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【空蒼】レプリカント・ワルツ「マスティマ対応」リプレイ

作戦2:マスティマ対応

マスティマ
マスティマ
レイオス・アクアウォーカー
レイオス・アクアウォーカー(ka1990
エステル・ソル
エステル・ソル(ka3983
アルヴィン = オールドリッチ
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
ルナリリル・フェルフューズ
ルナリリル・フェルフューズ(ka4108
ディーナ・フェルミ
ディーナ・フェルミ(ka5843
星野 ハナ
星野 ハナ(ka5852
ノノトト
ノノトト(ka0553
ラビット(魔導アーマー「プラヴァー」)
ラビット(魔導アーマー「プラヴァー」)(ka0553unit004
ボルディア・コンフラムス
ボルディア・コンフラムス(ka0796
アーサー・ホーガン
アーサー・ホーガン(ka0471
大精霊リアルブルー
大精霊リアルブルー
キヅカ・リク
キヅカ・リク(ka0038
インスレーター・SF(魔導型デュミナス)
インスレーター・SF(魔導型デュミナス)(ka0038unit001
鞍馬 真
鞍馬 真(ka5819
レグルス(イェジド)
レグルス(イェジド)(ka5819unit001
浅生 陸
浅生 陸(ka7041
アニス・テスタロッサ
アニス・テスタロッサ(ka0141
レラージュ・ベナンディ(オファニム)
レラージュ・ベナンディ(オファニム)(ka0141unit003
アウレール・V・ブラオラント
アウレール・V・ブラオラント(ka2531
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804
アーク・フォーサイス
アーク・フォーサイス(ka6568
ロニ・カルディス
ロニ・カルディス(ka0551
清廉号(R7エクスシア)
清廉号(R7エクスシア)(ka0551unit003
岩井崎 メル
岩井崎 メル(ka0520
DMk4(m)Answer(魔導型ドミニオン)
DMk4(m)Answer(魔導型ドミニオン)(ka0520unit003
パトリシア=K=ポラリス
パトリシア=K=ポラリス(ka5996
カナタ・ハテナ
カナタ・ハテナ(ka2130
オウカ・レンヴォルト
オウカ・レンヴォルト(ka0301
夜天弐式「王牙」(オファニム)
夜天弐式「王牙」(オファニム)(ka0301unit005
●蒼い絶望
 テレビ視聴者の心がひび割れた。
 あれは、駄目だ。
 空から降りてくる1機のCAM――マスティマ。
 肩と腰に翼状のパーツがついていると認識できた者は極少数だ。
 大多数は、それが己の上位者であると本能的に認めてしまい思考が凍り付く。
 頭を垂れても意味はない。
 助力を願っても意味はない。
 泣いてすがっても何の意味もない。
 それには、人間に対し慈悲を向ける理由が何もないのだ。

●使徒という壁
 強くはあれど雑に暴れていた使徒は秩序を得ていた。
 マスティマが近づくだけで不気味なほど統制がとれた部隊が形成される。
 そして闇雲に振るわれる力はむしろ減った。
 人間を巻き込んで構わないつもりで放たれていた光弾の豪雨が、今では必要十分な量だけ使われ通信施設を破壊していた。
 マスティマ使徒を引き連れスカイツリーより南下し、そこでハンターと遭遇することになる。
「初めましてになるな大精霊」
 無人のカメラとマイクがレイオス・アクアウォーカー(ka1990)の後ろ姿を写す。
「まあ、まずは言わせてくれ、おかえりなさい」
 清浄さも過ぎれば息をするのも難しい。
 そんな状況なのに、レイオスは親しみを感じさせる声と表情で綺麗な礼をしてみせた。
 マスティマの視線が赤毛の黒の騎士に向く。
 ハンターの中には戦闘を極力避けて話し合いでの解決を求める者もいたが、相手はそこまで甘くはない。
 問答無用でけしかけられた使徒に対し、レイオスは説得の言葉を口にするつもりは元からなかった。
「砲撃開始、撃ちまくれ!」
 刻令ゴーレムドラングレーヴェが発砲。
 7インチの魔導砲から放たれた炸裂弾が、無数の小弾となって剣を抜いた直後の使徒を襲う。
 見た目は原始的でも威力は十分だ。
 大量の弾が作り出した弾痕から正マテリアルが激しく噴き出した。
「何か事情があるんだろ?」
 襲ってくる者に対し、「何故?」と問うても答えるとは限らない。
 何か理由があるから襲ってきているのだ。ならば、それに応えるのは言葉ではない。
 使徒2体がアスファルトを蹴り加速。
 大量の破片を後方に吹き飛ばしながら、光の刃を延ばしてレイオスを狙う。
「精霊と殺し合う気は無いが」
 紅の幅広剣で受け流す。
 大剣サイズとはいえCAM並の使徒と比べると小さく短いはずなのに、紅世界で磨き抜いた技が基礎能力頼りの剣を寄せ付けない。
「挑まれた以上は迎え撃つまでだ!」
 視界が白く染まった。
 特に強い気配を持つレイオスに対し、後衛の使徒が誤射覚悟で光弾を乱射したのだ。
 レイオスが光の豪雨を受け流す。
 刻令ゴーレムが後方から砲撃を続ける。
 味方機と協力して作った十字砲火が、後衛使徒複数を半壊に追い込んだ。
「ドラングレーヴェ、次の射撃ポイントに後退しろ。奴等が跳ぶぞ」
 前衛使徒の1つが唐突に消えた。
 ゴーレムの間近に現れ一際大きな光刃を振り下ろす。
 が、刃が装甲に触れる前に吹雪が真横から直撃。
 吹雪に含まれた攻撃的なマテリアルに耐えきれず、使徒を覆う強靱な装甲が砕けて本体を構成するマテリアルもごっそり削り取られた。
「大精霊さんはお友達がいないのでしょうか?」
 錬金杖がくるくると回る。
 エステル・ソル(ka3983)は若く可愛らしく、しかし新米魔術師には全く見えない。
