ゲスト
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【空蒼】レプリカント・ワルツ「黙示騎士対応」リプレイ


▼グランドシナリオ【空蒼】レプリカント・ワルツ(9/7~9/27)▼
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作戦1:
- Gacrux(ka2726)
- クリュティエ
- マッシュ・アクラシス(ka0771)
- メンカル(ka5338)
- アルマ・A・エインズワース(ka4901)
- シガレット=ウナギパイ(ka2884)
- コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)
- 紅薔薇(ka4766)
- リューリ・ハルマ(ka0502)
- アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
- セレス・フュラー(ka6276)
- アシェ?ル(ka2983)
- マクスウェル
- 岩井崎 旭(ka0234)
- 夢路 まよい(ka1328)
- エヴァンス・カルヴィ(ka0639)
- ユウ(ka6891)
- 夜桜 奏音(ka5754)
- 仙堂 紫苑(ka5953)
- キャリコ・ビューイ(ka5044)
- 狭霧 雷(ka5296)
- ヴァイス(ka0364)
- アニス・エリダヌス(ka2491)
- イグノラビムス
- エリ・ヲーヴェン(ka6159)
- 鵤(ka3319)
- 保・はじめ(ka5800)
- 神楽(ka2032)
- シレークス(ka0752)
- サクラ・エルフリード(ka2598)
- Uisca Amhran(ka0754)
- トリプルJ(ka6653)
- リュー・グランフェスト(ka2419)
- セレスティア(ka2691)
- レイア・アローネ(ka4082)
●最初に
「あんた、仇花の騎士ですか」
Gacrux(ka2726)がクリュティエに言う。
「仇花……か。確かに我の元になったのはそれだ。クリムゾンウェストの守護者と呼ぶべきだろう」
同じ仇花の騎士であるカレンデュラ(kz0262)とは明らかに違う口調。
けれど、その格好は酷似している。そして、それをあっさりクリュティエは認めた。
「元になった……?」
「いかにも、我が身はシュレディンガーが観測したカレンデュラのデータによって複製されたモノ。それだから、似ていない方が無理がある」
複製……クリュティエはそう口にした。
それを聞いた途端、Gacruxの目に瞋恚の炎が燃え上がった。
「シュレディンガー……! あの野郎……!!」
Gacruxはカレンデュラの思いを知っている。
だからこそ、その行為はカレンデュラに対する侮辱に他ならない、と思ったのだ。
●会敵
ハンターたちは大精霊の元へ向かっていると思われる黙示騎士達の道を阻んだ。
今回確認されたのは、新たなる敵クリュティエ、黙示騎士マクスウェル、黙示騎士イグラビムスの3体。逆に言えば、それ以外に敵はない。
だが、1体でも凄まじい戦闘力を持つ黙示騎士に初遭遇の敵だ。油断はできない。
「これはまたぞろぞろと……ご苦労な事ですな」
マッシュ・アクラシス(ka0771)が呟いた。
「……カレン? あんな所で何してるんだ」
カレンデュラと友達であるメンカル(ka5338)もそのカレンデュラとクリュティエの酷似した容姿にから不審に思う。
そして最前のGacruxとの問答。
ハンターたちはクリュティエがカレンデュラとは似ているが、完全に別の存在であると確信した。
「とにかく、ここから先には進ませません」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)が前に出る。
そして、凍てつくような静かな笑みをマクスウェルに向けた。
「ここで殺──いえ……誰がやってもいい。死んでください、マクスウェル」
『フッ! 言うじゃないか、ハンター!』
腕を組んで、相変わらず偉そうにしていたマクスウェルがアルマの言葉に明確な殺意を見て取って、大剣を引き抜いた。
『ふむ……集まったハンター共は32人というところか。ざっと計算して、ひとりあたり10人ほど相手取れば問題あるま──』
「待て、マクスウェル」
今にも飛びかかりそうなマクスウェルをクリュティエが制した。
「ここは3人まとまって戦うべきだ」
と、クリュティエはそんな方針を提案したのだ。
『……貴様、オレに命令する気か? 新入りの癖に仕切るな!』
マクスウェルはそう怒鳴るが、クリュティエは静かな紫の瞳を曇らすことはない。
そして、そのクリュティエの言葉に従ったのは意外にもイグノラビムスだった。
彼は、若干空いていたマクスウェルとクリュティエとの距離を詰める。
『何ッ!? イグノラビムス、貴様正気か!?』
マクスウェルの驚嘆にもイグノラビムスは動じず、どうやら本当にクリュティエの言う通りに動くつもりらしい。
「仲間割れ……というより、団結しちまったか?」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)がそんな黙示騎士達の様子を見て言う。シガレットは最初から、クリュティエが指揮をとるであろうことを予想してはいたのだ。
「遊びの時間は終わりだ。私がここに来た以上、貴様らの計画はこれですべてがご破算だ」
銃口をイグノラビムスに向けるコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)。
「クリュティエは妾達が相手をしよう」
するり、と祈りの剣を鞘から引き抜いて、前へでる紅薔薇(ka4766)。
「大精霊に守護者権限の発動を申請……。我は今より人ではあらず『守護者』という名の剣なり!!」
紅薔薇がそう宣言した途端、彼女の中の力が増大した。
超覚醒。守護者のみが扱える超級のスキルが発動されたのだ。
続いて、紅薔薇の体が燃えあがった、かのような錯覚を誰もが覚えた。
心技体、鋼の如しによる肉体の大幅強化。それはマテリアルの輝きを以って行われ、BS注視を効果範囲内の敵に付与することもでき、スキルの効果範囲内にいれば発動者へ背を向けていようが、BS注視の付与対象とするのだ。
マクスウェルとイグノラビムスの視線が紅薔薇に引き寄せられた。
可能であればより細かく敵の分断を狙いたかったが、三体の敵は既にまとまった位置取りをしている。
これを完全分断するにはより具体的なサポートが必要だったが、敵の動きが既に予想と異なり、策が足りない。
まずは敵の注目を集め、ここから分断のきっかけを探る為にも、先手で心技体、鋼の如しを用いたのだが――。
「……ほう」
しかし、クリュティエだけは平然と、ハンター『達』を見ている。
「……この力を以ってしても平気だというのか?」
「この程度、痛痒しない」
『なんだ、ひとり余裕ぶりおって……ムオ!?』
言葉の途中でマクスウェルの体が引っ張られた。
「まずはマクスウェルだね!」
リューリ・ハルマ(ka0502)がファントムハンドでマクスウェルを引っ張り出したのだ。
ハンター達は3人を分断し各個対応するつもりなのだった。
そして、マクスウェルが引っ張り出された正面には赤い髪のハンターがいた。
「何度か戦ったが、名乗っていなかった気がするな」
紅薔薇と同じく、超覚醒によって絶大な力を得たアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)である。
「大精霊からの言祝ぎは『最強』。クリムゾンウエストの守護者がひとり、アルト・ヴァレンティーニ。……お前を滅ぼしにきた」
炎の様なオーラを纏い、アルトは大地を強く踏み付ける。
そしてリューリがファントムハンドで引っ張ってきたマクスウェルに体当たりにも似た刺突を放った。
直前にセレス・フュラー(ka6276)がエンタングルで回避を下げる。
「じゃ、頑張ってねアルトくん。あたしは後ろで援護するからさ」
セレスは、マーキス・ソング、そしてアンコールでアイデアル・ソングを発動している。
咄嗟に大剣で防ぐも、肩口に刀傷を受けるマクスウェル。
そんなマクスウェルにクリュティエが語りかける。
「マクスウェル。ハンターは我々を分断するつもりのようだぞ?」
『クッ……、貴様の命令をきくのも癪だが、ハンターの思う通りに動くのはもっと癪だ……! いいだろう、今回ばかりは貴様の言う通りにしてやるぞ、クリュティエ!!』
