。
「均衡の裡に理よ路を変えよ」
その時エアルドフリスの詠唱の声が聞こえて来た。その声に呼応するように、彼の周りで雨粒が現れ、集まり、弾丸と化す。
「天から降りて地を奔り天に還るもの、恩恵と等しき災禍を齎せ」
エアルドフリスの詠唱の完成に合わせて、ジャックも矢を放った。一本の矢と一発の水弾が飛び、重なるように竜の身体を貫く。
クレバス内に響き渡るような断末魔の声。コントロールを失った竜の体は風に舞う木の葉のように穴の下へひらひらと落ちていき、やがて塵と化して消えていった。
●
烈風の腹部に竜の牙が突き立っていた。搭乗者を守るように作られたCAMであるが、この一点を狙われてはそういう訳にはいかない。コックピット内で榊も血を流していた。
だが、それで彼の意識が断ち切られることは無かった。むしろますます冴え渡る。
「……不十分とはいえ、我が業を再現してくれるか。ならば、俺も本気で操らせて貰おう。壊れてくれるなよ。烈風」
烈風は斬機刀へと武器をチェンジする。それは榊の間合いだった。スキルトレース。それは身につけた技を、歴史を力へと変えるシステム。
烈風は大上段に刀を構え、それを真っ直ぐ竜の身体へと叩き落とす。刃の直撃を受け、さしもの竜もその顎の力が緩み、ほんの一寸の隙間が開く。それで榊には十分だった。
その隙間を強く踏み込んで、全てのパワーを集めた刺突が繰り出された。わずかしか無い距離でも、それを踏み込みの距離として使うことが可能だった。これこそ榊流【狼牙一式】。その歴史が紡いだ力が乗せられた一撃に竜の体は貫かれる。
そしてその竜を、菊理とルンルンが捉えていた。
再び菊理はマジックエンハンサーを展開する。それに合わせるようにルンルンは手を翳すように動く。
エネルギーが充填された。菊理がもう一度マテリアルライフルを発射する。紫色の光線が放たれ、龍の体を貫く瞬間だった。
「火門忍法マジカル☆ファイアー!」
ルンルンの、正しくは彼女の登場する花鳥風月の手から火の精霊力が存分に込められた火球が放たれ、同時に爆発した。これも技を力へと変えるシステム、スキルトレースの賜物である。
光線と火球、その二つを同時に浴びて竜に耐える力は残ってなかった。光が晴れた時、そこには何も残っていなかった。
ランはワイバーンと共にドラゴンに立ち向かっていた。正面を避けて飛び、何度も槍を振るい、少しずつドラゴンへ攻撃を加えていく。だが、その圧倒的な存在は一つ爪を振るうだけでそれまで積み上げてきたものを瓦解させることが可能な存在だった。振るわれた爪がランの身体をえぐる。
痛撃を受け、ワイバーンも傷を追った。流れる血の暖かみを感じランはワイバーンを旋回させる。一旦退いて仕切り直し。
だがドラゴンはそれを許さなかった。一つ羽ばたき、ランへと向かって猛追する。
「わたくしが出来る事は……」
その時竜の鼻っ面に炎の吐息が吹き付けられた。それはドラゴンが見せるものに比べれば遥かに弱い。だが、この一瞬ランが逃れるための時間を作り出すことなら可能だった。
「皆が全力を出す時間を伸ばす事よ」
それはドゥアルがワイバーンに指示を出した結果だった。そして逃れたランに彼女は癒やしを施していく。
一口に癒やすと言っても、彼女はこの時のために三種類のスキルを用意してきたのだ。それを適切に使い分ける。
そして一瞬ランを見失ったドラゴンはと言うと、すぐに体制を立て直し今度こそ叩き潰そうと襲い来る。その時だった。そこに突然一発の弾丸が飛んできた。
純粋なマテリアルで形作られ、実体を持たない弾丸がドラゴンを貫く。それがランによりたっぷり傷つけられていた竜にとっては致命傷となった。
その弾丸を遥か彼方から放ったのは涼子だった。その膨大な射程を活かし、ここぞという一点で一発の狙撃で状況を変えてみせる。
しかし歪虚も狙撃手を放って置くようなことはしなかった。次々とワイバーンが襲い、彼女のCAMを傷つけていく。そして痛恨の一撃が襲いかかった。
突き立てられた爪は搭乗者ごと貫く。爪をまともに喰らい、深手を負う涼子。
「実際の戦闘運用は初ですけど……消耗はこれくらい、ですか」
その頃葛音は次々と歪虚を撃ち滅ぼしていた。モニターには残り発射可能回数1と表示されている。弾数は限られているがその戦果は十分なものだった。
その時彼の目には涼子機に襲いかかるワイバーン達と、そしてとどめを刺そうと近づくドラゴンの姿が見えた。好機だった。
葛音はトリガーを叩く。すると胸部ハッチが開き、そこから巨大な砲身が飛び出した。これこそマテリアル兵器を超える彼の切り札。放たれた光線は一気に戦場を駆け抜け、ドラゴンをワイバーンごとまとめて蹴散らしていた。
「竜の誇りも異形の害意も、戦場という空間においては等しく無価値です」
ノエルの身体は傷ついていた。竜の、狂気の歪虚の攻撃を浴びその脚はおびただしい血によって赤く染まっていた。だが彼女の闘争心は衰えていなかった。一度刃を鞘に収め、一つ呼吸を着く。
「さあ、愉しい闘争に浸りましょう。貴方がたと私たち。どちらが世界に不要なモノかを決しましょう」
次の瞬間ノエルの姿が消えた。文字通り目にも取らぬ速度で動き回り、周りに居る歪虚達を手当たり次第斬り捨てる。縦横無尽に動く彼女の前に歪虚は為す術がなかった。
何度も刃が敵を切り裂く音が聞こえ、そしてその音が止みノエルが再び姿を表したときには、その周囲に居たはずの歪虚達は皆塵と化していた。
●
光線が四方八方から飛んでくる。恐ろしい数の歪虚の前でフラメディアは奮戦していた。彼女が身につけている鎧の隙間から血が滴る。この戦場で無傷で居ることなど土台無理な相談であった。彼女は神殿を目指すハンター達が少しでも傷つかぬよう、時には己の身を投げ出して居たのだから。
だが、狂気の歪虚はこれを好機と見たのか――もっとも好機を理解するほどの知性も無いが――一気に彼女の元へと殺到していた。
その時だった。クレバス内に獣の叫び声が木霊する。主の危機にアグニは吠えた。その叫びが歪虚達を一瞬ためらわせる。
そしてアグニは炎と化した。縦横無尽に飛び回りその爪で歪虚達を切り裂いている。その上にフラメディアは居なかった。
一人でダメなら二人で。フラメディアはアグニから飛び降り、互いに独立して動くことを選択する。少なくともこれで手数は二倍になった。その手数で持って、彼女たちはこの危機を乗り越えていた。
「こちら基地局じゃ。ジャミングは通信を妨害するもの。皆の物、ゆめゆめ油断するでないぞ」
CAMでクレバスの中へ飛び込むという無茶をしたミグだったが、無茶をするだけの理由があった。狂気の歪虚達はただ存在するだけで周囲を狂気に侵す。