 術の練度も細い体に秘められたマテリアルも、使徒がこれまで手にかけた人間とは別次元だ。
 体積が半分になった使徒が刺し違え目的で突進する。
 光刃の切っ先は凶悪なほど鋭く、しかしエステルの繊手により鮮やかに弾かれた。
 一瞬だけ障壁を展開したのだ。
 2度目の吹雪で消し飛ばされた使徒には、最期まで知覚できなかった。
「これはお友達1人とカウントできません」
 一般的な意味での知性を感じられない。
 無理矢理生き物に当てはめるなら昆虫、あるいは白血球が如き何かの一部だ。
「邪魔されたくないのか、試されているのか」
 使徒全体が緩やかに前進を開始し、ハンターの前衛と使徒の前衛がぶつかる。
 別の数十の使徒がハンターの頭上を越えてエステル達後衛ハンターに押し寄せる。
 そもそも大精霊に声を届けるには、使徒を突破しなければならない。
「パールさん」
 エステルを乗せるペガサスが気合いを入れる。
 光の結界が主従を覆い、エステルがとんでもない威力のマジックミサイルを1度に5連射して大破した使徒を量産した。
「マスティマの……大精霊リアルブルーの抵抗力が使徒以下というのはないですよね」
 重力をわずかに操作する。
 紫電が伴う重力異常が発生し装甲も内部も問わず使徒の体をねじ曲げ砕く。
 素晴らしい戦果だが目当てのバッドステータスは完全に防御されてしまっていた。
「抵抗力が予想以上ですので皆さんお気をつけて」
 通信機に必要な情報を囁いた後、エステルは一部壊れた街をちらりと見る。
「電波塔は通信を繋ぐ為の施設……世界と世界を繋ぐ精霊門の下位互換?」
 1体の使徒が結界に阻まれもう1体が突破する。
 高速巨体の体当たりをペガサスが危なげなく躱し、その後結界を放棄して距離をとる。
「歪虚は電波を利用して精霊門を開いていて、それを防ごうとしているのでしょうか?」
「あっているかもな。あっちは全く答えてくれないが」
 レイオスは魔導バイクを器用に駆り後退する。
 1対3程度でも圧倒できる自信はあるが前横上の4方向から攻められるとさずがに拙い。
「この世界にはデカい借りがあるんだ。何をやるかは知らんが手伝わせろよ大精霊」
 わざと光刃を受け、勢いを利用して切りつける。
 腹から正マテリアルの火花を散らす使徒の向こうに、他のハンターを無視しレイオスを見る蒼いCAMがいた。
「読めナイネェ……」
 光弾と光刃を防ぎながらアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)がつぶやく。
「今までも狙われていたダロウ事を知りツツ、無暗に歪虚へ接触シヨウとするとも思えないシ」
 使徒が眩しく暴れ回っているので遠くは見えないがVOIDの気配は感じる。
「派手に動イテ見せる様は、自身を囮に目的を呼んでいる様にも見え……僕達を寄せようとしないのナラ目的は歪虚ダケ?」
 理屈の上では正しいはずだが何かを見落としている気がする。
 攻撃を集中され被害を受けたハンターを強力な治癒術で癒やし、癒やした者を含む複数で連携し使徒を押し止めながらさらにつぶやく。
「例のアプリとか言う善くない玩具も蔓延シテイルと言うシ、その大本を引きずり出したいトカ? ソレならソレで、ハンターと共同戦線を張る事も出来るのではとか、個人的には思うのダケレド」
 マスティマを斜めに見上げる。
 会話を躱すには遠すぎ、観察するのなら容易な距離だ。
「マァ、今までそう接触もないハンターをただ信じろと言うのも難しいヨネ」
 一方的に使徒をけしかけている以上、交渉相手と認識している気配は皆無だ。つまり交渉が目的ではないのだろう。
 視聴者に向けている無機物を見るような視線とは根本的に異なるけれども慰めにはならない。
「けど、なにカ……」
 使徒の突進にあわせて闇の刃を膨大に撃ち出す。
 巨体に対する範囲攻撃は非常に効くが、BSは弾かれる。
「矛盾だネェ……ひねた子供みたいダヨ」
 唯一の目的に向かって真っすぐ進むような動き方ではない。
 この直感が正しいなら、リアルブルー説得の難易度は予想より酷いことになりそうだ。
 マテリアル製の刃が使徒の体に足に食い込み、対戦車級の銃弾が使徒の胸板に穴を穿つ。
 使徒が反撃しようとしても下手人であるルナリリル・フェルフューズ(ka4108)は既に遠くにいる。
 オートソルジャーと魔導バイク狙撃兵が、攻撃と巧みな進退を組み合わせて使徒数体を食い止めていた。
「蒼き世界の神様、一体何企んでるんです?」
 戦場の轟音でかき消されるのが分かっていても口に出さざるを得ない。
「内容によっては協力するのもやぶさかではないですよ。ただVOIDと接触するのは我々の都合ですけど貴方に消えられると大変困るので可能なら今の所勘弁して欲しいんですけど」
 戦場の端では少数のハンターがVOIDを食い止めている。
 大精霊がいる戦場に無能なVOIDが入り込むことは考えづらい。
 万一のことがあれば文字通り地球が終わりなので、本当に勘弁してもらいたい。
「私が話しかける理由は……」
 攻撃を中断してアクセル全開。
 オートソルジャーと共に100メートル近く移動すると、直前までルナリリルがいた場所に使徒4体が殺到して勢い余ってぶつかり合った。
 凄まじい衝突音だ。
 しかし鍛え抜いた覚醒者の耳は、この状況でも遠くの微かな音を時々なら拾える。
 大精霊であるリアルブルーであればそれ以上の能力があっても自然だ。
「貴方も忙しい様なので手短に。私を貴方の守護者にしてくれませんか!」
 双方利害は一致しているはずだ。
 ルナリリルはVOIDと戦う力が増して大満足、大精霊にも自由に使える直属戦力は魅力的。
 そのはずなのに、蒼いCAMは子供のようにプイとそっぽを向いた。
「聞こえないふりですか……」
 或いは聞く耳を持たないのか。
 使徒の攻撃を防ぎながら敵の配置を観察し、防衛戦の要の1体に強烈な銃弾を浴びせて半壊に追い込んだ。