「そうこなくては、な」
クリュティエに負のマテリアルが収斂していく。それは明らかに、何らかの技の行使だった。
紅薔薇が身構える。
しかし、収斂したマテリアルは、マクスウェルへと施された。
マクスウェルは確かにリューリのファントムハンドによる移動不能を受けたはずだった。しかし、今。
『フハハ、これで自由に動ける! 感謝しないこともないぞ、クリュティエ!』
マクスウェルはアルトの正面を離れて行き、さらにアルトから受けた刀傷が癒えていくではないか。
「回復……? それにBSの解除か……?」
アルトが刀を構え直す。
アルトとセレスの後ろについた、リューリがコンバートソウルからシンクロナイズを発動して、味方のステータスを底上げしていく。
まだマクスウェルは、紅薔薇への注視は振り払ってはいないらしい。
「まずは視界を塞ぐぜェ……!」
シガレットが発煙手榴弾をイグノラビムスに投擲する。
ここは、海沿いの町で、開けた道路だ。完全に無風ではないため、ある程度の煙は流されてしまう。さらにイグノラビムスはサイズ2?3と大き目なこともあり、煙は身体を覆うばかりで、視界まで塞ぎきるのは難しかった。
「イグノラビムス、マクスウェル。とにかく我等はまとまって戦うべきだ。お前たちの能力は、それが最も効率的に運用できる」
イグノラビムスは発煙手榴弾も気にせず、クリュティエの言葉を聴いているらしい。
「注視など気にするな。むしろ……まとまって戦うには好都合だろう?」
ハンターが注視によって、敵を集めるというのなら、それに逆らわずむしろ利用する……それが敵の出した結論だった。
「それでは……我等も、うって出るとしよう」
そうクリュティエが言った途端、耳をつんざく様な咆哮をイグノラビムスが上げた。その瞳は、人間に対する憎悪が漲っている。
『フン、調子にのるなよ、新入り。だが、これは……悪くないッ!!』
マクスウェルも今やクリュティエの方針に乗ることにやぶさかでないらしく、嬉々として大剣を振り回している。
「まずいです……! 分断に失敗しました……!!」
アシェ?ル(ka2983)が言う。
その通りだった。
心技体、鋼の如しは広範囲にBS注視を与えて、敵の視線を集めてしまうため、分断作戦には向かない。
また、相性の悪いことに、クリュティエは抵抗が極めて高いらしく、このBSに引っかからなかった。さらに、敵はまとまって戦うことにしたためにBS注視を逆手に取られてしまう。
ファントムハンドなどで敵を引き込むハンターもいたが、クリュティエによって移動不能は解除されてしまう。
クリュティエは味方を守ることを優先する。そのクリュティエの足止めが出来ず、自由にさせていることも作戦がうまくいかなかった原因のひとつだろう。
そもそも今回の作戦の根幹である「引き離すこと」自体の行動が少なかった。
結果、分断には失敗し、敵は一丸となって突撃してくる。
ハンター達は場当たり的にその処置に追われる形になってしまう。
かくして、混沌の戦場の幕は開いてしまったのだ。
●マクスウェル対応班
BS注視を受けたマクスウェルは紅薔薇へ迫ろうとする。
しかし、リューリや岩井崎 旭(ka0234)のファントムハンドに再び引っ張られる。
辛うじてハンターはマクスウェルをクリュティエやイグノラビムスから引き離そうとする。が、移動不能のBSはクリュティエに解除されてしまう。
「なら、畳み掛けるまでだよ。全てを無に帰せ……ブラックホールカノン!」
夢路 まよい(ka1328)が集束魔により対象を限定したブラックホールカノンを放つ。
禍々しい紫色の球体は、マクスウェルに着弾すると思った刹那、一本の剣がその軌道上に飛び込んだ。
重力波の塊は、剣に激突する。その衝撃のためか、ボキリ、と剣は折れ、しかしクルクルと回転して、剣の持ち主であるクリュティエの元へフリスビーの様に戻っていく。
「庇った、の……!?」
そう。今、剣を投げたのはクリュティエだ。あの技には味方を庇う効果があるらしい。
マクスウェルは過去の交戦の結果から、とても移動力が高いことが判明している。だから、ハンター達はこぞって移動不能や移動阻害を持つスキルをマクスウェルに集中砲火したのだ。
だが、それはことごとく、クリュティエの剣、あるいはクリュティエ自身によって庇われた。剣は庇う度にボキリと折れるようだが、鞘に戻してある程度時間が経つと、刀身は元通り復活するらしい。
『新入り、なかなかやるじゃないか。オマエには俺のお膳立てがお似合いだ!』
その時、マクスウェルがBS注視を解除した。
『やはり、こうして周りを自由に見下せるのはいいことだな。フハハハハハ』
高笑いが響き渡る。
『では、ここからが本番だ。貴様ら、オレの相手をしに来たのだろう? その思惑、多少は乗ってやらんこともない──!』
マクスウェルの姿が消えた。
ワープじみた瞬間移動だ。
次、姿を現したのは、まよいのすぐ隣だった。
『後ろから撃たれるのは厄介だからな。先に沈めッ!!』
まよいに向けて重たい斬撃が振られた。
しかし、それは向きを変え、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)に向かっていくではないか。
ガウスジェイルによる攻撃の吸引である。
「……よお、またお前の触覚を頂きにきたぜ虫野郎!」
さらに、エヴァンスは逆転の一手によるカウンターに、痛撃の咆哮でオーラを纏わせ叩き込む。
『貴様は何時ぞやの……! ええい、一撃ぐらいでいい気になるなよ!!』
エヴァンスはマクスウェルに獰猛な笑みを向けつつも、背後のまよいに言葉をかける。
「まよい、大丈夫か?」
「おかげさまでね、エヴァンス」
エヴァンスはまよいとユウ(ka6891)を守るように構える。
「援護します。私は私に出来ることを」
ユウもまた龍唱?破魔?や龍唱?破邪?で味方を支援する。
マクスウェルが次の攻撃に備えて、距離を取ろうと移動していると、急に彼の足元の地面がドロドロになって足に絡みついた。
「かかりましたね」
夜桜 奏音(ka5754)が設置しておいた地縛符による移動阻害だ。
『小癪な手を……! だが、この程度でオレが怯むと思うなよ……受けるがいい、我が恐慌の光をッ!!』
その時である。マクスウェルからおぞましい光が発せられる、かに思えた。
「ブラックホールカノンは無効化されたからね……そのお返しじゃないけど、その光だけは封じさせてもらうよ?」
まよいがカウンターマジックで恐慌の光を封殺したのだ。
「……マクスウェル、後ろだ」
その時、クリュティエがマクスウェルに注意を促した。
『わかっているッ!』
背中に大剣を回し、マクスウェルは仕掛けられた攻撃を防いだ。
「通じないか」
それはナイトカーテンにより気配を薄くしたメンカルによる攻撃だった。
しかし、真昼の開けた街中では周囲への警戒は容易く、あまり隠密が効果を発揮しない。
「ハハハハッ! 久しぶりだなマクスウェル! 俺の事覚えてないか? じゃあ今日覚えていけ!!!」
ある種好戦的な笑い声をあげるのは仙堂 紫苑(ka5953)だ。
紫苑は機導術・紅鳴により、弾丸に雷撃を纏わせ、さらに解放錬成によってその威力を底上げした射撃攻撃を行う。
その高速の弾丸をマクスウェルは避けることは出来なかった。
「キャリコ、今だ!」
「チャージ完了」
【悪童】の後方で銃を構えるのはキャリコ・ビューイ(ka5044)。
「貴様は、今日! 此処で果てて逝け!」
コンバージェンスのチャージから放たれるサジタリウスは強烈だった。
先ほどの紫苑の攻撃で、マクスウェルには麻痺による行動阻害が付与されている。
それでも、回避しようとするマクスウェルに狭霧 雷(ka5296)がさらにエンタングルでそれを邪魔する。
「顔を見て警戒でもしてくれればいいのですがね」
マクスウェルは大剣でキャリコの弾丸をガードするも、ダメージを負った。
【悪童】の面々はマクスウェルを殺すつもりで攻撃していた。
そんな殺意の塊を受けて、マクスウェルはニヤリと嫌な笑いを浮かべた。
『このオレと戦いたいと言うのなら、それでも立ってみせろッ!!』
「来るか……!」
マクスウェルの次の行動に素早くメンカルが反応した。
再度放たれる強烈な恐慌の光。
「間に合え……!」
メンカルは【悪童】の仲間を庇うように持ち込んでいたマントを広げ、光を遮ろうとする。
同じく雷もマントを広げる。
だが、2人の位置は少々離れており、後方にいる仲間への射線を塞ぐには至らない。そして、この光は、マントや盾で顔や体を覆ったところで防げる代物ではないのだ。
