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(ka0000)
【空蒼】レプリカント・ワルツ「ニダヴェリール対応」リプレイ
▼グランドシナリオ【空蒼】レプリカント・ワルツ(9/7~9/27)▼
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作戦4:ニダヴェリール対応
- フィロ(ka6966)
- トモネ・ムーンリーフ
- 森山恭子(kz0216)
- エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)
- ミグ・ロマイヤー(ka0665)
- バウ・キャリアー(魔導ヘリコプター「ポルックス」)(ka0665unit009)
- ゾファル・G・初火(ka4407)
- ジーナ(ka1643)
- マリィア・バルデス(ka5848)
- mercenario(R7エクスシア)(ka5848unit002)
- ソフィア =リリィホルム(ka2383)
- ジャック・J・グリーヴ(ka1305)
- ヘクトル(R7エクスシア)(ka1305unit002)
- 鳳凰院ひりょ(ka3744)
- 玄武坂 光(ka4537)
- 星空の幻(ka6980)
- 天王寺茜(ka4080)
- 南雲雪子
- 鳳城 錬介(ka6053)
- 莉(ka7291)
- カール・フォルシアン(ka3702)
- 白夜(魔導型デュミナス)(ka3702unit001)
- フィーナ・マギ・フィルム(ka6617)
- Schwarze(ワイバーン)(ka6617unit002)
- クレール・ディンセルフ(ka0586)
- カリスマリス・コロナ(オファニム)(ka0586unit002)
- メアリ・ロイド(ka6633)
- サンダルフォン(R7エクスシア)(ka6633unit001)
- イスフェリア(ka2088)
- 八島 陽(ka1442)
- ユーキ・ソリアーノ
東京を舞台にした使徒とVOIDの激突。
相容れぬ存在であるが故、彼らに戦い以外の接触手段はない。
統一地球連合宙軍は、この自体に対して早急な対応を求められる事となった。
イクシード・アプリにより被害が拡大する中で、ハンターを投入しての迎撃作戦。
――それは、リアルブルーにおける新たなる戦いの幕開けに過ぎない。
「ユーキ様は、今敵中にいらっしゃいます。トモネ様の望んだ言葉は得られないかもしれません。獅子身中の虫と分かれば八つ裂きにされてしまいますから」
ラズモネ・シャングリラのブリッジではフィロ(ka6966)が腰を屈めてトモネ・ムーンリーフへ話かける。
フィロは敢えて強い言葉を用いた。
それで目を背けるようであれば、トモネの覚悟はその程度だ。
しかし、目の前にいるトモネは目を逸らす事なくフィロを見つめ返す。
覚悟を決めてラズモネ・シャングリラへ乗艦したのは間違いなさそうだ。
「分かっている。それでも……」
「トモネ様、諦めずに言葉をお届け下さい。心は、言葉は、いつか必ず通じます……すべてが終わった時、ユーキ様がトモネ様の元に戻る勇気を得る為にも、それは必要な事なのです」
フィロは信じていた。
トモネがユーキへ呼び掛け続ければ、ユーキはトモネの元へ戻ってくる。強化人間の増産に手を出した上、ニダヴェリールを奪った人間である。トモネが許しても軍や世間が許さないかもしれない。
儚い夢だと分かっている。
それでも、二人の仲を割く事をフィロにはできない。
「すまんな。心配をかける」
「いいえ。微力ながらお手伝いさせていただきます」
フィロはそっとトモネを抱き寄せた。
小さな体で軍艦へ乗り込む。そこまでしてユーキを取り戻そうとしている。
ならば、フィロは最善を尽すのみである。
「約束して下さい。最後まで諦めない、と」
●
「前方、ニダヴェリールよりVOIDの集団が出現。戦力は……把握しきれません」
ラズモネ・シャングリラのブリッジに恐怖交じりの報告がオペレータより告げられる。
予想していた報告だ。
ニダヴェリールより現れたVOIDの群れは、都内上空にいる使徒と戦う為に姿を見せた。彼らが正面から戦えば都内の被害は甚大。多数の人々がその命を失う事になる。
その被害を抑える為には、ラズモネ・シャングリラとサルヴァトーレ・ブル、そしてハンター達でVOIDの戦力を如何に削り取るかにある。
「始まったザマスね。迎撃態勢に移行ザマス。ハンターの皆さんは襲来するVOIDを各個撃破するザマス。可能な限りVOIOを叩いて都内に行かせないようにするザマス」
ラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)からハンターに向けての一斉送信。
恭子はこの戦いがニダヴェリール奪還は難しいと考え、VOID迎撃に集中するべきと考えていた。今の二艦の火力では反重力バリアに阻まれて攻撃を直撃させられない。
ならば、今は可能な限り都内上空へ侵攻せんとするVOIDを叩く方に専念すべきだ。 「艦長」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はイヤリング「エピキノニア」で恭子へ通信を入れる。
「なんザマショ?」
「ラズモネ・シャングリラのミサイルを敵ミサイルへの弾幕代わりに一定空域へ撃ち込んで下さい。可能な限り高頻度で」
ニダヴェリールは元々ムーンリーフ財団で建造された宇宙ステーションだ。
すべてではないものの、ある程度の兵器は統一地球連合宙軍やハンター達も把握している。
襲来するVOIDの合間を縫うように飛来する対VOIDミサイル。
ハンターからの提案で装備されているニダヴェリールの兵装だ。エラはこのミサイルへラズモネ・シャングリラのミサイルをぶつける事で周辺のVOIDを巻き込み、VOIDの数を一気に叩く提案を行った。
可能な限りニダヴェリールの近く箇所で炸裂させる事ができれば、多くのVOIDを巻き込む事ができる。
「ミサイルの数にも限りがあるザマス。ミサイルが尽きればハンターの皆さんに頼る事になるザマス」
「問題ありません。ここへ集ったハンターは、最初から『そのつもり』ですから」
「分かったザマス。サルヴァトーレ・ブルへ連絡。初手からミサイル一斉射ザマス。ハンターの皆さんの道を切り拓きながら、VOIDを巻き込むザマス」
恭子からの連絡を受けたサルヴァトーレ・ブルは、ラズモネ・シャングリラと呼吸を合わせて次々とミサイルを発射。
これに呼応するかのうにニダヴェリールからも対VOIDミサイルで迎撃。
撃ち出されたミサイルは正面から激突。東京湾上空で次々と火球を生み出した。
周辺にいるVOIDを巻き込み、ダメージを与えていく。
だが、すべてのミサイルが消滅する訳ではない。一部の対VOIDミサイルは爆発する事なく、真っ直ぐに突き進んでくる。
「今日は死ぬにはいい日ジャン。まあ、まだ死ぬ気はないんだけれどじゃん」
「ミグはそなたと心中する気はないんじゃがのう」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)の魔導ヘリコプター「ポルックス」『バウ・キャリアー』のキャリーアンカーに釣られているのは、ゾファル・G・初火(ka4407)のR7エクスシア『スージーちゃん』。
自称『死地好きバトルジャンキー』のゾファルは、『ロリーフのばあちゃん』ミグとのペアでヘリボーン作戦を決行。バウ・キャリアーの滞空時間を利用して前線に進出してきたVOIDを狩りまくる。
比較的分かりやすい作戦ではあるが、最初に飛来してきたのはVOIDではなくニダヴェリールの対VOIDミサイルであった。
「ばあちゃん」
「分かっておるわ」
VOIDの目を攪乱する為に展開していたスモークカーテンの上へ上昇したバウ・キャリアー。
飛来する対VOIDミサイルに向けてミサイルランチャー「アフリクシオン」を発射。
十連装ミサイルランチャーが対VOIDミサイルへ突き刺さり、一際大きな爆炎を巻き上げる。
「やるじゃねぇか、ばあちゃん」
「言っておる場合か。別方向から早速来たぞ」
ミグからゾファルへの返信。
上昇した事でミサイルとは別の方向からVOIDが多数集まってきたのが見えたのだ。
早々の出番とあってゾファルは拳を強く握り締める。
「来たジャン! 来たジャン! 小型の雑魚一匹、通さないジャン!
スージーちゃん! 歓迎してあげるジャン」
集まってくる浮遊型VOIDに向けてビームライフル「ベウストロース」を放った。
収束したマテリアルが次々と浮遊型VOIDへ突き刺さって落下させる。
中型のVOIDでは手こずる恐れもあるが、小さな浮遊型VOID相手ならば簡単に倒せそうだ。だが、数は明らかに多い。撃ち漏らさないように注意が必要だ。
「ばあちゃん、もっと前へ出るジャン」
「無茶を言うでない。キャリーアンカーの分、機動力が落ちておるのじゃ」
ミグは周辺のVOID引き連れるようにバウ・キャリアーを前進させる。
少しでもラズモネ・シャングリラとサルヴァトーレ・ブルから引き離す事が目的でもある。その配慮を知ってか知らずか、ゾファルの心は徐々に昂ぶってくる。
「まとめて相手にしてやるジャン! かかってくるといいジャン!」
一方、ラズモネ・シャングリラのブリッジには新たな情報が入る。
「敵陣、二手に分かれて迂回。2時方向と10時方向から飛来します」
序盤のミサイル斉射から逃れるように敵は正面からではなく、左右に分かれて迂回し始めた。
だが、これも半ば予想できた行動だ。
「敵は弾幕の薄い部分を狙って抜けてくるはず。そこに火力を集中させて……七竈」
刻令ゴーレム「Volcanius」『七竈』は、エラの指示を受けてプラズマキャノン「アークスレイ」を発射。
VOIDが飛来すると思しき空域へ一撃。
当たらなくても良い。VOIDを牽制できれば、敵は動きを変えるはず。
重要なのは、VOIDを一定の空域へ集める事。ハンターの一斉攻撃で一気に始末できるように。
「次が来るわね。どれだけ耐えられるか……」
エラはラズモネ・シャングリラのブリッジからの情報やハンターからの情報を集めて、戦域を把握するつもりのようだ。
厄介な敵を前に何処まで戦力を削れるか――。
●
「あの時は、純粋に嬉しかったんだぞ」
ジーナ(ka1643)は誰に話すでもなく、小さく呟いた。
眼前に立ちはだかるニダヴェリール。
それに装備されている大量の対VOIDミサイルは、トモネとユーキに召喚された会議でジーナ自身が提案した兵器であった。
採用された案が現実となってハンターに向けられる。
これはジーナにとって見逃す事ができない状況であった。
責任の一端には――自分にある。
「バレル、スタンバイ。艦長、また甲板を借りるぞ。後、対空防御は念入りだ。今回は派手に来るぞ!」
魔導型デュミナス『バレル』のアクティブスラスターを全開にしてラズモネ・シャングリラの甲板を走る。
狙う目標は、ニダヴェリールから発射された対VOIDミサイル。
あのミサイルでラズモネ・シャングリラを傷付けさせはしない。
――絶対に!
