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プレゲーム第2回リプレイ「二日目/二つの世界の邂逅」

プレゲーム第2回リプレイ「二日目/二つの世界の邂逅」

●その御手からこぼれ落ちて
「私は……どうして無力なの……?」
 アンジェリナ・ルヴァンが、わななきながら両手で顔をおおったのは、このような異界にあってすら、その存在と出会ってしまったからだった。
 なぜ、ここにすら、あれがいるのか?
 大切な人の命を奪ったにっくきヴォイド。
 たとえ歪虚と呼ばれようとも、同じ存在だと分かる。クリムゾンウェストにおいてすら出会ってしまった、今となっては私には何ができるのか――軍人でも何でもない自分の無力さを思い知り、生きる希望も見失って両膝から崩れ落ちると、ただ泣くことしかできなかった。
 こんな風に悲観する者もいれば、前向きに生きるしかないと開き直る者いる。
 たとえば岬崎美咲が、そうだ。
「それで、元の世界に戻る方法はあるのでしょうか? それを成すために何をすべきでしょうか。私は生きて帰りたい! その為にハンターの皆様には――」
 きりっとした表情で、この地の人々に語りかけていた女の顔が一変した。
 視野をよぎったキノコの姿に一目惚れをしたらしい。

クロウ

 なんにしろ現金なものであり、元気なものだ。
 人間の精神ほど素性のしれぬものはないらしい。一方、この邂逅に対してはクリムゾンウェスト側でも様々な意見がある。
「素性が知れないという意味では歪虚と彼らは変りません! 帰って貰えるならば帰らせるべきです!」
 イルがクロウ(kz0008)に言う。が、クロウはそんな真摯な言葉にも肩をすくめるだけであった。
「それは歪虚を全て、この世界から消してしまおうという程度には簡単な話だな」
 クロウにはわかっていた。
 かつて、異世界からやって来た来訪者も、その多くが戻ることができず、戻れた者の数など、たかがしれていた。
 いや、その少数についても伝聞であり、伝承の中でそう語られているだけで、ある日を境に姿を見なくなったというだけの話だ。実際に帰ることができたかどうかなど今更確認のしようがない。
 しかも、これほどの大人数が同時に転移してくるなどという話は前代未聞の出来事であり、歪虚だけではなく人間の諸国、それどころか戦艦の出方すらわからなかった。

●会議は踊る

ダニエル・ラーゲンベック

 ダニエル・ラーゲンベック(kz0024)艦長が葉巻をくわえながら会議室の中を見回す。その髭に隠れた口元はやや苦笑気味だ。
 それもその筈で、佐官以上の幹部を集めての会議で始まったものが、いつの間にか、部下の誰それの意見も、誰それの情報もとなって人が人を呼び寄せてこの大所帯だ。
 ここが地球ではないというのは、軍人たちもすでに理解はしている。
 しかし、政府や上層部の許可もなしに未知の生命体とのコンタクトをとるということは軍人という立場から考えれば、難しい問題であった。
 紫藤 道が状況を整理してボードに書き記してから、いい加減にしてくれという顔になってボードに書かれていた内容を消して、書き直したりした。
 冷静な議論をするつもりだが、彼もいつの間にか議論の迷宮に迷い込んでしまっていた。
 要点は、こうだ。

1.衣類は軍用を提供、裁断すれば子供用まで凌げる
2.食糧調達は被害出す前提なら可能
3.しかし様子見は連日の脱走を覚悟するべき

(……進めば博打、止まればジリ貧、か)
 紫藤は自分の道化ぶりを笑いたくもなった。
 そして、また議論は最初に戻る。
「現状では、方針を決定する判断材料が足りません」
 シンイチ・モリオカが異議を唱えたのだ。
「今は行動し、情報を集める時だと判断します」
 そして、かれらが無意識のうちに意識の埒外に置きたがっていた事実を告げた。
「この星に我々以外の人間が存在する以上、交流は不可避です。どのようなスタンスを取るにせよ、接触は早期に行うべきと考えます」
 その時、イレア・ディープブルーが会議室に駆け込んできて、調査隊と歪虚の接触、そしてハンターの介入があったことを伝えた。
「ハンター? なんだそりゃあ?」
 艦長が眉をひそめる。
「なんにしろ、この世界にも、我々の世界のヴォイドのように危険な存在がいるようですね」
 イレアが意味ありげな微笑を口元に浮かべた。
「本艦をロストした地球側の損失は大きく、よって私たちは早急に帰還する手段を講じるべきです。その為に必要なのは――」

