ゲスト
(ka0000)
人形繰り「煉獄」
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~3人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/29 15:00
- 完成日
- 2019/04/11 10:16
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
帰りたい
マテリアルだけになって、精霊のように確固とした自我なんてなくて。
それでも帰りたいと願う。行ってきますと手を振ったあの家へ。期待と不安を混じらせて手を振る家族の元へ。
たった一人なら、それはすぐ消えてしまっていたかもしれない。でもここにある命の残滓、どれもがそう思っていたなら?
思い切って主に嘆願した。主はそれはそれは怖い人だ。
だけどその厳しさと力で僕たちが無念の塵となって消えてしまうのを、繋ぎとめてくれていた。きっと一人のワガママなら、主は叱り飛ばされただろうけれど、これだけの数がいるんだ。
「いいでしょう」
主は存外あっさりと認めてくれた。
喜び勇んで僕たちは動き出す。
帰ろうか
●
帰ったよ
悲鳴を上げる間もなく、女はその頭を枝のような黒い何かに巻き付かれたかと思うと、そのまま宙づりにされ、数回もがいた頃には、もう萎れて枯れ枝のようになってしまっていた。
ずっと心配かけてごめん。もう離れないよ。
温かなマテリアルが流れ込んでくる。それが嬉しくて、幸せで。
大好きな家族に向かって僕たちは走った。父さん、母さん、恋人、母さん、姉さん、父さん、父、母、姉、兄、弟、妹、兄、父、母父母姉兄弟妹兄父母……。
大好きな家族を抱きしめる。もう二度と離れない。そんな誓いと共に。手当たり次第に家族にハグしていく。
「化け物、化け物!!」
その言葉に僕は傷ついた。
主よ。家族は僕を忘れてしまったのでしょうか。僕は一度だって忘れたこともないのに。
「現世の移ろいは激しく、また儚く。泡沫であるが故に道理を知らぬ」
ああ、そうか。
永劫の時間でも揺らぎもしない主の姿、声は、僕をほっとさせた。
帰ろう
還ろう
僕たちは祈りを込めて、逃げ惑う家族たちに問いかける。
もともとは同じ生命の海に揺蕩う砂粒だったじゃないか。個として確立するから余計に苦しいんだ、命が尽きることは苦しいし悲しいだろう。
でもここなら永遠だよ。ずっと一緒にいられるんだ。
僕たちは願うように、魂一つ一つを抱き込んでいく。
人の命も、羊の命も、犬も猫もネズミも魚もノミも、草も土も風も炎も。全部家族だ。家族家族家族家族。輪廻の輪の一つだ。
「生命よ、還流せよ」
覆いつくす僕たちを励ますように
命を終えて、自我を失ってさまよう魂という名のマテリアルに安らぎを与えるように。
主の声は響き渡った。
その胸に違う声が聞こえる。僕は不思議に思った。
「人の浅知恵で生命を流れから切り離されている。哀れなものだ」
可愛そうに。合一できないなんて
みんなで力を合わせて解き放とう。
家族みんなの力があれば、不可能なことは何もない。
●
「村一つがまるまるスィアリに飲み込まれた」
シグルドは久しぶりに苦い顔をしてそう報告した。
「母様が……帝国に来たの」
「もう君たちボラ族が知っている人間の姿じゃなくなってるよ。マテリアルを格納する髪が沼のように広がっていて、森のように隆起している。あれは自然という現象そのものだ。そして取り込んだ命からマテリアルをさらに強化している。さっきの飲み込まれたというのは比喩じゃなくて、そのままの意味だ。村の土地を飲み込むほどに巨大に成長している」
「行く!」
立ち上がったボラ族の若きリーダー、ウルを止めたのは同族の誰でもなく、人形使いのアミィだった。
「行ってどうすんのよ。しかし、そんな巨大怪物になる理由っていうと……あれか。人を惹きつける力の強かったヒルデガルドやブリュンヒルデなんかを飲み込んだ上で、ロッカの作った魔法陣が集めたマテリアルなんかを取り込んだからかな」
「だろうね。多分指輪を取り込まれたら、アミィはこんなに元気にしてないと思うよ」
シグルドの言葉にアミィは引きつった笑いを浮かべて、立ったり座ったり、うろうろしたりを繰り返した。
どこまで自分が正気なのか、気づかぬうちに自分の心が歪虚のそれになっていくのかと思うと、ぞっとするのも当然のことだ。
「さて、倒す方法だけど。そんな大きさだと本体に切り込むのも一苦労だな」
「歪虚と戦うイメージでいるからややこしいんじゃん。マテリアルを飲み込むより吹き飛ぶマテリアルの方が多ければいいんだから、魔導列車に爆薬ありったけつんで突っ込ませれば道くらい開けるよ」
アミィの言葉にシグルドはしばらく考え込んだ後、そうだね。と返した。
「そうだね。それで本体には届くだろう」
シグルドはしばらく考えて、それだけ述べた。
底なし沼を埋め立てるほどの作戦があるわけではない。しかし今まで付き合ってくれたハンターの力はもう次元を超えはじめている。
「一縷の望みを、というべきなのかな」
マテリアルだけになって、精霊のように確固とした自我なんてなくて。
それでも帰りたいと願う。行ってきますと手を振ったあの家へ。期待と不安を混じらせて手を振る家族の元へ。
たった一人なら、それはすぐ消えてしまっていたかもしれない。でもここにある命の残滓、どれもがそう思っていたなら?