「目標、ロックオン」
魔導レーダー「テシスソストス」で目標の座標を確認。マルチロックオンで次々と目標を的に指定していく。プログラム「スポッター」で命中精度を調整。
そして、対VOIDミサイルを限界まで引き付ける。
「派手に来る、か。なら、こちらはそれ以上に派手に立ち回らせてもらう……バレル!」
ミサイルランチャー「ガダブタフリール」が轟音を発した。
大型多連装ミサイルランチャーであるガダブタフリールは設定された目標目掛けて発射。次々と対VOIDミサイルへ命中。ラズモネ・シャングリラ周辺の浮遊型VOIDを巻き込みながら、大きな爆発を引き起こした。
爆発による振動がバレルの中にいるジーナにも伝わってくる。
「これで終わらせない。ニダヴェリールを取り返すまで……戦い続ける」
ジーナは次に飛来する対VOIDミサイルへ向けてマルチロックオンで捉え始める。
●
「こっちかもって思ったのに……ジェイミー」
マリィア・バルデス(ka5848)は、自分でも不謹慎だと分かっていた。
ラズモネ・シャングリラの乗組員として戦っていた『彼』は、この戦いで姿を見せるのではないか。
それは淡い期待かもしれない。
自分の幻想かもしれない。
それでも、そう考えてしまう自分が分からなくなる。
彼は一体、何処へ行ってしまったのか。
そう思うだけで、マリィアの胸は苦しさを増していく。
「……大丈夫?」
ふいにトランシーバー聞こえるエラの声。
その声にマリィアは現実に引き戻される。
「大丈夫、ごめんなさい」
「狂気にやられた訳ではないようね。ラズモネ・シャングリラの右舷からVOIDが接近しているわ。……やれる?」
「心配ないわ。やってみせるから」
マリィアはR7エクスシア『mercenario』で甲板を走る。
既に飛来する浮遊型VOIDの群れは、mercenarioでも確認できる。距離はそこそこあるが確実にこちらへ近づいている。小型ではあるが集団になれば厄介な上、小さな傷が今後の戦いに影響するかもしれない。ここは小型でも可能な限り倒しておいた方がいい。
「射程距離内……いけるわね」
マリィアはロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を目標の照準に合わせる。
650?にも及ぶ全長のルギートゥスD5。その照準は遙か先にいる浮遊型VOIDへ向けられる。お誂え向きに真っ直ぐ飛来してくれる。空気抵抗で多少ブレたとしてもVOIDの体を削り取る事はできそうだ。
「本当、何処へ行っちゃったのよ。言いたい事は山程あるのに……バカ」
mercenarioは引き金を引いた。
龍の方向にも似た銃声が東京湾に木霊する。
次の瞬間、弾丸が浮遊型VOIDの体に突き刺さる。弾丸がVOIDの体を穿ち風穴を開ける頃には、VOIDは東京湾に向けて落下し始めていた。
モヤモヤとしたマリィアの感情を乗せたマリィアの弾丸。
どうやら狙った場所から少しズレて着弾していたようだ。
「……これじゃダメ。ここは戦場、戦いに集中しなきゃ」
自分に言い聞かせるように、マリィアはそっと呟いた。
●
ラズモネ・シャングリラでハンター達が奮戦する頃、サルヴァトーレ・ブルの防衛に当たるハンター達も戦いを繰り広げていた。
「ここで余計な横槍入れられるのも業腹ですしね!」
グリフォン『風月』でサルヴァトーレ・ブル付近の宙域を守るソフィア =リリィホルム(ka2383)。左舷より現れたVOIDの一団を対処していたが、ソフィアは一団の中に中型狂気――擬人型第三種を視認していた。
「やっぱりいるか……。各機、敵の一団の中に面倒なのが紛れ込んでる。装甲が厚いのも混じっているから注意して」
擬人型第三種との交戦経験のあるソフィアは周辺のハンターへ警戒を発した。
浮遊型と異なり、二本ずつの手足を持つ人型に近いVOID。過去に確認されている個体よりも高い戦闘力を持つ事は知られているが、浮遊型狂気に紛れ込まれれば厄介な相手となる。
しかし、ハンター側もただ防衛しているだけではない。
積極的な行動に出る者達が現れ始める。
「……聞こえるぜ、サオリたんの泣く声がよ」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、R7エクスシア『ヘクトル』の操縦席で静かに呟いた。
リアルブルーは愛しのサオリたん爆誕の地。
そのリアルブルーがVOIDや使徒なるものに蹂躙されている。
許されて良いのか?
否――それは決して許してはならない。
ここにはサオリたんを始め、守らなければならない民がいる。
「全軍、聞こえるか! クリムゾンウェストもリアルブルーも関係ねぇ。ここに集まった命知らずのバカ野郎共! 上を見ろ。見上げて見上げて見上げ続けろ! 希望ってのは下に転がるモンじゃねぇからよ」
魔導パイロットインカムで周辺のハンターや軍関係者にジャックは呼び掛ける。
リアルブルーの者達からすれば、世界的に絶望が蔓延っている。これでは戦える者も戦えない。
だからこそジャックは、貴族として自らの言葉を体現してみせる必要があった。
「こっから先は……行かせねぇ。サオリたんをもうこれ以上泣かせない為にもな」
ヘクトルはブラストハイロゥで光の翼を展開しながら、敵の一団へ接近。
擬人型もヘクトルの接近に気付いたのだろう。遠距離ビームで迎撃を開始する。
「そんなもんで落とせないのは、分かってるだろう!」
ヘクトルのマテリアルライフル。
紫色の光線が浮遊型VOIDを貫いていく。
しかし、擬人型は間近まで接近。ショートジャンプで間合いを詰めていたようだ。
擬人型は掌から発生させたビームソードでヘクトルへと斬り掛かる。
「そのまま俺様を倒してブルへ行こうってか? させるかよ」
ジャックはガウスジェイルを展開。
擬人型だけではなく、周辺の敵の攻撃を自分自身に集めさせる。
擬人型のビームソードを大壁盾「庇護者の光翼」で防ぐジャック。
「やれっ! 範囲攻撃でこいつらを一気に叩け」
「星の彼方までぶっ飛べ! 顕現せよ紅き太陽!」
ジャックの体を張った防衛に対してソフィアは星神器「ブリューナク」を使った。
ラヴァダの光条――弾丸を小さな太陽と変え、空間転移でVOID集団の中央へ送り込む。 同時に、巨大な爆発。周辺のVOIDを巻き込みながら、VOIDを塵へと変えていく。
「へっ、やるじゃねぇか」
ヘクトルの眼前にいた擬人型もラヴァダの光条へ巻き込まれたようだ。
「ラヴァダの光条は一回限定なんだよね。次の一団はここまで簡単じゃないかも」
「心配はいらねぇ。俺様がいるんだからな」
ソフィアの前へと出るようにジャックはヘクトルを前進させる。
この身を挺したハンター達の行動が、新たな道を切り拓く事になる。
●
「これより俺が敵を集める。皆、後は任せる」
VOIDの集団を味方が狙いやすい位置へ誘導した鳳凰院ひりょ(ka3744)は、R7エクスシアで集団の前方に布陣。
ソウルトーチで敵の注意を惹きつける。
ソウルトーチはVOIDにとって滅ぼすべき生物である事を印象付ける事で敵の注目を集めている。それは狂気と呼ばれるVOIDにも絶大な効果を発揮する。
「……くっ。想定よりも敵の攻撃は激しいか」
ひりょはフライトシールド「プリドゥエン」で敵の攻撃を防いでいるものの、複数のVOIDの攻撃を一身で受け止めている。このおかげで敵はラズモネ・シャングリラに目を向ける事はないのだが、このままではひりょは大きなダメージを受けるかもしれない。
それでも退く訳にはいかなかった。
あの子の支えになると誓った。その誓いは絶対違えない。
あの子が一歩踏み出す為にも自分に出来る全力を尽くさなければ。
「光!」
「ったく、ひりょの奴……無茶しやがる。まあ、張り切りたいのも分からんじゃねぇが……」
ひりょが惹き付けた集団に対して玄武坂 光(ka4537)はダインスレイブで徹甲榴弾を叩き込む。
轟音と共にひりょの側面にいた浮遊型に命中。
空中で派手に四散するVOID。それでもひりょに向かっているVOIDは多数。光だけでは手が足りないのは明らかだ。
「星空の幻! 反対から回り込め!」
「……うん」
星空の幻(ka6980)は、ラズモネ・シャングリラの甲板でエクウスを走らせる。
過去にも似た体験があった。
あのロンドン市内を守る為に奮戦した戦い。あの時も光が傍らにいた。
そして、今はこの場にいない『おじさん』も――。
星空の幻は、思い返していた。
三人での戦い。あれ程充実した時間を、再び過ごす日が来るのだろうか。
「……ダメダメ。今は集中……。ドッカーンっと……行くよ」
エクウスで走りながら、星空の幻はマテリアル花火を打ち上げる。
上空に打ち上がる色とりどりの花火。
季節外れの打ち上げ花火がVOID周辺に展開する。
そして、星空の幻は所定の位置まで到達した段階で馬を方向転換させる。
「悪いけど……お兄ちゃん達の邪魔はさせないよ?」
ひりょ周辺に向けてガトリングシールド「トゥムルトゥス」で対空射撃を浴びせかける。
光と星空の幻による二方向の攻撃。
周辺の浮遊型は確実に撃破されているが、ひりょの前に展開する擬人型には攻撃が到達していない。
