• 空蒼

【空蒼】あの月へ向かって

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/10/26 19:00
完成日
2018/11/19 11:09

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――この一連の事件や作戦に関わって、僕は自分の能力の源が何であるのかを知った。
 強化人間に与えられた力は、VOID由来のものであること。

 正式に伝えられても、別段驚きはなかった。
 僕は幸いなことに、自分の『力』について、親しい人たちから事前に話を聞いていたからかもしれない。

 ――いいかい。これは私の持論だけど……『力』は単なる道具でしかないんだ。
 だから、君はそのままでいい……。

 思い返すのはあの人の声。
 今まで自分が暴走せずに済んだのは、邪神の呼び声を振り切れる程の想いがあったから。
 ――既にVOIDと共闘状態にある、完全に暴走してしまった同胞たちは、精神は完全に破壊され救うことはできないけれど。
 ……一歩間違えば、自分が歩んでいたかもしれない道。
 僕は、運が良かった。ただそれだけ。

 ――じゃあ、『運が良かった僕』は、これから一体何が出来るのだろう。
 自分の力は、胸が張れるものではない。
 分かっているけれど。
 それでも救える人がいるのなら、僕は迷わずその力を使う。
 ……利用された仲間達の為にも戦わないといけない。人間同士の戦いは、終わりにしなくてはいけない。
 最初は兄さんを探す為に得たものだったけれど。
 出来ることがあるなら、やらなくては――。

 ――この力はVOID由来だ。使い続ければ、きっと何らかの代償を払うことになるのだろう。
 生きるものとは相反する力だ。何事もなく元通りになりました……なんて、そんなに甘い話がある訳がない。
 それが分かっていても――兄さん、僕は。この命が尽きるまで、この『力』を使って、抗ってみようと思う。


●あの月へ向かって
 大規模作戦『リアルブルー封印作戦』が発令され、準備の為に誰しも忙しなく動きまわっている。
 そこにレギ(kz0229)が慌てた様子で飛び込んで来た。
「すみません! どなたか手が空いている方いらっしゃいませんか!?」
「おう、レギか。どうした?」
「ちょっと人手が足りなくて……! すみませんがお手伝い戴けませんか?」
「人手って一体何の?」
「ああ、すみません。アスガルドの子供達を崑崙に避難させます。森山艦長とトモネ様がニダヴェリール攻略作戦に参加されて動けないので、僕が指揮を執るようにと指示がありました」
 『アスガルド』という単語を聞いてハッとするハンター達。
 ――アスガルドはイギリスのエディンバラにある強化人間施設のことだ。
 強化人間の訓練施設でもあり、沢山の孤児たちが暮らしていたそこには、今先の戦いで昏睡状態になった子供達が収容されている。
 いつ邪神の呼びかけに応え動き出すか分からぬ子供達。強固に拘束されて、いつ目覚めるともしれぬ眠りについていた。
「……でも、リアルブルーは封印されるんだろう? その中にいれば『時間』が停止される。子供達も安全なんじゃないのか?」
 そう。時の止まった地球ではそもそもあらゆる生物が害されることはなく、意識も停止し、時間解凍が行われるまで苦痛も不安も感じることはない。
 アスガルドの子供達は昏睡している以上、静かに時間解凍を待つという方法もある。
 だが、ハンターのその発言に対しレギは首を振った。
「……崑崙にはトマーゾ教授が作られたイニシャライザーがあると聞きました。今は眠り続けていますが、邪神からの呼び声を完全に遮断できれば、子供達が目覚める可能性もあります。だから、僕が個人的にも、避難させたいんです」
「……そうか! そういうことか! それは避難させる価値があるな」
「避難させるって言ったけど、やはり方法としてはシャトルに乗せるのかしら」
「はい。そうなります。アスガルドの子供達は昏睡していますので、ベッドに寝かせたまま運び込む必要があります。手間がかかりますし、一度に沢山は乗せられません」
 アスガルドの近くに停泊しているシャトルは1機のみ。
 大型ではあるものの、崑崙へと向かうシャトルには色々な人や物資が詰め込まれることが予想され、時間が経つにつれ場所を取るアスガルドの子供達の運び込みは困難になる可能性がある。
 レギの言葉に、ハンター達はため息をつく。
「そうか……。全員乗せる為にはすぐ取り掛からないとな」
「ええ、急ぎましょう」
 バタバタと動き出すハンター達とレギ。
 大急ぎでアスガルドに向かう彼ら。白亜の要塞のような建物の上空。そこに飛来するものが見えた。
「……何だ、あれ」
「狂気歪虚の群れよ! 何でこんなところに……?」
「邪神の侵攻が始まって、狂気歪虚の動きも活発になってるってことか……?」
「あいつらに施設の中に入り込まれたら避難どころの騒ぎじゃなくなるわよ」
「……くそ! 二手に分けるぞ! 俺達は狂気歪虚の対応に当たる」
「じゃあ私達は子供達を避難させるわ!」
「頼む! それまでは食い止めるから急いでくれよ!」
「了解! 皆、気を付けてね!」
 頷き合い、ハンター達は二手に分かれる。

 ――枕元に置かれた花やくまのぬいぐるみ。
 生命維持装置に繋がれたままの杏やユニス、ニーナ。ランディ、マルコス。
 子供達は外の騒ぎに気付く様子もなく、静かに眠り続けていた。