思い切って主に嘆願した。主はそれはそれは怖い人だ。
だけどその厳しさと力で僕たちが無念の塵となって消えてしまうのを、繋ぎとめてくれていた。きっと一人のワガママなら、主は叱り飛ばされただろうけれど、これだけの数がいるんだ。
「いいでしょう」
主は存外あっさりと認めてくれた。
喜び勇んで僕たちは動き出す。
帰ろうか
●
帰ったよ
悲鳴を上げる間もなく、女はその頭を枝のような黒い何かに巻き付かれたかと思うと、そのまま宙づりにされ、数回もがいた頃には、もう萎れて枯れ枝のようになってしまっていた。
ずっと心配かけてごめん。もう離れないよ。
温かなマテリアルが流れ込んでくる。それが嬉しくて、幸せで。
大好きな家族に向かって僕たちは走った。父さん、母さん、恋人、母さん、姉さん、父さん、父、母、姉、兄、弟、妹、兄、父、母父母姉兄弟妹兄父母……。
大好きな家族を抱きしめる。もう二度と離れない。そんな誓いと共に。手当たり次第に家族にハグしていく。
「化け物、化け物!!」
その言葉に僕は傷ついた。
主よ。家族は僕を忘れてしまったのでしょうか。僕は一度だって忘れたこともないのに。
「現世の移ろいは激しく、また儚く。泡沫であるが故に道理を知らぬ」
ああ、そうか。
永劫の時間でも揺らぎもしない主の姿、声は、僕をほっとさせた。
帰ろう
還ろう
僕たちは祈りを込めて、逃げ惑う家族たちに問いかける。
もともとは同じ生命の海に揺蕩う砂粒だったじゃないか。個として確立するから余計に苦しいんだ、命が尽きることは苦しいし悲しいだろう。
でもここなら永遠だよ。ずっと一緒にいられるんだ。
僕たちは願うように、魂一つ一つを抱き込んでいく。
人の命も、羊の命も、犬も猫もネズミも魚もノミも、草も土も風も炎も。全部家族だ。家族家族家族家族。輪廻の輪の一つだ。
「生命よ、還流せよ」
覆いつくす僕たちを励ますように
命を終えて、自我を失ってさまよう魂という名のマテリアルに安らぎを与えるように。
主の声は響き渡った。
その胸に違う声が聞こえる。僕は不思議に思った。
「人の浅知恵で生命を流れから切り離されている。哀れなものだ」
可愛そうに。合一できないなんて
みんなで力を合わせて解き放とう。
家族みんなの力があれば、不可能なことは何もない。
●
「村一つがまるまるスィアリに飲み込まれた」
シグルドは久しぶりに苦い顔をしてそう報告した。
「母様が……帝国に来たの」
「もう君たちボラ族が知っている人間の姿じゃなくなってるよ。マテリアルを格納する髪が沼のように広がっていて、森のように隆起している。あれは自然という現象そのものだ。そして取り込んだ命からマテリアルをさらに強化している。さっきの飲み込まれたというのは比喩じゃなくて、そのままの意味だ。村の土地を飲み込むほどに巨大に成長している」
「行く!」
立ち上がったボラ族の若きリーダー、ウルを止めたのは同族の誰でもなく、人形使いのアミィだった。
「行ってどうすんのよ。しかし、そんな巨大怪物になる理由っていうと……あれか。人を惹きつける力の強かったヒルデガルドやブリュンヒルデなんかを飲み込んだ上で、ロッカの作った魔法陣が集めたマテリアルなんかを取り込んだからかな」
「だろうね。多分指輪を取り込まれたら、アミィはこんなに元気にしてないと思うよ」
シグルドの言葉にアミィは引きつった笑いを浮かべて、立ったり座ったり、うろうろしたりを繰り返した。
どこまで自分が正気なのか、気づかぬうちに自分の心が歪虚のそれになっていくのかと思うと、ぞっとするのも当然のことだ。
「さて、倒す方法だけど。そんな大きさだと本体に切り込むのも一苦労だな」
「歪虚と戦うイメージでいるからややこしいんじゃん。マテリアルを飲み込むより吹き飛ぶマテリアルの方が多ければいいんだから、魔導列車に爆薬ありったけつんで突っ込ませれば道くらい開けるよ」
アミィの言葉にシグルドはしばらく考え込んだ後、そうだね。と返した。
「そうだね。それで本体には届くだろう」
シグルドはしばらく考えて、それだけ述べた。
底なし沼を埋め立てるほどの作戦があるわけではない。しかし今まで付き合ってくれたハンターの力はもう次元を超えはじめている。
「一縷の望みを、というべきなのかな」
リプレイ本文
「遺留品の回収の報告書にあったのはこのことでしたのね。数多の苦しみを飲み込んで……」