「倒れる訳にはいかない、こんな所で……。光、前方の敵を砲撃を」
「簡単に言ってくれるな。正直、おっさんにはまだまだ届かねぇ。だがまあ、あれだけ集まってりゃ、当たるだろう。いっちょやってやっか」
光は星空の幻に支援射撃を頼みながら、ダインスレイブの滑空砲を上へと持ち上げる。
狙うはひりょのいる位置から少し上。
万一ズレれば徹甲榴弾はひりょへ直撃する。
慎重に標準を定める光。
息を深く吐いて意識を着弾地点へ集中させる。
「……いけっ!」
砲撃。
徹甲榴弾は、予定通り着弾。擬人型数体に突き刺さる。
擬人型に大きな隙が生まれる。
「よし! みんな、一気に叩く」
ひりょの号令で光と星空の幻は火力を擬人化達へ集中させる。
自分があの子にできる事は少ない。
それでもこれがあの子を支える為に必要な事だと、ひりょは自分に言い聞かせていた。
●
「無理ですね」
天王寺茜(ka4080)にサルヴァトーレ・ブル艦長の南雲雪子はそう返答した。
茜は敵VOIDの動きを誘導する為、主砲のマテリアルキャノンを利用できないか提案したのだ。
狂気のVOIDはマテリアルに強く反応する。現にソウルトーチで敵を惹き付けられる事は周知の事実である。その特性を利用して主砲を発射体制のまま、マテリアルエネルギーを高めてVOIDOを誘引する。
そうすれば、主砲の射線上に惹き付けた後で一掃を試みる事ができる。
「どのみちニダヴェリールに主砲は通じませんし、チャージの時間と上限を増やした状態で、VOIDが食いついてきたら射線上に……」
「そもそも作戦として実現不可能です。この艦のマテリアルキャノンは化石燃料からエネルギーを抽出しています。生体マテリアルではないんですよ」
南雲によればこの艦は石油などの化石燃料を使ってマテリアルキャノンを発射している。
ソウルトーチと同じ効果を得るのであれば、このエネルギーをVOIDが好んで狙う『生体マテリアル』としてVOIDに認識させる必要がある。エネルギーの根本が異なる以上、サルヴァトーレ・ブルの主砲では茜の提案を実行できない。
「そうですか……」
「敵、サルヴァトーレ・ブルの甲板に接近しています!」
二人の会話に割り込む形で鳳城 錬介(ka6053)が声をかけてきた。
雪子が甲板に視線を向ければ、甲板付近に数体の浮遊型が飛来している。その後を追うように次々とVOIDがサルヴァトーレ・ブルへと向かって来る。
「取りつかれましたか。甲板のVOIDはハンターが対応。ブルを一時後退させた後、迫るVOIDを機銃で迎撃」
錬介の連絡を受けて南雲は次々と指示を出す。
同時にハンターも敵の迎撃へと動き出した。
「まだ来るのか? ちったぁ遠慮ってもんを知りやがれ!」
ジャックが体内のマテリアルを燃やして炎のようなオーラを纏う。
周囲に響き渡る獅子の咆哮。
その影響からか、甲板付近のVOIDがジャックに向かって動き始める。
「大丈夫ですか!」
錬介はロザリオ「タビアイマーン」へ祈りを捧げる。
ジャックのマテリアルは更に活性化。ヘリオルをオーラの障壁が包み込む。
「ありがてぇ!」
「たくさん湧いてきた……! 他の戦域にはいかせないわよ!」
茜も甲板へ到達。ジャックの周辺にいる浮遊型に向けてプラズマライフル「ラッド・フィエル01」を連射する。
テールスタビライザーBで三本脚の射撃体勢。
うまい具合にジャックが射線へ浮遊型を誘導してくれるおかげで、ラッド・フィエル01の攻撃は次々と命中していく。
さらに錬介もVOIDの一団へ攻撃を開始する。
「崩天丸!」
錬介は、刻令ゴーレム「Volcanius」『崩天丸』は砲身を飛来する浮遊型VOIDへ定めた。
空気を震わせる発射音と共に炸裂弾が上空へ展開。
次々と霰玉が敵へと命中していく。浮遊型の飛来が一時的にでも止めば、サルヴァトーレ・ブルは再び進路を前方へと変えられる。早々に敵を排除しなければ、ラズモネ・シャングリラと距離が開いてしまう。
「皆さん、状況が厳しれば言って下さい。後方より支援します」
錬介は崩天丸で砲撃を繰り返しながら、仲間へ意識を向けていた。
ここは絶対に死守。敵を確実に仕留める為にも、仲間を支え続けなければならない。
「分かった。何かあればお願いね!」
茜は魔導アーマー「ヘイムダル」を前進させる。
甲板の敵を一気に一掃する為に――。
●
「まずいな……」
莉(ka7291)がサルヴァトーレ・ブルの甲板で危機に陥っていた。
甲板に近づく敵を威嚇射撃していたのだが、危機の理由は出撃前から莉自身が負傷していた事にある。
不覚である事は自覚しているが、少しでも役に立ちたい。
その想いが莉をブルの甲板へと誘った。しかし、想いだけではどうにもならない時もある。
飛来するVOIDの数が想定以上に集まってきたのだ。
蒼機銃「パームホープ」で足止めを試みていたものの、限界は着実に近づいていた。
「ここまでか」
「いくよ、白夜、MANI」
莉の前に滑り込んできたのは、カール・フォルシアン(ka3702)の魔導型デュミナス『白夜』。
集まってきた浮遊型に向けて200mm4連カノン砲を発射。
炸裂する爆風が次々と浮遊型を葬り去っていく。
「大丈夫ですか? 今、回復しますね」
カールは莉にヒールを使った。
傷が癒されていく。
予定ではサルヴァトーレ・ブルに使う予定であったが、ブルの損傷が軽微である事からヒールの出番は今の所なさそうだ。
「ありがとう」
「これからこの艦もニダヴェリールへ接近します。無理せず退いて下さい」
一度は撃退したが、ニダヴェリールへ近づくにつれて敵の攻撃は激化している。
更なる攻撃で傷が深くなる前に莉は後方へ下がる事を検討した方が良さそうだ。
「無理を、しないで」
ワイバーン『Schwarze』に乗ったフィーナ・マギ・フィルム(ka6617)も莉の身を案じていた。
フィーナはこの戦いで重要な事は可能な限り敵を撃ち漏らさない事。
この為、フィーナは後方に下がって仲間の攻撃から逃れたVOIDの迎撃に集中していた。
「分かった。無理はしない。だが、あの一団だけは逃さない方がいい」
莉が指し示した先には、甲板近くを飛行する浮遊型VOIDの群れ。
どうやら前線のハンターから逃れたVOID達が集団となって移動しているようだ。このままでは別の戦域にまでVOIDが現れる事になる。
「逃がしません!」
カールは浮遊型VOIDとの間合いを詰めた後、攻性防壁でサルヴァトーレ・ブルの甲板から敵を引き剥がす。
「うまい。これなら……」
吹き飛ばされた浮遊型VOIDに向けてフィーナはマジックアローを発動させる。
フォースリングによって効果範囲を拡大された五本の矢が、次々と浮遊型VOIDへ突き刺さっていく。さらに莉もパームホープで銃撃を叩き込む。
攻撃がヒットして、落下していく浮遊型VOID。
海へ落水する前に、空中で霧散する。
「敵の数、増えている」
「後方で敵を逃がさないようにした方が良さそうです」
三人は、先程言っていた攻撃の激化を改めて実感した。
如何に敵を倒し続けるか。
勝負の分かれ目は、間もなく訪れようとしていた。
●
「……え。さらに前進させるザマスか!?」
クレール・ディンセルフ(ka0586)の提案に恭子は驚いた。
ラズモネ・シャングリラをさらに前進させてニダヴェリールと通信を試みるように提案したのだ。
ニダヴェリールへ接近するだけで敵の攻撃は激化している。さらに反重力バリアをニダヴェリールが展開している為、あまり接近し過ぎれば空間のズレが生じてラズモネ・シャングリラが激しく損傷する可能性もある。
それでも、クレールは敢えて提案したのだ。
「私がコロナで道を拓きます。連結通話で中継通信、伝波増幅すれば通信はきっと届くはずです」
クレールは既にラズモネ・シャングリラの前方へ移動。
現在もオファニム『カリスマリス・コロナ』で迫る擬人型VOIDをマテリアルビームで迎撃していた。仲間が敵の注意を集め続けてくれれば、ラズモネ・シャングリラが進むべき進路を必ず確保できるはずだ。
通信機による通信は、それぞれが周波数を合わせている必要がある。
だが、クレールはその通信機の設置に関わった人物であること。そしてニダヴェリールが強奪された式典において、ラズモネ・シャングリラとは通信可能状態にあった。
相手側が通信チャンネルを変更していたなら、不可能な相談だが……。
「通信。という事は……」
「艦長。私からもお願いする。ユーキと話す機会を私に」
恭子の傍らで座っていたトモネは立ち上がる。
クレールの狙いはトモネが今一度ユーキと話す機会を持つ事。
ユーキ・ソリアーノは強化人間達の悲劇を生み出した元凶――『かたき』だと考えている。それでもムーンリーフ家に拾われてからずっとトモネと一緒にいたユーキである。
まだ何かあるなら、正当な『かたき』なのか。
クレール自身もまたトモネとユーキの会話で真意を見極めようとしていた。
「妨害電波を出していないのであれば、きっと向こうも通信に応じる気がある証拠よ」
そう。ニダヴェリールには本来、広域の通信妨害能力がある。だが、今回はそれを使用していない。
使えない理由があるのでなければ――使わない理由があるのではないか?