●偶然と必然の狭間で
「いなくなったはずなんだがな?」
 クロウが首をひねっていた。
 キノコがいる。
 あるのではない、いるのだ。キノコに似たそれは、神霊樹に関わる小さな精霊だった。興味の対象さえあればどこにでも姿を現すパルムはかつてこの島にももちろんいたはずだ。しかし、歪虚の勢力が強い場所ではさすがに居心地が悪いらしく、目撃数を減じていたと聞く。
 それにしても、幼いパルムだ。
 クロウが知っている中でもかなり小さな個体だった。
「まるで、わたしたちみたいね」
 おいで、と――佐藤 彩音が手をのばす。
 白い指先が手招く。少し離れた場所で様子を伺っていた精霊が、やがて好奇心に負けたように人間たちの方に向かってくる。
 とてとてと、ばたん。
 見事に転んでしまった。
 その途端、可愛いものには目がないリアルブルーの一団が、どっと押し寄せた。
「きゃあ、かわいい!」
「――あの、あれ、さ、触ってもいい、ですか……?」
「わたしにさわらせてよ!」

クレール

「いや、俺だ!?」
「ああぁぁぁ萌え、萌え」
「この子の名前は、きのこさんですからね!?」
 目の色を変えて、きのこさんのまわりに顔をすっかりゆるめきった大人どもの群れが集まった。
「お茶淹れてきたよ! とりあえず落ち着いて話そう……」
 クレール(ka0586)はそう声を掛けかけて、絶句。
 彼女が想像していたのとは違った意味で落ち着きを失ったリアルブルーの人間たちの姿が目の前にあった。後にクレールは今まで見た中でもっとも恐ろしく、おぞましいモノが、そこにはあったと友人に語っている。
 こほん。
「転移したばかりじゃ状況も解らないだろうけど、とりあえずこの辺は大所帯を賄えるほどの食糧は採れないの」
 クレールにこういわれ、民間人たちは不安気にざわめく。
 と、どこからか騒がしい声がしてきた。
「異世界から来ただって!? あぁ、伝承ではいくつも目にしたが、本物に会えるとは……!」
 ルスティロ・イストワールが目を輝かせ民間人を捕まえては質問攻めにしている。些細なことまでしつこく聞いて、もっと聞きたいからこの世界に居座れとまで言い放つほどだ。

クロード・インベルク

 いつしか、その周囲にも物好きたちが集まってきて、さながら見せ物である。
「あれが空から降ってきた鉄の船、か。どういう仕組みで動いてるんだろ?」
 クロード・インベルク(ka1506)が遠くに見える異界からの漂流船の姿に感嘆をあげるその横ではバラガスが反対にがくがくぶるぶると体をふるわせている。クロードに告げられた、巨大な鉄くずが空を飛ぶという事実に気持ちが追いついていないらしい。
 バラガス(ka1636)はそれでも頭では興味をもって理由を尋ねる。だが、返って来た答えは。
「はんじゅうりょくそうち?」
 クリムゾンウェストには存在しない概念を、リアルブルーの抽象的な言語の羅列で説明されてもちんぷんかんぷんだ。それでも、とりあえずそういう難しい物を直す為には、この世界の機械専門家である機導師を目指すのはいかがと薦めてみたりするバラガス。
 そんな風に民間の交流が始まれば、まず、男女の中になってから親愛の情を語り合おうとする者たちが生まれるのも必然――なのか?
 まあ、なんにしろ葵 涼介と都筑新がナンパをしているという事実に変わりはない。
 それに捕まった可哀想な生贄……じゃなくて現地人はラウィーヤ・マクトゥーム。
 転移者の逸話を綴った本の知識から、彼らを好意的に捉えているという純粋な子羊さんなのだ。彼女に向けられる狼さんたちの視線が怖いです。
 ラウィーヤは高速船にわざわざ食糧、衣料品、酒類、嗜好品など積み込んできたほどのお人よしさんだが、人付合いに不慣れなため言葉少なめ。
「参考にはなるかな、と……」
「ありがとう。余り分かっていないので、心細くて……そうだ、お話を聞かせて頂けませんか? 貴女について――」
 涼介がそんな彼女の肩をいかにも慣れた様子で抱いて微笑むものだから、妹のラミア・マクトゥームが牧羊犬のようにがなりたてる。
「あ、おい! 姉さん!」
 そんな友人の態度に苦笑しつつ、相方の新もそんな美女姉妹の片割れに声をかけて、色々とお喋りをした。例えば、彼らの住む世界について。
「へぇ、色々あんだな。戦わなくても生きていける、か……」