音羽 美沙樹(ka4757)は切ない気持ちを押し込めて、つぶやいた。列車爆弾に同乗して通過する途中に見えたぬばたま色の髪には色んなものが移っては消えた。それは髪が単なる髪ではなくて、一本一本が無念であったり、苦しみであったことをしめていた。そしてそれがまだ消え去っていないということも。
「指輪の主と指輪に封印された魂を救うために指輪を渡していただきたいですわ」
髪の中心にいるスィアリは静かに目を閉じて聞いているかどうかわからなかったが、爆弾でこじ開けた髪が激しくうねるところを見るに、好意的な様子ではなかろう。
うねった髪は爆発の影響から脱し、一気に攻め込んでくる。
「全くもう。これ10人そこらで片づける問題じゃないだろ」
それをソフィア =リリィホルム(ka2383)の修祓陣がつくる立柱が起動し、意地と意地がぶつかりあうように押しとどめる。
「きゃっ」
髪の大きな束はいくつか弾くも、それでも全力移動の為、防御をかなぐり捨てた美沙樹が、ユメリア(ka7010)が髪の奔流に取り込まれる。
「ユメリア、美沙樹っ!」
高瀬 未悠(ka3199)は取り込まれたあたりに一気に飛び込むと、守りへの誓いを光の炎に変えて咆哮した。
闇色の髪が一瞬で焼き尽くされ、二人を引き戻す。が、アイアンメイデンにかけられたように血みどろで二人は地に伏すだけだった。そんな髪が、修祓陣の隙間を抜けて次から次へとやってくる。スィアリにせり寄ろうとしていた面々も髪の攻勢に邪魔されて接敵すら叶わない。
ジリ貧だ。
誰もがそう歯噛みした瞬間、放射線状に13本、雷が空から流れ落ちた。
「軌道修正なんて現実にはつきものでね。後はしっかりやってくれよ。南條さん、立っている自信ないから」
箒に乗った南條 真水(ka2377)のラストテリトリー。雷にまとわるマテリアルに吸い寄せられるようにして、髪が真水を目指し、途端に遠くからへしゃげるような音が響いてくる。
が、それでも雷の滝は止んでいない。ソフィアの作った陣の符も輝きを増して、それをサポートしているのがわかる。ただ、それも時間と共に光を減弱していく。
このままでは。
「盤石劫も其の袖一触に始まる。我らは勇を持って始まり、星へと至るっ。無限の可能性を示せっ」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が剣を天に掲げて叫んだ。胆力が地面を走る、かける。
それと同時に、符の光が、雷の滝が、息を吹き返した。
「一気にいこう」
強いことは知ってるんだ。今までだってずっと見てきたじゃないか。臆してどうする。
岩井崎 メル(ka0520)はVOBで自分を爆発させるように飛び立つと、体をねじりつつマイステイルを構える。
「マイステイルよ。想うを受けて、償いを、そして……救いを!!」
スィアリの弓から矢が生まれて、メルを迎撃した。しかしメルはそれを肩口で受けてマイステイルを持つ手を庇いつつ、アルケミックフライトで空中でカーブをつけて突進の勢いを維持する。
「私一人の力じゃ弱いけれど」
「あなたを想う全てがありますわ」
「マイステイル、お前の元の主を助ける為にもうひと踏ん張りするっす!」
美沙樹が、神楽(ka2032)の声が同調した瞬間。
マイステイルは弾け飛ぶようにして、無数の根出葉を連ならせる稲穂に姿を変えた。
そしてそれはメルの体ごと貫く無数の杭となってスィアリの動きを物理的に封じた。痛くないわけがない。血が、マテリアルが、胸に燃える命が、想いが、急激に真っ白になっていく。
「今だよっ、早くっ」
その叫びに答えたのはリラ(ka5679)だった。
私の一撃で噂に聞くスィアリが倒れるとは思わない。だけど。
「想いはお前に預けるぜ。人の一生は短い。だからこうして想いはつなげ合うんだ。俺の炎を……託す」
リラの背に光を宿すトーチのように。リューは炎を巻き起こしつつ星神器エクスカリバーを掲げた。
「示せ、騎士王の分権の権能を!!!」
漲る力は触れただけで全てを焼き尽くす太陽のように。
「すっげ……もう少しだけ、堪えろよ!!」
ソフィアはヴァイザースタッフを打ち付け、預けられた炎の力を大地に走らせた。
火柱が一つ、爆ぜる。二つ、奔る。三つ。荒れ狂う。
それを間近にしても、スィアリは動じない。それは諦めではなく……
「一切は流転す」
勝機だったから。
「タチェット!!!」
ルナ・レンフィールド(ka1565)がすかさず叫び、ねじ狂いそうになるマテリアルの動きを制止させる。
それでも、ねばつくような空気が、風を縫い留め、喝破の声を弱める。
───────っ!!!!
声にならない音色で、ルナは風を巻き起こし続ける。届け、届け届け!!!