【悪童】はまともに恐慌の光を浴びてしまった。
今放たれた恐慌の光はカウンターマジックにも打ち消されず、無事発動した。【悪童】には直撃し、彼らの戦線は瓦解している。
しかし、マクスウェルは苦々しげな顔をしていた。
マクスウェルが睨みつけるのは、旭とその周囲にいるハンター達。
「ああ、いつかの友への誓いにかけて、マクスウェル! お前をブッ倒す!」
多くの仲間を守るように旭が覇者の剛勇を発動していたために、今の恐慌の光は、完全に戦線を壊滅させるには至らなかったのだ。
『オレの力を無効化しただと!? おのれェ……!』
「これは怒りだ! てめぇに捻じ曲げられた多くの意志が上げる炎だ!」
そして、恐慌の光を塗り替えるような、聖なる光が旭から放たれた。
我が正義の侭に。
敵のみを焼き尽くす、正義の光だった。
『くっ……!』
周囲に放射される光を避けるのは難しい。何よりこの光は防御を無視する効果を持つ。
それでも、マクスウェルは止まらない。瞬間移動を繰り返し、ハンターを次々に攻撃していく。
そして、その時、覇者の剛勇の効果が切れた。
「ならもう一度守り抜く!」
すぐに旭が再度覇者の剛勇を発動しようとする。
『いや……オレの方が速いッ!!』
宣言通り、次の行動、マクスウェルの方が速かった。
恐慌の光があたりを照らす。
だが、それは。
「そのままあなたに返しますよ、マクスウェル」
光は奏音に収束していき、5枚の符に閉じ込められた。
奏音が発動したのは呪詛返し。
同じBSを、BSを与えようとした相手にそのまま返す、符術師の技だった。呪詛返しは、BSを跳ね返す時、さらにそのBSに強度を上乗せする。恐慌の光は奏音によってさらに凶悪なモノになってマクスウェルへと返っていった。
自らのスキルのBSに陥るマクスウェル。しかし、それはクリュティエの回復によって解除された。
「落ち着けマクスウェル」
『落ち着いているわッ! おのれェ……!』
「黙示騎士マクスウェル、右足の調子はどうだい?」
そんなマクスウェルに声をかけるのはヴァイス(ka0364)だ。
魔鎌「ヘクセクリンゲ」は蒼炎の効果により魔法威力が上乗せされている。
マクスウェルの瞳に憤怒の色が宿る。かつて、右足を斬り落とされたことを忘れてはいないのだ。
『貴様……貴様ら……!』
マクスウェルの瞳の中で屈辱の記憶がゆらめく。
「マクスウェル、まともに取り合うな。冷静に対応すれば、そう辛くない戦いだ」
『……』
「お前の戦闘能力は黙示騎士最強だ。まともにやれば負けはありえん」
マクスウェルはハンターを睨みつける。が、ちょっとすると、その瞳の中で燃えていた感情の炎が少しおさまった。
『フンッ、先ほども言ったが、この戦闘中くらいは言葉を聞いてやらんでもない。貴様の指示は的確らしいしな。……だが、勘違いするなよ? オレが貴様に使われるのではない、オレが貴様を使ってやっているのだからな!!』
そして、マクスウェルは高らかに笑った。
ヴァイスは背後で守っているアニス・エリダヌス(ka2491)に声をかける。
「アニス……必ず生きて切り抜けよう」
「はい。……皆で、ですよ?」
アニスは柔らかに微笑んだ。
●イグノラビムス・クリュティエ対応班
イグノラビムスもBS注視により紅薔薇から目が離せない。
イグノラビムスはクリュティエの言う方針に従い、あまり彼女たちから離れずに攻撃に移る。
つまり、クリュティエ対応班とイグノラビムス対応班が混線する。
そんな中、アシェールが激辛弾「デスピア」をイグノラビムスに向けて撃ち込んだ。着弾箇所に塗料が付着される。
こうしていれば、この先イグノラビムスが増殖しても本体を見極められると思っての事だ。
イグノラビムスはそんなことには頓着せず、紅薔薇に向かって腕に纏った炎を飛ばして攻撃する。
「あんたの相手はこっちよ!」
覚醒で性格が猟奇的になったエリ・ヲーヴェン(ka6159)がラストテリトリーを発動して、紅薔薇へ撒き散らされる黒炎を一身に集める。さらに鎧受けを発動してダメージを減らす。
エリはまた、ソウルトーチによってイグノラビムスの気を引こうとした。しかし分断に失敗したために、近くに心技体、鋼の如しを発動している紅薔薇がおり、そちらの方が効果が強いために、ソウルトーチの効果はなかった。
「煩わしいわね、この炎……!」
そして、炎はなおもエリの体に残り続け継続的なダメージを与える。
「こりゃあまずいねえ。でも、浄化地帯は確保しかたらね。おっさんは皆のサポートに回るとしますかね」
機導浄化術・白虹により非汚染地域を確保した鵤(ka3319)がエリやマッシュにアンチボディを施し、ダメージを回復、あるいは予防をする。
保・はじめ(ka5800)の修祓陣もエリを効果範囲におさめている。
しかし、イグノラビムスの攻撃威力は高く、種族『人間』に対するダメージを倍増させる能力のため、なかなか回復が追いつかない。
「大した憎悪に炎っすね?。でもいいんすか? 俺達を焼き払ったら邪神が取り込めないっすよ? あるいはそれが目的っす?」
神楽(ka2032)がイグノラビムスに問いかける。
「つーかいくら憤怒だからって餌でしかない人間をここまで憎悪できるもんなんす? なんか納得できないっすよね。聞いても答えられないだろうけどあえて聞くっす。お前の憎悪は本当に俺達に向けられたものなんす?」
やはり、イグノラビムスは答えない。ただその瞳には憎悪が燃えているだけだ。
「狼野郎。わたくしのことを無視するんじゃねぇです」
ドワーフであることを利用し、人間を主に狙うイグノラビムスにそっと肉薄していたシレークス(ka0752)が魔法剣の効果を付与された機甲拳鎚、さらにサクラ・エルフリード(ka2598)のホーリーセイバーにより聖なる光を与えられ、柔能剛制でイグノラビムスを投げ飛ばした。
「脳筋特攻、支援させて貰いますよ……。倒されても一回だけは復帰出来ますから遠慮せず無茶をしてきてください……」
「聖職者をなめんじゃねえ!」
さらに追撃のシレークス式聖闘術『何処に行き給う』が放たれる。
イグノラビムスが立ち上がる前に、コーネリアのフローズンパニッシャーによる攻撃が腕を貫いた。
だが、イグノラビムスは炎を鎧のように使い、ダメージを軽減したらしい。
「いやはや、なんとも邪魔ですな、あの炎は」
マッシュは今コーネリアが炎を剥がした腕を剣で斬りつける。
炎の剥がれた腕には認識阻害の効果も、ダメージを軽減する効果もない。
「大層嫌われているようですが……まあ、お互い様、ですね」
イグノラビムスは立ち上がり、再び攻勢に移る。
その瞳には、やはり憎悪の炎が燃えていた。
そして、イグノラビムスが纏っている炎が一層燃えあがり、竜巻を作った。
「受けてばっかりは癪だけど、合理的判断よ……!」
その竜巻をやはりラストテリトリーでエリが一身に受ける。先ほどの黒炎を受けたこともあり、人間のエリは大ダメージを受けている状態だ。
鵤のアンチボディや、シガレットのフルリカバリーが回復するが、それを上回る速度で、イグノラビムスは攻撃を続ける。
叩き潰すようなイグノラビムスの拳が振り下ろされ、エリに命中し、ついに彼女は気絶した。
そして、進撃を続けるイグノラビムスは咆哮を上げて、増殖する。
「来ましたね!」
アシェールのつけた激辛弾によるペイントまでは増殖でコピーされない。
「増殖全てが本体なのか、分体なのか、この機会に明らかにします」
アシェールが編み上げた礫流をペイントのあるイグノラビムスにぶつける。
しかし、増殖した個体は、元になった個体を庇うというようなことをしなかった。
「……いやな結論ですけど、もしかして全てが本体、ということですか……? でも、やることは変わりませんね」
アシェールは人間であることを利用した高威力魔法を次々と撃ち込んでいく。
だが、そもそもハンターは敵の分断に失敗してしまった。
「後衛には攻撃は通さないつもりですが、どうにも重たい攻撃ですな」
マッシュはガウスジェイルを展開して後衛を守る。
イグノラビムスもBS注視をついに振り払い、マッシュに向けて攻撃を集中させる。
シガレットがフルリカバリーで回復するも、2体に分裂したイグノラビムスの攻撃は苛烈だ。突破されるのは時間の問題だった。
「カレンさん……ではないんですよね」
Uisca Amhran(ka0754)がクリュティエに問いかける。
「大精霊と接触する目的は何です?」
「和平交渉のためだ」
クリュティエはUiscaの質問に案外あっさり答えた。
「和平……交渉?」