「ディーナさん、いいのね?」
「死にたいなんて欠片も思ってない」
 星野 ハナ(ka5852)に問われたディーナ・フェルミ(ka5843)は、全弾撃ち尽くしたバズーガを放棄した。
 強力で有用な武器が音を立てて転がる。
 戦後に回収できる確率は5割程度だろう。
「でもエクラの聖導士なら、ここが命の賭け時だと思ったの」
「オーケイ覚悟完了済みね。付き合ってあげるわ」
 ハナ機がブラストハイロウを解除する。
 射撃に専念していた使徒が光刃に切り替えようとするが判断と速度がそれぞれ半秒遅い。
 2機のエクスシアがブースターを全開にして舞い上がった。
「マスティマの高度、海抜40メートル。地上の使徒が対空射撃動作っ」
 今度はディーナ機が光翼を広げる。
 どれかは確実に当たるだろう光の豪雨も、絶対防御の性質を持つ光翼を超えることができない。
「目標到達まで後70」
「高度を上げるの」
 使徒による壁が厚い。
 人間サイズなら強引に突破できる可能性があっただろうが、CAMに匹敵するサイズを強引に突破しようとしたら足止めからの包囲殲滅不可避。
 高度をさらにあげる。
 マスティマとの高度差が100メートルを超える。
 万一飛行能力を失えば機体ごとスクラップ確実だ。
「頭でっかちの引きこもりの大精霊、貴方は遠く人のざわめきを受け取るばかり」
 蒼い機体の気配が巨大過ぎる。
 目視するだけで魂が削られている気すらする。
「貴方自身で生身の人間を助けた事殺した事、あったとしても遠い記憶の彼方でしょう?」
 ブースターを上に向ける。
 重力と推力が下向きの猛烈な加速を生み出す。
 速度が上がりきる前に天地逆のレシーブをハナ機が敢行。
 片道切符にした見えない下向き突撃が始まった。
「これがトラウマになったとしてもそれがいつか貴方を此方に引き戻すと信じるの」
 マスティマは、意識を向けすらしなかった。
 空間が微細に揺れる。
 2体の使徒が大精霊の上に現れ、薄かった上空の守りが十分な厚さになる。
「ちょっとそこの大精霊さん落ち着きましょぉ」
 ハナ機も下向きに加速中だ。
 ブラストハイロウも使っていないので対空射撃が機体まで届く。
 極限の集中と反応で躱してはいるが長くはもたない。
「女の子の覚悟にそう応えるのは無粋過ぎるでしょぉ」
 ディーナ機の進路上の使徒へ射撃攻撃を集中。
 中破した時点でディーナ機がマテリアル刃を突き込みぎりぎりで破壊した。
 使徒の気配が一段階増した。
 主の危機を救うために力を限界まで絞り出し、ディーナ機の至近に3体が新たに現れる。
 そのうち2体はかすりもせず、しかし残る1体がR7にビリヤードの玉のようにぶつかった。
「あぅっ」
 ディーナのR7が斜め下へ吹き飛ぶ。
 ぶつかった使徒は同族数体を巻き込み無人のビルへ横からめり込む。
 遠くに見える公園で緑が散る。立派な木をクッション代わりに潰した大破機から、半死半生のディーナが抜け出した。
「貴方人間に毒され過ぎてませんかぁ? 白血球を止められないって怒る医者は居ませんよぅ。もう少し弱くしてくれたら強化人間さんの役に立つからラッキーですけどぉ」
 使徒が抜けた空間をハナ機が通過する。
 進路上へ飛んで来た使徒を下向きバックドロップで蹴っ飛ばし、衝撃で歪んだ搭乗口を無理矢理開いて術の準備を整える。
「貴方は歪虚と話しに行くより海豚を守護者にするよう海に海豚探しに行った方が良いと思いますぅ」
 マスティマと視線があった。
 ワイヤーを飛ばすが回避され、ハナは壮絶な笑みを浮かべて広範囲攻撃術を行使する。
「享楽的で頭が良くて刹那的で害獣。今の貴方にない視点を拡げてくれますよぅ」
 結界による光の一撃は確かにマスティマに届いた。
 だが、地面を殴ったときようように、手応えはあって有効打を与えた感触は全く無かった。
「効いてないよ……」
 ノノトト(ka0553)の額に汗が浮かぶ。
 リスクを覚悟してファントムハンドを使った。
 ハナの撤退を援護するためと、マスティマを引き寄せることで接触と説得を容易にするためだ。
 このファントムハンドは理論上の限界には達していないが強烈な強度があった。
 なのに手応えが全くない。成功確率0割の相手に術を使った感覚そのものだ。
 マスティマが軽く腕を振るうと、幻影の腕は消滅してしまった。
 魔導アーマー「プラヴァー」をビルの影から影へ走らせる。
 うさぎを思わせる形の脚が床と壁を蹴り、同じくうさぎに似た印象のセンサーが使徒の急接近を捉える。
「なにを考えてるんだろう」
 大精霊の意図が分からない。
 スラスターによる加速で使徒と使徒の隙間をすり抜け、最上の馬並に速い脚で追いつかれるまえに突き放す。
 ノノトトを倒しに来た使徒の1隊が、数秒ではあるが何も出来ない烏合の衆と化した。
「この場から逃げ出したいのならワープでできるはず」
 強力な味方が真横から使徒を突く。
 使徒が迎撃を試みても準備不十分では防ぎきれず、マスティマの近くに跳ぼうとしても発動までの時間差を突かれ次々撃破される。
「VOIDと何としても接触したいのなら、これもワープでできる」
 3本目のポーションを痛みに耐えつつ飲み干す。
 プラヴァー・ラビットは異様に早いが防御面は平凡であり、擱座を避けるためにノノトト自身が防ぐか受ける必要があった。
「はねつけはしないけど、捕まえられるのは嫌がる」
 振り返る。
 マスティマは時折ニダヴェリールがある方向を見るだけで、使徒に任せて戦いを見物している気配すらある。
「でも、止められるだけの力を見たいだけなら、こんな事する必要もない」
 そこまで性格が悪いとは思いたくないし、万一そうであってもそんなことをする余裕はないはずだ。
「何かをぼく達に見せたいの?」
 あるいはその逆で、ハンターが戦う様を何かに見せたいか。