一陣の風が吹いたかと思ったその瞬間、その手に褐色のがっしりとした腕が重なる。
「円環の裡を流れよ」
エアルドフリスの杖からほとばしる魔力。
「微力ながら想いに添えよう」
「はいっ」
2人の力があれば。音色は五線譜という導きを得たように流れ、泥の中、海の中を駆け抜けていく。そして。
ソフィアのガンブレイズが本来の力を取り戻し、スィアリを大きく吹き飛ばした。
待ちかねたようにリラが大きく駆け出す。
「行きますっ……私たち生きる人間に清算の機会を」
リラは大きく跳ねて一歩、鈴のような軽やかな音色が響いたかと思うと、ガンブレイズの炎を一跨ぎする。
肉薄したスィアリの持ち上げた槍をもつ腕に一撃。爆発するような炎が貫い焼き滅ぼす。さらにマテリアルを収縮させて、肉体の神経反応を限界まで高めたリラは、一律であるはずの時の世界を踏み越えた。
「贖罪の時間を、そして愛を」
槍をへしおり、弓を弾き飛ばし。
そしてがら空きになった胸。そう指輪が光るその場所に手を伸ばし。握り続けた五指を大きく広げた。
「あああああっ!!!!」
引きちぎった。
リラはすぐさま、勢いを失って落下を始めるが、力を失った黒髪が少しでも力を得ようと、無数の手になって掴もうとする。
それをすかさずアーシュラが助け出した。
「スィアリ様……贖罪の果てで待っていてね」
アーシュラは金色の髪を逆立たせ、マテリアルを雷に変えると、亡者の手に裁定の雷を叩きつけた。
「ここは生きる者の世界だ!!」
そうして沈黙した髪の上に立ったリラはすかさず神楽に指輪をパスする。
「お願いしますっ」
「受け取ったっす」
膨らんでいた闇が急速にへしゃげていく中、神楽は指輪を受け取ると、マテリアルを全開放して、自らの体を獣のようにして、光ある世界へと向き直った。
光が針のようだ。
でも、ここで潰されたら、指輪がぶっ潰れる。指輪がつぶれれば、それこそ第二の復讐姫、第二の悪魔の蛇を誕生させて、今の状態で戦わなくてはならなくなる。
絶対潜り抜けるっす!!
神楽はまっすぐ駆けた。
駆けて、駆けて、駆けて。
頭の先が闇に触れた。そのとたん、吼え狂いしものの姿がブレる。マテリアルじゃない、生命力が潰されそうになる。四つん這いになって、這って進むにも、もう限界がある。そのまま前にも後ろにも戻れなくなる。
それを見た美沙樹はフライングスレッドを発動させて、一気に低空で移動しつつ、レーヴァテインの鯉口を親指で跳ね上げる。
本当は、レーヴァテインの力を借りるのは心がとがめる。だが、心のしこりはそれもまた自らの負。ただ今は皆の為にっ。
「未来を切り開いてみせます!」
フライングスレッドを乗り捨てるように蹴った美沙樹の一閃。
空間と共に烈火と共に闇が裂けて、神楽に道を覆う闇を切り開いた。
「私たちの意志は、必ず届けてくださいまし」
「さんきゅっす!」
神楽はそのままう一度立ち上がり、そのまま光の外へと駆け抜けた。
「確かに、受け取った!」
指輪は、封じられた美しさのまま、人の手に繋がれた。
●殺す
収縮した闇が散らばっていくと同時に、スィアリの透き通った肌はみるみるうちに枯れ果て、眼球は濁り、肉は腐臭を放ち、白い衣は薄汚れた。だが、それはゾンビよりはるかに穢れて、それでも畏れを纏う威風は消えない。
「全て命は等しくこの上なく重く、故に命は命によってしか贖い得ない。貴様は殺した数だけ死なねばならぬ」
「生は生の上にあり。死の下にあり。其の体も衆愚たり」
「絶望と破壊と停滞の徒の分際で、生を語るな。それは我々が決めるものだ!!」
アウレールは星の力を剣に溜めて、大きく振りかぶった。
数多の願いが、想いが作り出した偶像すら切り裂く、星の力。アウレールはそれを集約して、一気に振り下ろした。
光が腐乱した体を一刀両断に伏した。
「悪く思うなよ。天秤の守り手として譲れぬ正義がある」
振り下ろした剣を鞘に納めて、振り返ったアウレールに未悠は少し悲しそうな顔をした。
「いえ、これでいいのよ。封印はするのは歪虚の魂ではなくて、彼女の想い。アウレールが願ったように」
どくん。
未悠の言葉の途中で、全員の視界がゆがんだ。マテリアル酔いしたような。
振り返るとスィアリの死体がとりわけ、歪んでいる。
「倒しきれていなかったか!」
「違う、今まで取り込み続けていたマテリアルだよ。ロッカに脅されて取り込み続けた負の、線路で集めた魔法陣の、ファルバウティが寄せ集めたそれの。亡くなった集落の」
アーシュラの言葉が震えるように言った次の瞬間にはもう、それは一斉に噴き出していた。
「高瀬さん!!」
ユメリアが叫ぶ間もなく、彼女は吹き飛んだ。ルナとて衝撃で皮膚が次々と裂けては、そこから生命力が腐り落ちていくのがわかる。仲間も耐えてはいるが、スィアリと同じように腐り落ちていく。
ルナは、ユメリアは声を上げた。鎮まれと。