「そうだ。我は戦いを無意味な事と考える。お前たちが手を出さなければ、我らもここは退くが?」
「そうですか。……そうなのかもしれませんね。でも……」
あまりにも予想外の答えに、どのように向き合えばいいのかもわからないが――。
「私はかつて、カレンさんに思うままにって伝えました。私もただ思うままに戦うのみですっ」
マーキス・ソングと【再演】絆ヲ紡グ想イノ謡によってアイデアル・ソングを発動するUisca。そして、【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻でクリュティエを串刺しにしていく。
だが、移動不能にすることは出来ない。
そこへGacruxの連断が叩き込まれる。その勢いは凄まじく、討伐の気概を見せていた。
「ところでクリュティエ、アンタ聖導士か」
クリュティエの回復能力を見てのトリプルJ(ka6653)の考察だった。
「ハンターと同じ分類が出来るとは思わない方が良い」
ただ、クリュティエはそう答えた。
「なるほど確かにな。……にしても防御力重視で攻撃力が半減か……まあ7Rは死んでも保たせるから、殴る方は期待しないでくれや?」
クリュティエは高い抵抗を持っているのか、BSが効かない。
分断に失敗していることもあり、クリュティエもまた、自由に動ける状態だった。
クリュティエの行動は主にマクスウェルの支援に使われていた。
ハンター達はクリュティエに攻撃をするも、高い防御と抵抗のためになかなか攻撃とBSが通らない。
それでも時間は過ぎていく。
そして、大地を揺るがす咆哮が戦場に響き渡った。
前面で攻撃を受けて立っていたマッシュをついにイグノラビムスが倒し、ハンターをさらに激しく攻めたてはじめたのだ。
「一時的に動きを止めるのじゃ! その間に戦線の立て直しを!!」
紅薔薇がなだれ込んできたイグノラビムスに向かって智の聖域を発動する。スキル使用不能、移動不能、行動阻害を同時に与えるスキルだ。
だが、それもクリュティエの回復スキルによってBSを解除されてしまう。
自由になったイグノラビムスは次々にハンターを攻撃していく。
そして、イグノラビムスは増殖する。
「げ、また増えたっす」
結果。その数は16体になった。
神楽はイグノラビムスを観察して、どんなタイミングで増殖が発動するのか見極めようとしていた。
「最初が2体で、今が16体っすか。最初から16体に増殖しないってことは、何かしらのきっかけが必要っぽいっすけど……」
2体から16体になる時に変わった事といえば、イグノラビムス対応班の前衛が倒されて、イグノラビムスが他の敵に対応しているハンターたちを襲い始めたことだ。
「それがきっかけのひとつなんすかね……?」
そんな神楽の推測を黒い炎が焼き払う。
●混戦の末
「ああ、もうっ、鬱陶しいなぁ!」
まよいのマクスウェルを狙う魔法をまたクリュティエが防いだのだ。
『フハハハハ、どうしたハンター共! その程度でオレを倒すつもりか!?』
マクスウェルはクリュティエのフォローと指示で自在に戦場を駆け回る。
「マクスウェル、あまり前衛に構いすぎるな。本来お前の能力は奇襲に向く」
マクスウェルはワープを繰り返し、衝撃波や鋭い突きで、前衛どころか後衛を巻き込む攻撃を繰り返す。また、クリュティエの指示が的確だと悟ったのか、指示自体には従っている。
「何、我も守るだけではない。戦うこともできる」
さらに、クリュティエはまよいの魔法を受けて折れた剣を鞘に納めて、別の剣を引き抜く。
そして、二刀を使って、ハンターへの攻撃に参加した。
「誓います……この手の届く範囲では、誰も死なせはしないと!」
アニスがすぐに回復スキルによって傷を癒していく。
これほどの混戦では、マクスウェル対応者も、同時にクリュティエの対応をせざるを得ない。
そこへなだれ込んでくるのは16体に分裂したイグノラビムスだ。
「これでは……回復が追いつきません……!」
アニスは回復に特化していた。それにヴァイスという前衛もいて、回復に専念できていた。だが、どうにも敵の数が多すぎる。
増殖したイグノラビムスは戦場のそこかしこに存在している。もちろんマクスウェルに対応している者達の周囲にもやって来ている。
そして、それらの個体が一斉に、纏った炎で竜巻を発生させた。
周囲を無差別に攻撃する黒炎竜巻の一斉発動だった。
戦場に黒い炎が吹き荒れる。それは負のマテリアルで周囲を汚染する効果をもつ凶悪な炎の渦だった。
「こんな広範囲で発動されては、浄化が間に合わない……!」
はじめや鵤などそもそもイグノラビムスに対応していた面子はマテリアル汚染に対抗する手段を持っていたが、術者の数が少な過ぎた。
黒炎が吹き荒れた後には幾人ものハンターが倒れていた。とくにイグノラビムスに対応していた者たちは何体もの黒炎竜巻を繰り返し巻き込まれ、大ダメージを受けてしまったのだ。
また、前衛として、マクスウェルと主に交戦していたエヴァンスとヴァイスの傷は深く、そこへ黒炎竜巻に巻き込まれたので、重いダメージを負い、倒れてしまう。 こうして黒炎が戦場を焼くことによって、ますますマクスウェルの包囲は困難になった。
『……他愛ないな』
マクスウェルが言った。
「待て」
だが、あの嵐のような黒炎の攻撃を受けても、立っている者たちは、いた。
「まだ、私がいるぞ」
アルトがそのひとりだった。
「こんなところで倒れるわけにはいかないんだ、俺は」
旭も炎を払って立ち上がる。
「妾の役目は最後まで倒れない事……世界に守護者が帰って来たと……クリュティエに……カレンに伝えるため」
紅薔薇もまだ戦える。
「やられっぱなしじゃ、終われないよな?」
リュー・グランフェスト(ka2419)が星神器「エクスカリバー」の切っ先をクリュティエに向ける。
「俺はおまえを止めに来たんだ」
「大丈夫、回復は任せてください」
セレスティア(ka2691)がリューやレイア・アローネ(ka4082)の傷を癒していく。
「切り札はある」
レイアの星神器「天羽羽斬」が煌めく。
「天羽羽斬の初陣をこんな無様で終わらすわけにはいかないからな」
「行くぜ、レイア、セティ! 俺たちの戦場はここにある!!」
それは世界の物理法則を変える大魔法。
王の力を分け与え、全員を英雄へと導く力。
エクスカリバーによるスキル、ナイツ・オブ・ラウンド。
その加護を受けてレイアとセレスティア、リューがクリュティエに向かって駆け出した。
「先手は確実にとります!」
先手必勝により、敵の先を読むセレスティア。
まずは一刀、セレスティアがクリュティエを斬りつけようとする。
しかし、クリュティエはそれを避けた。
「私の攻撃は当たらなくてもいい……! レイア! お願い!」
「さあ、見せてみろ、天羽羽斬……! お前が……いや、私がお前を持つに相応しいか、存分に試すといい……!」
すでにナイツ・オブ・ラウンズによってレイアの近接威力はリューのそれに上書きされている。
続いて、繰り出されるのは、天羽羽斬によるスキル、オロチアラマサ。
「む……!?」
最前、セレスティアの攻撃を避けたために、クリュティエのレイアへの対応が少し、遅れた。
「受けるがいい!」
振り抜かれる刀。濡れたように美しい刀身がクリュティエを、斬りつける。
「な、に……!?」
それは高防御を誇る、クリュティエをもってしても受け切れない斬撃。神を殺す一撃。
それに、クリュティエの体勢が揺らいだ。
「決めてしまえ! リュー!!」
「まかせろ!!」
繰り出されたのは三位一体の攻撃。
続くリューのエクスカリバーは鋭い刺突をクリュティエの腹に浴びせる。
「まだだ……貫け、エクスカリバー!」
エクスカリバーに乗せされた魔法剣の効果が、爆ぜた。
リバースエッジの、魔法剣強制解除によるオーラを解放した斬撃だった。
「……っ!」
ついに、クリュティエが膝をついた。
それほどまでに、3人の攻撃は苛烈だったのだ。
「ここまで我が傷を受けるとは……ん?」
クリュティエが空を見た。
それは大精霊がいた方角だった。
そしてクリュティエは呟いた。
「そうか……大精霊は転移したか……」
立ち上がったクリュティエはハンターに背を向けた。
「帰ろう、マクスウェル、イグノラビムス。大精霊は転移した。ハンターの力も見た。この地にもう用はない」
『なんだ? 戦いは終わりか? せっかくこのオレが本来の力を発揮していたというのに……』
マクスウェルも、もはや目的が達成できないことを理解したので、大剣をおさめた。
イグノラビムスはクリュティエの指示には従うらしい。分裂した個体は爆ぜるように消え、一体だけに戻った。