リプレイ本文

 強化人間施設アスガルドの上空にぽつぽつと見える黒い点。
 あれらは全て、狂気の歪虚だろう。どんどん数が増えていくそれをじっと見つめるレギ。
 ふと名前を呼ばれて振り返る。
「わふーっ! レギさんおひさしぶりです! 一緒にどっかんするですー?」
「あ、アルマさ……」
 途切れるレギの声。アルマ・A・エインズワース(ka4901)お馴染みのわんこタックルを食らって吹っ飛び、それに気づいたリューリ・ハルマ(ka0502)が慌てて駆け寄って来る。
「レギ君大丈夫?」
「大丈夫です! 愛情表現です!!」
「そう? なら良かった!」
 レギの代わりに答えるアルマにニッコリ笑うリューリ。
 本人のコメントが一切ないまま進む会話に、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)とアルスレーテ・フュラー(ka6148)が苦笑する。
「……まあ、いい修行になるんじゃないか」
「そうねー。……さて、雑談はここで終わり。ほら前方確認! しゃんとなさい、レギ」
「レギさん。子供達を守りたい気持ちは皆一緒です。だからこそ、焦ったり、無茶なことはしないで……皆でやり遂げましょう。あなたは独りではないのですから」
 アルスレーテの声に応えて立ち上がるレギ。Uisca Amhran(ka0754)の諭すような声に、強く頷く。
「おらおら雑魚ども! かかってくるといいじゃん!!」
「強化人間の行く先が明るいとは思わんが……いいだろう。手を貸してやる」
 勢い良く飛び出したガルガリンから聞こえるゾファル・G・初火(ka4407)の叫び。コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)の砲撃が、戦端を開く合図となった。
「……子供達が避難するというのに。こんな時にやって来るなんて随分不躾な歪虚ね」
「有象無象が集まりよって……。教育的指導が必要かのう」
 飛来する狂気歪虚に剣呑な目を向けるアリア・セリウス(ka6424)と蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。
 歪虚に躾とか教育とか無理なんじゃないかな……と時音 ざくろ(ka1250)は思ったが、彼女達の迫力なら何とかなるかな?
 怖いから口には出さないけれど。
「えーと……。ざくろは地上に降りてきたやつを相手するよ! アリアさんと蜜鈴さんは空の敵をお願い!」
「了解です」
「うむ。撃ち落としてくれようぞ……!」
 本音を隠して真面目に決めたざくろに頷くアリア。白く輝く鱗を持つワイバーンが低く飛び、彼女の双剣が歪虚を切り伏せ――そしてその隙間を縫うように舞う蜜鈴の火球。
 それはアリアの遥か前方で炸裂し、大量の敵を巻き込み薙ぎ払う。
 火球に飲まれて消えていった仲間を気にするでもなく。数を増やしていく歪虚にエステル・ソル(ka3983)が唇を噛む。
「……皆さんの攻撃、全弾入ってるですのに。あんまり数が減ったように見えないです」
「それだけ敵の数も多いんでしょう。厄介ですね……。とにかく、シャトルに近づく歪虚は全て薙ぎ払いましょう。避難の邪魔になりますからね」
「はいです! 任せてくださいです!」
 白いワイバーンの背の上で歪虚を睨み付けるUiscaに頷くエステル。
 詠唱を始めたエステルに迫る歪虚を杖で殴り飛ばすUisca。ダメージを食らって落ちていくそれを、落下地点で待ち伏せていた鞍馬 真(ka5819)が綺麗に両断した。
「討ち漏らしは引き受ける! 皆は思う存分暴れてくれ!」
「ざくろも協力するよ! セットアップ! X桜姫! ざくろとお前のデュエットだ!」
 バディフォースでオートソルジャーとの絆を結ぶざくろ。きびきびとした迫力のある歌で、敵を威圧する――。