「私からもお願いします」
サルヴァトーレ・ブルの甲板で戦い続けていたフィロ。
甲板へ襲来せんとする浮遊型VOIDを前にコンフェッサーの小型ミサイルランチャーで迎撃していた最中、ラズモネ・シャングリラへ通信を入れてきた。
「確実なチャンスは今です。サルヴァトーレ・ブルの主砲を使えば、ラズモネ・シャングリラは前に進みやすくなるはずです……南雲艦長」
「それはこの艦に囮になれ、という事ですか? あまりに酔狂な博打ですね」
南雲艦長は現実主義者だ。しかし……。
「とはいえ、ニダヴェリールを攻めあぐねているのも事実です。せっかくですから、攻略のヒントも聞き出していただけますか?」
フィロの提案に南雲も乗った。
すべてがニダヴェリールの通信へと動き出している。
如何に危険であろうとも、恭子にその流れを覆すだけの意志はなかった。
「これよりラズモネ・シャングリラの道を拓きます。主砲発射準備。友軍機は射線上から退避してください」
「分かったザマス。ハンターの皆さんやサルヴァトーレ・ブルの皆さんに負担をかける事になるザマスが、我が侭に付き合って欲しいザマス!」
恭子の号令でラズモネ・シャングリラは、ニダヴェリールへの通信を試みる。
この通信で何が変わるかは分からない。
だが、本当の敵を見極める意味でも重要な通信になる事は間違いなかった。
●
ニダヴェリールとの通信が決定した段階で、ラズモネ・シャングリラの攻撃も激しくなる事は決定的となった。
それはつまりハンター達の負担が一気に増大する事を意味している。
「ここで私たちが敵さん方を引き留めねーとな、気合い入れてさ」
フライトブースター「ズヴォルタ」でラズモネ・シャングリラの甲板から飛び上がるR7エクスシア『サンダルフォン』。
その操縦者であるメアリ・ロイド(ka6633)はラズモネ・シャングリラへ向かって来る擬人型VOIDへプラズマキャノン「アークスレイ」を数発発射する。
メアリにも分かる。敵はラズモネ・シャングリラが何かを狙っているという事に。
そして、だからこそ敵はラズモネ・シャングリラへの攻撃を激化させていく。
ここが正念場――メアリは気合いを入れながら、再び上空へとサンダルフォンを舞い上がらせたのだ。
「敵さんも必死。それでも道は絶対にこじ開ける!」
サンダルフォンがマテリアルライフルを放つ。
紫色の光線は、擬人型の胴体へ命中。敵を進路の外へと弾き飛ばす。
その間にも浮遊型VOIDは後方からサンダルフォンに向けてレーザー攻撃を仕掛けてくる。
敵の容赦ない攻撃。それでもメアリはこの空域で奮戦するしかない。
トモネの願いを叶える為に。
一方、甲板では。
「トモネさんの願いを叶え、前に進めるように……」
イスフェリア(ka2088)は、飛来する浮遊型VOIDに向けて刻令ゴーレム「Volcanius」の炸裂弾で応戦していた。
傷付いた仲間達をヒールやアンチボディで支えていたイスフェリアであったが、敵の攻撃激化を受けてVolcaniusの砲撃の頻度は明らかに増えていた。
「Volcanius、お願い」
イスフェリアの声を受け、Volcaniusは煙幕弾を発射。
飛来する浮遊型VOIDの前に煙幕を展開して敵の目を攪乱する。少しでも敵の猛攻を抑える必要があるが、それ以上にイスフェリアは敵の目を攪乱している間に周辺の仲間をヒーリングスフィアで回復させようとしていた。
「これで何とか時間を稼げれば良いんだけど……」
「十分だよ。これで少しでも敵が足を止めてくれるなら、敵はちょっとだけでも固まってくれるから。そこを狙えば……」
ユノ(ka0806)はグリフォン『栗公』で上空を旋回。
煙幕で足を止められた集団を見定めると、集団に中央に向けてグラビティフォールを放った。
紫色の光を伴う重力波が発生。中型狂気を巻き込みながら、収束。
そして、圧壊。
強烈な衝撃がVOID達を襲い、強い重力がVOID達にかかっていく。
「よっし! いっちょ上がり!」
ダメージと同時に移動が一気に遅くなるVOID。これなら、各個撃破していっても十分に間に合うはずだ。
しかし、ニダヴェリールから姿を現す敵は未だ衰えず。
それはラズモネ・シャングリラとニダヴェリールの距離が縮まれば縮まる程、その激しさは増していく。
その結果――。
「敵、ラズモネ・シャングリラの艦橋付近に接近してる!」
ズヴォルタでブーストを掛け続けるメアリのサンダルフォン。
甲板へ一度着陸する最中、メアリが目撃したのは艦橋に向かって移動する浮遊型VOID数体。
ハンターの目を逃れるように移動する中型狂気が進む先には、恭子とトモネ達がいるブリッジ近くであった。
「今から向かう!」
「ううん……ここからじゃ間に合わないよ」
メアリを引き留めるイスフェリア。
見ればメアリも相応にダメージを受けている。イスフェリアはヒールでサンダルフォンを癒す必要があると考えたようだ。
メアリからすれば、イスフェリアの引き留めに納得できるものではない。
「だけど……!」
「大丈夫。さっきアンチボディをかけた人が、あっちに向かったはずだから」
「あ、あれ!」
ユニが指差す先には、ペガサスで艦橋前に立つ八島 陽(ka1442)の姿があった。
翼を羽ばたかせてホバリングするペガサスの背で、陽は浮遊型を睨み付ける。
「トモネがユーキと話したいというなら、邪魔は絶対にさせない」
ブリッジの前で陽はラストテリトリーを展開する。
浮遊型VOIDのレーザービームはブリッジを破壊する前に光の障壁はすべてを阻む。
光輝く陽の領地を浮遊型VOIDが侵す事ができない。
「ここは……この道はオレ達が、拓かなきゃならないんだ」
ソウルトーチで浮遊型の注意を惹いた陽。
艦橋から注意を逸らさせる事でラズモネ・シャングリラへの被害を抑える。
「ペガサス!」
空を駆けるペガサス。
陽は、レーザービームを回避しながらマジックアローで貫いていく。
気付けば、ブリッジ付近にいた浮遊型VOIDは陽の活躍で一掃。ラズモネ・シャングリラに大きな被害はなかった。
「トモネ、思っている事を皆ユーキにぶつけてやれ!」
進軍するラズモネ・シャングリラに向けて、陽は思い切り叫ぶ。
●
「艦長!」
「主砲、発射!」
フィロの声に応じるかのようにサルヴァトーレ・ブルの主砲が放たれた。
方向はラズモネ・シャングリラの進行路。周辺のVOIDを牽制するのが目的だ。
主砲で焼かれて空白となった空域へラズモネ・シャングリラが滑り込んでくる。
「各機、対空防御を強化ザマス。機銃で応戦できる方はお願いするザマス。
ほんの少し、ほんの少しだけ持たせて欲しいザマス!」
恭子の指示が、通信機を通して各機へもたらされる。
ここの行動の結果、何を残すのか。
それは誰にも分からない。
ただ、それをしなければ、この後の戦いに迷いを持ち込む事になる。
覚悟を決めるには、今しか無いのだ。
「クレールさん、お願いするザマス!」
「ニダヴェリールの通信周りは私も提案したもの! 今だけでも、そうあって欲しかったように! 声を! 届けろぉっ!!」
クレールの叫び。
カリスマリス・コロナによって増幅された電波は、ニダヴェリールへと飛び込んでいく。
サルヴァトーレ・ロッソが。
統一地球連合軍の軍人達が。
そして、ハンター達が。
トモネ・ムーンリーフという一人の少女の願いを叶える為、死力を尽して戦った。
その結果――。
「ユーキ」
ハンター各機にトモネの声が届いた。
その声に応じるように、一人の男の声が響き渡る。
「総帥、お出でになってしまいましたか」
ユーキ・ソリアーノ。
強化人間の増産に手を貸した上、人類の希望となるニダヴェリールを強奪したムーンリーフ財団の総帥補佐役。
一口で説明するのは容易いが、トモネとユーキの間には財団総帥と補佐役以上の関係があった。
「ユーキ……」
そう言ったきり、トモネは黙ってしまう。
言葉を出せないのだ。何を伝えるべきか考えていたのであろうが、いざとなると何を伝えるべきか分からなくなってしまう。
沈黙。
そうしている間にもハンター達はラズモネ・シャングリラ付近のVOID一掃を続けている。
「艦長、本空域では長く艦を持たせられません! 敵の数が増加、徐々に被害報告が増えています」
悲鳴にも似たオペレーターの報告。
それでも恭子は、トモネを見守っている。
「もう少し、もう少しだけ待つザマス……」
願うように手を合わせる恭子。
敵の増加はハンター達にも負荷となって現れ始める。
「甲板に取り憑く敵を最優先に倒す。ラズモネ・シャングリラを絶対に墜とさせるな」
メアリのサンダルフォンがアークスレイで擬人型を貫いた。
その後方から中型狂気が突進。サンダルフォンの機体を激しく揺らす。
甲板ではひりょが更にソウルトーチで敵の注意を集めようとしていた。
「光、もう一度だ!」
「おい、無茶するなよ。機体が限界だ。一旦下がれ」
光の制止。
しかし、ひりょは下がらない。
「ダメだ。トモネは必死に戦っているんだ。ここで戦線を維持しなきゃ……。オレは誓ったんだ!」
R7エクスシアに再びソウルトーチの輝き。それに合わせて浮遊型VOIDが殺到する。
さらに敵はVOIDだけではない。
この至近距離からでもニダヴェリールは対VOIDミサイルを発射する。
容赦なく降り注ぐミサイル。
巻き起こる爆風。
その中で、ジーナは必死に反撃を繰り返す。
「……くっ、させない。これ以上、機体を穢すな!」
バレルのミサイルランチャー「ガダブタフリール」による応戦。
ラズモネ・シャングリラの近くで爆風が発生。多数のVOIDを巻き込んだ。
それでもVOIDの攻撃は止む様子はない。
倒されたVOIDを乗り越えて次のVOIDが現れる。
悲鳴と銃声と叫びが戦域を覆う。
その間にも二人の間には沈黙が続いていた。
数時間にも感じられる沈黙の後、声を発したのはユーキだった。
「総帥、息災のようで何よりです」
「ユーキ、お前の行動には意味があった。私はそう考えている。その理由を口にしたくないならそれで構わぬ。だから……私の元に戻ってくれぬ、か?」
落ち着いた様子のユーキに対して、トモネは矢継ぎ早に言葉を紡いだ。
それはトモネの中に渦巻く感情が、期待となって昂ぶらせる。
それでも――トモネの願いは、ユーキには届かない。
「総帥。自分で何を仰っているか理解されていますか?」
「…………」
「私と総帥では、最早立場が違うのです。総帥は人と共に、私は歪虚と共に歩む道を選んだのです。道は違えた。そして、もう道は交わりません。もし、総帥があなたの道を進むのであれば……」