それはハンター達の通信網すら例外ではない。その状況で内外の連絡を密にするためには何かしらの工夫が必要だった。それが彼女の狙いだった。
CAMそのものを通信基地局にすることで通信が行えるようにする。その恩恵は確かにあった。
通信機を通してアウレールの声がオルテンシアに届く。それを聞いて、かの猫は空間に霧を広げる。
ただの霧ではない。ユグディラ式の幻術が込められたそれは、元より混乱する知性も無い狂気の歪虚には何の意味も成さないが、知性を持つ竜たちには効果覿面だった。
霧の中で混乱している竜たちを置いて、狂気の歪虚達が飛び出してくる。そこにアウレールが横から銃撃を浴びせれば、次々と歪虚達は消え去っていく。
ひとしきり撃ち終わった後、一瞬の間を開けて竜が飛び出してきた。竜は飛び出してくるなりファイアブレスをアウレールに浴びせる。
だが彼は既に武器を持ち替えていた。左手に持った盾でファイアブレスを押さえ、受けるダメージを最小限に抑え、そして右手に握った槍を思い切り投げつける。それは竜の眼を貫いた。
竜は怒り、暴れ、こちらに爪を振るう。それをアウレールは受け止めた。そしてそれが竜の命脈が尽きたときだった。
盾で爪を受け流し、彼の手元に戻った槍を渾身の力で突き出せば、その槍が竜を見事に貫き、消し去った。金城湯池の域に達した攻防一体の技術であった。
そして鮮やかな防御技術を見せるものはもう一人居た。
「弓もおサムライさん力高いけど、やっぱりコッチのがしっくりくるってもんでござる……!」
それはミィリアが襲い掛かってきた歪虚の攻撃を受け流し、返す刀で一刀両断にし、さらにくるりと刀を回して鞘に収める。どことなくその表情は満足気だ。
だがそんな彼女にワイバーンが襲い来る。
「こんがり焼かれちゃうのは勘弁だけど、女子力は気合! なら、耐えきるしかないってね!」
と言いつつ直撃は避け耐えるミィリア。そして叢雲が吠えるとそのまま大きく離れ、そこから矢を一発放つ。それはワイバーンの羽に突き刺さり、その動きを止めた。
「みんなで生きて、帰りましょネ。一緒じゃなきゃ、パティ泣いてしまうからネ?」
パティは青きワイバーン達にそう声を掛けていた。青きワイバーンは言うならば青龍の一部分である。故に己が傷つくことを厭わず動く。そのことは彼女も知っていた。
だが、だからといって死んでいくのは耐えられなかった。だから彼女は負傷したワイバーンを後ろに下げ、ワイバーン達の連携を取る。
そこに歪虚が集まってくる。パティはここで動いた。五枚の符を取り出し投げ上げれば、それらから飛び出した五色の光が眩く絡み合い、歪虚達の目をくらませる。
ジャックは未だイェジドと共に飛び回っていた。彼の周囲には山の様な歪虚が集まり、攻撃を浴びせ続けているがその全てを彼はかわし続けていた。
そうやって動くことで彼が真に狙っている事に、歪虚は一切気づいていなかった。
その時、パティの産み出した光が歪虚達の動きを止めていた。ミィリアの矢がワイバーンをそこに縫い止めていた。歪虚達は今一箇所に固まった。
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん」
それが狙いだった。最後を託されたのはエアルドフリスだった。
「灰燼に帰せ!」
歪虚達を取り囲む様に蒼い炎が現れる。そして次の刹那、その内側へ向けて豪雨のように炎が降り注いだ。
「下へ行った連中の手土産が気になるねぇ」
その炎の雨が晴れた時、それはそこに居た歪虚全てを洗い流していた。己の仕事を成し遂げた後、エアルドフリスはそう呟いていた。
●
死角からの一撃を受け止められたアリアだったが、彼女はすかさずもう片方の手に大太刀を抜き構えた。――想思花・月魄。二つの剣を舞い踊る様に振るい、正面から斬り込んでいく。
「ふむ、二手で武器を持ち二倍の手数で攻め込むのか。その力、学ばせて貰おう。それがフェアというものだろう」
ラプラスは口を開く。舞い踊る双剣から繰り出される剣気が彼女の口の中へと吸い込まれていく。
「戦いの中の想いや祈りに、公平も不公平もないわ」
だが、アリアは迷わなかった。彼女の剣撃にラプラスが意識を傾けている。それは好機であった。
二人の頭上から影が落ちる。めいと共にネーヴェが飛びかかる。その質量こそが武器だった。バランスを崩すラプラス。
ブラウはその瞬間飛び出していた。一気に踏み込みつつ刀を抜く。一手目は鋭い突き。それをラプラスが受け止めた瞬間だった。全身を捻り上げる様にして斬り上げに繋げる。一呼吸で二連の斬撃を加える技であった。
だが、彼女が切り裂こうとしたラプラスの腹部に突如として口が現れた。今度はブラウのその技を喰らおうとしている。
「好きにはさせないよ!」
しかしながらそれもハンター達は読んでいた。天照が飛ぶ。ラプラスの注意が一瞬そちらに逸れる。その瞬間詩は祈った。彼女の手元に光の杭が現れ、それがラプラスを貫く。
「見事だ。これで我は確かに動けぬ」
縫いとめられたことを認める黙示騎士。そこに竜の羽ばたく音が聞こえた。保がワイバーンと共に突っ込んでくる。しかし動けなくとも喰らうことは出来る。その突進を喰らおうとラプラスが口を開く。しかし、それは喰らえなかった。
保はまさに当たるその瞬間、身体を捻り軌道を反らす。ワイバーンの大きな体が横に外れると、
「ふふっ、フェアプレイはお好きかな?」
そこにはホームズが居た。彼女が姿を表すと同時にその耳は獣のそれに変わり、尻尾が生える。と同時に彼女の身体はみるみる巨大になった。
そして殺気を乗せて放たれる拳。だがそれすらも伏線だった。
突進の軌道を外れたはずの保がその位置を戻してくる。
「それすらフェイントだったか」
黙示騎士が気づいたときにはもう遅かった。保がすれ違いざまに投げつけた五枚の符が色とりどりの光線で一帯を覆う。
さしものラプラスも死角を殺された、その時を狙っていた。メトロノームは歌を歌い始める。流れる歌は雷纏う双角虎の伝説を称えるもの、彼女の故郷に伝わる歌であった。
その歌声が響くと、雷纏う双角虎のその雄姿が彼女の側に現れ始めた。白き雷がバチバチと轟音を立てて姿を為す。
そして、咆哮のごとき雷鳴が轟いた。それと同時に、雷虎は稲妻へと変わり、一直線に戦場を駆け抜けた。
「確かに素晴らしい力だ」
しかしラプラスは口を開けてそれを吸い込む。そして吸い込み終わると、彼女の口から呪詛を思わせる音が流れ始め、黒い雷が異形の獣の形を取り始める。
「生きる命は時を駈け、死せる器は眠りの淵へ」
だがめいはそれを読んでいた。