 狂気歪虚とハンター達との交戦が続く中、アスガルドの施設の中では子供達の避難が始まっていた。
「……子供達、良く寝ているからなるべくそっと運び込んでね」
「ああ、任せておけ。私のプラヴァ―は物資運搬に特化させてある。水平移動もお手の物だ」
「そりゃいいや。端に寄せたらベッドの足固定すんぞ」
 施設内からベッドを押して来たフィルメリア・クリスティア(ka3380)。
 ジーナ(ka1643)のプラヴァ―がそれを受け取り、慎重かつ丁寧に魔導トラックの荷台にベッドを引き上げる。
 荷台の上で待ち受けていた玄武坂 光(ka4537)はベッドを、動かないように足を固定する。
「トラックには何人乗せられそうだい?」
「そうダナ……ベッド込みだと3人ってところカナ」
 ルシオ・セレステ(ka0673)の問いに、荷物を受け取りながら言うアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)。
 エルバッハ・リオン(ka2434)はふむ、と考え込む。
「私とアルヴィンさん、光さんのトラックで一度に9人ですか……」
「……何往復かする必要がありそうでちゅね」
 唇を噛む北谷王子 朝騎(ka5818)。
 シャトルの積載量を考えると、あまり時間をかけたくはないのだが……。
 荷台とベッド、子供達をまじまじと見ていたアルヴィンはぽん、と手を打った。
「……ベッドは3台しか乗せられないケド、子供達なら1つのベッドに2人乗せられそうダネ」
「ああ、そうだね」
 頷くルシオ。
 ベッドは意外と大きいが、子供達は10~15歳前後が大半で身体もさほど大きくない。
 生命維持装置はついているものの、1つのベッドに2人並べることは十分可能だ。
「そうなると……一度に18人運べますね」
「それなら手早くいけそうでちゅ!」
「よし。慎重に移動させようカ。月に着くまでに容体が急変してしまっては何の意味もないからネ」
 バタバタと動き出すエルバッハと朝騎、アルヴィン。
 子供達の移送の準備が続く中、鳳凰院ひりょ(ka3744)はアスガルドの医療スタッフと話をしていた。
「子供達を月までお連れ戴けるとか……ハンターの皆さんが一緒なら安心ですね」
「微力ですが搬出を手伝わせてください。どうか、あの子達をお願いします」
 ハンター達の来訪に驚きつつ、希望に目を輝かせるスタッフ達。
 避難する人員の中に彼らは含まれていないことを察して、ひりょは首を振る。
「……いや、それだけじゃダメだ。どうか、あなた方も一緒に来てくれ」
「しかし、シャトルの場所は有限と聞きました。我々より子供達を運んで戴いた方が……」
「子供達がシャトルから降りた後、一体誰が彼あの子達の体調を看ることが出来る? 俺達だけでは、子供達の容体が急変した時に対応出来ない。……先のことを考えたら、あなた方が必要なんだ」
 ひりょの真摯な訴えにハッとするスタッフ達。誰も『その先』については考えていなかったのだろう。
 シアーシャ(ka2507)は小首を傾げてひりょとスタッフ達を見つめる。
「……ひりょさんって言い方が情熱的だよね。トモネさん以外にもそういうこと言ってるの?」
「……!!? だからあれに深い意味は……!」
「え。そーなの?」
 慌てるひりょににこにこと笑みを返すシアーシャ。そのまま、スタッフ達に目線を向ける。
「ねえ、皆さん。わたしからもお願い。今までお世話してくれてた人が一緒なら、子供達も安心すると思うんだ。大丈夫。イスフェリアさんが先に根回しに行ってくれてるし、全員きちんと乗せてみせるよ!」
 シアーシャの後押しに、顔を見合わせるスタッフ達。
 暫し考えた後に頷いた彼らを見て、ひりょは安堵のため息を漏らす。
「あなた方の決断に感謝する。……光! こちらひりょ。聞こえるか?」
『こちら光。どうよ、話はついたか?』
「ああ。彼らの移送を頼む。急いでくれ」
『へいへい。了解』
「あ、ちょっと待ってください。念のために医療器具も少し運びたいのですが……」
 光とひりょの通信に慌てて避難の準備を始めるスタッフ達。
 そこにポロウを従えたシレークス(ka0752)が勢いよく歩いて来る。
「あ? どれ運べばいいです?」
「ああ、これは重いですから我々で運びますよ」
 小柄で線が細い女性に力仕事はさせられないと思ったらしいスタッフ達の申し出。
 シレークスは真顔で彼らに手を差し伸べる。
「貸しやがるです。それは、わたくしが運びますです」
「でも……」
「いいから貸しやがるです」
 問答無用で荷物を担ぎ上げた彼女。スタッフ達があんぐりと口を開ける。
 シレークスはお菓子入りの箱でも持つかのような気軽さで運んでいるが、本来男性2人がかりで運ぶ程の重さがある。
 この敬虔なる修道女、見た目に反してとんでもない力持ちなのである。
「あ、あの……?」
「このくらい何てことないですよ。時間がもったいないから急ぎやがれです」
「……! はい!」
 清楚な聖職者が怪力を振るうという若干の視界の暴力からようやく立ち直ったスタッフ達。
 シレークスは機敏に動き出した彼らに満足そうに頷くと、相棒のポロウに声をかける。
「カリブンクルス! ついでにスタッフさん達を誘導しやがりますよ。索敵しやがれです」
「ホホホ~ッ!」