ジャック

 そう、新の言う通り戦わなくとも生きてはいける。
 しかし、
「人間腹が減りゃ飯を食わなきゃいけねぇ」
 ジャック(ka1305)が言うとおりだ。
「自前の飯があってもいつかは切れる。そん時どうすんのかって事よ」
 持ってきた果実を一口齧り、来訪者に与え、にやっと笑った。
「この世界も悪くないぜ?」
 ミルドレッド・V・リィも同意見。
「人間、結局は即物的な要求案件を満たすのが第一よねー?」
 本心は隠した、澄ました態度で勧誘を行う。
「衣食住タダだわよ? 恋愛も自由ね? 国家間係争や陰謀論の渦中が好き? そ? じゃユニオン作れば?」
 その誘いに、まず頷いた者がいた。
 綺羅・K・ユラである。
 彼女には予感があった。 (やっぱり兄貴はここにいるんだろうな、なんとなくわかるんだ! だから話してみたいな。獅子のような男を見かけなかったと。いるのであれば自分はハンターでも何にでもなろう――)

●賽は投げられた
 やはり会議は、踊っていた。
 終わることのないワルツは終わることなく繰り返される。
 主題はこの土地の知的生命体とのコンタクトを受け入れるか、拒絶するかの二つしかないのに、かくもさまざまな編曲が存在するものだ。
 涼野 音々が意見を求められ、発言をする。
「一生……此処で暮らしますか……? 民間の人、が……外に……。この世界を見る、と……言っているんです……。私達が腰抜け、で……示しがつきます、か……?」
 あいかわらずダニエルは腕を組んだまま椅子の上にふんぞり返っている。
 だが、艦長に近い地位にいる士官たちの数名はそうではなく、中にはあからさまに彼女の意見に不快感を示す者もいた。
「いかがですか?」
 茶の香りに振り向いた一同の視線の先にはお茶を差し入れてきた鳳・七花。
「私達は皆の命を守る立場、慎重になるのは当然です。けれどここは私達の知る場所ではありません」
 外で皆が飲んでいた茶を分けてもらってきたのだという。
「だから慎重にならざるを得んのだよ。たとえばこの茶とて、いまはよくとも他の星の住人である俺たちには蓄積して毒になる物質が入っているかもしれん!」
 茶の入ったカップを見下ろしながらいかにも神経質そうな士官の一人が吐き捨てる。