「静かに、穏やかに、安息を」
彼女の紡ぐ鎮魂歌がクレバス内に響き、歪虚達の動きを止める。それはラプラスも例外ではなかった。
「そのやり方、わかってるのよ!」
そしてエニアもそれに備えていた。素早く術式を組み上げ、発動する。
「ええ、それは私の歌ですから、わかります」
同時にメトロノームは歌を奏でる。ラプラスが漏らす音と逆位相に鳴るように調律された歌。
二つの力はラプラスの力を打ち消すために作られていた。その力が繰り出され、ラプラスが作り出そうとしていた異形の怪物の姿は見る見るうちに小さくなり、消えた。
「さあ、どうするの? その食らいついたり吐き出したりするやり方、わかってるのよ」
「食らいつき吐き出す? ……ふむ、あなた達はどうやら少し勘違いしているようだ」
エニアの言葉にラプラスはそう返した。
「我は食べたものを吐き出している、というのは完全には正しくない。我は食べたものを学び、それを再現しているのだ。その意味は分かるか?」
そしてラプラスはアリアの方に向く。
「この力はあなた達に見せたはずだ。その事は共有しているだろうが……それにあなたの力を組み合わせることが出来た。感謝するぞ」
そして、ラプラスの両手に突如として巨大な火器が現れた。ハンター達はそれに見覚えがあった。大渓谷内で散々戦った自動兵器、それが持っているものだった。
「マテリアルレーザー?!」
気づいたときにはもう遅かった。一直線に光線が飛ぶ。
エニアはそれを回避するために万全を尽くしていた。だが、不運だった。神憑り的に急所を貫く光線をかわす術はどこにもなかった。レーザーに貫かれ、意識が断ち切られる。
めいもネーヴェと共に素早く飛び去り、かわそうとした。だがレーザーが到着するのは一瞬だった。直撃を浴び、戦う力を失った彼女をネーヴェがかばうのが精一杯だった。
ホームズはラプラスにいかような攻撃を浴びても耐えられるよう、自らの再生能力を限界まで高めていた。だがこの一撃の破壊力は高かった。はっきりと痛撃を加えられたことが分かる。
詩は自らも多大な傷を負いながらも、周りにいる傷ついた仲間達を癒そうとしていた。だが、そこに容赦なくもう一本のレーザーが飛ぶ……はずだった。
「ふむ、あなただけはこれを読んでいたか」
そこに居たのはアリアだった。彼女の一刀が、黙示騎士の片腕を切り飛ばし致命的な一射が放たれるのを防いでいた。
だが、それは同時に死地に自ら踏み込むことでもあった。ラプラスは残った腕のマテリアルレーザーをアリアに押し付け放った。そしてその光線に抗う術は彼女には残されていなかった。
●
「ふむ、我の負けのようだ」
エニアが、めいが、そしてアリアが倒れた中、ラプラスはそう言っていた。この状況下でも、彼女は何かを察した様だった。
「まあ良い。元より我にとってはアンフェアな戦いだったのだ」
そしてラプラスは天秤を揺らす。
「あなた達に次に会うのはどこになるのだろうな。この世界か、蒼の世界か、それとも緑の世界か。果たしてどこか……楽しみにしてるぞ」
すると彼女の身体は黒い光りに包まれ、掻き消えた。
「あはっ、四方八方から。すごい数が向かってきてますねー」
愛機フレイアに搭乗しこの地に立った葛音 水月(ka1895)が見たものは、空を覆い尽くさんばかりの歪虚の群れだった。
CAMのカメラを傾け上空に焦点を合わせれば、おびただしい数の敵対反応を示す警告文が表示される。
「そちらにも重要でしょうけど、僕らにとってもなのでここは死守させてもらいます」
葛音はレバーを倒す。するとフレイアはその手に持つライフルを真上に向ける。そしてボタンを押せばライフルに光の線が浮かび上がり、程なくして弾丸が発射された。
火花を散らしながら飛ぶ弾丸が一体の歪虚を貫く。それが戦闘の開始を告げる合図となった。
魔導型デュミナス・機体名シルバーレードルの機動用スラスターが開く。その反動で弾かれるように飛ぶ機体に天空から降り注ぐ狂気の歪虚は光線を浴びせかける。
そのうちの一本が機体の脚部を焦がすが、その程度では止まらなかった。
「強欲王の最期、見送りさせていただきます」
搭乗しているミオレスカ(ka3496)は自分の位置を確認していた。すぐ側には星の傷跡のクレバスが広がっている。そこを目指して飛び込んでくる歪虚達をこの位置からならまとめて狙える。彼女はモニターを一瞥し、そして射撃を開始した。
「……中で戦う仲間達の為にもこれ以上の敵の増援を通らせるわけにはいかない。全力で阻止することにしよう」
その頃榊 兵庫(ka0010)も自分の機体である烈風を駆って目的の場所に到着していた。カメラを水平位置に傾ければそこにはミオのシルバーレードルが見える。この位置ならできる。
榊がボタンを叩けば機体の背後にマジックエンハンサーが展開していく。カメラを上に向ければそこには押し寄せる歪虚達。
榊はそれを一瞥すると、照準を合わせ発射ボタンを叩いた。マテリアルの弾丸が一直線に走り、今まさにクレバスに飛び込もうとした歪虚を貫き四散させる。
榊が対応できない歪虚はミオが、ミオが対応できないものは榊が。互いが互いに補うように、蹴散らしていく。
しかしこの場にいる敵は狂気の歪虚だけではない。広げられた翼が機体に影を落とす。空にはワイバーンが、そして何よりドラゴンが舞い、こちら側を狙っていた。
「それじゃあ、新型の実力を披露しましょうか」
それに対しR7エクスシアが駆ける。搭乗者は烏丸 涼子 (ka5728)。彼女は己の機体がどういうものか理解していた。その機動力では先行する者達と共に行こうとしても足を引っ張るだけだということも。
だから彼女はライフルを構える。全長6m50cm、その銃の先端は遥か彼方の空の上で我が物顔で羽ばたいているワイバーンを狙っていた。そして響く銃声、放たれる非実体の弾丸。
その弾丸は150mを超える距離を一直線に飛び、偽竜と呼ばれるそれの翼を貫いていた。悲鳴が轟き、撃たれた竜はフラフラと木の葉のように宙を舞う。しかし彼女の視線はまだ外されていなかった。
ワイバーンは落ちていないし、彼女が狙う本命はそれよりも遥かに大きいドラゴンの首だ。それを貫く最善の位置を目指し涼子は機体を駆る。
「龍に仕える者が竜を斬る、というのもおかしな話ですが……私はあくまで仕えた者の”末裔”ですからね。王を守ろうというその強欲に、私もまた強欲で以て応えます」
そして地上へ向かってゆっくりと滑空するそのワイバーンへ向けて、ノエル・ウォースパイト(ka6291)が翔んでいた。彼女が跨るのはこれもワイバーン。青龍の加護を受けた青きワイバーンだ。