「ハンター……その力は想像以上だ。確かに歴史上最強の守護者だろう。だが……それだけの守護者を投入してこの様か」
その呟きは落胆を感じさせた。
「神の力を振りかざすだけでは、仲間は守れんぞ。さらばだ、ハンター。また機会があれば、な」
こうして、黙示騎士とクリュティエはお台場を去っていた。
それを追いかける余力はハンターには残っていなかった。
●戦いのあと
「終わった、な」
リューが言った。
確かに黙示騎士とクリュティエは撤退した。大精霊リアルブルーとの接触は阻止できた。けれど……。
リューが戦場を見渡す。
そこには数多くのハンターが倒れていた。
「決して快勝、とは言えませんね……」
苦い顔のリューに、セレスティアも同意した。
「ああ。でも、死者はいない」
レイアも言葉を紡ぐ。
戦場には静けさが戻っていた。
「あんた、仇花の騎士ですか」
Gacrux(ka2726)がクリュティエに言う。
「仇花……か。確かに我の元になったのはそれだ。クリムゾンウェストの守護者と呼ぶべきだろう」
同じ仇花の騎士であるカレンデュラ(kz0262)とは明らかに違う口調。
けれど、その格好は酷似している。そして、それをあっさりクリュティエは認めた。
「元になった……?」
「いかにも、我が身はシュレディンガーが観測したカレンデュラのデータによって複製されたモノ。それだから、似ていない方が無理がある」
複製……クリュティエはそう口にした。
それを聞いた途端、Gacruxの目に瞋恚の炎が燃え上がった。
「シュレディンガー……! あの野郎……!!」
Gacruxはカレンデュラの思いを知っている。
だからこそ、その行為はカレンデュラに対する侮辱に他ならない、と思ったのだ。
●会敵
ハンターたちは大精霊の元へ向かっていると思われる黙示騎士達の道を阻んだ。
今回確認されたのは、新たなる敵クリュティエ、黙示騎士マクスウェル、黙示騎士イグラビムスの3体。逆に言えば、それ以外に敵はない。
だが、1体でも凄まじい戦闘力を持つ黙示騎士に初遭遇の敵だ。油断はできない。
「これはまたぞろぞろと……ご苦労な事ですな」
マッシュ・アクラシス(ka0771)が呟いた。
「……カレン? あんな所で何してるんだ」
カレンデュラと友達であるメンカル(ka5338)もそのカレンデュラとクリュティエの酷似した容姿にから不審に思う。
そして最前のGacruxとの問答。
ハンターたちはクリュティエがカレンデュラとは似ているが、完全に別の存在であると確信した。
「とにかく、ここから先には進ませません」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)が前に出る。
そして、凍てつくような静かな笑みをマクスウェルに向けた。
「ここで殺──いえ……誰がやってもいい。死んでください、マクスウェル」
『フッ! 言うじゃないか、ハンター!』
腕を組んで、相変わらず偉そうにしていたマクスウェルがアルマの言葉に明確な殺意を見て取って、大剣を引き抜いた。
『ふむ……集まったハンター共は32人というところか。ざっと計算して、ひとりあたり10人ほど相手取れば問題あるま──』
「待て、マクスウェル」
今にも飛びかかりそうなマクスウェルをクリュティエが制した。
「ここは3人まとまって戦うべきだ」
と、クリュティエはそんな方針を提案したのだ。
『……貴様、オレに命令する気か? 新入りの癖に仕切るな!』
マクスウェルはそう怒鳴るが、クリュティエは静かな紫の瞳を曇らすことはない。
そして、そのクリュティエの言葉に従ったのは意外にもイグノラビムスだった。
彼は、若干空いていたマクスウェルとクリュティエとの距離を詰める。
『何ッ!? イグノラビムス、貴様正気か!?』
マクスウェルの驚嘆にもイグノラビムスは動じず、どうやら本当にクリュティエの言う通りに動くつもりらしい。
「仲間割れ……というより、団結しちまったか?」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)がそんな黙示騎士達の様子を見て言う。シガレットは最初から、クリュティエが指揮をとるであろうことを予想してはいたのだ。
「遊びの時間は終わりだ。私がここに来た以上、貴様らの計画はこれですべてがご破算だ」
銃口をイグノラビムスに向けるコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)。
「クリュティエは妾達が相手をしよう」
するり、と祈りの剣を鞘から引き抜いて、前へでる紅薔薇(ka4766)。
「大精霊に守護者権限の発動を申請……。我は今より人ではあらず『守護者』という名の剣なり!!」
紅薔薇がそう宣言した途端、彼女の中の力が増大した。
超覚醒。守護者のみが扱える超級のスキルが発動されたのだ。
続いて、紅薔薇の体が燃えあがった、かのような錯覚を誰もが覚えた。
心技体、鋼の如しによる肉体の大幅強化。それはマテリアルの輝きを以って行われ、BS注視を効果範囲内の敵に付与することもでき、スキルの効果範囲内にいれば発動者へ背を向けていようが、BS注視の付与対象とするのだ。
マクスウェルとイグノラビムスの視線が紅薔薇に引き寄せられた。
可能であればより細かく敵の分断を狙いたかったが、三体の敵は既にまとまった位置取りをしている。
これを完全分断するにはより具体的なサポートが必要だったが、敵の動きが既に予想と異なり、策が足りない。
まずは敵の注目を集め、ここから分断のきっかけを探る為にも、先手で心技体、鋼の如しを用いたのだが――。
「……ほう」
しかし、クリュティエだけは平然と、ハンター『達』を見ている。
「……この力を以ってしても平気だというのか?」
「この程度、痛痒しない」
『なんだ、ひとり余裕ぶりおって……ムオ!?』
言葉の途中でマクスウェルの体が引っ張られた。
「まずはマクスウェルだね!」
リューリ・ハルマ(ka0502)がファントムハンドでマクスウェルを引っ張り出したのだ。
ハンター達は3人を分断し各個対応するつもりなのだった。
そして、マクスウェルが引っ張り出された正面には赤い髪のハンターがいた。
「何度か戦ったが、名乗っていなかった気がするな」
紅薔薇と同じく、超覚醒によって絶大な力を得たアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)である。
「大精霊からの言祝ぎは『最強』。クリムゾンウエストの守護者がひとり、アルト・ヴァレンティーニ。……お前を滅ぼしにきた」
炎の様なオーラを纏い、アルトは大地を強く踏み付ける。
そしてリューリがファントムハンドで引っ張ってきたマクスウェルに体当たりにも似た刺突を放った。
直前にセレス・フュラー(ka6276)がエンタングルで回避を下げる。
「じゃ、頑張ってねアルトくん。あたしは後ろで援護するからさ」
セレスは、マーキス・ソング、そしてアンコールでアイデアル・ソングを発動している。
咄嗟に大剣で防ぐも、肩口に刀傷を受けるマクスウェル。
そんなマクスウェルにクリュティエが語りかける。
「マクスウェル。ハンターは我々を分断するつもりのようだぞ?」
『クッ……、貴様の命令をきくのも癪だが、ハンターの思う通りに動くのはもっと癪だ……! いいだろう、今回ばかりは貴様の言う通りにしてやるぞ、クリュティエ!!』
「そうこなくては、な」
クリュティエに負のマテリアルが収斂していく。それは明らかに、何らかの技の行使だった。
紅薔薇が身構える。
しかし、収斂したマテリアルは、マクスウェルへと施された。
マクスウェルは確かにリューリのファントムハンドによる移動不能を受けたはずだった。しかし、今。
『フハハ、これで自由に動ける! 感謝しないこともないぞ、クリュティエ!』
マクスウェルはアルトの正面を離れて行き、さらにアルトから受けた刀傷が癒えていくではないか。
「回復……? それにBSの解除か……?」
アルトが刀を構え直す。
アルトとセレスの後ろについた、リューリがコンバートソウルからシンクロナイズを発動して、味方のステータスを底上げしていく。
まだマクスウェルは、紅薔薇への注視は振り払ってはいないらしい。
「まずは視界を塞ぐぜェ……!」
シガレットが発煙手榴弾をイグノラビムスに投擲する。
ここは、海沿いの町で、開けた道路だ。完全に無風ではないため、ある程度の煙は流されてしまう。さらにイグノラビムスはサイズ2?3と大き目なこともあり、煙は身体を覆うばかりで、視界まで塞ぎきるのは難しかった。
