• 幻痛

【幻痛】揺れる大地~ベアーレヤクト初戦~

マスター:近藤豊

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/07/30 22:00
完成日
2018/08/03 06:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「設置は完了したが、準備にゃもうちょっと時間がかかるぜ」
 ヨアキム(kz0011)からの報告にヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は危機感を感じていた。
 部族会議に激震の報告が成されたのは、つい数時間前の事だ。
 怠惰の軍勢が大規模に南下を開始。その軍勢の中には怠惰王ビックマー・ザ・ヘカトンケイルの姿も確認されている。先の北伐で遭遇したビックマーは、要塞『ノアーラ・クンタウ』の城壁を破壊。そのまま歪虚が帝国領内へ突き進む道を築き上げたのだが、今度はおそらくノアーラ・クンタウ周辺を徹底的に破壊して歪虚の力を誇示する事が予想されている。
 それに対抗する為、部族会議は動き出した。
 作戦『ベアーレヤクト』――ビックマー迎撃に尽力を尽くしてはいるのだが。
「肝心のロックワンバスターの発射準備に手間取っていますか」
 ヴェルナーはそっと見上げる。
 そこにあるのは鋼鉄製の巨大な機導砲が鎮座していた。

 ――ロックワンバスター。
 機導砲の一種ではあるが、その規模は桁外れの大きさである。かつて辺境地下を侵攻していた巨大グランドワーム『ロックワン』を一撃で葬り去った威力を誇っている。
 前回では一発発射しただけでロックワンバスターの砲身は破損。二度目の発射はできないとされていたが、ヨアキムと辺境ドワーフ達が突貫で改修。何とか一発だけならば発射できる所まで漕ぎ着けた。
「エネルギーチャージは時間がかかるんだ。それより結界の方は大丈夫なのかよ?」
 部族会議は、ビャスラグ山の麓にある平原を第一防衛ラインに決定。
 怠惰王が持つ強力な能力『怠惰の結界』を無力化する『対怠惰の感染用結界』を展開していた。怠惰の感染は歪虚王に近づくだけで周辺にいる者の気力を削ぐ強力な結界である。この結界がある限り迎撃もままならないと思われていたが、四大精霊の一人イクタサから情報を得たヴェルナーが結界作成の尽力をしていたのだ。
「現在は正常に稼働しています。ロックワンバスターの方はチャージを早められませんか?」
「そうだなぁ。改良型QSエンジンを増やして対応しちゃいるが、少なくとも30分以上はかかるぜ。チューダがいりゃ、チューダエンジンでチャージを上げられるんだがなぁ。あいつ、こういう時に限って見当たらねぇんだよ」
「リゼリオにでも行っているのかもしれません。今から捜索しても間に合わないでしょう。それなら、今できる最善を行うべきです。キューソ達には申し訳ありませんが……」
「ヴェルナー様、来ましたっ!」
 ヴェルナーの部下が声を上げる。
 振り返れば、遙か前方に巨大な熊のぬいぐるみがこちらに向かって歩いてくる。
 あれは間違いなく怠惰王ビックマー。
 誇りあるノアーラ・クンタウを破壊した憎き存在だ。
「来ましたね。バタルトゥさんへ陽動を開始するよう合図を送って下さい。
 今回の戦いは勝つ為のものではありません。ファリフさん達が大神殿へ到着して準備を整えるまで、ここで時間を稼ぐのです」
「え。ロックワンバスターで奴を倒すんじゃねぇのかよ」
「残念ですが、それで倒せるのなら苦労はありません。あの巨体は伊達では無いと思いますよ」
 驚くヨアキムの横でヴェルナーは哀しい現実を口にした。
 予定ではバタルトゥら陽動部隊がビックマーの足止めを敢行。その隙にロックワンバスターでビックマーを狙い撃つ事になっている。
 だが、100メートルを超えるビックマーに向けてロックワンバスターを発射してもビックマーを倒す事は難しい。
 おまけにチャージに時間がかかる上、一発撃って壊れてしまう事が大きな難点なのだ。
 それでもロックワンバスターが巨大な機導砲であるが故に、ビックマーの注意を惹く事は可能だ。
「どこまで時間を稼げるかは分かりません。ですが、決して無理をしてはいけません。撤退は各自の判断でお願いします」
「って、おいっ! 巨人の奴ら、森に隠れて進軍してやがるぞ」
 東の森に向かって指を差すヨアキム。
 そこには先行していた武装巨人の一団が森に隠れて潜行していた。
 それだけではない。正面、さらにはビャスラグ山伝いに前進を試みる武装巨人の姿もある。
 武装巨人――ヴェルナーには報告書で目にした記憶があった。
「コーリアスも厄介な物を残してくれましたね。
 敵は三方に別れて前進……狙いはロックワンバスターでしょうね。防衛班の皆さんへ連絡。ロックワンバスターの防衛を通達して下さい。
 敵は巨人の一団。特に武装巨人には注意するように」
 ロックワンバスター発射まで――30分。

 『ベアーレヤクト』初戦は、こうして幕を上げた。


 第一防衛ラインから少し離れた森林地帯では。
「始まりました。終末へのカウントダウン。既に天使達はラッパを吹き、騎士は動き出しました」
 歪虚ブラッドリーは、一人森を進む。
 目指すは大きな山の麓に広がった戦場。今も歪虚と人間が血を流しながら激突している。
「動き出した歯車は、もう止められない。人と歪虚は終末へ向かう。
 蒼の1789……赤のそれは間もなく訪れる」
 ブラッドリーは先を急ぐ。
 終末に向けて人を導く事こそ――運命。
 戦場で響く悲鳴は賛美歌となり、散りゆく命は供物となる。
「終末の時は近い……人も歪虚も受け入れるのです」