初月賢四郎

 それに否と唱える者がある。
 初月賢四郎(ka1046)だ。
「軍政や兵站では自分も本職です。現状だと、遠からず干上がるのは必至、信じずとも組まざるを得ないでしょう。移動しないなら、自分は希望者を募り、船を下ります」
「脅しかね?」
 ぎろりと彼を睨む士官。
 流石にサルヴァトーレ・ロッソの士官に選ばれるだけあって、本気の艦長ほどではないにせよ生半可なプレッシャーではない。
 賢四朗は腹に力を入れ、震える足に喝を入れ、乾いた口から精一杯の抵抗を示す。
「そう思っていただいても、構いません」
 それに対して、士官が何か反論をしようとした時である。
 突然、扉の外が騒がしくなってきたかと思うと扉が開き、多くの人間が入り口に立っていた守衛を押し流すようにして部屋になだれ込んできた。見慣れた同朋ではなく、明らかに異質な装束の人間。
 この光景に、会議室に座っていた軍人たちの一部が反射的に腰に手をあてて、銃を構えて立ち上がる。
 会議室は一触即発の雰囲気に包まれた。
「……やめねえか」
 事ここに及んでも泰然自若と葉巻をくゆらせたダニエル艦長はゆっくり手を上げ、いきり立った部下を制する。
 軍人も、そして闖入者も重苦しい緊張に包まれる中、まずアルトゥライネルが語り始める。
 即座に、高官たちの間にざわめきが広がる。
 翻訳も無しに意思疎通ができる事は、既に艦の首脳部にも報告されている。だが、彼ら首脳陣が実際にこれを体験したのははじめてだったのだから。
「青き異界から来た勇者たちよ、お互い、新しいものや状況に対応出来ないようじゃ先は無い。この島ではあんたらが守りたいものも守れないのは目に見えているだろう。利用される前に利用するくらいの気概で来てみたらどうだ?」
 異常事態に気圧されたせいもあるのだろう。首脳部の何人かはアルトゥラネイルの説得に対して明らかに動揺した様子を見せた。
 それを好機と見たのか藤堂研司が勢いよく起立して大声を張り上げる。
「新兵ながら、進言します! 現実の問題として、我々にこの地の情報が余りに不足しております。彼らが我々と敵対するならば、奇襲の機会はいくらでもありました。真意はいざ知らず、今は情報の収集こそ先決と考えます!」
 それを皮切りにして、兵たちが次々と意見を述べる。
 やがて、レベッカ=ヘルフリッヒが手を上げ、艦長と闖入者たちのいずれにも、今後生活する上では、如何しても接触せざるを得ないのではないかと進言する。
 そして、やや小さな声で、だが全員に聞こえるようにこう付け加えた。

アバルト・ジンツァー

「いずれにしてもちゃんと話をするべきだよ。ボク、交流は大事だと思うんだよ、ね?」
 ついでアバルト・ジンツァー(ka0895)が、生活物資を確保する手段が乏しい以上こちらの世界との接点は確保しておくべきである。故に場所や人員などに一定の制限を設ける事で不慮の事態に備え、その上で当面の間交渉は続けるべき、との意見を出す。
 また、サキ トレヴァンツがまだまだ謎が多いこの惑星で民間人の自由を許すのは気が引けるが、怪物の脅威から守ってくれたハンターは信用に足る者達だと語り、こう結んだ。
「帰還の目途も立たぬ以上、ここは現地の調査も兼ねて援助を求めるべきでは」
 続いて高嶺瀞牙も首脳部へ進言した。
「そうです。当艦は孤立した状況です。雑魔とやらの脅威もあり、艦の戦力のみで民間人を守るのは難しいかと思います。提案を受けた方が、救援の当て無く彷徨うより事態打開の可能性は高いかと思います――」
「貴様! わきまえろ!」
 士官の一人が怒鳴った。まさに殴りかからんとするほどの形相だ。だが、側にいたセレ・ファフナがその肩を押さえ、その耳元に恐れながらと提言をした。
「今、彼らとの交渉を無碍にする事は私たちにとってはともかく、民間人にとっては好ましい選択ではない筈です。全面的な信用が難しいというのなら、数名が先だって彼の地を視察するという手もあるかと……」
 ぎょろりとした目で周囲を睨み、いらだちを押さえるように両腕を組むと士官は再び腰をおろした。
 アイゼリア・A・サザーランドが落ち着くようにと言った。
「我々はこの世界について何も知りません。知らなければ知っている人に教えを請うのは当然のことでしょう」
 教師らしいアイゼリアの忠告に強硬な態度を見せていた士官の何人かがはっとした様子を見せた。
(なるほど、面白いことが起こりそうじゃねーの)
 戸惑う者もいれば、三日月壱のように状況を好ましく思っている者もいる。