「……このシャトルに、強化人間達が乗り合わせるんだ。彼らも月への避難をする仲間なの。理解してもらえないかな」
 月へ向かうシャトルの乗客たちに一生懸命呼びかけるイスフェリア(ka2088)。
 アスガルドの子供達の搭乗許可自体は既に降りており、搬入自体は揉めそうになかったが――乗り合わせる乗客の中には、強化人間が乗って来ることを知らされていない者がいても不思議ではない。
 シャトルの積載量に限界があり、ギリギリまで詰め込むことが予想される以上、強化人間達の搭乗を秘密にしておくことは出来ない。
 リアルブルーの一連の事件の中で、強化人間達に対して嫌悪感を抱いている人たちもいるだろう。
 そう言った人達の気持ちも分かるし、決して責めることは出来ないけれど。それでトラブルになっては大変だから――。
 そう考えた彼女は、ちゃんと正直に誠実に話して、理解を得ようと考えたのだ。
「強化人間って……シャトルに乗って大丈夫なのか?」
「それは大丈夫。今あの子達は昏睡状態にあって、そもそも動くことも難しいから……」
「突然暴走したりとかはないんだろうね?」
「うん。医療スタッフの人たちも一緒に乗るから。……皆が怖いと思うのは仕方がないと思うんだけど、あの子達は利用されただけなの。あんなことになってしまったけど、皆リアルブルーを守りたい一心で強化人間に志願したんだよ」
 不安を口にする乗客達に必死に説明するイスフェリア。
 続いた彼女の言葉に、乗客達が水を打ったように静かになる。
 ――強化人間を生み出したのは一体誰であったのか。
 計画を立てて、直接働きかけたのは宙軍や連合議会ではあったけれど。
 ――そもそも、VOIDに対抗する力を求めたのは?
 年端もいかぬ子供達に手術を施し、戦地へと送りこんだのは……結局はリアルブルーの民の意思なのだ。
「月にいけば、あの子達も昏睡から目覚めて普通に暮らせるようになるかもしれないの。……許してやってなんて言いません。月に到着するまでの間だけでいいから、見逃してください」
 深く頭を下げるイスフェリア。
 それに反論してくる乗客はおらず――。
 そこにぱたぱたと星空の幻(ka6980)が駆け寄ってきた。
「……イスフェリアさん、お話終わった……?」
「荷物の整理手伝って欲しいの! 星空の幻さんとアニスさんも手伝ってくれてるけど、子供達運び込むならまだまだスペース必要だから……!」
「あ、うん。分かった。今行くね! それじゃ、失礼します」
 軽く会釈して星空の幻とシアーシャの後を追うイスフェリア。向かった先は客室から離れた荷室で――第一弾の荷物を分別するべくアニス・テスタロッサ(ka0141)が騎乗する赤と黒のツートンカラーのR7エクスシアが忙しなく動き回っていた。
「アニスさん、お待たせしちゃってごめんなさい!」
「いや。構わねえよ! イスフェリアは説得お疲れさん! ……おい、星空の幻! シアーシャ! こいつじゃ荷室の奥まで入れねえ! 入口に荷物置くから運んでくれ!」
「……はーい」
「OK! 奥から隙間なく詰めるね!」
「頼んだ! こいつちと重いってさっきシレークスが言ってたから気を付けて持てよ!」
「大丈夫! あたしこう見えても力持ちだから! 覚醒すれば更に女子力急上昇だよ!」
「……女子力って力持ちって意味なの……?」
「それはちょっと違うんじゃないかな……」
 アニスとシアーシャのやりとりにかくりと首を傾げる星空の幻。イスフェリアは苦笑しながら荷室を見渡す。
「先に入ってる荷物、結構隙間が目立つね」
「……あ、本当なの」
「これ、整理して詰め直しちまった方がよさそうだな。コンテナあった方がいいか? 俺ちょっと取って来るぜ」
 星空の幻の声に即座に反応したアニス。彼女の駆るR7エクスシアにシアーシャが慌てて声をかける。
「ここに来るまでに結構な数の歪虚いたけど大丈夫?」
「コンテナのある場所はそう遠くねえ。大体歪虚つったって雑魚だろ? 俺のオリアスでハチの巣にしてやるっつの」
「あ、そっか。気を付けて!」
 シアーシャにオリアスの親指を立てて応えたアニス。
 ライフルを構えると、そのまま風のように走り始める。
 その背を見送って、イスフェリアはぐいっと袖をまくる。
「それじゃ、アニスさんが戻って来るまでに荷物の整理しよっか」
 気合を入れる彼女に頷く星空の幻とシアーシャ。
 3人はテキパキと荷室にある荷物を仕分けて行く。


 その頃、シャトルの外側。
 途切れることなくやってくる狂気の歪虚を切り伏せて、アルトは隣にいるレギに目線を向けた。
「レギ君」
「はい、何ですか? 僕の天使さん」
 相変わらずのレギに苦笑する彼女。
 レギは、この後の『全力の私』を見ても同じことが言えるのだろうか……?
 そんなことを考えながら話を続ける。
「……この間、力を持つことについて話をしたね。今度は第二ステップだよ。『力は道具』だからそれを持っている時のどう思われるのかを改めて君に知ってもらいたい」
「……どう思われるか、ですか?」
「そう。『全力の私』を見て君がどう思うのか……後で聞かせて欲しい」

 ――大精霊よ。私に力を!