リプレイ本文

 ――ベアーレヤクト。
 部族会議が仕掛けた怠惰王ビックマー・ザ・ヘカトンケイル討伐作戦。
 この戦いに勝利すれば、辺境を穢す負のマテリアルは広範囲で消え失せるはずだ。

 しかし、この作戦を成功させるのはそう簡単ではない。
 作戦立案者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、今回の作戦を一種の『博打』だと理解していた。それもハイリスクハイリターンの一か八かの大勝負。
 無茶ではある。
 だが、ビックマーが侵攻を開始した以上は、もう引き返せない。

 多くの不安を抱えての作戦スタートであるが、ヴェルナーはまだ知らない。
 ビックマーとは別の不安要素が動き出している事を。

「子羊により封印は解かれ、終末へ導く騎士は動き始めます」
 歪虚ブラッドリー(kz0252)は、森を西へと進んでいた。
 歪虚と人間の戦い。
 それも多くの血が流れる予感――それは、ブラッドリーにもしっかりと感じ取れる。
 待ち望んだ終末はやってくる。
 しかし、騎士はまだ動いていない。今しばらく時間が必要となる。
 その為にもラッパ吹きの天使達に命を賭けてもらう他無い。
「天使の皆さん。今こそ、ラッパを吹き鳴らす時です。誰しもが平等に終末を迎えられるよう私がお手伝いして差し上げます」
 ブラッドリーは森へと消えていく。
 胸元の逆十字が、鈍い輝きを見せた。


「来たぞ、お客さんだ」
 魔導型ドミニオン『真改』の機内モニターに映し出された武装巨人を前に、近衛 惣助(ka0510)は意識を集中させる。
 ビャスラグ山沿いに現れたのは、以前交戦した経験もある近代兵器に身を包んだ怠惰の巨人達である。『錬金の到達者』コーリアスが残したとされる技術を、巨人達が各地の工房で製作した武具を纏った。これにより以前は棍棒を振り回すだけの巨人がCAMのように銃器を片手に襲ってくる。
 相当厄介な相手だ。
 だが、ここで退く訳にはいかない。請けた依頼は必ず完遂させる。
「迎撃態勢に入る。ロックワンバスターには近付けさせねぇぞ」
 敵もこちらを発見したのだろう。
 巨人達はアサルトライフルで真改へ攻撃を開始する。
 対して真改は前衛に立ってランスカノン「メテオール」で応戦する。
 巨人達はこの先の平地に設置された巨大機導砲『ロックワンバスター』を狙っている。対ビックマー討伐作戦『ベアーレヤクト』の初戦はビックマー達の侵攻を抑える時間稼ぎである。作戦総指揮のヴェルナーもロックワンバスターでビックマーを倒せるとは思っていない。
 この場で侵攻を食い止めるには分かりやすい餌が必要だ。
 攻撃目標を据えれば、巨人達もロックワンバスターを狙ってくる。ハンター達に課せられた任務は、ロックワンバスターを護衛しながら巨人達を足止めする事だ。
「敵の数が多いですね。手を止めれば、やられます。
 久しぶりですが宜しくお願いしますよ、アリアドネ」
 Gacrux(ka2726)は魔導型デュミナス『アリアドネ』の持つKBシールド「エフティーア」を手に前へ出た。
 山沿いのルートを通って前進する巨人達。当初は五体一組程度でバラバラに襲来していたが、攻撃目標は一つだけ。自ずと目標近くでは敵は密集していく。ハンター達も各個撃破していたものの、時間が経過と共に後続の巨人が到着。
 結果的に敵の攻撃は激化。
 身を隠す岩も見当たらない以上、ハンター達にとって重要な役割は巨人の侵攻を食い止める『盾役』となる。
 つまり、アリアドネや真改は前衛に立って敵の侵攻をここで食い止めようとしていた。
「敵の増援が想定よりも早いか……だがっ!」
 真改は試作波動銃「アマテラス」へ連続射撃を敢行。
 マテリアルを込めた弾丸が、巨人達に雨となって降り注ぐ。巨人用ヘルメットや巨人用防護服により一部の弾丸は巨人達の体を穿つ事はできない。しかし、敵は密集しつつある。命中させて足を止めさせるならば有効な攻撃方法だ。
「なるほど。ならば、こちらも負けていられませんね」
 アリアドネの後方から噴き出すブーストは、ビャスラグ山の方向へ機体を進ませる。
 山沿いの地形は傾斜があり、場所によっては意識していなければ倒れかねない箇所もある。だが、山の上から打ち下ろす形になれば敵に多方向から攻撃できる上、敵は嫌でも山方向を意識せざるを得ない。
 目的地に到着したアリアドネは、早々に30mmアサルトライフルを巨人達へ浴びせかける。
「迎撃していますが、現時点では決定打に欠けますね」
 Gacruxは、理解していた。
 敵の軍勢は五体ずつの集団で襲ってくる。それも時間が経過すれば次々と現れる。言い換えれば、時間の経過と共に攻撃は激化していく。巨人を倒し続けているが、どこまで味方がこの場で耐えられるのかが鍵である。
 それは近衛にも分かっていた。
「30分だ。この場で30分耐え凌げばいい」
 ――30分。
 近衛自身で言ってはいるが、何処まで耐えられるか懐疑的であった。
 それは山沿いの戦場に不安があるからではない。他の戦場の状況にも懸念があったからだ。