アニス・テスタロッサ

「僕達の艦には民間人の方が沢山います! 食料問題などもありますし向かってみる価値はあると思います」
 それは建前でリゼリオに向かうように誘導するのが、みえみえだ。
 アニス・テスタロッサ(ka0141)がこう言う。
「クルーの命を預かる立場だから軽々に答えられないってのは解るけどさ、差し伸べられた手まで掴まないってのは無しじゃね? 立ち往生してるよりは足掻いた方が良くも悪くも事態転がるしさ」
 勿論、艦長らが預かるのはクルーの命だけではない。ラーシュ=オロフが口を開く。
「民間人の命預かるんだ、簡単に頷けねぇわな。そこは許してくれ。だがまぁ……リゼリオ行きには賛成だ。この大人数だ。目をつけられた以上従った方がいい……なんてな。助けてくれるんだろ?」
 ラーシュの冗談めかした口調に、一部の真面目そうなハンターたちが頷いた。
 最後に、敬礼をした黒田 ユニがこう述べた。
「私はハンターの皆様を信じたいと思います。私を助けてくれた民間人の少女は、負傷者の今とこれからのことを嘆いておりました。私は彼女の不安を払拭したい。物資は何時か底を付きます」
「それは、わかっている!」
 士官の一人は、うんざりするほど聞かされていることを繰り返され、ついに堪忍袋の尾が切れたのか、立ち上がり怒鳴り散らそうとする。
 その時だ。
 一同の目の前に、ひょっこりとなにかがあらわれた。
「な……――」
 怒鳴ろうとした士官が絶句する。
 やぁ!
 手足のはえたキノコだ。
 やぁ! やぁ!?
 そんな風に小さな精霊が手を上げている。
 佐藤が両手で、きのこさんを持ち上げていたのだ。
 絶句したのは士官ばかりではない。それまではどこか悠然と構えていたダニエルも含めてその場に居る軍人と民間人全てが、いや、パルムなど見慣れている筈のハンターたちまでがこの時ばかりは呆けたように佐藤のきのこさんを見つめた。
 そして、その沈黙は誰かの小さなクスクス笑いによって破られた。
 笑ったのは誰だ、などという者はいない。
 何故なら、その場にいるすべての者が程度の差はあれ笑っていたのだ。怒鳴ろうとした士官も。ダニエルでさえも。
 人の精神は時に理不尽な物。この時、何故場の空気が一変したかを分析するなど意味の無いことなのかもしれない。
 それでも、敢て説明するなら――それまでは戦艦の最奥部に閉じこもって異世界について机上の空論を論じ合うだけだった首脳部が、パルムという異世界の証拠をつきつけられてようやく目が覚めた、というところだろうか。
「私の国には『郷に入りては郷に従え』という言葉があります。今がその時かと」
 この空気を逃さず鳳が再度、決断を促す。
「どうせここにいても危険はあるんだ。お偉いさんたちを代表して、艦長に決断をしてもらわないとな。煮え切らないなら……天に決めてもらいましょうか」
 駄目押しとばかりに対崎・紋次郎がポケットからコインを取り出した。コイントスをして裏か表かで決めろということだ。
「……言うじゃねえか。面白れえ。俺は表だ」
 多少は冷静さを取り戻してまだ何か言おうとする幕僚の一部を制して、ダニエルは葉巻を口から放す。
 全員が無言になった中で紋次郎によってコインが投げ上げられ、輝きを放つ。
 それを受け止め、確認したダニエルはニヤリと笑う。
「裏だ」
 この場に居る多くの者が失望にため息をつく中、シルヴィア・カラーズがなおすがりつことうする。
「安易な言葉かもしれないが……信じてほしい。そして一時的にでも共に同じ道を歩めるなら、私たちは仲間だよ」
 しかし、ダニエルはもはやそのような声には耳を傾けない。
「俺が賭けたのは表……勿論、全面的に信用する訳にはいかねえが、まずはそのリゼリオとやらに向かう事にする」
 一瞬の沈黙。
 次の瞬間、歓声が会議室を埋め尽くした。それは、あの凄惨な戦闘の後、このサルヴァトーレ・ロッソを覆っていた暗雲を吹き飛ばすかのような凄まじさだった。
「話、まとまったかしら?」
 声がした。
 そこにはすでにラッキー・ベルが酒を準備して待っていたのだ。
「腹わって話すなら酒よね! ささ、配るわよ!!」
 交渉が成功するだろうと踏んで用意した祝い酒であるらしい。
 まだ用心の溶けぬ部下たちが背後から止める声を振りきり、ダニエルは杯を受けるとそれを高く掲げ、叫ぶ。
 それは、彼の故郷で乾杯を意味する叫び。
 一斉に、様々な言語で乾杯の叫びが上がる中、誰一人として、そうあの堅物そうな士官でさえもこの宴会が終わるまで気づかなかった。
 ダニエルが、どちらに賭けるかを明言していなかった事に。

担当:まれのぞみ
監修:稲田和夫
文責:フロンティアワークス

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