だけど喉が焼けつくように痛む。呼吸すらできない。曲を紡ごうと弦を手にしても、弦に張りに、皮膚が切り裂かれてしまうではないか。
「希望よ! 星の恵みよ!! 私たちの可能性を!!」
そんな二人の前に未悠が立って手を掲げた。同時に光が粒子となって、颶風の中を優しく漂う。
その力に、折れかけた心がつながる。優しさと希望でつながれ、空中に溶けたマテリアルが再びつながる。
「静謐の月光に包まれて、響け、私の音色」
「安寧の揺籠に抱かれて、鎮まれ、魂の願い」
ルナとユメリアの音色が重なり響きあった。途端に腐の進撃が鈍る。
「この爆発は広範囲に広がっちゃうかな? そしたら私は何としてでも止めないと」
「広がるかもしんないけど、うん、それは何にも対応できる手段がない場合ね。とりあえず運んでもらっていい? 南條さん、本来ひ弱なんだ」
メルの質問に、真水が分厚い眼鏡をくいと直しながら、無感動な声でそう尋ねると、メルはこくりと頷いた。
「絶対に! 封印も任してっ」
同時に真水は再びラストテリトリーで衝撃を一手に受け止め始める。
それと同時にソフィアは星神器ブリューナクを抱えて、周りを見回した。
神楽の抜けた、切れた髪が作り出した闇は相変わらず残っている。スィアリの貯めた負のマテリアルはどれだけあるのかわからないがアーシュラの言葉通りなら、まだまだ出てきそうだ。それをわざわざ吹き曝される必要はどこにもない。
「まさか敵以外にぶっ放すことになるなんて……なーんてな。『折り込み済み』だっつーの。飲み込まれる前に焼き尽くす!」
ソフィアはにまりと笑うとブリューナクを神楽が抜けた場所へと砲身を向けて、マテリアルを凝縮する。
「澱んだ妄念毎消し飛べ! 顕現せよ、紅き太陽!!」
真っ赤な光が奔った。
闇を切り裂き、焼き捨て、外界への道をつないだ。
「行け、走れ!!」
「ユメリア……? ユメリア!」
未悠は悲痛な声を上げた。
「取り込んだ闇を浄化して封印しなければ、スィアリ様は苦しいままですから。それに封印は……レイオニール様や悪魔の蛇の時も、閉鎖空間でした。多少の『壁』がないと難しいでしょう」
焼き切れたスィアリの身体を抱きしめたユメリアは静かにそういった。
残った闇の残滓が、ユメリアをむしばむ中でも、彼女はゆるゆると花のチョコレートを取り出すと、スィアリの口に押し入れた。
「口にしたものが不浄ならこの優しい思いで癒されますよ。神楽さんの乗せてくれたローパーは少しくすぐったかったけれどもいい匂いがしました。歌で、体温で、笑顔であなたを癒させてください」
内臓がきしむ。圧力で耳や目から血がでても、優しく歌うことを止めない。
「あなたが溶けたら、意味ないじゃない!」
「ありがとう。私の魂はあなたが受け止めてくれるもの。だから私は私のできることを」
今日胡蝶となって、明日はあなたとなろう。
限りない空を夢見て、今を詠いましょう
「馬鹿っ、馬鹿。ユメリア」
「ワガママをお許しくださいね……未悠さん」
いつか夢で見たスィアリの顔とユメリアの顔が被ってみえた。
その直後大爆発が起きた。楔を失ったマテリアルが解き放たれた瞬間だ。
爆発で何も見えなく、聞こえなくなった時間は一瞬なのか、永劫なのか、時間間隔すらおかしくなりそうな中で、未悠は静かな静かな声を聞いた。
生命よ、還流せよ。と。
●
雲の切れ間から顔を見せた太陽に向かって、リラが指輪をかざしてみた。クリームヒルトが持っていた封印用の指輪だ。
「うーん、これで封印成功しているんですか?」
思い出を共有した友達のやりたい事。それは壮大な想いに満ち満ちていたのはリラはよくわかっているつもりだった。
だけれども、指輪に込められた魔力はとても些細で、これなら錬金工房で錬成した方がまだ良い気がする。
きょとんとしたリラの言葉に、真水は視線を外してぶっきらぼうに答えた。
「マテリアルはマテリアルだよ。海の一滴を確かにそれは封じ込めたんだから間違いない。でも、その一滴で海の生態系や潮流、地形なんか記憶できるわけない。人形使いという人格を確立させて保持するなんて今もってしてもロストテクノロジーだし、そもそもそれができちゃったら、今度、南條さん達は人形使いを作れるということになってしまう」
そのうえで、ごろりと寝転がった真水は手をひらひらと振った。
残念なような、それでよかったような。リラはなんとも言えない顔で、倒れたままのユメリアを見た。あの爆発をどうやって潜り抜けたのかわからないが、彼女は確かにそこで眠るように伏せていて、そして心の鼓動も微かではあるが動いていた。
「にしても……」
神楽と美沙樹、それからエアルドフリスとリュー、そしてシグルドとクリームヒルト。彼らは3つ揃った指輪を見て、言葉を紡ごうとして、つぐんだ。150年前からの侵略が、15年前の革命に至って、散り散りになったもの。
「形見っていうこともないすけど、ヒルデガルドちゃん、ようやく解放されたんすね」