 ノノトトは考えながらも移動は止めず、ハンター後衛に向かおうとした使徒をファントムハンドで捕らえて足止めした。
 こちらは問題なく効果を発揮する。ファントムハンドは間違いなく強力だ。
 止まった使徒をアルヴィンの術が削りに削る。
 砲撃と銃撃が集中し、後ろへ跳ぶ前に使徒の胸と胴が破壊される。
「結局力を示す事が必要カモ知れなくとも、まずは話してみたいナ」
 戦闘するに至った相手との対話も説得も凄まじく困難だ。
 交渉相手に足るという証明をするだけでも異様なほど難度が高い。
 それでも、対話を諦めるつもりは全くなかった。

●蒼の翼
 旋回する魔斧が地上の使徒を押し潰した。
 刃筋も立っているし衝撃の伝わり方も計算し尽くされているが、熟練のハンターでなければ圧倒的な腕力で以て破壊したようにしか見えない。
「らちが明かねぇ!」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)が唾を吐く。
 血が混じった液体が乾いた地面で土埃と混じり合う。
「仕掛けるぞ」
 グリーンゴールドとレッドゴールドで塗装されたCAMが手で了解の合図を出し、コクピット内のアーサー・ホーガン(ka0471)がマスティマと使徒の配置を周囲のハンターに伝える。
「俺より前に死ぬなよヴァーミリオン!」
 大精霊クリムゾンウェストとの繋がりを強化する。
 守護者としての力がさらに解放され、膨大かつ濃密な正マテリアルがボルディアの全身を覆う。
 効果はそれだけでは終わらない。
 巨大なマテリアルは使徒の視線を否応なく引きつけ、使徒の3分の1がボルディア1人に刃と光弾を集中させる。
「オレらの力を見てぇんだろ? 目ぇ見開いてじっくり見ていけ!」
 真斧が届く範囲の使徒全てが全壊して地面に墜落する。
 蒼いCAMもVOIDに対する警戒あるいは観察を止め、体ごとボルディアに振り返る。
 元々の壮絶な防御能力に守護者としての力が加わることで、通常の被弾時のダメージは皆無。
 急所に当たったときですら、分厚いマテリアルがダメージを吸収して浅い傷にしかならない。
「君がクリムゾンウェストの守護者か。さすがに興味深いね」
 惑星そのものの意識が1個人に向く。
 脳味噌が弾け魂が押し潰される己を幻視してもボルディアも幻獣も止まらない。
 流れ弾だけでぼろぼろのヴァーミリオンが、大量の使徒を引きつけマスティマに迫る。
 迫るのは手段、引きつけるのが目的だ。
 ハンター後衛の広範囲術、ゴーレムによる砲撃、そしてCAMによる射撃が密集した使徒を効率よく抉り墜落させ戦闘不能に追い込んだ。
「巻き込まねぇのはいいがよ……」
 ボルディアが宙のマスティマとその護衛を一瞥。
 超人の枠からもはみ出しつつある彼女でも、専門装備やスキル無しで空を飛ぶことはできなかった。
「壮観だな」
 黄金の機体の中でアーサーがつぶやく。
 対軍勢に複雑かつ繊細な個人技は必須ではない。
 射程が長く貫通力があるだけのマテリアルビームが、たった3発で使徒5機を擱座させた。
「大精霊よ。この状況で聞こえないふりは無理があるぞ。まずは、お前のことが聞きてぇな。月から来たなら、他の大精霊2柱にも会ってるよな?」
 蒼いCAMが肩部と背中の翼を広げる。
 それが攻撃の予備動作であることを承知した上で、アーサーは堂々と問いかける。
「その在り方や行いをどう捉えた? それとだ、邪神に抗う意志はまだあるってことで良いのか?
「質問タイムはまだ早いんじゃない? 試しはまだ終わってはいないよ」
「何を上から目線に……と、実際位置的にも格的にも上の存在か」
 アーサーはにやりと笑って、通信機を操作し最大限の警告を放った。
 マスティマの翼が弾ける。
 個々のパーツ全てに空間を歪ませるに足るマテリアルが籠もっている。
 しかも個々が驚くほど機敏に動き、回避しづらい動きでハンターを狙う。
 一度に数個のパーツで襲ってくるので全てのハンターが襲われた訳ではない。
 それでも半径200数十メートル圏内の13機のユニットに、剣のようなパーツがめり込んだ。
「一般人から見たお前は、正体不明の人類の敵だ」
 黄金の機体はまだ動ける。
 自然と引き抜かれ本体に戻っていくパーツには目を向けず、蒼い機体をじっと見つめる。
「それじゃ、信仰の喪失が加速して力が弱まるはずだぜ。それだけのリスクを負ってまでやるとなると、邪神翼みてぇな邪神の一部がこの地球にもあるってことか?」
「へぇ……よく気付いたね。ちょっと遅すぎるけど」
「お前が協力してくれていたら手は打てただろうよ。何か事情があるのは分かるがな」
 健在な使徒の数は半数を切った。
 しかしマスティマが戦闘に参加したことで、戦局は五分と五分の拮抗した状態に戻る。
「リアルブルー! お前はずっと独りで戦ってきたんじゃないのか。誰も知らない間、ずっと」
 一度マスティマに戻った翼パーツが再び無数の軌跡を描いてハンターを襲う。
 盾を構えた1機の魔導型デュミナス改修機がその一撃に耐えゆっくりと迫った。
「この戦いはRBだけじゃない。誰一人欠けたら駄目なんだ」
 戦闘能力を失った使徒に止めは刺さない。
 キヅカ・リク(ka0038)は乗機に盾を構えさせ、地上から空の蒼を見上げる。
「僕は諦めていたんだ、自分を。だけどCWに行って色んなものを知って解ったんだ。出来ることがあるって」
 異様な効果範囲の翼撃が再度放たれる。
 躱しようがない。
 いわゆる回避能力3分の1という奴だ。
 高性能のCAMでも全て回避するのは難しく、当たればよほど防御が厚くない限り危険なほどダメージを受ける。
「なのにお前はどうしてそんな道を選ぶ! 今の世界から憎悪を向けられたらお前も邪神になるかもしれない。そんなのって無いだろう」
 声は冷静でも籠もった思いは熱い。
「僕はクリムゾンウェストに縛られてる。それでも僕の世界はここなんだ。お前に死んでほしくなんか無いんだよ、リアルブルー!」