青きワイバーンが空を駆け歪虚に近づく。敵に迫りくるその中でノエルは呼吸を整え意識を集中した。
「我が刃、我が魂が求めるは……その血、その首、その命。渾身の一太刀にて、貴方の全てを頂戴致しましょう」
そして鍔鳴りは確かに二度鳴った。刃渡り七尺を超える龍をも斬る彼女の太刀が、一瞬の間に二度振るわれた時、ワイバーンの命脈はそこで尽きていた。
ノエルがワイバーンを斬り捨てた頃、それを追い抜くようにラン・ヴィンダールヴ(ka0109)がワイバーンとともに空を駆けていた。彼が狙うドラゴンの元へとその身を踊らせる。
近づいていけばその大きさがはっきりと分かる。今彼が乗るワイバーンの倍、いや、それよりも遥かに大きい。
そこでランは身体を傾け正面を避ける。その時、彼の身体は一瞬の内に巨大化した。
白狐の姿と化しそこに立つラン。もちろんドラゴンに比べればまだ小さいが、これで十分だった。
ワイバーンが羽ばたく。ドラゴンへと向かい、すれ違うその刹那ランはその手に握った槍を振り回した。青く輝く穂先がその軌跡を残し、確かに一撃を与えていた。
しかしドラゴンはこの程度では地に堕ちない。息を大きく吸い込み、次の瞬間その口から炎が吹き出された。
「……長く続いた、この地の戦いを終わらせる為に……」
その時ドゥアル(ka3746)がその前に身を躍らせた。吹き付けられる炎の息が一瞬の内に彼女の身を覆う。しかしその炎が晴れた時、そこには傷一つ無く立っている彼女の姿があった。
手には盾、そしてブレスレット。この二つだけで彼女はドラゴンブレスを受け止めたのだった。
「奥に向かった仲間達の為にも、ここは一歩も通さないんだからっ!」
そしてCAMと魔導アーマー。一組のそれがその時を待っていた。CAM・黄泉に搭乗するは白山 菊理(ka4305)。魔導アーマー、いや、命名者曰くニンジャアーマー・花鳥風月に搭乗するはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。
「花鳥風月と黄泉、素敵に和風で雅なのです!」
二機の動きは対照的だった。マジックエンハンサーを展開し、その一瞬を待つ菊理。対してクレバスラインを動き回りつつ、突っ込んでくる歪虚達を落としていくルンルン。
勿論数が違う。どうしても漏らした歪虚達が光線を放ち、それは容赦なく二機を傷つけていく。しかし二人は、狙う一瞬のために耐えていた。
ルンルンはマシンガンを放つ。バラ撒かれた銃弾は歪虚達を動かし、まとめていく。そしてその時が来た。
「ニンジャ八門、月門忍法ゼロ……花鳥風月ちゃんが私の進む未来を見せてくれる。シノビ大筒充填率120%、今です菊理さん、一緒に!」
その瞬間、紫色と青白く、二つの色に輝く光線が二機から放たれた。その光線は一瞬で戦場を突き抜ける。そしてそのまばゆい光が晴れた時、その光の軌道上に居た歪虚達の姿は皆消え失せていた。
敵が払われ、一瞬の凪が産まれた瞬間にハンター達は次々とクレバス内へ飛び込んでいく。だが、それを押しとどめようと一度蹴散らされた歪虚達もその物量で持って襲いかかる。
「シルバーレードルの力、新型に劣る物ではないはずです」
その時、ミオが動いた。まず弾丸をバラ撒き、歪虚達が自由気ままに動き回るのを防ぐ。その隙にハンター達は通過していく。
そしてミオはモニターに映る歪虚達を一気に選択した。ロックオンを示すカーソルが次々と現れ、歪虚達に重なっていく。
あとはトリガーを引く。それで放たれた弾丸は一発づつ正確に彼女が狙った歪虚達を貫いていった。
●
「ふむ、始まったか」
己の頭上で戦いが始まったことをラプラスはクレバスの中で感じ取っていた。
「我にとっても余り意味の無い戦いではあるが、あなた達がどのように戦うかを我は知りたい。その力を学ばせてもらえるといいのだが」
誰にも聞こえぬその場所でラプラスはそう独り言ちていた。
「わたし達も、譲れないものがあるのよ」
一方その頃、クレバスの上部では十色 エニア(ka0370)を始めとする者たちがラプラスを抑えるため、下へ下へと進んでいた。
エニアは先を急ぐ。脚を宙に踏み出し、その身を踊り出せば重力に引かれ一気に急降下。そんな中でも油断しない。その下に何があるか、耳を澄まし目を凝らし確認して下へ行く。そしてその身体は宙を浮かぶ龍鉱石へと着地した。しかしそれで止まらない。すかさず再び下へと降りていく。
「行きましょう、ネーヴェ」
羊谷 めい(ka0669)はネーヴェという名のイェジドを呼ぶ。イェジドは彼女を背に乗せひらりと舞い上がる。その大きな体からは想像もつかない程軽やかに、龍鉱石の上へと降り立った。一人と一匹は先を目指し、次々と石から石へ飛び渡っていく。
そうやって龍鉱石伝いに降りていく者達の間を青きワイバーンが滑るように飛ぶ。
「水晶の歌姫(いしのひめ)から龍の遺志(いし)たちへ 小さな加護を願う祈りの歌を捧げます」
その背にはメトロノーム・ソングライト(ka1267)が乗っていた。目指すはラプラスが待ち構えるその場所。
三人が通り過ぎた後、ブラウ(ka4809)も慎重に確認しながら下へ進んでいた。確実に着地できそうな場所を探し、そこへと進む。そこで改めて確認してから先へ。少し遅れるのは仕方ないと割り切る。
「さて、フェアに行こうじゃあないか」
その時ラプラスのもとにはHolmes(ka3813)が居た。横にはイェジド。
そしてイェジドは吼えた。生命の根源から刷り込まれた恐怖を思い起こさせる様な雄叫びを上げる。
それと同時にホームズも純粋な「敵意」をぶつける。純粋故、その敵意をまともに受ければ正常な判断は行えなくなるであろう。
「これは失礼した」
しかしそれを同時に受けて、ラプラスは何一つ反応を変えることは無かった。
「おそらく並の生命なら恐怖し混乱するのであろう。だがあいにく我は元より恐怖することは無い。つまりそのような行動は我にとっては無駄になる。そのことを伝え忘れていた」
そしてラプラスは剣を手に出す。
「それでは改めて、フェアに戦おうではないか」
そこにハンター達が集まってくる。彼らの後には続く者が入る。その物達を通すために何としてもラプラスを止めねばならない。
「私の力は小さな物だけど、強欲王討伐に向かう人達を無事通過させる為に全力を尽くすよ!」
天竜寺 詩(ka0396)はこれからラプラスに挑もうとするハンター達に祈りを込めた。彼女が一つ祈るとその周囲に一瞬、茨のような幻影が広がる。そしてそれは回りにいる仲間たちを包み込み、その身を守る。
「ちょっと私と、踊ってくれない?」