5年かかって。
果たせなかったことのようやく一部が取り戻せたような気がして。
「過去の清算ももう終わりだ。さあ、今度は今の話をしようか」
シグルドはそう言った。
音羽 美沙樹(ka4757)は切ない気持ちを押し込めて、つぶやいた。列車爆弾に同乗して通過する途中に見えたぬばたま色の髪には色んなものが移っては消えた。それは髪が単なる髪ではなくて、一本一本が無念であったり、苦しみであったことをしめていた。そしてそれがまだ消え去っていないということも。
「指輪の主と指輪に封印された魂を救うために指輪を渡していただきたいですわ」
髪の中心にいるスィアリは静かに目を閉じて聞いているかどうかわからなかったが、爆弾でこじ開けた髪が激しくうねるところを見るに、好意的な様子ではなかろう。
うねった髪は爆発の影響から脱し、一気に攻め込んでくる。
「全くもう。これ10人そこらで片づける問題じゃないだろ」
それをソフィア =リリィホルム(ka2383)の修祓陣がつくる立柱が起動し、意地と意地がぶつかりあうように押しとどめる。
「きゃっ」
髪の大きな束はいくつか弾くも、それでも全力移動の為、防御をかなぐり捨てた美沙樹が、ユメリア(ka7010)が髪の奔流に取り込まれる。
「ユメリア、美沙樹っ!」
高瀬 未悠(ka3199)は取り込まれたあたりに一気に飛び込むと、守りへの誓いを光の炎に変えて咆哮した。
闇色の髪が一瞬で焼き尽くされ、二人を引き戻す。が、アイアンメイデンにかけられたように血みどろで二人は地に伏すだけだった。そんな髪が、修祓陣の隙間を抜けて次から次へとやってくる。スィアリにせり寄ろうとしていた面々も髪の攻勢に邪魔されて接敵すら叶わない。
ジリ貧だ。
誰もがそう歯噛みした瞬間、放射線状に13本、雷が空から流れ落ちた。
「軌道修正なんて現実にはつきものでね。後はしっかりやってくれよ。南條さん、立っている自信ないから」
箒に乗った南條 真水(ka2377)のラストテリトリー。雷にまとわるマテリアルに吸い寄せられるようにして、髪が真水を目指し、途端に遠くからへしゃげるような音が響いてくる。
が、それでも雷の滝は止んでいない。ソフィアの作った陣の符も輝きを増して、それをサポートしているのがわかる。ただ、それも時間と共に光を減弱していく。
このままでは。
「盤石劫も其の袖一触に始まる。我らは勇を持って始まり、星へと至るっ。無限の可能性を示せっ」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が剣を天に掲げて叫んだ。胆力が地面を走る、かける。
それと同時に、符の光が、雷の滝が、息を吹き返した。
「一気にいこう」
強いことは知ってるんだ。今までだってずっと見てきたじゃないか。臆してどうする。
岩井崎 メル(ka0520)はVOBで自分を爆発させるように飛び立つと、体をねじりつつマイステイルを構える。
「マイステイルよ。想うを受けて、償いを、そして……救いを!!」
スィアリの弓から矢が生まれて、メルを迎撃した。しかしメルはそれを肩口で受けてマイステイルを持つ手を庇いつつ、アルケミックフライトで空中でカーブをつけて突進の勢いを維持する。
「私一人の力じゃ弱いけれど」
「あなたを想う全てがありますわ」
「マイステイル、お前の元の主を助ける為にもうひと踏ん張りするっす!」
美沙樹が、神楽(ka2032)の声が同調した瞬間。
マイステイルは弾け飛ぶようにして、無数の根出葉を連ならせる稲穂に姿を変えた。
そしてそれはメルの体ごと貫く無数の杭となってスィアリの動きを物理的に封じた。痛くないわけがない。血が、マテリアルが、胸に燃える命が、想いが、急激に真っ白になっていく。
「今だよっ、早くっ」
その叫びに答えたのはリラ(ka5679)だった。
私の一撃で噂に聞くスィアリが倒れるとは思わない。だけど。
「想いはお前に預けるぜ。人の一生は短い。だからこうして想いはつなげ合うんだ。俺の炎を……託す」
リラの背に光を宿すトーチのように。リューは炎を巻き起こしつつ星神器エクスカリバーを掲げた。
「示せ、騎士王の分権の権能を!!!」
漲る力は触れただけで全てを焼き尽くす太陽のように。
「すっげ……もう少しだけ、堪えろよ!!」
ソフィアはヴァイザースタッフを打ち付け、預けられた炎の力を大地に走らせた。
火柱が一つ、爆ぜる。二つ、奔る。三つ。荒れ狂う。
それを間近にしても、スィアリは動じない。それは諦めではなく……
「一切は流転す」
勝機だったから。
「タチェット!!!」
ルナ・レンフィールド(ka1565)がすかさず叫び、ねじ狂いそうになるマテリアルの動きを制止させる。
それでも、ねばつくような空気が、風を縫い留め、喝破の声を弱める。
───────っ!!!!
声にならない音色で、ルナは風を巻き起こし続ける。届け、届け届け!!!