「イグノラビムス、マクスウェル。とにかく我等はまとまって戦うべきだ。お前たちの能力は、それが最も効率的に運用できる」
イグノラビムスは発煙手榴弾も気にせず、クリュティエの言葉を聴いているらしい。
「注視など気にするな。むしろ……まとまって戦うには好都合だろう?」
ハンターが注視によって、敵を集めるというのなら、それに逆らわずむしろ利用する……それが敵の出した結論だった。
「それでは……我等も、うって出るとしよう」
そうクリュティエが言った途端、耳をつんざく様な咆哮をイグノラビムスが上げた。その瞳は、人間に対する憎悪が漲っている。
『フン、調子にのるなよ、新入り。だが、これは……悪くないッ!!』
マクスウェルも今やクリュティエの方針に乗ることにやぶさかでないらしく、嬉々として大剣を振り回している。
「まずいです……! 分断に失敗しました……!!」
アシェ?ル(ka2983)が言う。
その通りだった。
心技体、鋼の如しは広範囲にBS注視を与えて、敵の視線を集めてしまうため、分断作戦には向かない。
また、相性の悪いことに、クリュティエは抵抗が極めて高いらしく、このBSに引っかからなかった。さらに、敵はまとまって戦うことにしたためにBS注視を逆手に取られてしまう。
ファントムハンドなどで敵を引き込むハンターもいたが、クリュティエによって移動不能は解除されてしまう。
クリュティエは味方を守ることを優先する。そのクリュティエの足止めが出来ず、自由にさせていることも作戦がうまくいかなかった原因のひとつだろう。
そもそも今回の作戦の根幹である「引き離すこと」自体の行動が少なかった。
結果、分断には失敗し、敵は一丸となって突撃してくる。
ハンター達は場当たり的にその処置に追われる形になってしまう。
かくして、混沌の戦場の幕は開いてしまったのだ。
●マクスウェル対応班
BS注視を受けたマクスウェルは紅薔薇へ迫ろうとする。
しかし、リューリや岩井崎 旭(ka0234)のファントムハンドに再び引っ張られる。
辛うじてハンターはマクスウェルをクリュティエやイグノラビムスから引き離そうとする。が、移動不能のBSはクリュティエに解除されてしまう。
「なら、畳み掛けるまでだよ。全てを無に帰せ……ブラックホールカノン!」
夢路 まよい(ka1328)が集束魔により対象を限定したブラックホールカノンを放つ。
禍々しい紫色の球体は、マクスウェルに着弾すると思った刹那、一本の剣がその軌道上に飛び込んだ。
重力波の塊は、剣に激突する。その衝撃のためか、ボキリ、と剣は折れ、しかしクルクルと回転して、剣の持ち主であるクリュティエの元へフリスビーの様に戻っていく。
「庇った、の……!?」
そう。今、剣を投げたのはクリュティエだ。あの技には味方を庇う効果があるらしい。
マクスウェルは過去の交戦の結果から、とても移動力が高いことが判明している。だから、ハンター達はこぞって移動不能や移動阻害を持つスキルをマクスウェルに集中砲火したのだ。
だが、それはことごとく、クリュティエの剣、あるいはクリュティエ自身によって庇われた。剣は庇う度にボキリと折れるようだが、鞘に戻してある程度時間が経つと、刀身は元通り復活するらしい。
『新入り、なかなかやるじゃないか。オマエには俺のお膳立てがお似合いだ!』
その時、マクスウェルがBS注視を解除した。
『やはり、こうして周りを自由に見下せるのはいいことだな。フハハハハハ』
高笑いが響き渡る。
『では、ここからが本番だ。貴様ら、オレの相手をしに来たのだろう? その思惑、多少は乗ってやらんこともない──!』
マクスウェルの姿が消えた。
ワープじみた瞬間移動だ。
次、姿を現したのは、まよいのすぐ隣だった。
『後ろから撃たれるのは厄介だからな。先に沈めッ!!』
まよいに向けて重たい斬撃が振られた。
しかし、それは向きを変え、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)に向かっていくではないか。
ガウスジェイルによる攻撃の吸引である。
「……よお、またお前の触覚を頂きにきたぜ虫野郎!」
さらに、エヴァンスは逆転の一手によるカウンターに、痛撃の咆哮でオーラを纏わせ叩き込む。
『貴様は何時ぞやの……! ええい、一撃ぐらいでいい気になるなよ!!』
エヴァンスはマクスウェルに獰猛な笑みを向けつつも、背後のまよいに言葉をかける。
「まよい、大丈夫か?」
「おかげさまでね、エヴァンス」
エヴァンスはまよいとユウ(ka6891)を守るように構える。
「援護します。私は私に出来ることを」
ユウもまた龍唱?破魔?や龍唱?破邪?で味方を支援する。
マクスウェルが次の攻撃に備えて、距離を取ろうと移動していると、急に彼の足元の地面がドロドロになって足に絡みついた。
「かかりましたね」
夜桜 奏音(ka5754)が設置しておいた地縛符による移動阻害だ。
『小癪な手を……! だが、この程度でオレが怯むと思うなよ……受けるがいい、我が恐慌の光をッ!!』
その時である。マクスウェルからおぞましい光が発せられる、かに思えた。
「ブラックホールカノンは無効化されたからね……そのお返しじゃないけど、その光だけは封じさせてもらうよ?」
まよいがカウンターマジックで恐慌の光を封殺したのだ。
「……マクスウェル、後ろだ」
その時、クリュティエがマクスウェルに注意を促した。
『わかっているッ!』
背中に大剣を回し、マクスウェルは仕掛けられた攻撃を防いだ。
「通じないか」
それはナイトカーテンにより気配を薄くしたメンカルによる攻撃だった。
しかし、真昼の開けた街中では周囲への警戒は容易く、あまり隠密が効果を発揮しない。
「ハハハハッ! 久しぶりだなマクスウェル! 俺の事覚えてないか? じゃあ今日覚えていけ!!!」
ある種好戦的な笑い声をあげるのは仙堂 紫苑(ka5953)だ。
紫苑は機導術・紅鳴により、弾丸に雷撃を纏わせ、さらに解放錬成によってその威力を底上げした射撃攻撃を行う。
その高速の弾丸をマクスウェルは避けることは出来なかった。
「キャリコ、今だ!」
「チャージ完了」
【悪童】の後方で銃を構えるのはキャリコ・ビューイ(ka5044)。
「貴様は、今日! 此処で果てて逝け!」
コンバージェンスのチャージから放たれるサジタリウスは強烈だった。
先ほどの紫苑の攻撃で、マクスウェルには麻痺による行動阻害が付与されている。
それでも、回避しようとするマクスウェルに狭霧 雷(ka5296)がさらにエンタングルでそれを邪魔する。
「顔を見て警戒でもしてくれればいいのですがね」
マクスウェルは大剣でキャリコの弾丸をガードするも、ダメージを負った。
【悪童】の面々はマクスウェルを殺すつもりで攻撃していた。
そんな殺意の塊を受けて、マクスウェルはニヤリと嫌な笑いを浮かべた。
『このオレと戦いたいと言うのなら、それでも立ってみせろッ!!』
「来るか……!」
マクスウェルの次の行動に素早くメンカルが反応した。
再度放たれる強烈な恐慌の光。
「間に合え……!」
メンカルは【悪童】の仲間を庇うように持ち込んでいたマントを広げ、光を遮ろうとする。
同じく雷もマントを広げる。
だが、2人の位置は少々離れており、後方にいる仲間への射線を塞ぐには至らない。そして、この光は、マントや盾で顔や体を覆ったところで防げる代物ではないのだ。
【悪童】はまともに恐慌の光を浴びてしまった。
今放たれた恐慌の光はカウンターマジックにも打ち消されず、無事発動した。【悪童】には直撃し、彼らの戦線は瓦解している。
しかし、マクスウェルは苦々しげな顔をしていた。
マクスウェルが睨みつけるのは、旭とその周囲にいるハンター達。
「ああ、いつかの友への誓いにかけて、マクスウェル! お前をブッ倒す!」
多くの仲間を守るように旭が覇者の剛勇を発動していたために、今の恐慌の光は、完全に戦線を壊滅させるには至らなかったのだ。
『オレの力を無効化しただと!? おのれェ……!』
「これは怒りだ! てめぇに捻じ曲げられた多くの意志が上げる炎だ!」
そして、恐慌の光を塗り替えるような、聖なる光が旭から放たれた。
我が正義の侭に。
敵のみを焼き尽くす、正義の光だった。
『くっ……!』
周囲に放射される光を避けるのは難しい。何よりこの光は防御を無視する効果を持つ。
それでも、マクスウェルは止まらない。瞬間移動を繰り返し、ハンターを次々に攻撃していく。
そして、その時、覇者の剛勇の効果が切れた。