「キャノ……じゃなかったキヅカ。上空から見れば事態は想定よりも厄介よ」
 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はワイバーン『北極』で上空から森林地帯を偵察していた。
 両軍の布陣と動向を軍用双眼鏡でチェック。地上にいるキヅカ・リク(ka0038)と連結通話で情報共有。その情報を他のハンター達に情報展開しようとしていた。
 森林地帯の樹木は多くが二メートルから三メートル程度。味方の一部は確認できる上、巨人もその体躯から居場所を掴むのは難しくない。
 全体の作戦ではエラとキヅカが掴んだ情報を元にゲリラ戦を展開して敵を攪乱する予定なのだが――。
「敵の数が多い。ゲリラ戦を展開しても、時間の経過と共に後方の巨人達が増援で現れるわね」
 エラは懸念を口にした。
 一部では森に『仕掛け』をする事で敵の侵攻を食い止めようとしているのだが、果たしてその仕掛けをする時間がどれだけあるのか分からない。仮に引っかかったとしても、後方から来る巨人まで止められるのか。
 それは現時点でエラにも分からない。
「心配事は、それだけじゃない」
「え?」
「もし外部から乱入が起こるのであれば、それは拮抗が崩れた時。片側が勝つ事を良しとしない何者かが……きっと来る」
 ロックワンバスターの周囲で刻令ゴーレム「Gnome」によるCモード「bind」を設置するキヅカ。
 こうしている間にも森林地帯ではハンターとの交戦が開始しているのだが、キヅカの脳裏には嫌な予感が渦巻いていた。もし、巨人の侵攻を食い止める戦いの最中に別の存在が乱入してきたらどうなるか。そして、それが怠惰の援軍となるならゲリラ戦を展開するハンター達に劣勢をもたらす恐れがある。
「厄介な相手が来るという事? だとしたら、まずいわ。巨人なら良いけど、普通のサイズで来られたら上空から発見するのは難しいかもしれない」
「そんな予感がするだけだ。この予感が外れてくれれば良いんだが……」
 言い知れぬ予感。
 だが、その予感はとんでもないタイミングで的中する事になる。


「30分稼げとか……無茶言ってくれるぜ」
 アニス・テスタロッサ(ka0141)は面白くもなさげに呟いた。
 ロックワンバスターの設置された正面の平原にも武装巨人の一団は侵攻を開始していた。五人編成の小規模となった一団が、次々と現れながら近づいてくる。
 手にしているのはショットガンと巨大な日本刀。近寄られては厄介だ。
「まあ、やるしかねぇけどよ」
 アニスは咥えていた煙草のフィルターを噛み潰す。
 制限時間は三十分。その間、ロックワンバスターへ敵を近付けない。
 簡単そうに見える任務だが、視界に広がる巨人の群れを片付けるのはかなり骨が折れる。
「節操なく集まってきやがったか」
 アニスはプラズマキャノン「アークスレイ」の照準に巨人を収める。
 狙うは、ロックワンバスターに最接近するサイクロプス。
 棍棒の射程距離へ近づくつもりだろう。意気揚々と近づいてくる。
 だが、サイクロプスはその一歩が死へのカウントダウンで気付いていないようだ。
「失せろよ、豚」
 放たれたアークスレイ。
 射程距離へ踏み入れたが故、アークスレイはサイクロプスの頭部へ突き刺さる。
 指示を出す頭部を失ったサイクロプスの体は、その場で力無く倒れ込んだ。
(武装巨人は厄介だが、普通の巨人は相変わらずか。しかし、これだけの大部隊なら練度や装備に差が生まれても仕方ないはずだ。付け入る隙はあるか)
 心の中で呟くアニス。
 以前見た報告書ではかなり手強い相手と記載されていた。
 だが、すべての巨人が武装巨人ではない。急遽決定した作戦だったのだろう。武装巨人だけではなく、棍棒を振り回す普通の巨人も混じっている。おそらく近代兵器がすべての巨人にまで行き届かなかったのだろう。
「でも吉報、ではねぇよな。やっぱ」
 再び別の巨人をアークスレイの照準に収める。
 既に多数の巨人がロックワンバスターにまで近づいている。
 一定の練度が維持できない代わりに、人海戦術で押し切るつもりだろう。手を止めれば、押し切られる可能性もある。
 次の煙草を咥えながら、アニスは次々と引き金を引いていく。
 アニスの脳裏に一抹の不安が浮かび上がる。


「あの……ヴェルナーさん」
 金杖「アララギ」を横乗りしてマジックフライトで上空を偵察していた桜憐りるか(ka3748)は、ロックワンバスターの傍にいたヴェルナーの元を訪れた。
 その表情は決して明るくは無い。
「どうしました、りるかさん」
「もしかすると……戦況はあまり良くないかも、です」
 りるかは上空から敵の位置を把握しつつ、正面から近づいた武装巨人の一団にライトニングボルトで支援攻撃を行っていた。
 武装巨人の中にはアニスが気付いたように練度が低いと思われる武装巨人もいる。だが、それを補う為に怠惰は、多数の巨人を送り込んできたのだ。つまり、敵を倒してもその後方から屍を踏み越えるかのように敵が前進してくるのだ。
 ハンターも敵の勢いを押し返そうと尽力しているのだが、徐々に巨人の勢いに押され始めているようだ。
「そうですか。障害物のある森林地帯はともかく、山沿いと正面は盾役って前に出る存在が必要になります。広い戦域で簡単ではないでしょうが、少しでも敵の侵攻を阻まなければなりません」
「はい。小太郎も頑張って、くれているのですが……」
 既にユグディラ『小太郎』も仲間をげんきににゃ~れ! で回復、もしくは森の午睡の前奏曲で巨人の勢いを削いでくれている。
 だが、それでも巨人の勢いは凄まじく完全に押さえ込むのは難しいようだ。
「ヨアキムさん、まだ発射までにはかかりそうですか?」
「ああ!? そんな早くにチャージは無理だ。もっと時間がかかるぞ」
 ヴェルナーは振り返る事なくヨアキム(kz0011)へ問いかけた。
 既にヨアキムは忙しそうにQSエンジンを何度も取り替えてチャージへ勤しんでいる。ヴェルナーの見立てでも、まだまだかかりそうな気配だ。
「りるかさん、よく聞いて下さい。ハンターの皆さんにはギリギリまで頑張っていただきたいところですが、危険を感じたら撤退するように伝えて下さい」
「!」
 ヴェルナーからの言葉にりるかは驚いた。
「それは、ロックワンバスターが……発射できなくても、良いという事……ですか?」
「はい。あくまでも最大の目的は『敵をこの場に長時間釘付けする事』です。倒す事が目的ではありません。それに本番はこれから。そう、この戦いは耐える戦いなのです」
 ヴェルナーはロックワンバスターが発射できなくても構わないと言い切った。
 作戦上、想定よりも長く足止めできないのは厳しいところだが、作戦の主力であるハンターが倒れる事の方が問題だ。
 この戦いは前哨戦。今は悔しさに耐えながら、次の戦いへ繋ぐ事が大切だ。
「分かりました。ヴェルナーさんも……」
「はい?」
「傷付かないで下さい」
 吐き出すように口から伝えたりるかの言葉。
 それは恥ずかしさ以上に、ヴェルナーの身を案じたりるかの本心であった。
 そんなりるかを前に、ヴェルナーは片膝をついていつもの優しい笑顔を向けてくれた。
「ふふ、そうですね。そんな顔をされては、倒れる訳にはいきませんね」