そしてエニアは前に出た。その身には緑の風が纏われていた。その風はまるで妖精の羽のようにも見え、その体を軽やかに羽ばたかせる。
「良かろう」
ラプラスは剣を繰り出す。だがそれをエニアはほんの少しだけ身体を動かして交わし、切っ先は空を切る。
そしてその時だった。その小さな体を龍鉱石の影に隠し、じっと息を潜めていたブラウが躍り出た。
刀を納めたまま前に出るやいなや抜き打つ彼女の姿は白く光っていた。相棒たるユキウサギ、グリューンの協力を受け身を守った彼女は攻撃を放つと、すかさずその場から離れる。
「ふむ、フェイントか」
しかし、ラプラスはそれをこともなく受け止めてみせる。そして追撃を浴びせようとする。だが。
「貴女の語る公平さを聞いていて思いましたが、傲慢の歪虚だったりしませんか? その能力も懲罰に似ていますよね」
その時ラプラスの足元にカードが投げつけられた。地面に突き立ったそれが黙示騎士に先へ進むことを一瞬思いとどまらせる。
それを投げつけたのはワイバーンの背に乗った保・はじめ(ka5800)だった。彼のパートナーである三毛丸という名のユグディラが、そこに追いつきワイバーンに飛び乗ってくる。
「あなたのその考えは思い込みだ。思い込みは正しい判断を妨げる。我は――」
「戦の答えと想いは、口先で語れるものじゃない」
その言葉を切る声。その時ラプラスの横側から黒い砲弾のように何かが飛び込んできた。
「初めまして。そして、これより先は剣にて」
それはコーディという名のイェジドに跨ったアリア・セリウス(ka6424)だった。彼女の手に握られた黄昏色の刃を持つ十字剣がその勢いとともにまっすぐ黙示騎士の胸元へと繰り出される。
「これは止めるしかあるまい」
ラプラスはそれを自らの剣で受け止める。金属と金属がぶつかり合う澄んだ高い音。戦いは始まったばかりだった。
●
ラプラスとの戦闘が始まった頃、クレバスの上の方ではハンター達が次々と飛び込んでいた。黙示騎士や歪虚達と交戦しているがこれはハンター達の真の目的ではない。真の目的はクレバスの奥底に居る。
「さて、強欲王の討伐は任せた故、ここは我の戦場じゃ、いざ尋常に参るぞ!」
その真の目的、つまりメイルストロムを目指し先を急ぐ者達を守るべく、この場所で戦う事を決めた者達が居た。アグニという名のイェジドに騎乗したフラメディア・イリジア(ka2604)もそうだった。彼女の背後を今まさにハンター達が通り抜けていく。そこへと歪虚達は集まり、光線を浴びせてくる。
しかし彼女はそれを盾で受け止めようとする。一つ一つは決して強くはない歪虚だが、量が圧倒的に多い。受け止めきれる量ではない。時には受け損ねた光線が被害をもたらし、彼女の腹部を光線が焼く。
それでも彼女は止めようと立ち向かい。アグニと共に踏み出し、そして斧を振るって歪虚達を真っ二つにしていく。
「たとえ無理とわかっていてもやらなければならん時はある物じゃ」
そんなフラメディアの少し上の方、クレバスの入り口近くにデュミナスが立っていた。搭乗者はミグ・ロマイヤー(ka0665)。
不安定な龍鉱石の上に無理やりCAMで乗っているのである。いつバランスを崩してもおかしくない。それでもこうしないと出来ないことがある。
「さて、歪虚共、ロマイヤー流の戦争を教育してやろう」
カメラを上に傾ければ今自分がいるこの穴へ吸い込まれるように歪虚が殺到してくる。ミグはそこに照準を向けると搭載されたマシンガンを思い切りぶっ放した。
銃弾の嵐が穴から吹き出し、そこに飛び込もうとしていた歪虚達を貫いていく。しかしその反動がCAMにまともに来た。
そしてそれを支えるのに宙に浮いた龍鉱石はあまりに心もとなかった。一瞬でバランスを崩し、投げ出されるミグのCAM。
この緊急事態にミグはアンカーを発射した。それはクレバスの壁に突き刺さる。その瞬間ワイヤーを一気に引き戻し、その反動で機体を立て直してクレバスの外へ飛び出す。無茶なアクロバットでなんとか立て直した。
しかし、この様な芸当が二度も三度も出来るようなことでないことは彼女自身が一番良くわかっていた。それでも、マシンガンが歪虚達を押しとどめたことに彼女は満足していた。
そんなミグのCAMと入れ替わるように、二人組が上から降ってきた。二人が龍鉱石に着地すると、一人がこう叫ぶ。
「『アンタら』がもう心配せずに済むよう、きっちりカタを付けてやるぜ!」
そう叫んだのはジャック・エルギン(ka1522)だった。
「ソサエティも大きく出たな。だが世界の因果の糸を解き明かすとなりゃ興味は尽きん。これでも世の理は尊重しているつもりなんだ」
そしてそんなジャックの横でそう呟いていたのはエアルドフリス(ka1856)だった。しかし彼らの前には狂気の歪虚が、そして竜たちが居る。
「先々何が出てくるかも気になるが、先ずは目の前の龍共をどうにかしようかね」
その言葉と共にエアルドは詠唱を開始し、ジャックは武器を構える。睨み合う歪虚とハンター達。
その間を青き竜が滑空していく。その背にはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)。そしてオルテンシアという名の相棒。
ユグディラであるオルテンシアは猫らしく軽やかに飛び降りる。その様子を見ながらアウレールはもう少し竜の背に乗る。そして思い描いたような龍鉱石を見つけ出し、そこへと飛び降りる。
その龍鉱石からはちょうど周囲の視界が開けている。ここからなら待ち構えられる。彼は魔導銃をセットし、膝をついて身体を安定させ索敵を始める。
だが、彼が双眼鏡を取り出したその刹那、次々とつむじを描く様に歪虚が飛び込んでくる。索敵の間もない。
ならば、と彼はそのまま銃のトリガーを引いた。軽快な音と共に連射される弾丸により、歪虚は少しずつ払われていく。
「みんな、伝えたい想いがあってここにいる。ミィリアに今、できることは……行こう叢雲、ちょっとどころじゃなく派手な散歩といこうじゃない!」
ミィリア(ka2689)はイェジドである叢雲の毛並みを一撫でしながら、そう語りかけた。その気持ちを汲み取ってか、叢雲は一つ頷く。
それと同時にミィリアはその黄金色の毛並みに飛び乗り、一気にクレバスの中を急降下していった。
狙っていた着地点の龍鉱石がみるみる近づいていく。だが、彼女は着地を叢雲に委ね、その桃色の瞳は別のものを見ていた。
下ではアウレールの掃射を浴びて歪虚達が次々と消滅している。だが、多勢に無勢。少しずつその包囲網は狭まっていた。その一点を彼女は見ていた。