「ならもう一度守り抜く!」
すぐに旭が再度覇者の剛勇を発動しようとする。
『いや……オレの方が速いッ!!』
宣言通り、次の行動、マクスウェルの方が速かった。
恐慌の光があたりを照らす。
だが、それは。
「そのままあなたに返しますよ、マクスウェル」
光は奏音に収束していき、5枚の符に閉じ込められた。
奏音が発動したのは呪詛返し。
同じBSを、BSを与えようとした相手にそのまま返す、符術師の技だった。呪詛返しは、BSを跳ね返す時、さらにそのBSに強度を上乗せする。恐慌の光は奏音によってさらに凶悪なモノになってマクスウェルへと返っていった。
自らのスキルのBSに陥るマクスウェル。しかし、それはクリュティエの回復によって解除された。
「落ち着けマクスウェル」
『落ち着いているわッ! おのれェ……!』
「黙示騎士マクスウェル、右足の調子はどうだい?」
そんなマクスウェルに声をかけるのはヴァイス(ka0364)だ。
魔鎌「ヘクセクリンゲ」は蒼炎の効果により魔法威力が上乗せされている。
マクスウェルの瞳に憤怒の色が宿る。かつて、右足を斬り落とされたことを忘れてはいないのだ。
『貴様……貴様ら……!』
マクスウェルの瞳の中で屈辱の記憶がゆらめく。
「マクスウェル、まともに取り合うな。冷静に対応すれば、そう辛くない戦いだ」
『……』
「お前の戦闘能力は黙示騎士最強だ。まともにやれば負けはありえん」
マクスウェルはハンターを睨みつける。が、ちょっとすると、その瞳の中で燃えていた感情の炎が少しおさまった。
『フンッ、先ほども言ったが、この戦闘中くらいは言葉を聞いてやらんでもない。貴様の指示は的確らしいしな。……だが、勘違いするなよ? オレが貴様に使われるのではない、オレが貴様を使ってやっているのだからな!!』
そして、マクスウェルは高らかに笑った。
ヴァイスは背後で守っているアニス・エリダヌス(ka2491)に声をかける。
「アニス……必ず生きて切り抜けよう」
「はい。……皆で、ですよ?」
アニスは柔らかに微笑んだ。
●イグノラビムス・クリュティエ対応班
イグノラビムスもBS注視により紅薔薇から目が離せない。
イグノラビムスはクリュティエの言う方針に従い、あまり彼女たちから離れずに攻撃に移る。
つまり、クリュティエ対応班とイグノラビムス対応班が混線する。
そんな中、アシェールが激辛弾「デスピア」をイグノラビムスに向けて撃ち込んだ。着弾箇所に塗料が付着される。
こうしていれば、この先イグノラビムスが増殖しても本体を見極められると思っての事だ。
イグノラビムスはそんなことには頓着せず、紅薔薇に向かって腕に纏った炎を飛ばして攻撃する。
「あんたの相手はこっちよ!」
覚醒で性格が猟奇的になったエリ・ヲーヴェン(ka6159)がラストテリトリーを発動して、紅薔薇へ撒き散らされる黒炎を一身に集める。さらに鎧受けを発動してダメージを減らす。
エリはまた、ソウルトーチによってイグノラビムスの気を引こうとした。しかし分断に失敗したために、近くに心技体、鋼の如しを発動している紅薔薇がおり、そちらの方が効果が強いために、ソウルトーチの効果はなかった。
「煩わしいわね、この炎……!」
そして、炎はなおもエリの体に残り続け継続的なダメージを与える。
「こりゃあまずいねえ。でも、浄化地帯は確保しかたらね。おっさんは皆のサポートに回るとしますかね」
機導浄化術・白虹により非汚染地域を確保した鵤(ka3319)がエリやマッシュにアンチボディを施し、ダメージを回復、あるいは予防をする。
保・はじめ(ka5800)の修祓陣もエリを効果範囲におさめている。
しかし、イグノラビムスの攻撃威力は高く、種族『人間』に対するダメージを倍増させる能力のため、なかなか回復が追いつかない。
「大した憎悪に炎っすね?。でもいいんすか? 俺達を焼き払ったら邪神が取り込めないっすよ? あるいはそれが目的っす?」
神楽(ka2032)がイグノラビムスに問いかける。
「つーかいくら憤怒だからって餌でしかない人間をここまで憎悪できるもんなんす? なんか納得できないっすよね。聞いても答えられないだろうけどあえて聞くっす。お前の憎悪は本当に俺達に向けられたものなんす?」
やはり、イグノラビムスは答えない。ただその瞳には憎悪が燃えているだけだ。
「狼野郎。わたくしのことを無視するんじゃねぇです」
ドワーフであることを利用し、人間を主に狙うイグノラビムスにそっと肉薄していたシレークス(ka0752)が魔法剣の効果を付与された機甲拳鎚、さらにサクラ・エルフリード(ka2598)のホーリーセイバーにより聖なる光を与えられ、柔能剛制でイグノラビムスを投げ飛ばした。
「脳筋特攻、支援させて貰いますよ……。倒されても一回だけは復帰出来ますから遠慮せず無茶をしてきてください……」
「聖職者をなめんじゃねえ!」
さらに追撃のシレークス式聖闘術『何処に行き給う』が放たれる。
イグノラビムスが立ち上がる前に、コーネリアのフローズンパニッシャーによる攻撃が腕を貫いた。
だが、イグノラビムスは炎を鎧のように使い、ダメージを軽減したらしい。
「いやはや、なんとも邪魔ですな、あの炎は」
マッシュは今コーネリアが炎を剥がした腕を剣で斬りつける。
炎の剥がれた腕には認識阻害の効果も、ダメージを軽減する効果もない。
「大層嫌われているようですが……まあ、お互い様、ですね」
イグノラビムスは立ち上がり、再び攻勢に移る。
その瞳には、やはり憎悪の炎が燃えていた。
そして、イグノラビムスが纏っている炎が一層燃えあがり、竜巻を作った。
「受けてばっかりは癪だけど、合理的判断よ……!」
その竜巻をやはりラストテリトリーでエリが一身に受ける。先ほどの黒炎を受けたこともあり、人間のエリは大ダメージを受けている状態だ。
鵤のアンチボディや、シガレットのフルリカバリーが回復するが、それを上回る速度で、イグノラビムスは攻撃を続ける。
叩き潰すようなイグノラビムスの拳が振り下ろされ、エリに命中し、ついに彼女は気絶した。
そして、進撃を続けるイグノラビムスは咆哮を上げて、増殖する。
「来ましたね!」
アシェールのつけた激辛弾によるペイントまでは増殖でコピーされない。
「増殖全てが本体なのか、分体なのか、この機会に明らかにします」
アシェールが編み上げた礫流をペイントのあるイグノラビムスにぶつける。
しかし、増殖した個体は、元になった個体を庇うというようなことをしなかった。
「……いやな結論ですけど、もしかして全てが本体、ということですか……? でも、やることは変わりませんね」
アシェールは人間であることを利用した高威力魔法を次々と撃ち込んでいく。
だが、そもそもハンターは敵の分断に失敗してしまった。
「後衛には攻撃は通さないつもりですが、どうにも重たい攻撃ですな」
マッシュはガウスジェイルを展開して後衛を守る。
イグノラビムスもBS注視をついに振り払い、マッシュに向けて攻撃を集中させる。
シガレットがフルリカバリーで回復するも、2体に分裂したイグノラビムスの攻撃は苛烈だ。突破されるのは時間の問題だった。
「カレンさん……ではないんですよね」
Uisca Amhran(ka0754)がクリュティエに問いかける。
「大精霊と接触する目的は何です?」
「和平交渉のためだ」
クリュティエはUiscaの質問に案外あっさり答えた。
「和平……交渉?」
「そうだ。我は戦いを無意味な事と考える。お前たちが手を出さなければ、我らもここは退くが?」
「そうですか。……そうなのかもしれませんね。でも……」
あまりにも予想外の答えに、どのように向き合えばいいのかもわからないが――。
「私はかつて、カレンさんに思うままにって伝えました。私もただ思うままに戦うのみですっ」
マーキス・ソングと【再演】絆ヲ紡グ想イノ謡によってアイデアル・ソングを発動するUisca。そして、【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻でクリュティエを串刺しにしていく。
だが、移動不能にすることは出来ない。
そこへGacruxの連断が叩き込まれる。その勢いは凄まじく、討伐の気概を見せていた。
「ところでクリュティエ、アンタ聖導士か」
クリュティエの回復能力を見てのトリプルJ(ka6653)の考察だった。
「ハンターと同じ分類が出来るとは思わない方が良い」
ただ、クリュティエはそう答えた。
「なるほど確かにな。……にしても防御力重視で攻撃力が半減か……まあ7Rは死んでも保たせるから、殴る方は期待しないでくれや?」