 各地で戦いを展開するハンター達であったが、三戦域の中で比較的優勢を保っていたのは山沿いを防衛するハンター達である。
「ブッハハハハ! 来るが良い。本来であれば俺様の暗黒スキルの一つ、インフェルノデスブレイザーで焼き尽くしてやるところだが、山の生き物を全滅させる訳にはいかねぇ。
 俺様が特別に地道な手段で相手をしてやろう」
 デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)はR7エクスシア『閻王の盃』の200mm4連カノン砲で敵を迎撃する。
 デスドクロは山沿いの戦場は場所によって傾斜が強い事から、まっすぐ巨人が侵攻するのは難しいと考えた。そこで巨人を無理に倒すのではなく、その場に足止めする事を考えたのだ。射撃に向いている場所に陣取り、敵に牽制射撃を加える。
 しかし、この方法では問題がある事にデスドクロはすぐに気付いた。
「ふむ。その場で足止めはできるが、このままでは後方からの巨人が追いついて敵の攻撃が激化するだけか」
 問題は足を止めた巨人の後方からも敵は次々と襲来している事だ。
 足を止めた巨人の横から巨人用アサルトライフルを持った武装巨人が追いついて攻撃を開始する。これが時間の経過と共に増加していく為、気付けば敵から激しい攻撃を受ける事になる。
「まずいか……?」
「いや、問題ねぇ」
 閻王の盃の傍らから姿を見せたのは、近衛の真改。
 大壁盾「庇護者の光翼」を片手に武装巨人へと前進していく。武装巨人の攻撃は自然と近衛へと集中していく。実は山沿いのハンター達が有利に戦えているのは、近衛やGacruxという防御力の高い盾役が機能していた為だ。
「そうか。敵の注意を集めてから……」
「どりゃあっ!」
 傾斜を滑り降りながら、バリトン(ka5112)が敵の最前線へと突撃する。
 真改へ意識を向けていた所へバリトンが剛刀「大輪一文字」へ突貫。一之太刀による大上段からの振り下ろしが巨人の胸部を捉えた。
 さらに――。
「今じゃ、撃てぃ!」
 バリトンの号令と共に刻令ゴーレム「Volcanius」が後方から炸裂弾を砲撃する。
 座標は既に仲間から送られている。この座標を元にすれば、大きく外れる事はないだろう。吹き飛ぶサイクロプス。中には腕が吹き飛ぶ者もいたが、砲撃は容赦なく続けられる。
 その間を縫うように大輪一文字を片手にバリトンが巨人の集団へ飛び込んでいく。
「怠惰の巨人どもが群れを成すとは壮観じゃがのう。心ゆくまで殴り合う時間はないんじゃ。許せよ」
 本当であれば、もっと巨人と戦いたい。
 己の力を示すチャンスである。
 しかし、今それが許される時間はない。
 守るべき物を守る戦いをしなければならないのだ。
 やや寂しそうな顔を見せるバリトン。
 ――そこへ。
「……下がれ!」
 バリトンの前に真改を滑り込ませる近衛。
 見れば後方からアサルトライフルを片手に進軍する武装巨人の一団がいた。武装巨人の厄介な所は射撃武器だけではない。巨人用のヘルメットや巨人用防護服などで防御力を上げている所だ。Volcaniusが炸裂弾を撃ち込んではいたが、武装巨人も装備で致命傷を免れていたようだ。
「まだ終わってねぇ。まだまだ踏ん張らないとな!」
 ランスカノン「メテオール」による制圧射撃で敵を牽制する近衛。
 千客万来の状況だが、願ってもいない客の来訪は迷惑なだけだ。
 そんな中、静かにバリトンは闘志を燃やす。
「燃えるのう。相手にとって不足はなし。わしの剣をとくと味わうがいい」