そしてその小柄な身体を目一杯使って弓を引く。ギリギリと引き絞られた弓が解き放たれると、一直線に矢がクレバスの中を飛び、そして歪虚を貫いた。
たった一体。だがそれに意味があった。知性の無いであろう狂気の歪虚達も、上空に居る敵がこちらに向かって降りてきていることを知ってか、そちらへと向かっていく。包囲網が薄くなった。
それを感じアウレールはもう一度引き金を引く。連なって撃ち出される銃弾が狭まり始めていた包囲網を再び押し広げ始める。
そしてこちら側に飛び込んでくる歪虚を見てミィリアは弓を仕舞い、刀を抜く。
飛び込んでくる歪虚達。そこに呼吸を合わせ、彼女は水平に構えた刀を真っ直ぐ突き出した。
切っ先が一直線に走る。ほんの一瞬の間を開けて、一帯に桜吹雪が吹き荒れた。それは水平に渦を描いて走り、次々と歪虚を巻き込み吹き飛ばしていった。
「何回も助けてもらた青の子たちと、気持ちひとつに頑張るんダヨ!」
クレバス内で戦いが繰り広げている最中、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は一人この穴の中を読み、ワイバーン達に指示を出していた。
その指示を受けワイバーン達は背にハンターを乗せ飛んでいく。その先達をパティが務める。
そこに居る歪虚の数はあまりに多い。飛び交う光線がもっとも少ない場所を札で読んでパティは指示を出すが、それでもその読みを抜け、漏れ出る光線がハンター達を傷つけていく。
「!」
たった今も、パティの身体を光線が貫いたところだった。彼女の脳裏に月面での悪夢が蘇る。今急所をまともに貫かれた。
だがあの時とは違った。彼女は倒れなかった。痛む身体を起こし、己の身を捨て置いて神殿へと向かうハンター達へと守護の符を打っていく。
彼女は皆が無事にクレバスの上に戻ってくることを――それはハンターだけでなくワイバーンも含めてそうであることを――願っていた。
エアルドフリスは上下をもう一度確認した。下ではラプラスとハンター達が戦っている。上ではクレバスの縁に陣取った者達が、ワイバーンにまたがり上空を飛ぶ者達が少しでも侵入を防ごうと体を張っている。
「あんた方には俺の相手をして頂くぞ。可愛らしいお嬢さんじゃあなくて申し訳無いが」
だからこちらが守るのはこの場所だ。エアルドフリスは今自分たちがいる場所を防衛ラインとして引く。
「ハッ、そんな遠くに居たんじゃ狙えねーぞ。かかってきやがれ!」
そんな中、ジャックはイェジドと共に龍鉱石から龍鉱石へと次々飛び移りながら、マテリアルを燃やしていた。
燃え上がったマテリアルが彼の身体を覆い、燦々と輝く松明の様に照らす。それは狂気の歪虚にとって見逃せるものではなかった。そこら中に居た歪虚達がわらわらとジャックのもとに殺到し、光線を引っ切り無しに浴びせかける。
だがジャックはかわした。かわした。かわしつづけた。たとえ一発一発の狙いは甘くても、それは到底かわせる様な量ではない。ジャックの身体が傷つけられ地に落ちるのも時間の問題のはずだった。だが、その光線をジャックは全てかわしきってみせた。
そしてエアルドフリスは見る。防衛ラインをたった今一体の竜が乗り越えた。
竜は息を吸い、一帯を焼き尽くすように炎の息を吹き出す。
「熱ぃ……! けどまあ、あの赤金鱗龍の時に比べりゃあマシだな」
熱風はここまで迫る。だが、それすらもジャックの身を焦がすことは無かった。そして彼は弓を引きしぼる。
「均衡の裡に理よ路を変えよ」
その時エアルドフリスの詠唱の声が聞こえて来た。その声に呼応するように、彼の周りで雨粒が現れ、集まり、弾丸と化す。
「天から降りて地を奔り天に還るもの、恩恵と等しき災禍を齎せ」
エアルドフリスの詠唱の完成に合わせて、ジャックも矢を放った。一本の矢と一発の水弾が飛び、重なるように竜の身体を貫く。
クレバス内に響き渡るような断末魔の声。コントロールを失った竜の体は風に舞う木の葉のように穴の下へひらひらと落ちていき、やがて塵と化して消えていった。
●
烈風の腹部に竜の牙が突き立っていた。搭乗者を守るように作られたCAMであるが、この一点を狙われてはそういう訳にはいかない。コックピット内で榊も血を流していた。
だが、それで彼の意識が断ち切られることは無かった。むしろますます冴え渡る。
「……不十分とはいえ、我が業を再現してくれるか。ならば、俺も本気で操らせて貰おう。壊れてくれるなよ。烈風」
烈風は斬機刀へと武器をチェンジする。それは榊の間合いだった。スキルトレース。それは身につけた技を、歴史を力へと変えるシステム。
烈風は大上段に刀を構え、それを真っ直ぐ竜の身体へと叩き落とす。刃の直撃を受け、さしもの竜もその顎の力が緩み、ほんの一寸の隙間が開く。それで榊には十分だった。
その隙間を強く踏み込んで、全てのパワーを集めた刺突が繰り出された。わずかしか無い距離でも、それを踏み込みの距離として使うことが可能だった。これこそ榊流【狼牙一式】。その歴史が紡いだ力が乗せられた一撃に竜の体は貫かれる。
そしてその竜を、菊理とルンルンが捉えていた。
再び菊理はマジックエンハンサーを展開する。それに合わせるようにルンルンは手を翳すように動く。
エネルギーが充填された。菊理がもう一度マテリアルライフルを発射する。紫色の光線が放たれ、龍の体を貫く瞬間だった。
「火門忍法マジカル☆ファイアー!」
ルンルンの、正しくは彼女の登場する花鳥風月の手から火の精霊力が存分に込められた火球が放たれ、同時に爆発した。これも技を力へと変えるシステム、スキルトレースの賜物である。
光線と火球、その二つを同時に浴びて竜に耐える力は残ってなかった。光が晴れた時、そこには何も残っていなかった。
ランはワイバーンと共にドラゴンに立ち向かっていた。正面を避けて飛び、何度も槍を振るい、少しずつドラゴンへ攻撃を加えていく。だが、その圧倒的な存在は一つ爪を振るうだけでそれまで積み上げてきたものを瓦解させることが可能な存在だった。振るわれた爪がランの身体をえぐる。
痛撃を受け、ワイバーンも傷を追った。流れる血の暖かみを感じランはワイバーンを旋回させる。一旦退いて仕切り直し。
だがドラゴンはそれを許さなかった。一つ羽ばたき、ランへと向かって猛追する。
「わたくしが出来る事は……」
その時竜の鼻っ面に炎の吐息が吹き付けられた。それはドラゴンが見せるものに比べれば遥かに弱い。だが、この一瞬ランが逃れるための時間を作り出すことなら可能だった。
「皆が全力を出す時間を伸ばす事よ」
それはドゥアルがワイバーンに指示を出した結果だった。そして逃れたランに彼女は癒やしを施していく。