 短いアルトの呟き。彼女を覆う燃え盛る炎の様なオーラが更に勢いを増して立ち昇る。
「……!? アルトさん!?」
「驚かなくて大丈夫よ。あれは『超覚醒』って言って、守護者が持つ能力の一つだから」
「アルトちゃん、あの能力を使うと倒れちゃうんだ。後で介抱してあげてくれるかな」
「えっ?! 倒れるって……そんなこと続けてたらアルトさんの身が危ないじゃないですか」
「そうね。使用者に負荷がかかるから大精霊もそう簡単には力を貸さないのよ」
「……大いなる力を望むなら、それだけの覚悟が必要ってことなんだよね」
「今日だったら、君がお姫様抱っこでベッドまで運んでくれてもいいよ? ……まあ、全力で戦う私を見て、まだ天使とか言えるならだけどね」
 アルスレーテとリューリの説明と自嘲気味に笑うアルトに絶句するレギ。
 ――アルトは思う。
 強い力というのは良いことばかりではない。
 強すぎるが故に疎まれたり、恐れられることも多いのだ。
 それでも、レギに見せようと思ったのは――きっと多くを学んでくれると思ったから。
 『弱いもの』の性を知れば、きっと。力を正しく振るってくれるだろう。
「さぁ、歪虚ども。 お前らは教材だ。大人しく私に狩られろ……! 紅蓮! 上空の敵を薙ぎ払え!」
 そのまま、光を纏い敵の注目を集めるアルト。指示を受けた刻令ゴーレムは天を覆う歪虚目掛けて大砲を発射する。
 続くアルマの短い詠唱。レギにオーラ状の障壁を与えると満足そうに頷く。
「これで大丈夫です! レギさんは無茶せず一緒にどっかんするですよ!」
「……僕そんなに無茶しそうに見えます?」
「うん。見えます!」
「そりゃあ私達に依頼しに来た時のあの顔見たらねー」
「Uiscaさんにも言われてたもんね」
 アルマとアルスレーテ、リューリにきっぱりと言われて頬を染めるレギ。
 誤魔化すように銃を構える。
「そんなことよりアルトさん助けないと!」
「そうだね! 行こう! じゃあ私はヨエルと上空の敵担当するね!」
「わーい! 僕は中型の敵狙うです!」
「この状況でも助けるっていう発想になるのね……」
 己のグリフォンとリーリーに指示を出すリューリとアルマ。
 アルスレーテは呆れたように呆れたように呟く。
 あの鬼神の如き動きを見せるあの子を『助ける』とは……いやはやレギの感性は本物かもしれない。
 吸い寄せられるように寄って来る敵を目にも止まらぬ速さで、まるで機械のように正確な動きで切り伏せて行くアルト。
 凪いた風のように何もない表情。
 ――彼女にとって『守る』とは敵を斬り、屠る事。
 作戦が終わるまで剣先が鈍らぬよう、余計なモノは削ぎ落とす。
 そこに感情は必要ない。ただ、ただ、敵を殺す。その為に。
 歪虚を紙のように斬る、ヒトとはおよそ思えぬ動き。圧倒的な強さ。
 ……確かに、これに恐怖心を抱く人もいるかもしれない。
 それでも、僕は。
 何かの為に戦うあの人を綺麗だと思うのだ――。
「……レギさん! 敵に集中するですよ!」
 その声にハッとして銃を構え直すレギ。リーリーを駆るアルマはそのまま詠唱に入る。

 ――estrella fugaz!

 言い終わると同時に現れる3つの蒼い流星。
 それらは中型狂気目掛けて真っ直ぐに空を駆けて――途中にいた小型狂気数体を巻き込み、勢いが削がれることなく目標へと叩き込まれる。
 アルマの流星に貫かれた歪虚達……結構大きな身体を持つ中型狂気も含めて全て、抵抗する暇もなく一瞬で消し飛んだ。
「やったー! 一度に沢山どっかんしたですよ!」
「……アルマさんもすごいですね」
「これくらい普通です! 僕まだまだできます! 全部燃やすです♪」
「アルトとアルマが普通だったら全世界の歪虚が泣くわね」
 アルマの人並外れた火力に呆然と呟くレギ。
 えっへんと胸を張る彼に、アルスレーテが苦笑して――。


「エステルさん、大丈夫ですか?」
「……はいっ! 大丈夫です」
 集中、詠唱を繰り返しているエステルを気遣うUisca。
 2人は、仲間達と少し離れたシャトルの発射口を守り続けていた。
 今は敵がシャトルに向かっているのと、仲間達が引き付けてくれている為こちらに来る歪虚はさほど多くはないが、多くはないというだけだ。
 歪虚は確実にやって来ている。
 滑走路に何かされて、シャトルが発射出来ないなんていう事態になったら目も当てられない。
 荷物搬入を終えた、その先のことまで考える――安全な避難の為に必要なことなのだ。。
「荷物の運搬にもう少しかかるとひりょさんから連絡がありました。私達ももうちょっと続けないといけませんが……」
「大丈夫です! スキルだってまだあるです。スキルがなくなったら殴ればいいです!」
 魔術師らしからぬエステルの言葉にくすりと笑うUisca。
 ――そうだ。彼女も自分も前衛職ではないが、いざとなったら杖でぶん殴ればいい。
 Uiscaも聖導士らしからぬ思考を持っていたが……要は敵から避難路を死守すればいいのだ。問題ない。
 エステルは再び集中し、詠唱を始める。
「炎よ。我が手に集い来たれ……!」
 生み出された火球。それは真っ直ぐに歪虚めがけて飛んで――爆散し、多くの敵を飲み込んで行く。
「煉獄の檻から逃げられるとお思いですか……?」
 エステルのファイアーボールを運よく避けた歪虚に襲いかかる闇色の龍の洗礼。
 無数の龍の牙や爪が歪虚を切り裂き、縫い留めて行く。
 ――彼女達の働きは、決して目立つものではないが。確実に子供達の未来へと繋がるものだった。