 思いは届いていた。
 なのに大精霊は止まらない。
 翼パーツがマスティマへ戻る。
 超広範囲攻撃にハンターが警戒するが、力は外へは向かわず内へと向いた。
 マスティマの全てのパーツが神々しく輝く。
 特別の対策が施されていない回線が断絶する。
 回線越しでも直視すれば非覚醒者が死にかねない迫力があったので、回線が壊れたのは多くの人間にとって幸運だった。
「足りないんだ」
 マスティマから声が聞こえる。
 背中と腰のパーツが細かく分かれ、死の羽がキヅカ達ハンターを襲おうとした。
 星神器「カ・ディンギル」が地面に突き立てられる。
 鞍馬 真(ka5819)の意思に反応し、機械仕掛けの神器が薄い金のオーラを纏う。
「させないよ」
 クリムゾンウェストから貸し与えられた力では全く足りない。
 真の体からマテリアルが引きずり出され、周囲の認識だけでなく現象までハンター有利に改竄される。
 死を撒き散らすはずだった羽の軌道が揺らぐ。
 攻撃の大部分が明後日の方向へ消え、不幸にも当たった羽は凄まじく頑強なユニットかハンター本人に耐えられた。
「大精霊リアルブルー、か。まずははじめましての挨拶から、かな」
 息が荒く顔色も悪い。
 けれどマスティマを見る目は揺れはしない。
「何が目的で……いや、何を探して世界各所を制圧しているんだ? 探し物があるのなら、協力できないか。黙示騎士もきみを探している。今君が奴らと接触するのは、きっと危ない」
 声に出しての答えはなく、マスティマが居心地悪そうに身じろぎをした。
 真は大精霊には仕掛けない。
 イェジドに吼えさせ使徒の動きを乱し、ハンターを呼び寄せることでマスティマへの道を維持しそして広くする。
 装甲を穿つ光弾も、当たれば骨まで危ない光刃も大部分が見当外れの方向へ。
「攻撃が曲がる……? クリムゾンウェストの星神器か」
 ハンターに敵対する側の全ての狙いを甘く雑に変化させるることで、戦局は一気にハンター有利に変化させた。
 キヅカ機が使徒に押されている。
 特大の一撃は外れたとはいえマスティマから受けた打撃は深刻で、機体から降りることも考えるレベルだ。
 だがまだいける。一度降りれば飛行能力も失い移動手段が限られるので易々と捨てることはできない。
 マスティマが飛ぶだけで置き去りにされてしまうからだ。
 使徒の光刃を避け斬艦刀で擱座に追い込む。
 華麗な防御と攻撃ではあるが、同時攻撃や範囲攻撃ができないため時間がかかっていた。
 直線に伸びる炎がマスティマの脚を撫でた。
 翼が攻撃に向いているため防御能力は下がっていて、守護者級の威力はなくても十分に通る。
「何が大事か、自分がどこの立場に居て、何を望むかによって見方は変わる」
 魔導バイクと回転式魔導銃を武器に、浅生 陸(ka7041)が地獄の戦場と化したお台場を走る。
「誰が味方かも変わる」
 当たれば重体、防いでも重傷になりかねない光弾や光刃をかいくぐる。
 陸が攻撃を引き受けた分味方への妨害は薄くなり、使徒は排除されリアルブルーがハンターを拒否する理由も薄くなる。
「俺の生きる場所なんだ。ここを壊す訳にはいかねぇ。……大精霊、何を”敵”にしようとしている?」
 マスティマにダメージを与えたことで、使徒からの攻撃が陸に集まるようになる。
 魔導鎧でもダメージは防ぎきれないがまだ生きている。
「生憎、少数の犠牲を払って大義を達成する、とかいう考えは嫌いでな。怪我は厭わないが死ぬつもりも全くない」
 使徒を引きつけた後は戦場外周に直進。
 治癒術の支援を受けて走り続ける。
「大精霊がどういう考えで在ろうが力を見せつけてやりたいんだよ」
 少なくとも、彼の覚悟と知性は伝わっていた。
 空飛ぶ紅の機体から異音が響く。
 通信系と索敵系と生命維持系だけは死守しているが他はぼろぼろだ。
 プラズマキャノンを後2発撃てば暴走・爆発しかねない。
「どうしても一発殴らにゃ気が済まねぇんでな。殴らせろ」
 1発は安全に撃てるライフルもキャノンも非発射モードに切り替え、マニピュレーターに指をバキバキ鳴らす動作をさせる。
 大精霊は困惑している。
 アニス・テスタロッサ(ka0141)の狙いが分からない。
 何をするつもりかは読めるが何故そうするか判断するための価値観がない。
「なぜ?」
「俺の意地だバカヤロウ!」
 攻撃途中で機体の隅々にまで意識を広げる。
 拳の進路が微かに変わり、マスティマの顎に届いて――しかしマニピュレーターの側が砕けて飛び散った。
 マスティマの顎に微かな傷がついている。
 生命力表記で1にも満たない微かなダメージ。
 なのに大精霊リアルブルーは、大声で叱られた子供のように怯えている。
「いいか! テメェが何しようとしてるか知らねぇが、物事には順序と通すスジってもんがあるんだ!」
 使徒が激烈に反応する。
 至近のハンターを無視して、ただひたすらアニスの機体を光弾で狙う。
「それすらすっ飛ばして勝手に仕出かしやがって」
 ほとんどを躱すが2発が装甲に命中。
 フレームにひびが入るがまだ飛べるし戦える。
「馬鹿か、テメェは!」
 蒼い機体が両手で頭を抱えかけ、誤魔化すように元の位置に戻す。
 死の羽がマスティマの元に戻ってその体を覆いマント状の鎧と化したのを見れば、大精霊の心理状態は容易に想像できた。
「どうせ大精霊っつったって万能じゃねぇんだろ。万能ならそもそもあのクソッタレ共がこの世界に来れてるわけがねぇ」
 顎をしゃくるって示した先には、ハンターによって食い止められているVOIDがいる。
 まだハンター優勢だがスキルは減って増援もなく、対するVOIDは倒された分増援が現れ戦力を維持している。
 もう、余裕はそれほどない。
「で、俺らは何したらいいんだ? 時間ねぇんだろ。早く言え!」
「嫌だね」
 ぷいとそっぽを向くと同時に短距離テレポート。