一口に癒やすと言っても、彼女はこの時のために三種類のスキルを用意してきたのだ。それを適切に使い分ける。
そして一瞬ランを見失ったドラゴンはと言うと、すぐに体制を立て直し今度こそ叩き潰そうと襲い来る。その時だった。そこに突然一発の弾丸が飛んできた。
純粋なマテリアルで形作られ、実体を持たない弾丸がドラゴンを貫く。それがランによりたっぷり傷つけられていた竜にとっては致命傷となった。
その弾丸を遥か彼方から放ったのは涼子だった。その膨大な射程を活かし、ここぞという一点で一発の狙撃で状況を変えてみせる。
しかし歪虚も狙撃手を放って置くようなことはしなかった。次々とワイバーンが襲い、彼女のCAMを傷つけていく。そして痛恨の一撃が襲いかかった。
突き立てられた爪は搭乗者ごと貫く。爪をまともに喰らい、深手を負う涼子。
「実際の戦闘運用は初ですけど……消耗はこれくらい、ですか」
その頃葛音は次々と歪虚を撃ち滅ぼしていた。モニターには残り発射可能回数1と表示されている。弾数は限られているがその戦果は十分なものだった。
その時彼の目には涼子機に襲いかかるワイバーン達と、そしてとどめを刺そうと近づくドラゴンの姿が見えた。好機だった。
葛音はトリガーを叩く。すると胸部ハッチが開き、そこから巨大な砲身が飛び出した。これこそマテリアル兵器を超える彼の切り札。放たれた光線は一気に戦場を駆け抜け、ドラゴンをワイバーンごとまとめて蹴散らしていた。
「竜の誇りも異形の害意も、戦場という空間においては等しく無価値です」
ノエルの身体は傷ついていた。竜の、狂気の歪虚の攻撃を浴びその脚はおびただしい血によって赤く染まっていた。だが彼女の闘争心は衰えていなかった。一度刃を鞘に収め、一つ呼吸を着く。
「さあ、愉しい闘争に浸りましょう。貴方がたと私たち。どちらが世界に不要なモノかを決しましょう」
次の瞬間ノエルの姿が消えた。文字通り目にも取らぬ速度で動き回り、周りに居る歪虚達を手当たり次第斬り捨てる。縦横無尽に動く彼女の前に歪虚は為す術がなかった。
何度も刃が敵を切り裂く音が聞こえ、そしてその音が止みノエルが再び姿を表したときには、その周囲に居たはずの歪虚達は皆塵と化していた。
●
光線が四方八方から飛んでくる。恐ろしい数の歪虚の前でフラメディアは奮戦していた。彼女が身につけている鎧の隙間から血が滴る。この戦場で無傷で居ることなど土台無理な相談であった。彼女は神殿を目指すハンター達が少しでも傷つかぬよう、時には己の身を投げ出して居たのだから。
だが、狂気の歪虚はこれを好機と見たのか――もっとも好機を理解するほどの知性も無いが――一気に彼女の元へと殺到していた。
その時だった。クレバス内に獣の叫び声が木霊する。主の危機にアグニは吠えた。その叫びが歪虚達を一瞬ためらわせる。
そしてアグニは炎と化した。縦横無尽に飛び回りその爪で歪虚達を切り裂いている。その上にフラメディアは居なかった。
一人でダメなら二人で。フラメディアはアグニから飛び降り、互いに独立して動くことを選択する。少なくともこれで手数は二倍になった。その手数で持って、彼女たちはこの危機を乗り越えていた。
「こちら基地局じゃ。ジャミングは通信を妨害するもの。皆の物、ゆめゆめ油断するでないぞ」
CAMでクレバスの中へ飛び込むという無茶をしたミグだったが、無茶をするだけの理由があった。狂気の歪虚達はただ存在するだけで周囲を狂気に侵す。
それはハンター達の通信網すら例外ではない。その状況で内外の連絡を密にするためには何かしらの工夫が必要だった。それが彼女の狙いだった。
CAMそのものを通信基地局にすることで通信が行えるようにする。その恩恵は確かにあった。
通信機を通してアウレールの声がオルテンシアに届く。それを聞いて、かの猫は空間に霧を広げる。
ただの霧ではない。ユグディラ式の幻術が込められたそれは、元より混乱する知性も無い狂気の歪虚には何の意味も成さないが、知性を持つ竜たちには効果覿面だった。
霧の中で混乱している竜たちを置いて、狂気の歪虚達が飛び出してくる。そこにアウレールが横から銃撃を浴びせれば、次々と歪虚達は消え去っていく。
ひとしきり撃ち終わった後、一瞬の間を開けて竜が飛び出してきた。竜は飛び出してくるなりファイアブレスをアウレールに浴びせる。
だが彼は既に武器を持ち替えていた。左手に持った盾でファイアブレスを押さえ、受けるダメージを最小限に抑え、そして右手に握った槍を思い切り投げつける。それは竜の眼を貫いた。
竜は怒り、暴れ、こちらに爪を振るう。それをアウレールは受け止めた。そしてそれが竜の命脈が尽きたときだった。
盾で爪を受け流し、彼の手元に戻った槍を渾身の力で突き出せば、その槍が竜を見事に貫き、消し去った。金城湯池の域に達した攻防一体の技術であった。
そして鮮やかな防御技術を見せるものはもう一人居た。
「弓もおサムライさん力高いけど、やっぱりコッチのがしっくりくるってもんでござる……!」
それはミィリアが襲い掛かってきた歪虚の攻撃を受け流し、返す刀で一刀両断にし、さらにくるりと刀を回して鞘に収める。どことなくその表情は満足気だ。
だがそんな彼女にワイバーンが襲い来る。
「こんがり焼かれちゃうのは勘弁だけど、女子力は気合! なら、耐えきるしかないってね!」
と言いつつ直撃は避け耐えるミィリア。そして叢雲が吠えるとそのまま大きく離れ、そこから矢を一発放つ。それはワイバーンの羽に突き刺さり、その動きを止めた。
「みんなで生きて、帰りましょネ。一緒じゃなきゃ、パティ泣いてしまうからネ?」
パティは青きワイバーン達にそう声を掛けていた。青きワイバーンは言うならば青龍の一部分である。故に己が傷つくことを厭わず動く。そのことは彼女も知っていた。
だが、だからといって死んでいくのは耐えられなかった。だから彼女は負傷したワイバーンを後ろに下げ、ワイバーン達の連携を取る。
そこに歪虚が集まってくる。パティはここで動いた。五枚の符を取り出し投げ上げれば、それらから飛び出した五色の光が眩く絡み合い、歪虚達の目をくらませる。
ジャックは未だイェジドと共に飛び回っていた。彼の周囲には山の様な歪虚が集まり、攻撃を浴びせ続けているがその全てを彼はかわし続けていた。
そうやって動くことで彼が真に狙っている事に、歪虚は一切気づいていなかった。
その時、パティの産み出した光が歪虚達の動きを止めていた。ミィリアの矢がワイバーンをそこに縫い止めていた。歪虚達は今一箇所に固まった。
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん」