 一方、森林に布陣したハンターは山沿いとは異なる展開を見せていた。
「ムラクモっ!」
 アーク・フォーサイス(ka6568)の命を受けたワイバーン『ムラクモ』は、森から抜き出たサイクロプスの頭部にファイアブレスを叩き込んだ。
 炎を浴びせかけられ怯むサイクロプス。
 その隙をついて、アークは巨人の膝に聖罰刃「ターミナー・レイ」を突き立てる。
 森林というフィールドでゲリラ戦を展開する為に、敢えてムラクモには騎乗せずに別行動を選択したアーク。敵を怯ませた後、足を攻撃する事で移動を阻害しようというのが狙いだ。
 完全に倒しきる必要は無い。倒せば、歪虚は消えてしまう。うまくいけば足元に転がっている倒木のように足を取られるかもしれない。
 ――しかし。
「後続から増援、注意して」
 アークのトランシーバーから流れるのは、上空で戦況を見定めるエラの声だった。
 次の瞬間、後方から現れる巨人の一団。足を負傷した巨人を無視して、南下を継続している。
 そして、アークにとって問題だったのは足が傷付いた巨人が武装巨人であった事だ。
「……え?」
 独特な回転音と共に巨人の手にしていた武器から次々と弾丸が撃ち出される。
 巨人用ガトリング砲。
 仮に足が傷付いて動けなくなったとしても、後方からガトリング砲で支援射撃をされるだけでも厄介だ。弾丸は樹木を穿ち、次々と風穴を開けていく。
「足を止めても砲台として機能するのか」
 素早く別の木に姿を隠すアーク。
 ゲリラ戦を展開する作戦は悪くないが、準備時間が少なすぎる。
 足止めできても敵の勢いを完全に押し止めるのは難しい状況だ。

 そんな中、僅かな時間の中でトラップを仕掛けた者もいる。
「今だっ!」
 GnomeのCモード「bind」で武装巨人の動きを封じたキヅカは、ショットアンカー「スピニット」で武装巨人へと肉薄する。
 森林であるが故に、足場は幾らでもある。
 スピニットの杭を武装巨人近くの木へ打ち込み、リールを巻き上げる事でキヅカの体は宙へと引き上げられる。
 猛スピード。
 接近しながら、片手に意識を集中する。
 ――交差。 
 その一瞬、キヅカは武装巨人の首にマジックアローを叩き込んだ。
 マジックアローは巨人用ヘルメットと巨人用防護服の合間に命中。巨人はそのまま前方へと倒れ込む。他のハンターからの攻撃を受けても前に進もうとする巨人は決して侮る事はできない。
「エラ、リュラは配置についたか?」
「ええ。そろそろよ」
「……やはり押されているか?」
 キヅカはエラの言葉少ない回答に何かを感じ取った。
 ゲリラ戦を展開はしているが、各個撃破するには戦域が広すぎる。この為、キヅカを始め、一部のハンターは後方で巨人を倒しているのだが、どうしても戦線は押されてしまう。
「そうね。でも、一番の心配はここじゃないわ」
「どこだ?」
 キヅカは聞き返した。
 それに対して、エラは一呼吸置いてから答えた。
「正面の戦域よ」


 今回の作戦において一番過酷になった場所は、正面の戦域であった。
「……くっ、次です」
 シグ(ka6949)はダインスレイブ『X-B』でロックワンバスターを護衛していた。
 近づいてくる巨人の足をロングレンジライフル「ルギートゥスD5」で撃ち抜いて足止めする。向かって右側の巨人の左足、左側の巨人の右足を狙撃する事で足を止める。こうする事で後続の巨人が居ても前の巨人が壁となって前進できないようにする為だ。
 しかし、敵は五体を一つの集団として現れる上に戦域も広い。巨人達は動けなくなった巨人を避ける形で進軍を継続している。
 シグも狙撃で足止めをしているが、現時点では確実に戦線は押されている。
「敵が近づいてきました。砲撃へ切り替えます」
 X-Bに装備された2門の滑腔砲が轟音を響かせる。
 徹甲榴弾を撃ち込んで敵の侵攻に対して迎撃を開始する。敵が手にしているのはショットガン。近付けなければどうにかなるはずだが――。
「シグはんが後ろから戦ってくれはる。せやから、うちも前で頑張らひんとね」
 ロックワンバスターへ向かおうとするサイクロプスに対峙するのは、花瑠璃(ka6989)のR7エクスシア『櫻華』。
 信頼するシグが支援してくれる戦場だからこそ、花瑠璃は前に立って戦う事ができる。
 盾と言い切る事は難しいかもしれないが、一体でも多くの巨人を倒す事が自分の役目だと理解している。
「あきませんえ」
 櫻華の傍らを抜けようとするサイクロプスへ魔銃「ナシャート」を放つ。
 狙う場所は足。移動力を削ぐ事で、後方の巨人の行く手を阻もうというのだ。
 棍棒を振り回すサイクロプスは幸いにも裸足の状態。至近距離からナシャートを撃ち込む事でバランスを崩させる事ができる。
「それ、あんさんも」
 次の巨人に向かってナシャートを放つ花瑠璃。
 しかし、相手は武装巨人だった。ナシャートの弾丸は巨人が装備していたブーツにより威力が低下してしまう。そのせいで巨人の足を止める事ができなかった。
「あら」
 声を上げる花瑠璃。その隙に武装巨人はショットガンのリロードを終えて櫻華の近くにまで接近していた。向けられる銃口。
 しかし、花瑠璃は一人で戦っている訳ではない。
「やらせません」
 X-Bのロングレンジライフル「ルギートゥスD5」が、武装巨人のショットガンを弾く。
 狙いが逸れ、明後日の方向へと散弾が発射される。
「おおきに、シグはん。うちももっと気張らんとな」
 花瑠璃は五色光符陣で周囲を光で包み込む。周辺の巨人の視界を奪い、仲間へ攻撃チャンスを生み出した。
「ほな、反撃といきましょか」
 花瑠璃は再びナシャートを巨人へと向けた。