 今度は拳ではなくプラズマキャノンによる砲撃が襲うが、本来の性能を発揮したマスティマが余裕をもって回避した。
「お前、諦めようとしたな」
 水しぶきの音とスラスターの噴射音が同時に聞こえた。
 不用意に使徒から離れたマスティマに、水辺から垂直へ飛んだオファニムがワイヤーを手に襲いかかる。
 三次元のベクトル変化と四肢とワイヤーに攻防は非常に高度だ。
 基本性能が違い過ぎるためマスティマ有利ではあるけれど、気迫ではアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が勝り装甲の突起部にワイヤーを絡みつけることに成功した。
「電波塔制圧でアプリ配信を止めようとした。けど駄目だったから戦争自体を止める気か」
 力任せにワイヤーが引きちぎられる。
 オファニム・ルー・ルツキンは最小限のスラスター使用で安定を維持してみせる。
「一人で抱え込んで先走って相談もしないのが今のお前だ。見捨てられたと思い絶望して人を見捨ててすれ違う。何故向き合わない?」
 子供の眉間に皺がよるイメージが、戦場全体のハンターに届く。
「2千年もあんなザマをさらした人間の言うことか!」
 この戦場で初めて見る怒り。
 アウレールの視界が赤く染まる。
 圧倒的上位者の気配に耐えられずに毛細血管が破裂した。
 平衡感覚が少し怪しいのは、三半規管か最悪脳にダメージがあるのかもしれない。
「今は私達がいる。強いだろ。私の大事な戦友達だ」
 返事はマスティマ胴部に集まる正の極光。
 点になるまで集まり大地も貫く光の槍となりアウレールを狙う。
「何故こんなに強いと思う? 大体諦めが悪いんだ」
 ただの直線型攻撃など、紛れ当たり以外では当たらない。
 高性能に仕上げた機体をスキルと生命力を費やしさらに性能を引き上げることで、こうして地球の前に立てている。
「悩んで迷って、それでも戦ってる。見捨ててなんかない、皆お前と話をしに来てる。自分で何もかも出来ないなら人を頼ってみるのもいいじゃないか」
 戦場のただ中で、本格的な対話が始まろうとしていた。
「なんとかなりそうだね」
 真は息を吐き、倒れそうになった。
 イェジドのレグルスが器用に向きを変えて主の転倒を防ぐ。
 真の手にある機械仕掛けの杖は、一時的に力を使い尽くして活動を停止している。
 大魔法による敵攻撃妨害結界は非常に疲れるのだ。
「きみは」
 空を見上げる。
 炸裂弾じみた光や、射程240メートルのマテリアルビーム、時折威力を跳ね上げるハイパーマジックエンハンサーを使いハンターのCAMと刃を交えている。
 大精霊が何をしようとしているかは分からない。
 ただ、微かに感じるものがある。
「今自分にできることを必死で探しているのかな」
 マスティマを駆るリアルブルーは、焦燥に背を押されて何かを探しているようにも見えた。

●いつもの仕事
 若き剣士と異形の人型が剣と剣状の腕を打ち合わせる。
 前者は小柄でペガサスに乗り、後者はゴリラ並みの体格と体力を誇る。
 映画として流せば非常に稼げそうな絵ではあるのだが、地球そのものの霊がいる戦場と比べると地味であった。
「歪虚を誘ってるよね、マスティマ」
 剣で受けると見せてペガサスの横移動で躱す。
 わずかに体勢を崩した異形に向け斜め下に剣を突き出す。
 固い殻を砕き実体化した負マテリアルを切り裂く手応え。
 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804)はVOIDの消滅を確認するより早く、ディヴァインウィルの詠唱を終えた。
 結界の一面に小柄なVOIDがひしめいている。
 突破して来ないので抵抗力も弱く戦闘力も低いのだろう。
 とはいえ範囲攻撃手段を持たないピアレーチェが倒すには少々多い。
「んで思いっきり誘われちゃってるよね、大精霊」
 背後から神話めいた戦いの気配がする。
 人類の最精鋭と大精霊との戦いには大きな意味があるのだろう。
 もっとも、一時的にであっても両者が力をすり減らすのは、VOIDに巨大過ぎる隙を晒すということだ。
「歪虚は電波塔を利用して企んで、大精霊は本命の塔が分からないからシュレディンガーの注意を引いて他での調査時間を稼ぐつもりで……全てシュレディンガーの掌じゃないこれ」
 結界がみしりと鳴って明滅した。
 もう少し時間を稼ぐかと気合いを入れたタイミングで、宙に出現した斬撃が雑魔級VOIDの群れをなで切りにした。
「助かったよ!」
「こちらこそ。お陰で大精霊にVOIDが近づくのを防ぐことができた。空飛ぶマスティマを直接護衛するのは難しいようだしな」
 アーク・フォーサイス(ka6568)は大剣サイズの片刃剣を持っているとは思えない速度で駆け、海側を通り抜けようとしたVOID群に横から攻めかかる。
 刃を振るうたびに散る桜の幻影が、VOIDを捕らえて攻撃能力を削ぐ。
「どうなっているか分かる?」
 ピアレーチェが浄化法術を発動する。
 いつの間にか軽度の汚染をされていたらしく、彼女だけでなくペガサスもほっと息をつく。
「超格上を殴って振り向かせたというところだが……」
「わー過激」
「涙ぐましい努力と言ってくれ。なんとか対話できる雰囲気ではあるが……ふん」
 遠くからの視線に全力で抵抗する。
 質と量で圧倒してくるリアルブルーとは異なり、負マテリアルによる悪意に満ち満ちた妨害工作だ。
「時間の余裕はないようだ。頼めるか」
「任せて。あっちのを止めるね!」
 転倒した大型車をペガサスが飛んで超える。
 そろりそろりと大精霊に近づいていたVOIDを見下ろす位置で、ピアレーチェが勢いよく拳を天に突き出した。
 アブソリュート・ポーズ。
 錬筋術師の大技がVOIDから知性を一時的に奪って吹き飛ばす。
「大精霊との話を続けよ! 増援には俺が向かう」
 空から聞こえた凜々しい男声に10秒ほど後れて、マテリアルレーザーが斜めにVOID群に突き刺さる。