ユーキは一瞬、息を止めた。
そして吐き出すようにゆっくりと言葉を続ける。
「私を殺さなければなりません」
「……ころ、す?」
「はい、総帥の手で裏切り者である私を殺す。それ以外に決着を迎える手段はありません。あなたにできますか? その綺麗な手を汚してでも前に進む事が」
二人のやり取りを、クレールは黙って耳を傾けていた。
『かたき』――ユーキ自身がそう認めている。
強化人間達の悲劇を引き起こし、トモネの願いを踏みにじってまで裏切った男。
正当な『かたき』なら討てばいい。
しかし――。
「ユーキ、私は……」
「総帥。あなたはまだ覚悟はないようですね。ならば、お喋りはこれまでです。総帥、ご機嫌よう」
トモネが呟きを受け、ユーキは一方的に通信を終えようとする。
慌ててトモネがユーキを呼び止める。
「ユーキ!」
「総帥、次にお目にかかる際には覚悟を決めてお越し下さい。私を殺す覚悟を」
その言葉を最後にニダヴェリールからの通信は途絶えた。
同時にニダヴェリールは同空域を離脱。
VOID達もそれに合わせて撤退していった。
周囲を見回せば、傷付いたハンター達。
だが、機体や肉体以上に、心が疲弊していた。
『覚悟を決めてお越し下さい。私を殺す覚悟を』
ユーキの言葉が、トモネに、そしてハンター達に深く突き刺さった。
相容れぬ存在であるが故、彼らに戦い以外の接触手段はない。
統一地球連合宙軍は、この自体に対して早急な対応を求められる事となった。
イクシード・アプリにより被害が拡大する中で、ハンターを投入しての迎撃作戦。
――それは、リアルブルーにおける新たなる戦いの幕開けに過ぎない。
「ユーキ様は、今敵中にいらっしゃいます。トモネ様の望んだ言葉は得られないかもしれません。獅子身中の虫と分かれば八つ裂きにされてしまいますから」
ラズモネ・シャングリラのブリッジではフィロ(ka6966)が腰を屈めてトモネ・ムーンリーフへ話かける。
フィロは敢えて強い言葉を用いた。
それで目を背けるようであれば、トモネの覚悟はその程度だ。
しかし、目の前にいるトモネは目を逸らす事なくフィロを見つめ返す。
覚悟を決めてラズモネ・シャングリラへ乗艦したのは間違いなさそうだ。
「分かっている。それでも……」
「トモネ様、諦めずに言葉をお届け下さい。心は、言葉は、いつか必ず通じます……すべてが終わった時、ユーキ様がトモネ様の元に戻る勇気を得る為にも、それは必要な事なのです」
フィロは信じていた。
トモネがユーキへ呼び掛け続ければ、ユーキはトモネの元へ戻ってくる。強化人間の増産に手を出した上、ニダヴェリールを奪った人間である。トモネが許しても軍や世間が許さないかもしれない。
儚い夢だと分かっている。
それでも、二人の仲を割く事をフィロにはできない。
「すまんな。心配をかける」
「いいえ。微力ながらお手伝いさせていただきます」
フィロはそっとトモネを抱き寄せた。
小さな体で軍艦へ乗り込む。そこまでしてユーキを取り戻そうとしている。
ならば、フィロは最善を尽すのみである。
「約束して下さい。最後まで諦めない、と」
●
「前方、ニダヴェリールよりVOIDの集団が出現。戦力は……把握しきれません」
ラズモネ・シャングリラのブリッジに恐怖交じりの報告がオペレータより告げられる。
予想していた報告だ。
ニダヴェリールより現れたVOIDの群れは、都内上空にいる使徒と戦う為に姿を見せた。彼らが正面から戦えば都内の被害は甚大。多数の人々がその命を失う事になる。
その被害を抑える為には、ラズモネ・シャングリラとサルヴァトーレ・ブル、そしてハンター達でVOIDの戦力を如何に削り取るかにある。
「始まったザマスね。迎撃態勢に移行ザマス。ハンターの皆さんは襲来するVOIDを各個撃破するザマス。可能な限りVOIOを叩いて都内に行かせないようにするザマス」
ラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)からハンターに向けての一斉送信。
恭子はこの戦いがニダヴェリール奪還は難しいと考え、VOID迎撃に集中するべきと考えていた。今の二艦の火力では反重力バリアに阻まれて攻撃を直撃させられない。
ならば、今は可能な限り都内上空へ侵攻せんとするVOIDを叩く方に専念すべきだ。 「艦長」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はイヤリング「エピキノニア」で恭子へ通信を入れる。
「なんザマショ?」
「ラズモネ・シャングリラのミサイルを敵ミサイルへの弾幕代わりに一定空域へ撃ち込んで下さい。可能な限り高頻度で」
ニダヴェリールは元々ムーンリーフ財団で建造された宇宙ステーションだ。
すべてではないものの、ある程度の兵器は統一地球連合宙軍やハンター達も把握している。
襲来するVOIDの合間を縫うように飛来する対VOIDミサイル。
ハンターからの提案で装備されているニダヴェリールの兵装だ。エラはこのミサイルへラズモネ・シャングリラのミサイルをぶつける事で周辺のVOIDを巻き込み、VOIDの数を一気に叩く提案を行った。
可能な限りニダヴェリールの近く箇所で炸裂させる事ができれば、多くのVOIDを巻き込む事ができる。
「ミサイルの数にも限りがあるザマス。ミサイルが尽きればハンターの皆さんに頼る事になるザマス」
「問題ありません。ここへ集ったハンターは、最初から『そのつもり』ですから」
「分かったザマス。サルヴァトーレ・ブルへ連絡。初手からミサイル一斉射ザマス。ハンターの皆さんの道を切り拓きながら、VOIDを巻き込むザマス」
恭子からの連絡を受けたサルヴァトーレ・ブルは、ラズモネ・シャングリラと呼吸を合わせて次々とミサイルを発射。
これに呼応するかのうにニダヴェリールからも対VOIDミサイルで迎撃。
撃ち出されたミサイルは正面から激突。東京湾上空で次々と火球を生み出した。
周辺にいるVOIDを巻き込み、ダメージを与えていく。
だが、すべてのミサイルが消滅する訳ではない。一部の対VOIDミサイルは爆発する事なく、真っ直ぐに突き進んでくる。
「今日は死ぬにはいい日ジャン。まあ、まだ死ぬ気はないんだけれどじゃん」
「ミグはそなたと心中する気はないんじゃがのう」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)の魔導ヘリコプター「ポルックス」『バウ・キャリアー』のキャリーアンカーに釣られているのは、ゾファル・G・初火(ka4407)のR7エクスシア『スージーちゃん』。
自称『死地好きバトルジャンキー』のゾファルは、『ロリーフのばあちゃん』ミグとのペアでヘリボーン作戦を決行。バウ・キャリアーの滞空時間を利用して前線に進出してきたVOIDを狩りまくる。
比較的分かりやすい作戦ではあるが、最初に飛来してきたのはVOIDではなくニダヴェリールの対VOIDミサイルであった。
「ばあちゃん」
「分かっておるわ」
VOIDの目を攪乱する為に展開していたスモークカーテンの上へ上昇したバウ・キャリアー。
飛来する対VOIDミサイルに向けてミサイルランチャー「アフリクシオン」を発射。
十連装ミサイルランチャーが対VOIDミサイルへ突き刺さり、一際大きな爆炎を巻き上げる。
「やるじゃねぇか、ばあちゃん」
「言っておる場合か。別方向から早速来たぞ」
ミグからゾファルへの返信。
上昇した事でミサイルとは別の方向からVOIDが多数集まってきたのが見えたのだ。
早々の出番とあってゾファルは拳を強く握り締める。
「来たジャン! 来たジャン! 小型の雑魚一匹、通さないジャン!
スージーちゃん! 歓迎してあげるジャン」
集まってくる浮遊型VOIDに向けてビームライフル「ベウストロース」を放った。
収束したマテリアルが次々と浮遊型VOIDへ突き刺さって落下させる。
中型のVOIDでは手こずる恐れもあるが、小さな浮遊型VOID相手ならば簡単に倒せそうだ。だが、数は明らかに多い。撃ち漏らさないように注意が必要だ。
「ばあちゃん、もっと前へ出るジャン」
「無茶を言うでない。キャリーアンカーの分、機動力が落ちておるのじゃ」
ミグは周辺のVOID引き連れるようにバウ・キャリアーを前進させる。
少しでもラズモネ・シャングリラとサルヴァトーレ・ブルから引き離す事が目的でもある。その配慮を知ってか知らずか、ゾファルの心は徐々に昂ぶってくる。
「まとめて相手にしてやるジャン! かかってくるといいジャン!」
一方、ラズモネ・シャングリラのブリッジには新たな情報が入る。
「敵陣、二手に分かれて迂回。2時方向と10時方向から飛来します」
序盤のミサイル斉射から逃れるように敵は正面からではなく、左右に分かれて迂回し始めた。
だが、これも半ば予想できた行動だ。
「敵は弾幕の薄い部分を狙って抜けてくるはず。そこに火力を集中させて……七竈」
刻令ゴーレム「Volcanius」『七竈』は、エラの指示を受けてプラズマキャノン「アークスレイ」を発射。
VOIDが飛来すると思しき空域へ一撃。
当たらなくても良い。VOIDを牽制できれば、敵は動きを変えるはず。
重要なのは、VOIDを一定の空域へ集める事。ハンターの一斉攻撃で一気に始末できるように。
「次が来るわね。どれだけ耐えられるか……」
エラはラズモネ・シャングリラのブリッジからの情報やハンターからの情報を集めて、戦域を把握するつもりのようだ。
厄介な敵を前に何処まで戦力を削れるか――。
●
「あの時は、純粋に嬉しかったんだぞ」
ジーナ(ka1643)は誰に話すでもなく、小さく呟いた。
眼前に立ちはだかるニダヴェリール。
それに装備されている大量の対VOIDミサイルは、トモネとユーキに召喚された会議でジーナ自身が提案した兵器であった。
採用された案が現実となってハンターに向けられる。
これはジーナにとって見逃す事ができない状況であった。
責任の一端には――自分にある。
「バレル、スタンバイ。艦長、また甲板を借りるぞ。後、対空防御は念入りだ。今回は派手に来るぞ!」
魔導型デュミナス『バレル』のアクティブスラスターを全開にしてラズモネ・シャングリラの甲板を走る。
狙う目標は、ニダヴェリールから発射された対VOIDミサイル。
あのミサイルでラズモネ・シャングリラを傷付けさせはしない。
――絶対に!