クリュティエは高い抵抗を持っているのか、BSが効かない。
分断に失敗していることもあり、クリュティエもまた、自由に動ける状態だった。
クリュティエの行動は主にマクスウェルの支援に使われていた。
ハンター達はクリュティエに攻撃をするも、高い防御と抵抗のためになかなか攻撃とBSが通らない。
それでも時間は過ぎていく。
そして、大地を揺るがす咆哮が戦場に響き渡った。
前面で攻撃を受けて立っていたマッシュをついにイグノラビムスが倒し、ハンターをさらに激しく攻めたてはじめたのだ。
「一時的に動きを止めるのじゃ! その間に戦線の立て直しを!!」
紅薔薇がなだれ込んできたイグノラビムスに向かって智の聖域を発動する。スキル使用不能、移動不能、行動阻害を同時に与えるスキルだ。
だが、それもクリュティエの回復スキルによってBSを解除されてしまう。
自由になったイグノラビムスは次々にハンターを攻撃していく。
そして、イグノラビムスは増殖する。
「げ、また増えたっす」
結果。その数は16体になった。
神楽はイグノラビムスを観察して、どんなタイミングで増殖が発動するのか見極めようとしていた。
「最初が2体で、今が16体っすか。最初から16体に増殖しないってことは、何かしらのきっかけが必要っぽいっすけど……」
2体から16体になる時に変わった事といえば、イグノラビムス対応班の前衛が倒されて、イグノラビムスが他の敵に対応しているハンターたちを襲い始めたことだ。
「それがきっかけのひとつなんすかね……?」
そんな神楽の推測を黒い炎が焼き払う。
●混戦の末
「ああ、もうっ、鬱陶しいなぁ!」
まよいのマクスウェルを狙う魔法をまたクリュティエが防いだのだ。
『フハハハハ、どうしたハンター共! その程度でオレを倒すつもりか!?』
マクスウェルはクリュティエのフォローと指示で自在に戦場を駆け回る。
「マクスウェル、あまり前衛に構いすぎるな。本来お前の能力は奇襲に向く」
マクスウェルはワープを繰り返し、衝撃波や鋭い突きで、前衛どころか後衛を巻き込む攻撃を繰り返す。また、クリュティエの指示が的確だと悟ったのか、指示自体には従っている。
「何、我も守るだけではない。戦うこともできる」
さらに、クリュティエはまよいの魔法を受けて折れた剣を鞘に納めて、別の剣を引き抜く。
そして、二刀を使って、ハンターへの攻撃に参加した。
「誓います……この手の届く範囲では、誰も死なせはしないと!」
アニスがすぐに回復スキルによって傷を癒していく。
これほどの混戦では、マクスウェル対応者も、同時にクリュティエの対応をせざるを得ない。
そこへなだれ込んでくるのは16体に分裂したイグノラビムスだ。
「これでは……回復が追いつきません……!」
アニスは回復に特化していた。それにヴァイスという前衛もいて、回復に専念できていた。だが、どうにも敵の数が多すぎる。
増殖したイグノラビムスは戦場のそこかしこに存在している。もちろんマクスウェルに対応している者達の周囲にもやって来ている。
そして、それらの個体が一斉に、纏った炎で竜巻を発生させた。
周囲を無差別に攻撃する黒炎竜巻の一斉発動だった。
戦場に黒い炎が吹き荒れる。それは負のマテリアルで周囲を汚染する効果をもつ凶悪な炎の渦だった。
「こんな広範囲で発動されては、浄化が間に合わない……!」
はじめや鵤などそもそもイグノラビムスに対応していた面子はマテリアル汚染に対抗する手段を持っていたが、術者の数が少な過ぎた。
黒炎が吹き荒れた後には幾人ものハンターが倒れていた。とくにイグノラビムスに対応していた者たちは何体もの黒炎竜巻を繰り返し巻き込まれ、大ダメージを受けてしまったのだ。
また、前衛として、マクスウェルと主に交戦していたエヴァンスとヴァイスの傷は深く、そこへ黒炎竜巻に巻き込まれたので、重いダメージを負い、倒れてしまう。 こうして黒炎が戦場を焼くことによって、ますますマクスウェルの包囲は困難になった。
『……他愛ないな』
マクスウェルが言った。
「待て」
だが、あの嵐のような黒炎の攻撃を受けても、立っている者たちは、いた。
「まだ、私がいるぞ」
アルトがそのひとりだった。
「こんなところで倒れるわけにはいかないんだ、俺は」
旭も炎を払って立ち上がる。
「妾の役目は最後まで倒れない事……世界に守護者が帰って来たと……クリュティエに……カレンに伝えるため」
紅薔薇もまだ戦える。
「やられっぱなしじゃ、終われないよな?」
リュー・グランフェスト(ka2419)が星神器「エクスカリバー」の切っ先をクリュティエに向ける。
「俺はおまえを止めに来たんだ」
「大丈夫、回復は任せてください」
セレスティア(ka2691)がリューやレイア・アローネ(ka4082)の傷を癒していく。
「切り札はある」
レイアの星神器「天羽羽斬」が煌めく。
「天羽羽斬の初陣をこんな無様で終わらすわけにはいかないからな」
「行くぜ、レイア、セティ! 俺たちの戦場はここにある!!」
それは世界の物理法則を変える大魔法。
王の力を分け与え、全員を英雄へと導く力。
エクスカリバーによるスキル、ナイツ・オブ・ラウンド。
その加護を受けてレイアとセレスティア、リューがクリュティエに向かって駆け出した。
「先手は確実にとります!」
先手必勝により、敵の先を読むセレスティア。
まずは一刀、セレスティアがクリュティエを斬りつけようとする。
しかし、クリュティエはそれを避けた。
「私の攻撃は当たらなくてもいい……! レイア! お願い!」
「さあ、見せてみろ、天羽羽斬……! お前が……いや、私がお前を持つに相応しいか、存分に試すといい……!」
すでにナイツ・オブ・ラウンズによってレイアの近接威力はリューのそれに上書きされている。
続いて、繰り出されるのは、天羽羽斬によるスキル、オロチアラマサ。
「む……!?」
最前、セレスティアの攻撃を避けたために、クリュティエのレイアへの対応が少し、遅れた。
「受けるがいい!」
振り抜かれる刀。濡れたように美しい刀身がクリュティエを、斬りつける。
「な、に……!?」
それは高防御を誇る、クリュティエをもってしても受け切れない斬撃。神を殺す一撃。
それに、クリュティエの体勢が揺らいだ。
「決めてしまえ! リュー!!」
「まかせろ!!」
繰り出されたのは三位一体の攻撃。
続くリューのエクスカリバーは鋭い刺突をクリュティエの腹に浴びせる。
「まだだ……貫け、エクスカリバー!」
エクスカリバーに乗せされた魔法剣の効果が、爆ぜた。
リバースエッジの、魔法剣強制解除によるオーラを解放した斬撃だった。
「……っ!」
ついに、クリュティエが膝をついた。
それほどまでに、3人の攻撃は苛烈だったのだ。
「ここまで我が傷を受けるとは……ん?」
クリュティエが空を見た。
それは大精霊がいた方角だった。
そしてクリュティエは呟いた。
「そうか……大精霊は転移したか……」
立ち上がったクリュティエはハンターに背を向けた。
「帰ろう、マクスウェル、イグノラビムス。大精霊は転移した。ハンターの力も見た。この地にもう用はない」
『なんだ? 戦いは終わりか? せっかくこのオレが本来の力を発揮していたというのに……』
マクスウェルも、もはや目的が達成できないことを理解したので、大剣をおさめた。
イグノラビムスはクリュティエの指示には従うらしい。分裂した個体は爆ぜるように消え、一体だけに戻った。
「ハンター……その力は想像以上だ。確かに歴史上最強の守護者だろう。だが……それだけの守護者を投入してこの様か」
その呟きは落胆を感じさせた。
「神の力を振りかざすだけでは、仲間は守れんぞ。さらばだ、ハンター。また機会があれば、な」
こうして、黙示騎士とクリュティエはお台場を去っていた。
それを追いかける余力はハンターには残っていなかった。
●戦いのあと
「終わった、な」
リューが言った。
確かに黙示騎士とクリュティエは撤退した。大精霊リアルブルーとの接触は阻止できた。けれど……。
リューが戦場を見渡す。
そこには数多くのハンターが倒れていた。
「決して快勝、とは言えませんね……」
苦い顔のリューに、セレスティアも同意した。
「ああ。でも、死者はいない」
レイアも言葉を紡ぐ。
戦場には静けさが戻っていた。
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ゆくなが | 15人 |
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