 そして、仲間達から離れた場所にもう一つ。
 狂気歪虚が集まる中心にゾファルが操るガルちゃんがいた。
「アハハハハハ! オラオラオラオラオラオラーーー!!」
 スーパーオラツキモードで歪虚達を引き寄せ、シャトルから注意を逸らし続ける彼女。
 斬艦刀を竜巻のように回して敵をまとめて薙ぎ払う。
 ――こんな攻撃法ゆえ、隙が多いのだが別に懐に入りこまれても構わない。
 危機? そんなものは怖くない。死線のすれすれで踊っている感覚が楽しくて楽しくてたまらない。
「来やがったな……!」
 ショートワープで目の前に現れた中型狂気を睨み付けるゾファル。
 この距離で回避は間に合わない。攻撃を装甲で受け止めようとして――いつまでも待っても来ない衝撃に首を傾げる。
 ふと見ると、コーネリアのライフルが中型狂気を撃ちぬいていた。
「おい! 無事か!?」
「おう! コーネリアちゃんサンキューじゃん!」
「礼はいい。さあ、どんどん敵を引き付けろ。全部撃ち抜いてくれる」
「アハハ! 任せとくじゃん!」
 高笑いをして敵陣に突撃して行くゾファル。
 空を覆うようにしてやって来る新手を、コーネリアは睨み付ける。
「数だけは多いが……それで空を制したつもりか? 執念の差というものを思い知らせてやる」


 歪虚迎撃班が敵を殲滅している間、輸送班は何度目かの輸送にあたっていた。
「必要なものはこれで全部かしら?」
「はい。これだけあれば当面は大丈夫かと」
「じゃあ、これは私がデュナミスで運びましょう。これなら多少荒っぽくても大丈夫でしょう?」
「積み込みを手伝おう。さあ、君達も急いで移動するんだ」
 スタッフ達から荷物を受け取ったフィルメリアとルシオ。彼らをトラックへ誘導すると、室内を振り返る。
 子供達の移動も大分進み、残っている子供達の方が少なくなって来ている。
 荷物全てを持っていくことは出来ず、部屋の中は櫛の歯が抜けたような、ちぐはぐな状態になっていて――ルシオは小さくため息をつく。
「……あともう少しで全員運べるが。乗り切れるだろうか」
「イスフェリアさん達が必死で積み込み作業をしてくれているわ。乗客達も場所を開ける手伝いをしてくれているというし、信じましょう」
「そうか……。有り難い話だね」
 ルシオの声に頷くフィルメリア。
 正直、強化人間達の積み込みでもめ事が起こることは覚悟していた。
 その上で、子供達を月へ行かせる為に手段は選ばないつもりはあったのだが……。
 何事もなく送り出せるなら、それに越したことはない。
「しかし、あまり考えたくはないが……乗り切れなかった場合のことも想定しておいた方が良いのかな」
「乗り切れない? 大丈夫よ。私がそんなことさせないわ」
 有無を言わせぬ笑みを浮かべるフィルメリアに引き攣った笑みを返すルシオ。
 そこに、入電を知らせる音が響き渡った。
「……こちらジーナ。エルバッハと共に今アニスに子供達と荷物を引き渡した。次の便発進してくれ」
「こちらひりょ。了解した」
 通信機を手に応えるひりょ。彼はワイバーンの背から周囲の状況を確認し、仲間達の連絡の橋渡し役も請け負っていた。
「……途中歪虚に遭遇したと聞いたが大丈夫だったか?」
「はい。そこは逃げの一手で。安全かつ全速力で行きました」
「エルバッハがスモークカーテンを使ってくれたからな。お陰で敵を撒きやすかった」
 エルバッハとジーナの報告にほっと胸を撫で下ろすひりょ。
 スモークカーテンはこういう混戦の時にこそ真価を発揮する。
 煙に撒いて全速力で逃げる。エルバッハの選択はまさに子供達を安全に運ぶ最適解。
 ジーナの安定した操縦力とこまめな情報共有のお陰で、これまでの流れぱほぼ完璧だと言えた。
「このままシャトルの護衛任務に移行……と思ったが輸送には手が必要だろう」
「ええ、積み込み忘れがあるといけませんからね。もう一度そちらに戻ります」
「ああ、頼む。……光、アルヴィン。出られるか?」
「いつでもOKだぜ! 歪虚の様子はどうよ?」
「迎撃班が上手く敵を引き付けてくれてる。今のうちに移動してくれ!」
「了解ダヨ」
 ひりょの声に頷く光とアルヴィン。フィルメリアの操縦するデュナミスが、2台のトラックの横に付く。
「皆が頑張ってくれているけど……万が一ということもあるし、私達も護衛に着くわ」
「そうだね。レオーネ、トラックと並走して……」
 言いかけたルシオ。そこにシレークスの緊迫した声が聞こえて来た。
「待ちやがるです! ガブリンクルスが新手の敵の一団を発見しやがったです!」
 その声に振り返るひりょ。空から増援と思わしき歪虚の群れを発見した。
「……!? くそっ。さっきよりも敵の数が多いぞ!」
「おや。ボク達があまりにも上手に逃げ回るから向こうも本気になったカナ?」
「おいおいマジかよ!? こうしちゃいられねえ! アルヴィン!! 強行突破だ! 突っ走るぞ!!」
「子供達も寝ていることだし安全運転でお願いね」
「善処するヨ。……スタッフの皆サン、しっかり捕まっててネ!」
 叫ぶ光。魔導トラックのハンドルを握る手に汗が滲む。
 フィルメリアの無茶振りに、アルヴィンは笑顔でアクセルをべた踏みする。
 露払いをするフィルメリアとルシオ。
 逃げる魔導トラックを追う歪虚。そこに、2つの人影が割って入った。
「X桜姫大回転だ!」
 ざくろの指示に合わせて回転し、プラズマカッターで歪虚を両断していくオートソルジャー。
 光はその光景に似たものを知っている。
 ……そうだ。リアルブルーにあるミキサーだ。
「えげつねぇな……。狂気歪虚でフレッシュジュースでも作る気かよ」
「えっ。何か言った?」
「いや、何でもねえよ! サンキューざくろ! 助かったぜ!」
「えへへ。勇者は良い時に登場ってね! ここはざくろ達に任せて! 早く!!」
「じゃあ遠慮ナク。ざくろクンも無理しないでネ!」
 走り去る2台の魔導トラックにひらひらと手を振るざくろ。
 オートソルジャーと背中合わせに立ち、歪虚を睨み付ける。
「よし。X桜姫、ここで子供達の希望を守るよ!」