「目標、ロックオン」
魔導レーダー「テシスソストス」で目標の座標を確認。マルチロックオンで次々と目標を的に指定していく。プログラム「スポッター」で命中精度を調整。
そして、対VOIDミサイルを限界まで引き付ける。
「派手に来る、か。なら、こちらはそれ以上に派手に立ち回らせてもらう……バレル!」
ミサイルランチャー「ガダブタフリール」が轟音を発した。
大型多連装ミサイルランチャーであるガダブタフリールは設定された目標目掛けて発射。次々と対VOIDミサイルへ命中。ラズモネ・シャングリラ周辺の浮遊型VOIDを巻き込みながら、大きな爆発を引き起こした。
爆発による振動がバレルの中にいるジーナにも伝わってくる。
「これで終わらせない。ニダヴェリールを取り返すまで……戦い続ける」
ジーナは次に飛来する対VOIDミサイルへ向けてマルチロックオンで捉え始める。
●
「こっちかもって思ったのに……ジェイミー」
マリィア・バルデス(ka5848)は、自分でも不謹慎だと分かっていた。
ラズモネ・シャングリラの乗組員として戦っていた『彼』は、この戦いで姿を見せるのではないか。
それは淡い期待かもしれない。
自分の幻想かもしれない。
それでも、そう考えてしまう自分が分からなくなる。
彼は一体、何処へ行ってしまったのか。
そう思うだけで、マリィアの胸は苦しさを増していく。
「……大丈夫?」
ふいにトランシーバー聞こえるエラの声。
その声にマリィアは現実に引き戻される。
「大丈夫、ごめんなさい」
「狂気にやられた訳ではないようね。ラズモネ・シャングリラの右舷からVOIDが接近しているわ。……やれる?」
「心配ないわ。やってみせるから」
マリィアはR7エクスシア『mercenario』で甲板を走る。
既に飛来する浮遊型VOIDの群れは、mercenarioでも確認できる。距離はそこそこあるが確実にこちらへ近づいている。小型ではあるが集団になれば厄介な上、小さな傷が今後の戦いに影響するかもしれない。ここは小型でも可能な限り倒しておいた方がいい。
「射程距離内……いけるわね」
マリィアはロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を目標の照準に合わせる。
650?にも及ぶ全長のルギートゥスD5。その照準は遙か先にいる浮遊型VOIDへ向けられる。お誂え向きに真っ直ぐ飛来してくれる。空気抵抗で多少ブレたとしてもVOIDの体を削り取る事はできそうだ。
「本当、何処へ行っちゃったのよ。言いたい事は山程あるのに……バカ」
mercenarioは引き金を引いた。
龍の方向にも似た銃声が東京湾に木霊する。
次の瞬間、弾丸が浮遊型VOIDの体に突き刺さる。弾丸がVOIDの体を穿ち風穴を開ける頃には、VOIDは東京湾に向けて落下し始めていた。
モヤモヤとしたマリィアの感情を乗せたマリィアの弾丸。
どうやら狙った場所から少しズレて着弾していたようだ。
「……これじゃダメ。ここは戦場、戦いに集中しなきゃ」
自分に言い聞かせるように、マリィアはそっと呟いた。
●
ラズモネ・シャングリラでハンター達が奮戦する頃、サルヴァトーレ・ブルの防衛に当たるハンター達も戦いを繰り広げていた。
「ここで余計な横槍入れられるのも業腹ですしね!」
グリフォン『風月』でサルヴァトーレ・ブル付近の宙域を守るソフィア =リリィホルム(ka2383)。左舷より現れたVOIDの一団を対処していたが、ソフィアは一団の中に中型狂気――擬人型第三種を視認していた。
「やっぱりいるか……。各機、敵の一団の中に面倒なのが紛れ込んでる。装甲が厚いのも混じっているから注意して」
擬人型第三種との交戦経験のあるソフィアは周辺のハンターへ警戒を発した。
浮遊型と異なり、二本ずつの手足を持つ人型に近いVOID。過去に確認されている個体よりも高い戦闘力を持つ事は知られているが、浮遊型狂気に紛れ込まれれば厄介な相手となる。
しかし、ハンター側もただ防衛しているだけではない。
積極的な行動に出る者達が現れ始める。
「……聞こえるぜ、サオリたんの泣く声がよ」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、R7エクスシア『ヘクトル』の操縦席で静かに呟いた。
リアルブルーは愛しのサオリたん爆誕の地。
そのリアルブルーがVOIDや使徒なるものに蹂躙されている。
許されて良いのか?
否――それは決して許してはならない。
ここにはサオリたんを始め、守らなければならない民がいる。
「全軍、聞こえるか! クリムゾンウェストもリアルブルーも関係ねぇ。ここに集まった命知らずのバカ野郎共! 上を見ろ。見上げて見上げて見上げ続けろ! 希望ってのは下に転がるモンじゃねぇからよ」
魔導パイロットインカムで周辺のハンターや軍関係者にジャックは呼び掛ける。
リアルブルーの者達からすれば、世界的に絶望が蔓延っている。これでは戦える者も戦えない。
だからこそジャックは、貴族として自らの言葉を体現してみせる必要があった。
「こっから先は……行かせねぇ。サオリたんをもうこれ以上泣かせない為にもな」
ヘクトルはブラストハイロゥで光の翼を展開しながら、敵の一団へ接近。
擬人型もヘクトルの接近に気付いたのだろう。遠距離ビームで迎撃を開始する。
「そんなもんで落とせないのは、分かってるだろう!」
ヘクトルのマテリアルライフル。
紫色の光線が浮遊型VOIDを貫いていく。
しかし、擬人型は間近まで接近。ショートジャンプで間合いを詰めていたようだ。
擬人型は掌から発生させたビームソードでヘクトルへと斬り掛かる。
「そのまま俺様を倒してブルへ行こうってか? させるかよ」
ジャックはガウスジェイルを展開。
擬人型だけではなく、周辺の敵の攻撃を自分自身に集めさせる。
擬人型のビームソードを大壁盾「庇護者の光翼」で防ぐジャック。
「やれっ! 範囲攻撃でこいつらを一気に叩け」
「星の彼方までぶっ飛べ! 顕現せよ紅き太陽!」
ジャックの体を張った防衛に対してソフィアは星神器「ブリューナク」を使った。
ラヴァダの光条――弾丸を小さな太陽と変え、空間転移でVOID集団の中央へ送り込む。 同時に、巨大な爆発。周辺のVOIDを巻き込みながら、VOIDを塵へと変えていく。
「へっ、やるじゃねぇか」
ヘクトルの眼前にいた擬人型もラヴァダの光条へ巻き込まれたようだ。
「ラヴァダの光条は一回限定なんだよね。次の一団はここまで簡単じゃないかも」
「心配はいらねぇ。俺様がいるんだからな」
ソフィアの前へと出るようにジャックはヘクトルを前進させる。
この身を挺したハンター達の行動が、新たな道を切り拓く事になる。
●
「これより俺が敵を集める。皆、後は任せる」
VOIDの集団を味方が狙いやすい位置へ誘導した鳳凰院ひりょ(ka3744)は、R7エクスシアで集団の前方に布陣。
ソウルトーチで敵の注意を惹きつける。
ソウルトーチはVOIDにとって滅ぼすべき生物である事を印象付ける事で敵の注目を集めている。それは狂気と呼ばれるVOIDにも絶大な効果を発揮する。
「……くっ。想定よりも敵の攻撃は激しいか」
ひりょはフライトシールド「プリドゥエン」で敵の攻撃を防いでいるものの、複数のVOIDの攻撃を一身で受け止めている。このおかげで敵はラズモネ・シャングリラに目を向ける事はないのだが、このままではひりょは大きなダメージを受けるかもしれない。
それでも退く訳にはいかなかった。
あの子の支えになると誓った。その誓いは絶対違えない。
あの子が一歩踏み出す為にも自分に出来る全力を尽くさなければ。
「光!」
「ったく、ひりょの奴……無茶しやがる。まあ、張り切りたいのも分からんじゃねぇが……」
ひりょが惹き付けた集団に対して玄武坂 光(ka4537)はダインスレイブで徹甲榴弾を叩き込む。
轟音と共にひりょの側面にいた浮遊型に命中。
空中で派手に四散するVOID。それでもひりょに向かっているVOIDは多数。光だけでは手が足りないのは明らかだ。
「星空の幻! 反対から回り込め!」
「……うん」
星空の幻(ka6980)は、ラズモネ・シャングリラの甲板でエクウスを走らせる。
過去にも似た体験があった。
あのロンドン市内を守る為に奮戦した戦い。あの時も光が傍らにいた。
そして、今はこの場にいない『おじさん』も――。
星空の幻は、思い返していた。
三人での戦い。あれ程充実した時間を、再び過ごす日が来るのだろうか。
「……ダメダメ。今は集中……。ドッカーンっと……行くよ」
エクウスで走りながら、星空の幻はマテリアル花火を打ち上げる。
上空に打ち上がる色とりどりの花火。
季節外れの打ち上げ花火がVOID周辺に展開する。
そして、星空の幻は所定の位置まで到達した段階で馬を方向転換させる。
「悪いけど……お兄ちゃん達の邪魔はさせないよ?」
ひりょ周辺に向けてガトリングシールド「トゥムルトゥス」で対空射撃を浴びせかける。
光と星空の幻による二方向の攻撃。
周辺の浮遊型は確実に撃破されているが、ひりょの前に展開する擬人型には攻撃が到達していない。