「敵の増援が想定よりも早ぇか」
 仙堂 紫苑(ka5953)はR7エクスシア『HUDO』で正面の前衛に陣取っていた。
 円形マテリアルエンハンサーで光の翼を形成するブラストハイロゥで敵の攻撃を防ごうというのだ。しかし、前衛で盾役を買って出たのは紫苑のHUDOのみ。どうしても単騎で敵の注意を惹く事になる。
 敵の武器がショットガンであるが故に、近づかれれば少々厄介か。
「敵はシグの砲撃で怯んだか……キャリコ、行けるか?」
「問題無い。予定通りだ」
 キャリコ・ビューイ(ka5044)のダインスレイブ『アラドヴァル』は、一瞬の光を放ちながら後方にいたX-Bの近くへと降り立った。
 上空から戦況を確認しつつ、バリスタ「プルヴァランス」で巨人の足を狙っていたキャリコ。しかし、敵の勢いは激しく、このままでは押し切られる可能性があると判断。紫苑と連携して後方からの精密砲撃へと切り替えた。
「人間より身体能力の高い敵が、人間の知恵の結晶たる武器を使用してくるとは……コレは面倒な事になった。だが、まだ人間の恐ろしさを奴らに教育してやろう」
 アラドヴァルの滑空砲が動き出し、照準を巨人へと向ける。
 狙うは紫苑の前方。敵の最前列。
 その様子を見ていたシグは、キャリコと呼応する形で近くの場所に狙いを定める。
「合図はお任せします」
 シグの言葉を聞いたキャリコは、大きく息を吐き出す。
 そして、息を吸い込んだ瞬間、手に強い力を込める。
「砲兵こそが戦場の女神である。それを刻み込んでやる」
 次の瞬間、二機のダインスレイブから放たれた徹甲榴弾。
 轟音と同時に巨人の群れへと突き刺さって爆発する。
 群れに開いた大きな空間。
 勢いに乗る武装巨人達が、その穴を塞ぐように空間へ雪崩れ込んでくる。
 だが――それこそが紫苑が狙った再起の鍵である。
「来たな。行け、アルマ。遊んでやれ!」
「わふー! 分かったですー! 巨人さんと遊ぶですー!」
 紫苑が命じたのはリーリー『ミーティア』に乗るアルマ・A・エインズワース(ka4901)であった。
 傷付いた前方の巨人を避けて通る武装巨人達であったが、紫苑はある事に気付いた。
 巨人達はあくまでも前に進もうとする。
 そして、そのルートは極力最短である事。怠惰の巨人であるが故、進行ルートは単純なのだ。
 つまり、避けて通らずとも道ができれば近い方を選択する。
 それがキャリコとシグが砲撃して開き、魔法攻撃に定評のあるアルマがカウンターで攻撃を仕掛けてくる道であっても。
「お人形さんと違う大きな鬼さんですー!」
 ショットガンを片手に突撃してきた武装巨人にデルタレイを放つアルマ。 
 足元に放たれた一撃は、巨人の足に大きな風穴を開ける。バランスを失って前のめりに倒れる武装巨人。
 その後方から迫る武装巨人に対してファイアスローワーで迎撃。破壊エネルギーが武装巨人達を巻き込んでいく。ずば抜けた威力に武装巨人達は、一瞬進軍を停止する。
 この機会を紫苑は逃さない。
「ようやく押し返したか。でも、これで終わりじゃねぇんだよな」
 反撃の感触を掴む紫苑であったが、戦況はますます混迷を見せ始めていた。


 正面が反撃に移ろうとしているが、それは何もアルマだけではない。
 盾役が少ない代わりに、攻撃的なハンターが敢えて死地へ飛び込んでいく。
「サイクロプス共め、絶対に突破させやしない!!
 STAR DUST、出撃するっ!!」
 南護 炎(ka6651)はリベンジに燃えていた。
 以前の武装巨人に遭遇した交戦。最終的に敵の工房破壊に成功したのだが、飛散した巨人用近代兵器を止める事はできなかった。それでも南護は諦めない。眼前により迫るサイクロプスを押し返す事に専念する。
「これまでの兵器工房の一件はこの為だったか……これまではしてやられたが、ここで絶対に食い止めてみせる」
 ガルガリン『STAR DUST』で敵の前線に食い込んだのは、砲撃された場所の西側。アルマの攻撃から漏れた巨人達を確実に仕留めるべく動き出す。
「一つっ!」
 滑り込むように棍棒を手にしたサイクロプスに斬艦刀「雲山」の斬撃を浴びせかける南護。
 武装巨人と比較して防御力は高くない通常のサイクロプス。下段から斬り上げるように放たれた刃が、巨人の胸部を見事に捉えていた。
 返す刀で近くに居た武装巨人のオーガに斬り掛かる。
「二つっ!」
 上段から雲山を振り下ろす。
 だが、オーガは巨人用の盾で刃を防ぐ。肉薄する両者。
 盾と刃が擦れ合い、激しい力の衝突が起こる。
「やはり武装した巨人は、精鋭か」
 奮戦する中でも言葉が漏れ出る南護。
 次の瞬間、オーガが放った蹴りがSTAR DUSTの胸部を捉える。
 激しく揺れる機体。そして、距離が離れたと同時にオーガは巨人用ショットガンを連発する。
 細かい散弾がSTAR DUSTの機体を襲う。
「……くっ、まだまだぁ!」
 一足飛びでオーガへ肉薄する南護。
 如何なる状況でも任務を達成するまでは、決して退かない。
 それが南護が持つ覚悟である。