 ざくろ達よりも遥か上。その上空では、白銀のワイバーンに乗ったアリアが迫りくる歪虚に青い目を向けていた。
 ――この世界の月を見てみたい。
 そんな憧れが、ハンターとしての初めての願いで、目標だった。
 こうして空にいても、月は遠い。理想としての月も同じ。
 ……月光の守護者と呼ばれてもなお、その高みにはまだ至らない。
 ――だから、せめて。この戦場では譲らない。
 子供達の明日。この蒼の眸に映る中、決して喪わせはしない。
 紅い世界の月と、蒼い世界の月。
 この二振りの剣を持って。夢を歌いて舞いましょう。
「月の詩を、戦の中で奏でましょう――救う為に」
 響く涼やかな歌声。
 アリアは歌う。月灯りのように、明日へと導くものでありたい。闇夜を切り裂く剣となりたい――。
 願いを力に。力は二振りの月に。
「幻月の如き剣舞を、空に描きましょう――!」
 迫る狂気の歪虚。赤と蒼の月剣を振るうアリア。
 その軽やかな舞は、次々と敵を屠って行く。
「おお、アリアの舞は美しいのう。白き華は空によう映える。……では、妾も舞に華を添えるとしようかの」
 パチリと音を立てて扇を閉じた蜜鈴。そのまま空を見据えて――。

 ――舞うは炎舞、散るは徒花、さぁ、華麗に舞い散れ。

 刹那。空へと芽吹く炎の種子。それは大輪と華炎となり、狂気の歪虚を焼き尽くす。
「……去ね。狂気なれば一人で狂え。付き合うてやる義理は無い」
 続く詠唱。再び空に咲く華炎。
 直撃を受けて苦しみ、手を伸ばして来る中型狂気を青の瞳に映す。
「……何故邪魔をするのかと聞きたそうじゃのう。嘆くのじゃ。これ以上に友を殺してくれるなと……妾の背負うた命達が嘆くのじゃよ」
 蜜鈴の悲しみを称えた瞳。伸ばされた狂気歪虚の腕は彼女に届くことなく――真が素早い剣戟で両断した。
「私達が背負った命。それはあの子達には関係ないのかもしれないけど……それでも、生きて欲しいんだ」
「そうじゃな。楽な道ではないかもしれぬ。それでも……未来があるのなら」
「カートゥル! 薙ぎ払え!!」
 真の心からの叫び。ワイバーンは主の心に応えるように口から火炎弾を発射する。
 ――運命に弄ばれ続けた子供達。
 ずっとずっと、彼らを救いたいと思っていた。
 真と蜜鈴のそんな願いを嘲笑うかのように、運命は過酷な選択を突きつけた。
 迷い、悩み、取った選択。
 屍の山を築いて、この手を血で汚して……。
 どんな理由があれ、子供達の未来を奪ったのは自分。
 その思いがずっと消えなかった。

 ――様々な死と絶望を乗り越えて、やっと助けられる道が、希望への道が見つかった。
 その道は楽なものではないかもしれない。それでも……生きて欲しい。
 絶対に邪魔はさせない。今度こそ、守るんだ……!

 譲れない想い。折れない決意。
 それらに守られながら――ハンター達は、アスガルドの子供達と、医療スタッフの収容を全て終えた。
「おい! これで全部かよ!?」
「……そのはずなの」
「すごい! 無理だと思ったのに全部収まっちゃった!」
「わたし達が本気出せばこんなもんだって!」
 荷崩れがないか確認しながら言うアニスに頷く星空の幻。
 目を丸くするイスフェリアに、シアーシャがえっへんと胸を張る。
 トラックから最後の荷出しを終えたエルバッハが、やり遂げた笑みを浮かべる。
「皆さん、お疲れ様でした。……子供達の運び込みに反対する人が出なくてよかったですね」
「強化人間達も、何も知らずに利用されただけダカラネ……。ミンナ、それを分かってくれたんじゃないカナ」
「新しい世界で目が覚めたら色々と吃驚することもあると思いまちゅし、不安になることもあると思いまちゅけど……一緒に、前を向いて生きていきたいでちゅ」
 アルヴィンの呟きに頷く朝騎。
 彼らの行く末はどうなるか分からないけれど。きっと生きていれば、良いこともあるはずだ。
 ――そうであって欲しいと思う。
「ニーナ……。もう少しで貴女とお話が出来そうね。楽しみにしているわ」
 青白い顔で眠り続ける少女をそっと撫でるフィルメリア。ルシオは杏とユニスの髪を撫でると、そっとおでこに口づけた。
「目が覚めたら私達の世界へ案内しよう。……きっとね」