「負担をかけ過ぎた。代表して謝罪しよう」
 エクスシア清廉号が堂々と地面に着地する。
 ブラストハイロウが使えるわけでも足止め用結界術が使えるわけでもない。
 ただ大きく頑丈な機体が、VOIDにとって異様に邪魔な障害物となる。
「俺も大して変わらない」
 鋭く踏み込み小柄な割に分厚い装甲を抉り、ひと繋がり動きで止めの斬撃を入れる。
 強いて言えば人型のVOIDが倒れ、全ては消えずに残骸がアスファルトの上に残る。
「蒼でも紅でも、世界が異なっても関係ない。俺は、生きる命が無為に失われるのが嫌なだけだ」
 大精霊また守るべき命の1つだと、アークは心からそう思っていた。
「そうか」
 ロニ・カルディス(ka0551)の返事には喜色が強く表れていた。
 笑われているのに不快感がないことを不思議に思いながら、アークは圧倒的な殲滅速度でVOID群を1つ殲滅する。
「すまない。立派な若者を見るのが嬉しくて、ついな」
 ロニの喜色は強くそして深くなるばかりだ。
 苦労もしてきたし救いようのない現実も散々見て来た。
 だからだろうか。
 前に進む者達がたまらなく眩しく見える。
「次はあれを防ごう。倒すのは任せるぞ」
 返事を聞く前にアクティブスラスターで加速。
 CAMとは思えぬ速度でVOID群の進路に割り込み、ハンターとリアルブルーの邪魔をさせない。
「世界のために戦おうとしているのは我々だけでも大精霊だけでもない。VOIDに邪魔はさせんよ」
 敵はサイズ以上に頑丈で手強い。
 盾で防いでも速度の分薄くなった装甲では防ぎきれる深い亀裂まで生じる。
 だが通さない。
 人類の命運がかかっているのはいつものことだが、今回は失敗即破滅レベルで命運がかかっている。
「キリがない」
 ロニ機の前に貯まったVOIDを斬撃で一掃する。
「ふむ」
 ロニは視線をVOIDにのみ向け、霊的な感覚で背後の状況を知る。
「上手くいっているようだ」
 率直に言って友好的な雰囲気ではないが、大精霊がハンターと話す気になっているのは超絶の進歩だ。
「後2分は時間を稼ぐぞ」
「いくらでも稼いでやる。大精霊が、リアルブルーそのものが失われないように力を尽くしたいたいからな」
 斬って、斬って、躱して斬る。
 スキル切れで殲滅速度は落ちたが敵を倒すには十分だ。
 清廉号の被害が増えるがロニが本人スキルを活かした防御を行いぎりぎりで持ち堪える。
「新人時代を思い出すな」
 獣を思わせる縦割れの形へ変化した瞳に感慨が浮かぶ。
 得物は特級の刃に変わり、身に纏う装甲は希少な鉱物を使った高度技術の産物になった。
 スキルの無い戦いでも敵を圧倒できるのは、装備もあるが同業との信頼関係と自ら磨いた技のお陰だ。
「一方的な要望は叶わないものだ。なら互いの想いを伝えなくては」
 遠くにいる大精霊の耳に、届いている確信があった。

●リアルブルー
 極小の欠片が宙に舞う。
 大精霊リアルブルーのマテリアルを直接注がれた装甲に、数個の弾痕と亀裂が刻まれた。
「ハンターの力……これほどとは。クリムゾンウェストめ、こんなの個人に持たせていい力じゃないぞ」
 大気や大地を砕かないよう手段は選んだが手加減はしていない。
 なのにハンターは1人も死なずに使徒を食い止め、神の仮初めの体であるマスティマに語りかけてくる。
「使徒が後退を?」
 無骨なCAMのコクピットで、岩井崎 メル(ka0520)が絞り出すように呟いた。
 使徒は抵抗を続けているが無理を止めた。
 マスティマの護衛を止めた自己保存を優先した個体までいる。
「ポラリス君っ」
 直接語りかけるなら今しか無いと、小回りの利く飛行手段を持つ友達に声をかける。
「ごめ……パティ今むり」
 パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が真っ青な顔で浅い息だ。
 骨すら残らず焼くビームが飛び交う戦場にいればこの程度は疲れる。
 彼女よりもっと酷いのは彼女の足であるペガサス。
 文字通り死ぬ気で避け続けた結果脂肪の厚みは1センチほど薄くなり、まだまだ太い腹が激しく上下している。
 死者こそいないが重傷者は多く、それ以上に疲れ果てた者が多い。
 ハンター側もそろそろ限界だった。
「大精霊どんが落ち着いてからは、カナタが初めてのようじゃな!」
 1機のR7が、ブラストハイロゥを展開したまま器用に胸を張った。
「目的は果たせたかの大精霊どん」
「……どの目的かな」
「システムを書き換える事でイクシードアプリの契約先を大精霊どんに変更するんじゃろ?」
 えっ、と驚く気配がどこからか生じた気がした。
「敵は電波塔からイクシード・アプリ拡散させておるのじゃろ。目的は邪神との契約者を増やす事で負のマテリアルを蔓延させること。最終目的は地球を邪神を召喚し易い環境を作るのが敵の狙いじゃから最優先で止めるしかない、じゃろ?」
 ミーミーと、カナタ・ハテナ(ka2130)に賛同する鳴き声もどこからか響く。
「それほど間違っていないだろうね」
「のんきな言いようじゃのー」
 やれやれと言いたげにミーミー鳴き声が響く。
「どうやら書き換えは失敗したようじゃの。契約者を増やし自身の格と地球の戦力を増し邪神に染まった人を抹殺されても困るからそれはいいのじゃが」
 ミ! と元気な合いの手。
「リスクをしっかり計算するのじゃ。アプリの広がりを考えると一刻を争うじゃろうが、敵は大精霊どんが来るのも想定済で罠を仕掛けてる可能性大! このまま進むのは危険なのじゃ」
 犬死にする気かオメー、という響きのミーミー音が重なる。
 今のところ現れてはいないが、超大物歪虚が伏兵をしていてもおかしくない。
「一度戻って皆で協力しないかの。大精霊どんは独りで抱え込みすぎなのじゃ。それでは邪神に勝てぬよ」
 ただの人間が言えば誇大妄想だが、リアルブルーと戦い手傷すら与えた覚醒者が言えば説得力のある提案になる。