 南護が突撃を開始した頃、正面東側には別のCAMが突撃を開始していた。
「はっはー、この戦場は死ねそーで最高じゃん」
 死地をこよなく愛するハンターであるゾファル・G・初火(ka4407)にとって、この状況は他のどのハンターよりも歓喜していた。
 燃える――否、その程度ではない。
 心の底から打ち震え、戦場独特の空気に心ゆくまで堪能している。
 実際にゾファルは死にたい訳でも、死に場所を求めている訳でもない。だが、生命の危機が迫るような戦場でなければ、満足できないのだ。
 この状況を生き残ってこそ味わえる『生の実感』。
 それを味わう為に、ゾファルは敢えて自分の身を危険な戦場へと置いていた。
「俺様ちゃんを楽しませてくれよ!」
 ガルガリン『ガルちゃん』に斬艦刀「天翼」を握らせ、敵の前衛へ東側から突撃させる。
 ほぼ南護と同タイミングで突入したはずだが、仲間の姿はまるで見えない。
 ガルちゃんのモニターに映るのは、すべて敵である巨人ばかり。
 360度すべてが敵に囲まれたような状況。ゾファルは過去の依頼でも味わった絶望感と震えを感じ取っていた。呼吸をするだけでも肺が焼けるような感覚。
「いいねいいねいいねぇ!」
 PGシールド「ヴェラッシング」を構えながら、ショットガンの攻撃を防ぐゾファル。
 モニターの向こうでは乱戦状態にも関わらず、容赦なくショットガンを連射する武装巨人が映っていた。
 混沌。
 そこは秩序が消え失せ、あるのは生死の狭間で足掻く者達がいるだけである。
「だが、足りねぇ! もっとだ! こんなもんじゃねぇだろ!」
 ヴェラッシングから発射されるのはプラズマグレネード。
 周辺の爆発が巨人達を巻き込んで吹き飛ばしていく。それでも後続から来る巨人の群れが収まる気配は無い。
 混戦の最中にあるゾファルであったが、ここで強い気配を感じ取る。
 反射的に斬艦刀「天翼」を握り、機体を旋回させる。
 ――衝撃。
 巨人用日本刀を手にした武装巨人が、すぐそこまで接近していたのだ。
 擦れ合う刃が嫌な音を奏で始める。
「そうだ。もっと来い。そうでなきゃここで戦う意味がねぇからな」
 震える心が更に強く振動する。
 僅かではあるが正面で戦うハンター達に光明が見え始めていた。


「ぼ、僕でも射撃だけなら多少は出来るのですよぉ。目標射程内……同時射撃行きますよぉっ」
 弓月・小太(ka4679)のダインスレイブが山沿いに布陣。滑空砲による後方支援を開始してからしばらくの時間が経過していた。貫通徹甲弾と徹甲榴弾を使い分けながら、味方を巻き込まないように遠距離砲撃を加える事で前線に迫る巨人を押し止めている。
「斜面の上に向けて一発、頼めますか?」
 前方でKBシールド「エフティーア」を構えてアサルトライフルの銃弾を防ぎ続けるGacruxからの通信だ。
 本来であれば落石の一つでも狙いたいところだが、大きな岩は周辺に存在しない。
 だが、斜面に向けて砲撃する事で迂回しようとする巨人の進路を塞ぐ事は可能だ。
「は、はいっ! 任せて下さいっ!」
 小太は、慌てながらも照準を斜面の上に合わせる。
 照準には既に迂回を始めようとする巨人の姿を捉えていた。
 ここが抜かれれば戦線は後退する。そんな事は――絶対させない。
「徹甲弾、味わってくださぃー!」
 衝撃。
 滑空砲の反動が小太の体に伝わる。
 空気が揺れ、轟音が響き渡る。
 徹甲弾は最前列にいた巨人を吹き飛ばしながら、斜面へ着弾。周辺の土を巻き上げながら、爆発を引き起こした。
 照準には狙われている事に気付いた巨人が身を退いていくのが見える。
 そこへGacruxから再び通信が入る。
「まだ撃てますか?」
「い、一発なら。でも、ガトリングに切り替えられますっ!」
「上等です。敵の群れに一発撃ち込んで下さい。それに合わせて前に出ます」
 集まりつつある巨人に対してGacruxは小太と連携して一気に戦線を押し上げる手に出るようだ。
 小さく頷く小太。
 再び滑空砲の照準を覗き込む。
 今度はGacruxを攻める巨人の群れに向けて貫通徹甲弾を放つ。
 轟音と共に巨人の集団に大きな空間。
 Gacruxの前に突破口が開く。
 素早く30mmアサルトライフルへと持ち替える。
「行きますっ!」
「は、はいっ!」
 Gacruxを後方から支援する為にガトリングガン「エヴェクサブトスT7」を構えて前進する小太。
 巨人の群れへ飛び込んでいく様は決して気弱なだけの少年ではなかった。


「前線は膠着状態かな」
 山沿いの戦線ではフェリア(ka2870)が魔導スマートフォンで通信相手と状況を確認していた。
 相手は――七夜・真夕(ka3977)。
 ワイバーン『ルビス』に騎乗している真夕は、山沿いの戦況を上空から見守っていた。五体一組で押し寄せる巨人の群れではあるが、時間経過と共に後方から次々と押し寄せてくる。前線で衝突すれば、それだけ巨人の群れが滞留する事になる。
 真夕は捜索というよりも前線で手薄な場所をフェリアに伝えて攻撃する状況が続いていた。
「裾野に近い場所から抜け出そうとする一団を見つけたわ」
「だったらここから近いわね……行くわよ、月夜」
 イェジド『月夜』を走らせるフェリア。
 激戦が各地で続いている事は真夕の情報からでも把握している。それでも自分で選んだ防衛線を決して抜かせない。足止めが目的の前哨戦でも、フェリアは決して手を抜く気はなかった。
「抜け出そうとする巨人を少しだけ止められる?」
「……やってみるわ」
 ルビスを旋回させる真夕。
 近衛ら前衛の目から逃れるように迂回する巨人の一団に上空から迫る。
 急接近するルビスに気付いたのだろう。武装巨人が上空に向かってアサルトライフルを放つ。
 頬のすぐ傍を弾丸が通過していく。
 空気を斬る音が耳に届く。
 それでも真夕は、まっすぐ巨人達の元へ向かう。
「その先は進ませないわ」
 巨人達に向けて真夕はグラビティフォール。
 形成された重力波が巨人達を襲う。重力の影響もあり、巨人達の移動速度は極端に低下した。
 そこへフェリアと月夜が飛び込んでくる。
「巨人が銃なんて随分と物々しいわね」
 真夕のグラビティフォールで動きが鈍くなった巨人達を前に、フェリアはブリザードで攻撃を仕掛ける。
 冷気が巨人達を襲う。
 さらに真夕が上空からマジックアローを叩き込み、迂回した巨人達を確実に片付けていく。
 前衛から逃れようとする巨人を真夕とフェリアが各個撃破する事で戦線の維持を図る事ができている。
「まだ30分は過ぎてないようね」
「ええ、もうひと踏ん張り……あれ?」
 真夕の目に飛び込んできたのは雨を告げる鳥(ka6258)の姿であった。
 雨を告げる鳥もまた、真夕と同じように敵の進軍ルートを上空から確認しながら、バリトン砲弾の着弾地点を指示していた。
 だが、雨を告げる鳥は山沿いではなく、別の方角を見つめていた。
「私は感じ取った。何かが来る。巨人ではない、何かが……」