「……シャトル、無事に発射したです。良かったです……」
「本当ですね。頑張った甲斐がありました!」
 出発したシャトルを見送ったら気が緩んだのか、へなへなとその場に座り込むエステル。
 そんな彼女を助け起こしてUiscaが笑う。
 ――月に着くまで護衛出来ないのが残念だけれど。……それはきっと、他のハンター達が引き継いでくれるだろう。
「なあなあ、残党狩ってもいいじゃん?」
「放っておけば散って行くだろうが……まあ、好きにするがいい」
「よっしゃー! やってやるじゃん!!」
 シャトルという目標を失い、散っていく狂気歪虚を追い回すゾファルを、コーネリアは呆れつつも愉快そうに口角を上げた。

「……アルトさん、大丈夫ですか?」
「流石にちょっと立てそうにないかな。……レギ君。ボクの戦いは参考になったかい?」
「はい。戦うアルトさんはやっぱりとても綺麗だと思いました」
「……ハァ? アレ見て怖いとか思わなかったの??」
「少しは驚きましたけど、怖いっていうのはないですね」
「ああ、そう……」
 レギの予想外の返答に、目を丸くするアルト。
 時々人を捨てているとか言われる力だ。怯えられるどころか褒められるとは思わなかった。
 そのやり取りに、アルスレーテとリューリはぶーっと噴き出す。
「ダメだ。ホント面白いわこの子達」
「アルスレーテさん、笑ったら失礼だよ……!」
「そういうリューリだって笑ってるじゃない……!」
「だって……!」
「……と。アルトさん、ちょっと失礼しますね」
「わ、ちょ……」
「動けなくなったらお姫様抱っこしてもいいって言いましたよね?」
「……言った。女に二言はない」
「それは良かったです。じゃあ、大人しく運ばれてくださいね。僕のお姫様」
「仲がいいのはいいことです! 僕もレギさんとお友達になるです!!」
 レギにお姫様抱っこされるアルトをにこにこ(一部ニヤニヤ)しつつ見守るアルスレーテとリューリ。
 アルマは無邪気に見えない尻尾をぶんぶんと振っていた。


 こうして、ハンター達の尽力により、アスガルドの子供達は恙なくシャトルへ乗船し月へ向かって出発した。
 脱出経路を維持していたハンター達がいたことから、月への出発は非常にスムーズに行われたことを追記しておく。
 そして、直後に行われた大規模作戦によって、シャトルは無事に守られ――月に到着することが出来ていた。
 ――月に設置されたイニシャライザーに守られた子供達が目を覚ましたのは、大規模作戦が終わり、暫く経ってからのことだった。

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MVP一覧

  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフka3744
  • 部族なき部族
    エステル・ソルka3983
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュka4009
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901

  • 鞍馬 真ka5819
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウスka6424

重体一覧

  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

参加者一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    オリアス・マーゴ(ka0141unit004
    ユニット|CAM
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ヨエル
    ヨエル(ka0502unit003
    ユニット|幻獣
  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    レオーネ
    レオーネ(ka0673unit001
    ユニット|幻獣
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カリブンクルス
    カリブンクルス(ka0752unit004
    ユニット|幻獣
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ウイヴル
    ウイヴル(ka0754unit003
    ユニット|幻獣
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ジュウオウキ
    X桜姫(ka1250unit007
    ユニット|自動兵器
  • 勝利への開拓
    ジーナ(ka1643
    ドワーフ|21才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    タロン
    タロン(ka1643unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    魔導トラック
    魔導トラック(ka2378unit004
    ユニット|車両
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    スチールブル
    スチールブル(ka2434unit002
    ユニット|車両
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    グレン
    紅蓮(ka3109unit004
    ユニット|ゴーレム
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    イス・レギナ
    Is Regina(ka3380unit001
    ユニット|CAM
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    グリフォン
    グリフォン(ka3744unit006
    ユニット|幻獣
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    フローライト
    フロー(ka3983unit003
    ユニット|幻獣
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アサルトガルチャン
    ガルちゃん・改(ka4407unit004
    ユニット|CAM
  • 『俺達』が進む道
    玄武坂 光(ka4537
    人間(紅)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    魔導トラック
    魔導トラック(ka4537unit003
    ユニット|車両
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ミーティア
    ミーティア(ka4901unit005
    ユニット|幻獣
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カートゥル
    カートゥル(ka5819unit005
    ユニット|幻獣
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    リタ
    リタ(ka6424unit005
    ユニット|幻獣
  • 白銀の審判人
    星空の幻(ka6980
    オートマトン|11才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/26 17:35:43
アイコン 相談卓
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2018/10/26 18:43:38