 マスティマの中で、大精霊は返す言葉を見つけられなかった。
「戦う理由がなくなったのなら部下を下げたらどうだ」
 2本の光刃と刀斬艦刀で斬り結びながら、オウカ・レンヴォルト(ka0301)がほとんどうんざりした口調で言う。
「お前が制圧したポイントには、何があった……いや、何があると思った?」
「今まで襲撃した場所に何があるのか考えてみればわかる。というか、わかっている人もいるみたいだね」
「今更勿体ぶる必要はないだろう。まあ、今は時間が惜しい」
 使徒の足の装甲だけを鮮やかに切り裂き、しかしそれ以上は攻めずに向きを変えて跳ぶ。
「VOIDはクリムゾンウェストの時も、大精霊を狙っていた。首輪をつける方法や力を奪う方法があるかはわからんが何かしらの策があるのは間違いない」
 そう。反影作戦で大精霊を狙っていたからには、歪虚側にも大精霊に何か打つ手があると考えるべきだ。
 VOID阻止班を援護できる位置に機体を移動させ、マテリアルライフルの射程と貫通力を活かしてVOIDを削る。
「奴らは馬鹿ではないし、現在の地球技術を利用する程度に悪辣だ」
 マテリアルライフルを止め前へ飛び出し、見た目と気配より明らかに強いVOIDを確実に斬り捨てる。
「一人では……使徒だけ引き連れて行くようなら行かせられない」
 リアルブルーの中の、判断を司る天秤が揺れる。
 最悪でも自らが傷を負うだけでこの危機を解決できると思っていた。
 だが、もしかしたら、はっきり見えている落とし穴に進んでいるだけだったのではとオウカは思ってしまった。
「ふぅ……もう大丈夫」
 混乱を表すように頭上でくるくる回っていた光が停止した。
 パトリシアの金髪が光を反射しふわりと風に揺れる。
 貫禄のあるペガサスが一生懸命翼を動かし、主を空の大精霊の前へ連れて行った。
「ねぇ、何を探してるノ? パティ達は、どーすればイイ?」
 一生懸命である。
 マスティマに壊された通信設備や、VOIDにより破壊された建造物を指で示しては声だけで無く表情と全身で問いかける。
 リアルブルーはなんだこいつとでもいうような雰囲気だ。
 それは開戦直後のような羽虫に対する態度ではなく、言葉を交わす程度には認めた相手に対する態度であった。
「ンン?」
 パトリシアが口を閉ざして小首を傾げる。
 勢いよく舞い踊っていた蛍を思わせる光が金髪に触れて止まり、数秒後勢いよく上に飛んでくるりと回った。
「飽きちゃった? ううン、お仕事終わったの?」
 マスティマの動きが一瞬不自然に止まった。
「……訳が分からない」
 困惑と微量焦りが滲んでいる。
 向かい合うパトリシアは微笑ましいものを見る態度だ。
 コミュ力に関しては、弱者と強者が完全に逆転していた。
 メルは機体とHMDを通して戦場とその周囲を確認する。
 VOIDの姿はどこにもない。
 大量かつ巨大な建物の向こうのどこかにはいるのだろうが、横槍を入れるには遠すぎる距離があるはずだ。
 だが盗み見や盗み聞きをするには十分だ。
 小さなマイクがあれば音声を拾えるし、はるか遠くの口の動きを見るだけで発言を読み取ることだって不可能ではない。
 騙し騙し使っていたシステムと魔導エンジンを一度停止して即座に再起動させることで、エネルギーバイパスの切り替えを行う。
 温存していたフライトシステムも使い、マスティマへ一直線に跳んだ。
「リアルブルー!」
 息がかかる距離で手を伸ばす。
 これまで他のハンターからも散々仕掛けられたせいか、ワイヤーによる固定あるいは糸電話作戦は完全に阻止された。
「黙示騎士が迫っている事を認識しているの!? 彼らと接触した場合の勝算、もしくは被害の予測は出来ているのっ」
 認識のすり合わせは極めて重要だ。
 大精霊の目的を知ることができれば、ハンターのそれと致命的衝突を避けるようにするのは良いなはずだ。
「策がある場合、ここにどれくらい留まれば上手く行きそうなの」
 なのに大精霊は応えないだけでなく機嫌を悪くする。
「ハンターが接触する事で不利はあるの」
 まるで気難しい子供だ。
 表面だけは大精霊らしく、その実面倒臭くなってメルから距離をとる。
「そんなに一気に質問されても困るんだけど」
「あ。そうだよね……ごめんなさい」
 マスティマは大精霊の意思に素直に反応するのか、巨人はあからさまに肩をすくめて見せた。
「ここでやることはもうないよ。目的はいくつかあったけど、おかげさまで果たされたからね」
「目的って?」
「今君たちがやったこと全部だよ」
 光が弾け、マスティマの姿の消える。
 メル機だけでなく、ハンターとそのユニット全員が大精霊を姿を見失った。
「行ってしまいマシタ……」
 パティが肩を落とす。
「ウ?ン、ハンターがやったコトって?
 オウカは順々に消えていく使徒を横目で見ながら、数と質を増していくVOID増援を迎撃する。
「最悪の展開は防げたはずだ」
 高位歪虚でも消し飛ぶダメージを与えたのに、マスティマにはかすり傷程度のダメージしか与えられなかった。
 マスティマが強いからそうなったとは言い辛い。
 異様に強いのは事実だが、圧倒的な保有マテリアル量を考えるとむしろ弱かったとすら言える。
「VOIDにとっては最高の獲物だろうからな。後は」
 最後まで会話を試みていたメルに視線を向ける。
「ハンターの力を認めてくれたのは大きな成果だと思う」
 地球に認められるなど歴史に残る快挙ではあるのだが、あの言動を見た後では素直に喜べない。
「VOIDや人間に騙されないといいのだけど……」
 大精霊に対する扱いが、抜けている子供に対するそれにかなり近かった。

執筆:馬車猪
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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