それが狙いだった。最後を託されたのはエアルドフリスだった。
「灰燼に帰せ!」
歪虚達を取り囲む様に蒼い炎が現れる。そして次の刹那、その内側へ向けて豪雨のように炎が降り注いだ。
「下へ行った連中の手土産が気になるねぇ」
その炎の雨が晴れた時、それはそこに居た歪虚全てを洗い流していた。己の仕事を成し遂げた後、エアルドフリスはそう呟いていた。
●
死角からの一撃を受け止められたアリアだったが、彼女はすかさずもう片方の手に大太刀を抜き構えた。――想思花・月魄。二つの剣を舞い踊る様に振るい、正面から斬り込んでいく。
「ふむ、二手で武器を持ち二倍の手数で攻め込むのか。その力、学ばせて貰おう。それがフェアというものだろう」
ラプラスは口を開く。舞い踊る双剣から繰り出される剣気が彼女の口の中へと吸い込まれていく。
「戦いの中の想いや祈りに、公平も不公平もないわ」
だが、アリアは迷わなかった。彼女の剣撃にラプラスが意識を傾けている。それは好機であった。
二人の頭上から影が落ちる。めいと共にネーヴェが飛びかかる。その質量こそが武器だった。バランスを崩すラプラス。
ブラウはその瞬間飛び出していた。一気に踏み込みつつ刀を抜く。一手目は鋭い突き。それをラプラスが受け止めた瞬間だった。全身を捻り上げる様にして斬り上げに繋げる。一呼吸で二連の斬撃を加える技であった。
だが、彼女が切り裂こうとしたラプラスの腹部に突如として口が現れた。今度はブラウのその技を喰らおうとしている。
「好きにはさせないよ!」
しかしながらそれもハンター達は読んでいた。天照が飛ぶ。ラプラスの注意が一瞬そちらに逸れる。その瞬間詩は祈った。彼女の手元に光の杭が現れ、それがラプラスを貫く。
「見事だ。これで我は確かに動けぬ」
縫いとめられたことを認める黙示騎士。そこに竜の羽ばたく音が聞こえた。保がワイバーンと共に突っ込んでくる。しかし動けなくとも喰らうことは出来る。その突進を喰らおうとラプラスが口を開く。しかし、それは喰らえなかった。
保はまさに当たるその瞬間、身体を捻り軌道を反らす。ワイバーンの大きな体が横に外れると、
「ふふっ、フェアプレイはお好きかな?」
そこにはホームズが居た。彼女が姿を表すと同時にその耳は獣のそれに変わり、尻尾が生える。と同時に彼女の身体はみるみる巨大になった。
そして殺気を乗せて放たれる拳。だがそれすらも伏線だった。
突進の軌道を外れたはずの保がその位置を戻してくる。
「それすらフェイントだったか」
黙示騎士が気づいたときにはもう遅かった。保がすれ違いざまに投げつけた五枚の符が色とりどりの光線で一帯を覆う。
さしものラプラスも死角を殺された、その時を狙っていた。メトロノームは歌を歌い始める。流れる歌は雷纏う双角虎の伝説を称えるもの、彼女の故郷に伝わる歌であった。
その歌声が響くと、雷纏う双角虎のその雄姿が彼女の側に現れ始めた。白き雷がバチバチと轟音を立てて姿を為す。
そして、咆哮のごとき雷鳴が轟いた。それと同時に、雷虎は稲妻へと変わり、一直線に戦場を駆け抜けた。
「確かに素晴らしい力だ」
しかしラプラスは口を開けてそれを吸い込む。そして吸い込み終わると、彼女の口から呪詛を思わせる音が流れ始め、黒い雷が異形の獣の形を取り始める。
「生きる命は時を駈け、死せる器は眠りの淵へ」
だがめいはそれを読んでいた。
「静かに、穏やかに、安息を」
彼女の紡ぐ鎮魂歌がクレバス内に響き、歪虚達の動きを止める。それはラプラスも例外ではなかった。
「そのやり方、わかってるのよ!」
そしてエニアもそれに備えていた。素早く術式を組み上げ、発動する。
「ええ、それは私の歌ですから、わかります」
同時にメトロノームは歌を奏でる。ラプラスが漏らす音と逆位相に鳴るように調律された歌。
二つの力はラプラスの力を打ち消すために作られていた。その力が繰り出され、ラプラスが作り出そうとしていた異形の怪物の姿は見る見るうちに小さくなり、消えた。
「さあ、どうするの? その食らいついたり吐き出したりするやり方、わかってるのよ」
「食らいつき吐き出す? ……ふむ、あなた達はどうやら少し勘違いしているようだ」
エニアの言葉にラプラスはそう返した。
「我は食べたものを吐き出している、というのは完全には正しくない。我は食べたものを学び、それを再現しているのだ。その意味は分かるか?」
そしてラプラスはアリアの方に向く。
「この力はあなた達に見せたはずだ。その事は共有しているだろうが……それにあなたの力を組み合わせることが出来た。感謝するぞ」
そして、ラプラスの両手に突如として巨大な火器が現れた。ハンター達はそれに見覚えがあった。大渓谷内で散々戦った自動兵器、それが持っているものだった。
「マテリアルレーザー?!」
気づいたときにはもう遅かった。一直線に光線が飛ぶ。
エニアはそれを回避するために万全を尽くしていた。だが、不運だった。神憑り的に急所を貫く光線をかわす術はどこにもなかった。レーザーに貫かれ、意識が断ち切られる。
めいもネーヴェと共に素早く飛び去り、かわそうとした。だがレーザーが到着するのは一瞬だった。直撃を浴び、戦う力を失った彼女をネーヴェがかばうのが精一杯だった。
ホームズはラプラスにいかような攻撃を浴びても耐えられるよう、自らの再生能力を限界まで高めていた。だがこの一撃の破壊力は高かった。はっきりと痛撃を加えられたことが分かる。
詩は自らも多大な傷を負いながらも、周りにいる傷ついた仲間達を癒そうとしていた。だが、そこに容赦なくもう一本のレーザーが飛ぶ……はずだった。
「ふむ、あなただけはこれを読んでいたか」
そこに居たのはアリアだった。彼女の一刀が、黙示騎士の片腕を切り飛ばし致命的な一射が放たれるのを防いでいた。
だが、それは同時に死地に自ら踏み込むことでもあった。ラプラスは残った腕のマテリアルレーザーをアリアに押し付け放った。そしてその光線に抗う術は彼女には残されていなかった。
●
「ふむ、我の負けのようだ」
エニアが、めいが、そしてアリアが倒れた中、ラプラスはそう言っていた。この状況下でも、彼女は何かを察した様だった。
「まあ良い。元より我にとってはアンフェアな戦いだったのだ」
そしてラプラスは天秤を揺らす。
「あなた達に次に会うのはどこになるのだろうな。この世界か、蒼の世界か、それとも緑の世界か。果たしてどこか……楽しみにしてるぞ」
すると彼女の身体は黒い光りに包まれ、掻き消えた。
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