「倒れる訳にはいかない、こんな所で……。光、前方の敵を砲撃を」
「簡単に言ってくれるな。正直、おっさんにはまだまだ届かねぇ。だがまあ、あれだけ集まってりゃ、当たるだろう。いっちょやってやっか」
光は星空の幻に支援射撃を頼みながら、ダインスレイブの滑空砲を上へと持ち上げる。
狙うはひりょのいる位置から少し上。
万一ズレれば徹甲榴弾はひりょへ直撃する。
慎重に標準を定める光。
息を深く吐いて意識を着弾地点へ集中させる。
「……いけっ!」
砲撃。
徹甲榴弾は、予定通り着弾。擬人型数体に突き刺さる。
擬人型に大きな隙が生まれる。
「よし! みんな、一気に叩く」
ひりょの号令で光と星空の幻は火力を擬人化達へ集中させる。
自分があの子にできる事は少ない。
それでもこれがあの子を支える為に必要な事だと、ひりょは自分に言い聞かせていた。
●
「無理ですね」
天王寺茜(ka4080)にサルヴァトーレ・ブル艦長の南雲雪子はそう返答した。
茜は敵VOIDの動きを誘導する為、主砲のマテリアルキャノンを利用できないか提案したのだ。
狂気のVOIDはマテリアルに強く反応する。現にソウルトーチで敵を惹き付けられる事は周知の事実である。その特性を利用して主砲を発射体制のまま、マテリアルエネルギーを高めてVOIDOを誘引する。
そうすれば、主砲の射線上に惹き付けた後で一掃を試みる事ができる。
「どのみちニダヴェリールに主砲は通じませんし、チャージの時間と上限を増やした状態で、VOIDが食いついてきたら射線上に……」
「そもそも作戦として実現不可能です。この艦のマテリアルキャノンは化石燃料からエネルギーを抽出しています。生体マテリアルではないんですよ」
南雲によればこの艦は石油などの化石燃料を使ってマテリアルキャノンを発射している。
ソウルトーチと同じ効果を得るのであれば、このエネルギーをVOIDが好んで狙う『生体マテリアル』としてVOIDに認識させる必要がある。エネルギーの根本が異なる以上、サルヴァトーレ・ブルの主砲では茜の提案を実行できない。
「そうですか……」
「敵、サルヴァトーレ・ブルの甲板に接近しています!」
二人の会話に割り込む形で鳳城 錬介(ka6053)が声をかけてきた。
雪子が甲板に視線を向ければ、甲板付近に数体の浮遊型が飛来している。その後を追うように次々とVOIDがサルヴァトーレ・ブルへと向かって来る。
「取りつかれましたか。甲板のVOIDはハンターが対応。ブルを一時後退させた後、迫るVOIDを機銃で迎撃」
錬介の連絡を受けて南雲は次々と指示を出す。
同時にハンターも敵の迎撃へと動き出した。
「まだ来るのか? ちったぁ遠慮ってもんを知りやがれ!」
ジャックが体内のマテリアルを燃やして炎のようなオーラを纏う。
周囲に響き渡る獅子の咆哮。
その影響からか、甲板付近のVOIDがジャックに向かって動き始める。
「大丈夫ですか!」
錬介はロザリオ「タビアイマーン」へ祈りを捧げる。
ジャックのマテリアルは更に活性化。ヘリオルをオーラの障壁が包み込む。
「ありがてぇ!」
「たくさん湧いてきた……! 他の戦域にはいかせないわよ!」
茜も甲板へ到達。ジャックの周辺にいる浮遊型に向けてプラズマライフル「ラッド・フィエル01」を連射する。
テールスタビライザーBで三本脚の射撃体勢。
うまい具合にジャックが射線へ浮遊型を誘導してくれるおかげで、ラッド・フィエル01の攻撃は次々と命中していく。
さらに錬介もVOIDの一団へ攻撃を開始する。
「崩天丸!」
錬介は、刻令ゴーレム「Volcanius」『崩天丸』は砲身を飛来する浮遊型VOIDへ定めた。
空気を震わせる発射音と共に炸裂弾が上空へ展開。
次々と霰玉が敵へと命中していく。浮遊型の飛来が一時的にでも止めば、サルヴァトーレ・ブルは再び進路を前方へと変えられる。早々に敵を排除しなければ、ラズモネ・シャングリラと距離が開いてしまう。
「皆さん、状況が厳しれば言って下さい。後方より支援します」
錬介は崩天丸で砲撃を繰り返しながら、仲間へ意識を向けていた。
ここは絶対に死守。敵を確実に仕留める為にも、仲間を支え続けなければならない。
「分かった。何かあればお願いね!」
茜は魔導アーマー「ヘイムダル」を前進させる。
甲板の敵を一気に一掃する為に――。
●
「まずいな……」
莉(ka7291)がサルヴァトーレ・ブルの甲板で危機に陥っていた。
甲板に近づく敵を威嚇射撃していたのだが、危機の理由は出撃前から莉自身が負傷していた事にある。
不覚である事は自覚しているが、少しでも役に立ちたい。
その想いが莉をブルの甲板へと誘った。しかし、想いだけではどうにもならない時もある。
飛来するVOIDの数が想定以上に集まってきたのだ。
蒼機銃「パームホープ」で足止めを試みていたものの、限界は着実に近づいていた。
「ここまでか」
「いくよ、白夜、MANI」
莉の前に滑り込んできたのは、カール・フォルシアン(ka3702)の魔導型デュミナス『白夜』。
集まってきた浮遊型に向けて200mm4連カノン砲を発射。
炸裂する爆風が次々と浮遊型を葬り去っていく。
「大丈夫ですか? 今、回復しますね」
カールは莉にヒールを使った。
傷が癒されていく。
予定ではサルヴァトーレ・ブルに使う予定であったが、ブルの損傷が軽微である事からヒールの出番は今の所なさそうだ。
「ありがとう」
「これからこの艦もニダヴェリールへ接近します。無理せず退いて下さい」
一度は撃退したが、ニダヴェリールへ近づくにつれて敵の攻撃は激化している。
更なる攻撃で傷が深くなる前に莉は後方へ下がる事を検討した方が良さそうだ。
「無理を、しないで」
ワイバーン『Schwarze』に乗ったフィーナ・マギ・フィルム(ka6617)も莉の身を案じていた。
フィーナはこの戦いで重要な事は可能な限り敵を撃ち漏らさない事。
この為、フィーナは後方に下がって仲間の攻撃から逃れたVOIDの迎撃に集中していた。
「分かった。無理はしない。だが、あの一団だけは逃さない方がいい」
莉が指し示した先には、甲板近くを飛行する浮遊型VOIDの群れ。
どうやら前線のハンターから逃れたVOID達が集団となって移動しているようだ。このままでは別の戦域にまでVOIDが現れる事になる。
「逃がしません!」
カールは浮遊型VOIDとの間合いを詰めた後、攻性防壁でサルヴァトーレ・ブルの甲板から敵を引き剥がす。
「うまい。これなら……」
吹き飛ばされた浮遊型VOIDに向けてフィーナはマジックアローを発動させる。
フォースリングによって効果範囲を拡大された五本の矢が、次々と浮遊型VOIDへ突き刺さっていく。さらに莉もパームホープで銃撃を叩き込む。
攻撃がヒットして、落下していく浮遊型VOID。
海へ落水する前に、空中で霧散する。
「敵の数、増えている」
「後方で敵を逃がさないようにした方が良さそうです」
三人は、先程言っていた攻撃の激化を改めて実感した。
如何に敵を倒し続けるか。
勝負の分かれ目は、間もなく訪れようとしていた。
●
「……え。さらに前進させるザマスか!?」
クレール・ディンセルフ(ka0586)の提案に恭子は驚いた。
ラズモネ・シャングリラをさらに前進させてニダヴェリールと通信を試みるように提案したのだ。
ニダヴェリールへ接近するだけで敵の攻撃は激化している。さらに反重力バリアをニダヴェリールが展開している為、あまり接近し過ぎれば空間のズレが生じてラズモネ・シャングリラが激しく損傷する可能性もある。
それでも、クレールは敢えて提案したのだ。
「私がコロナで道を拓きます。連結通話で中継通信、伝波増幅すれば通信はきっと届くはずです」
クレールは既にラズモネ・シャングリラの前方へ移動。
現在もオファニム『カリスマリス・コロナ』で迫る擬人型VOIDをマテリアルビームで迎撃していた。仲間が敵の注意を集め続けてくれれば、ラズモネ・シャングリラが進むべき進路を必ず確保できるはずだ。
通信機による通信は、それぞれが周波数を合わせている必要がある。
だが、クレールはその通信機の設置に関わった人物であること。そしてニダヴェリールが強奪された式典において、ラズモネ・シャングリラとは通信可能状態にあった。
相手側が通信チャンネルを変更していたなら、不可能な相談だが……。
「通信。という事は……」
「艦長。私からもお願いする。ユーキと話す機会を私に」
恭子の傍らで座っていたトモネは立ち上がる。
クレールの狙いはトモネが今一度ユーキと話す機会を持つ事。
ユーキ・ソリアーノは強化人間達の悲劇を生み出した元凶――『かたき』だと考えている。それでもムーンリーフ家に拾われてからずっとトモネと一緒にいたユーキである。
まだ何かあるなら、正当な『かたき』なのか。
クレール自身もまたトモネとユーキの会話で真意を見極めようとしていた。
「妨害電波を出していないのであれば、きっと向こうも通信に応じる気がある証拠よ」
そう。ニダヴェリールには本来、広域の通信妨害能力がある。だが、今回はそれを使用していない。
使えない理由があるのでなければ――使わない理由があるのではないか?