一陣の風が吹いたかと思ったその瞬間、その手に褐色のがっしりとした腕が重なる。
「円環の裡を流れよ」
エアルドフリスの杖からほとばしる魔力。
「微力ながら想いに添えよう」
「はいっ」
2人の力があれば。音色は五線譜という導きを得たように流れ、泥の中、海の中を駆け抜けていく。そして。
ソフィアのガンブレイズが本来の力を取り戻し、スィアリを大きく吹き飛ばした。
待ちかねたようにリラが大きく駆け出す。
「行きますっ……私たち生きる人間に清算の機会を」
リラは大きく跳ねて一歩、鈴のような軽やかな音色が響いたかと思うと、ガンブレイズの炎を一跨ぎする。
肉薄したスィアリの持ち上げた槍をもつ腕に一撃。爆発するような炎が貫い焼き滅ぼす。さらにマテリアルを収縮させて、肉体の神経反応を限界まで高めたリラは、一律であるはずの時の世界を踏み越えた。
「贖罪の時間を、そして愛を」
槍をへしおり、弓を弾き飛ばし。
そしてがら空きになった胸。そう指輪が光るその場所に手を伸ばし。握り続けた五指を大きく広げた。
「あああああっ!!!!」
引きちぎった。
リラはすぐさま、勢いを失って落下を始めるが、力を失った黒髪が少しでも力を得ようと、無数の手になって掴もうとする。
それをすかさずアーシュラが助け出した。
「スィアリ様……贖罪の果てで待っていてね」
アーシュラは金色の髪を逆立たせ、マテリアルを雷に変えると、亡者の手に裁定の雷を叩きつけた。
「ここは生きる者の世界だ!!」
そうして沈黙した髪の上に立ったリラはすかさず神楽に指輪をパスする。
「お願いしますっ」
「受け取ったっす」
膨らんでいた闇が急速にへしゃげていく中、神楽は指輪を受け取ると、マテリアルを全開放して、自らの体を獣のようにして、光ある世界へと向き直った。
光が針のようだ。
でも、ここで潰されたら、指輪がぶっ潰れる。指輪がつぶれれば、それこそ第二の復讐姫、第二の悪魔の蛇を誕生させて、今の状態で戦わなくてはならなくなる。
絶対潜り抜けるっす!!
神楽はまっすぐ駆けた。
駆けて、駆けて、駆けて。
頭の先が闇に触れた。そのとたん、吼え狂いしものの姿がブレる。マテリアルじゃない、生命力が潰されそうになる。四つん這いになって、這って進むにも、もう限界がある。そのまま前にも後ろにも戻れなくなる。
それを見た美沙樹はフライングスレッドを発動させて、一気に低空で移動しつつ、レーヴァテインの鯉口を親指で跳ね上げる。
本当は、レーヴァテインの力を借りるのは心がとがめる。だが、心のしこりはそれもまた自らの負。ただ今は皆の為にっ。
「未来を切り開いてみせます!」
フライングスレッドを乗り捨てるように蹴った美沙樹の一閃。
空間と共に烈火と共に闇が裂けて、神楽に道を覆う闇を切り開いた。
「私たちの意志は、必ず届けてくださいまし」
「さんきゅっす!」
神楽はそのままう一度立ち上がり、そのまま光の外へと駆け抜けた。
「確かに、受け取った!」
指輪は、封じられた美しさのまま、人の手に繋がれた。
●殺す
収縮した闇が散らばっていくと同時に、スィアリの透き通った肌はみるみるうちに枯れ果て、眼球は濁り、肉は腐臭を放ち、白い衣は薄汚れた。だが、それはゾンビよりはるかに穢れて、それでも畏れを纏う威風は消えない。
「全て命は等しくこの上なく重く、故に命は命によってしか贖い得ない。貴様は殺した数だけ死なねばならぬ」
「生は生の上にあり。死の下にあり。其の体も衆愚たり」
「絶望と破壊と停滞の徒の分際で、生を語るな。それは我々が決めるものだ!!」
アウレールは星の力を剣に溜めて、大きく振りかぶった。
数多の願いが、想いが作り出した偶像すら切り裂く、星の力。アウレールはそれを集約して、一気に振り下ろした。
光が腐乱した体を一刀両断に伏した。
「悪く思うなよ。天秤の守り手として譲れぬ正義がある」
振り下ろした剣を鞘に納めて、振り返ったアウレールに未悠は少し悲しそうな顔をした。
「いえ、これでいいのよ。封印はするのは歪虚の魂ではなくて、彼女の想い。アウレールが願ったように」
どくん。
未悠の言葉の途中で、全員の視界がゆがんだ。マテリアル酔いしたような。
振り返るとスィアリの死体がとりわけ、歪んでいる。
「倒しきれていなかったか!」
「違う、今まで取り込み続けていたマテリアルだよ。ロッカに脅されて取り込み続けた負の、線路で集めた魔法陣の、ファルバウティが寄せ集めたそれの。亡くなった集落の」
アーシュラの言葉が震えるように言った次の瞬間にはもう、それは一斉に噴き出していた。
「高瀬さん!!」
ユメリアが叫ぶ間もなく、彼女は吹き飛んだ。ルナとて衝撃で皮膚が次々と裂けては、そこから生命力が腐り落ちていくのがわかる。仲間も耐えてはいるが、スィアリと同じように腐り落ちていく。
ルナは、ユメリアは声を上げた。鎮まれと。
だけど喉が焼けつくように痛む。呼吸すらできない。曲を紡ごうと弦を手にしても、弦に張りに、皮膚が切り裂かれてしまうではないか。
「希望よ! 星の恵みよ!! 私たちの可能性を!!」
そんな二人の前に未悠が立って手を掲げた。同時に光が粒子となって、颶風の中を優しく漂う。
その力に、折れかけた心がつながる。優しさと希望でつながれ、空中に溶けたマテリアルが再びつながる。
「静謐の月光に包まれて、響け、私の音色」
「安寧の揺籠に抱かれて、鎮まれ、魂の願い」
ルナとユメリアの音色が重なり響きあった。途端に腐の進撃が鈍る。