「私からもお願いします」
サルヴァトーレ・ブルの甲板で戦い続けていたフィロ。
甲板へ襲来せんとする浮遊型VOIDを前にコンフェッサーの小型ミサイルランチャーで迎撃していた最中、ラズモネ・シャングリラへ通信を入れてきた。
「確実なチャンスは今です。サルヴァトーレ・ブルの主砲を使えば、ラズモネ・シャングリラは前に進みやすくなるはずです……南雲艦長」
「それはこの艦に囮になれ、という事ですか? あまりに酔狂な博打ですね」
南雲艦長は現実主義者だ。しかし……。
「とはいえ、ニダヴェリールを攻めあぐねているのも事実です。せっかくですから、攻略のヒントも聞き出していただけますか?」
フィロの提案に南雲も乗った。
すべてがニダヴェリールの通信へと動き出している。
如何に危険であろうとも、恭子にその流れを覆すだけの意志はなかった。
「これよりラズモネ・シャングリラの道を拓きます。主砲発射準備。友軍機は射線上から退避してください」
「分かったザマス。ハンターの皆さんやサルヴァトーレ・ブルの皆さんに負担をかける事になるザマスが、我が侭に付き合って欲しいザマス!」
恭子の号令でラズモネ・シャングリラは、ニダヴェリールへの通信を試みる。
この通信で何が変わるかは分からない。
だが、本当の敵を見極める意味でも重要な通信になる事は間違いなかった。
●
ニダヴェリールとの通信が決定した段階で、ラズモネ・シャングリラの攻撃も激しくなる事は決定的となった。
それはつまりハンター達の負担が一気に増大する事を意味している。
「ここで私たちが敵さん方を引き留めねーとな、気合い入れてさ」
フライトブースター「ズヴォルタ」でラズモネ・シャングリラの甲板から飛び上がるR7エクスシア『サンダルフォン』。
その操縦者であるメアリ・ロイド(ka6633)はラズモネ・シャングリラへ向かって来る擬人型VOIDへプラズマキャノン「アークスレイ」を数発発射する。
メアリにも分かる。敵はラズモネ・シャングリラが何かを狙っているという事に。
そして、だからこそ敵はラズモネ・シャングリラへの攻撃を激化させていく。
ここが正念場――メアリは気合いを入れながら、再び上空へとサンダルフォンを舞い上がらせたのだ。
「敵さんも必死。それでも道は絶対にこじ開ける!」
サンダルフォンがマテリアルライフルを放つ。
紫色の光線は、擬人型の胴体へ命中。敵を進路の外へと弾き飛ばす。
その間にも浮遊型VOIDは後方からサンダルフォンに向けてレーザー攻撃を仕掛けてくる。
敵の容赦ない攻撃。それでもメアリはこの空域で奮戦するしかない。
トモネの願いを叶える為に。
一方、甲板では。
「トモネさんの願いを叶え、前に進めるように……」
イスフェリア(ka2088)は、飛来する浮遊型VOIDに向けて刻令ゴーレム「Volcanius」の炸裂弾で応戦していた。
傷付いた仲間達をヒールやアンチボディで支えていたイスフェリアであったが、敵の攻撃激化を受けてVolcaniusの砲撃の頻度は明らかに増えていた。
「Volcanius、お願い」
イスフェリアの声を受け、Volcaniusは煙幕弾を発射。
飛来する浮遊型VOIDの前に煙幕を展開して敵の目を攪乱する。少しでも敵の猛攻を抑える必要があるが、それ以上にイスフェリアは敵の目を攪乱している間に周辺の仲間をヒーリングスフィアで回復させようとしていた。
「これで何とか時間を稼げれば良いんだけど……」
「十分だよ。これで少しでも敵が足を止めてくれるなら、敵はちょっとだけでも固まってくれるから。そこを狙えば……」
ユノ(ka0806)はグリフォン『栗公』で上空を旋回。
煙幕で足を止められた集団を見定めると、集団に中央に向けてグラビティフォールを放った。
紫色の光を伴う重力波が発生。中型狂気を巻き込みながら、収束。
そして、圧壊。
強烈な衝撃がVOID達を襲い、強い重力がVOID達にかかっていく。
「よっし! いっちょ上がり!」
ダメージと同時に移動が一気に遅くなるVOID。これなら、各個撃破していっても十分に間に合うはずだ。
しかし、ニダヴェリールから姿を現す敵は未だ衰えず。
それはラズモネ・シャングリラとニダヴェリールの距離が縮まれば縮まる程、その激しさは増していく。
その結果――。
「敵、ラズモネ・シャングリラの艦橋付近に接近してる!」
ズヴォルタでブーストを掛け続けるメアリのサンダルフォン。
甲板へ一度着陸する最中、メアリが目撃したのは艦橋に向かって移動する浮遊型VOID数体。
ハンターの目を逃れるように移動する中型狂気が進む先には、恭子とトモネ達がいるブリッジ近くであった。
「今から向かう!」
「ううん……ここからじゃ間に合わないよ」
メアリを引き留めるイスフェリア。
見ればメアリも相応にダメージを受けている。イスフェリアはヒールでサンダルフォンを癒す必要があると考えたようだ。
メアリからすれば、イスフェリアの引き留めに納得できるものではない。
「だけど……!」
「大丈夫。さっきアンチボディをかけた人が、あっちに向かったはずだから」
「あ、あれ!」
ユニが指差す先には、ペガサスで艦橋前に立つ八島 陽(ka1442)の姿があった。
翼を羽ばたかせてホバリングするペガサスの背で、陽は浮遊型を睨み付ける。
「トモネがユーキと話したいというなら、邪魔は絶対にさせない」
ブリッジの前で陽はラストテリトリーを展開する。
浮遊型VOIDのレーザービームはブリッジを破壊する前に光の障壁はすべてを阻む。
光輝く陽の領地を浮遊型VOIDが侵す事ができない。
「ここは……この道はオレ達が、拓かなきゃならないんだ」
ソウルトーチで浮遊型の注意を惹いた陽。
艦橋から注意を逸らさせる事でラズモネ・シャングリラへの被害を抑える。
「ペガサス!」
空を駆けるペガサス。
陽は、レーザービームを回避しながらマジックアローで貫いていく。
気付けば、ブリッジ付近にいた浮遊型VOIDは陽の活躍で一掃。ラズモネ・シャングリラに大きな被害はなかった。
「トモネ、思っている事を皆ユーキにぶつけてやれ!」
進軍するラズモネ・シャングリラに向けて、陽は思い切り叫ぶ。
●
「艦長!」
「主砲、発射!」
フィロの声に応じるかのようにサルヴァトーレ・ブルの主砲が放たれた。
方向はラズモネ・シャングリラの進行路。周辺のVOIDを牽制するのが目的だ。
主砲で焼かれて空白となった空域へラズモネ・シャングリラが滑り込んでくる。
「各機、対空防御を強化ザマス。機銃で応戦できる方はお願いするザマス。
ほんの少し、ほんの少しだけ持たせて欲しいザマス!」
恭子の指示が、通信機を通して各機へもたらされる。
ここの行動の結果、何を残すのか。
それは誰にも分からない。
ただ、それをしなければ、この後の戦いに迷いを持ち込む事になる。
覚悟を決めるには、今しか無いのだ。
「クレールさん、お願いするザマス!」
「ニダヴェリールの通信周りは私も提案したもの! 今だけでも、そうあって欲しかったように! 声を! 届けろぉっ!!」
クレールの叫び。
カリスマリス・コロナによって増幅された電波は、ニダヴェリールへと飛び込んでいく。
サルヴァトーレ・ロッソが。
統一地球連合軍の軍人達が。
そして、ハンター達が。
トモネ・ムーンリーフという一人の少女の願いを叶える為、死力を尽して戦った。
その結果――。
「ユーキ」
ハンター各機にトモネの声が届いた。
その声に応じるように、一人の男の声が響き渡る。
「総帥、お出でになってしまいましたか」
ユーキ・ソリアーノ。
強化人間の増産に手を貸した上、人類の希望となるニダヴェリールを強奪したムーンリーフ財団の総帥補佐役。
一口で説明するのは容易いが、トモネとユーキの間には財団総帥と補佐役以上の関係があった。
「ユーキ……」
そう言ったきり、トモネは黙ってしまう。
言葉を出せないのだ。何を伝えるべきか考えていたのであろうが、いざとなると何を伝えるべきか分からなくなってしまう。
沈黙。
そうしている間にもハンター達はラズモネ・シャングリラ付近のVOID一掃を続けている。
「艦長、本空域では長く艦を持たせられません! 敵の数が増加、徐々に被害報告が増えています」
悲鳴にも似たオペレーターの報告。
それでも恭子は、トモネを見守っている。
「もう少し、もう少しだけ待つザマス……」
願うように手を合わせる恭子。
敵の増加はハンター達にも負荷となって現れ始める。
「甲板に取り憑く敵を最優先に倒す。ラズモネ・シャングリラを絶対に墜とさせるな」
メアリのサンダルフォンがアークスレイで擬人型を貫いた。
その後方から中型狂気が突進。サンダルフォンの機体を激しく揺らす。
甲板ではひりょが更にソウルトーチで敵の注意を集めようとしていた。
「光、もう一度だ!」
「おい、無茶するなよ。機体が限界だ。一旦下がれ」
光の制止。
しかし、ひりょは下がらない。
「ダメだ。トモネは必死に戦っているんだ。ここで戦線を維持しなきゃ……。オレは誓ったんだ!」
R7エクスシアに再びソウルトーチの輝き。それに合わせて浮遊型VOIDが殺到する。
さらに敵はVOIDだけではない。
この至近距離からでもニダヴェリールは対VOIDミサイルを発射する。
容赦なく降り注ぐミサイル。
巻き起こる爆風。
その中で、ジーナは必死に反撃を繰り返す。
「……くっ、させない。これ以上、機体を穢すな!」
バレルのミサイルランチャー「ガダブタフリール」による応戦。
ラズモネ・シャングリラの近くで爆風が発生。多数のVOIDを巻き込んだ。
それでもVOIDの攻撃は止む様子はない。
倒されたVOIDを乗り越えて次のVOIDが現れる。
悲鳴と銃声と叫びが戦域を覆う。
その間にも二人の間には沈黙が続いていた。
数時間にも感じられる沈黙の後、声を発したのはユーキだった。
「総帥、息災のようで何よりです」
「ユーキ、お前の行動には意味があった。私はそう考えている。その理由を口にしたくないならそれで構わぬ。だから……私の元に戻ってくれぬ、か?」
落ち着いた様子のユーキに対して、トモネは矢継ぎ早に言葉を紡いだ。
それはトモネの中に渦巻く感情が、期待となって昂ぶらせる。
それでも――トモネの願いは、ユーキには届かない。
「総帥。自分で何を仰っているか理解されていますか?」
「…………」
「私と総帥では、最早立場が違うのです。総帥は人と共に、私は歪虚と共に歩む道を選んだのです。道は違えた。そして、もう道は交わりません。もし、総帥があなたの道を進むのであれば……」
ユーキは一瞬、息を止めた。
そして吐き出すようにゆっくりと言葉を続ける。
「私を殺さなければなりません」
「……ころ、す?」
「はい、総帥の手で裏切り者である私を殺す。それ以外に決着を迎える手段はありません。あなたにできますか? その綺麗な手を汚してでも前に進む事が」
二人のやり取りを、クレールは黙って耳を傾けていた。
『かたき』――ユーキ自身がそう認めている。
強化人間達の悲劇を引き起こし、トモネの願いを踏みにじってまで裏切った男。
正当な『かたき』なら討てばいい。
しかし――。
「ユーキ、私は……」
「総帥。あなたはまだ覚悟はないようですね。ならば、お喋りはこれまでです。総帥、ご機嫌よう」
トモネが呟きを受け、ユーキは一方的に通信を終えようとする。
慌ててトモネがユーキを呼び止める。
「ユーキ!」
「総帥、次にお目にかかる際には覚悟を決めてお越し下さい。私を殺す覚悟を」
その言葉を最後にニダヴェリールからの通信は途絶えた。
同時にニダヴェリールは同空域を離脱。
VOID達もそれに合わせて撤退していった。
周囲を見回せば、傷付いたハンター達。
だが、機体や肉体以上に、心が疲弊していた。
『覚悟を決めてお越し下さい。私を殺す覚悟を』
ユーキの言葉が、トモネに、そしてハンター達に深く突き刺さった。
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近藤豊 | 11人 |
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