「この爆発は広範囲に広がっちゃうかな? そしたら私は何としてでも止めないと」
「広がるかもしんないけど、うん、それは何にも対応できる手段がない場合ね。とりあえず運んでもらっていい? 南條さん、本来ひ弱なんだ」
メルの質問に、真水が分厚い眼鏡をくいと直しながら、無感動な声でそう尋ねると、メルはこくりと頷いた。
「絶対に! 封印も任してっ」
同時に真水は再びラストテリトリーで衝撃を一手に受け止め始める。
それと同時にソフィアは星神器ブリューナクを抱えて、周りを見回した。
神楽の抜けた、切れた髪が作り出した闇は相変わらず残っている。スィアリの貯めた負のマテリアルはどれだけあるのかわからないがアーシュラの言葉通りなら、まだまだ出てきそうだ。それをわざわざ吹き曝される必要はどこにもない。
「まさか敵以外にぶっ放すことになるなんて……なーんてな。『折り込み済み』だっつーの。飲み込まれる前に焼き尽くす!」
ソフィアはにまりと笑うとブリューナクを神楽が抜けた場所へと砲身を向けて、マテリアルを凝縮する。
「澱んだ妄念毎消し飛べ! 顕現せよ、紅き太陽!!」
真っ赤な光が奔った。
闇を切り裂き、焼き捨て、外界への道をつないだ。
「行け、走れ!!」
「ユメリア……? ユメリア!」
未悠は悲痛な声を上げた。
「取り込んだ闇を浄化して封印しなければ、スィアリ様は苦しいままですから。それに封印は……レイオニール様や悪魔の蛇の時も、閉鎖空間でした。多少の『壁』がないと難しいでしょう」
焼き切れたスィアリの身体を抱きしめたユメリアは静かにそういった。
残った闇の残滓が、ユメリアをむしばむ中でも、彼女はゆるゆると花のチョコレートを取り出すと、スィアリの口に押し入れた。
「口にしたものが不浄ならこの優しい思いで癒されますよ。神楽さんの乗せてくれたローパーは少しくすぐったかったけれどもいい匂いがしました。歌で、体温で、笑顔であなたを癒させてください」
内臓がきしむ。圧力で耳や目から血がでても、優しく歌うことを止めない。
「あなたが溶けたら、意味ないじゃない!」
「ありがとう。私の魂はあなたが受け止めてくれるもの。だから私は私のできることを」
今日胡蝶となって、明日はあなたとなろう。
限りない空を夢見て、今を詠いましょう
「馬鹿っ、馬鹿。ユメリア」
「ワガママをお許しくださいね……未悠さん」
いつか夢で見たスィアリの顔とユメリアの顔が被ってみえた。
その直後大爆発が起きた。楔を失ったマテリアルが解き放たれた瞬間だ。
爆発で何も見えなく、聞こえなくなった時間は一瞬なのか、永劫なのか、時間間隔すらおかしくなりそうな中で、未悠は静かな静かな声を聞いた。
生命よ、還流せよ。と。
●
雲の切れ間から顔を見せた太陽に向かって、リラが指輪をかざしてみた。クリームヒルトが持っていた封印用の指輪だ。
「うーん、これで封印成功しているんですか?」
思い出を共有した友達のやりたい事。それは壮大な想いに満ち満ちていたのはリラはよくわかっているつもりだった。
だけれども、指輪に込められた魔力はとても些細で、これなら錬金工房で錬成した方がまだ良い気がする。
きょとんとしたリラの言葉に、真水は視線を外してぶっきらぼうに答えた。
「マテリアルはマテリアルだよ。海の一滴を確かにそれは封じ込めたんだから間違いない。でも、その一滴で海の生態系や潮流、地形なんか記憶できるわけない。人形使いという人格を確立させて保持するなんて今もってしてもロストテクノロジーだし、そもそもそれができちゃったら、今度、南條さん達は人形使いを作れるということになってしまう」
そのうえで、ごろりと寝転がった真水は手をひらひらと振った。
残念なような、それでよかったような。リラはなんとも言えない顔で、倒れたままのユメリアを見た。あの爆発をどうやって潜り抜けたのかわからないが、彼女は確かにそこで眠るように伏せていて、そして心の鼓動も微かではあるが動いていた。
「にしても……」
神楽と美沙樹、それからエアルドフリスとリュー、そしてシグルドとクリームヒルト。彼らは3つ揃った指輪を見て、言葉を紡ごうとして、つぐんだ。150年前からの侵略が、15年前の革命に至って、散り散りになったもの。
「形見っていうこともないすけど、ヒルデガルドちゃん、ようやく解放されたんすね」
5年かかって。
果たせなかったことのようやく一部が取り戻せたような気がして。
「過去の清算ももう終わりだ。さあ、今度は今の話をしようか」
シグルドはそう言った。
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マテリアルリンク参加者一覧
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【質問卓】豊穣の巫女と対峙せよ 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2019/03/31 12:32:34 |
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【相談卓】煉獄を踏破せよ 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2019/03/29 13:17:23 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/27 23:24:06 |