 中央の戦線が立て直された後、森林の戦域でもハンター側の攻勢が開始されようとしていた。
「リュラ、座標は分かったわね?」
「了解……次の地点に、10秒後砲撃……。逃げて……」
 リュラ=H=アズライト(ka0304)は、エラからもたらされた座標に対して刻令ゴーレム「Volcanius」『セントヘレンズ』へ砲撃指示を出した。
 座標情報が来るまでは弾着修正指示を出しながら、後方から援護砲撃を行うだけに留めていた。
 しかし、明確な座標情報が入手できたならば遠慮はいらない。
 エラから周辺にいるハンターへ待避指示を出してもらいながら、次弾発射までの準備に入る。狙うは炸裂弾――高性能レンジファインダーを用いて確実に狙った場所へ砲弾を叩き込む。
 何も知らない巨人達が遠足気分でやってくるならば、痛い目を見る事は間違いない。
「ロックオン……放て……!」
 照準を合わせたリュラは、指定された地点へ炸裂弾を発射する。
 一際大きな轟音と共に炸裂弾は狙った場所へ着弾。次の瞬間、霰玉を周囲へ撒き散らす。着弾地点にいた多数の巨人達が狙い通りに巻き込まれる。
 突然の砲撃。だが、リュラの砲撃はこれで終わらない。
「次弾……3時方向……10秒後砲撃……」
 既に次の着弾地点に向けて砲撃の準備に入っていた。
 待ちに待ったエラからの座標情報である。エラ自身も情報を収集しながら三烈や三散で巨人を倒しながら戦況を把握した苦労が報われるというものだ。
「リュラ、砲撃をそのまま続けて。新たな展開があればこちらから連絡する」
「了解……」
「エラさん、東から迂回する巨人の一団を発見しました」
 エラのトランシーバーに飛び込んできたのは夜桜 奏音(ka5754)の声。
 イェジド『ゼフィール』で巨人の一団を迎撃していた奏音だが、偶然迂回を試みる巨人達を発見したという訳だ。
「東側ね……周囲に他のハンターはいない、か。今から向かって追いつける?」
「やってみせます。敵が圧倒的に多い状況で防衛は大変ですが、何とかしないといけませんね」
 そういいながら、奏音は早々にゼフィールを東へ向かって走らせていた。
 戦闘開始時点では地縛符で巨人達を足止めする作戦を試みていたが、敵の増加に伴い風雷陣による撃破も織り交ぜていた。
 奏音も理解している。
 敵を次々と各個撃破していかなければ、戦線は押し上げられる事を。
「……追いついた。あれね」
 木々の間を縫って走るゼフィールの上で、奏音は巨人の姿を視認した。
 木の上に頭が出るぐらいの高さではあるが、広大な森林で地上からの捜索となれば時間はかかる。キヅカとエラが連携して戦況を把握したのは正解と言えるだろう。
 奏音は巨人の進行方向へ回り込んだ後、木々の間からゼフィールと共に飛び出した。
「オーガ……回復しますし、ここで減らしておきましょう」
 集団の中にオーガの存在を視認した奏音。
 護符を取り出して地面へと放り投げていく。そして、最後の符を上にかざすと同時に激しい光を放つ。
 五色光符陣が、巨人達を光で包み込んで視界を奪う。
「リュラさん、こちらの座標にも砲撃をお願いします。敵はすぐには動けません」
「了解……10秒後砲撃……待避して……」
 奏音はリュラへ砲撃の打診を行った。
 ゼフィールが待避した後、森林にセントヘレンズの砲撃音が木霊した。


 視界の悪い森林ではあるが、情報連携とハンター達の協力により戦線は確実に押し返していた。
「招かれざる客には退場願おう、か」
 オファニム『夜天弐式「王牙」』のガトリングガン「エヴェクサブトスT7」から放たれるマテリアルライフル。撃ち出される紫色の光線で、武装巨人と正面から撃ち合うオウカ・レンヴォルト(ka0301)。
 射線上の木々は次々と打ち倒されていくが、怠惰に蹂躙されればその程度では済まない。多少の犠牲は覚悟の上、眼前の武装巨人に向かってマテリアルライフルを撃ち込んでいく。
「敵の武装もガトリングか。あまり射撃戦は得意ではないが……贅沢は言ってられん、な」
 王牙は木々をへし折りながら、三時方向に素早く移動する。
 敵は一団。しかも、武装巨人が集団になれば同時に複数のガトリング砲が火を噴くことになる。このまま正面から撃ち合うのが危険と判断したオウカは、近くに居たサイクロプスへ肉薄する。
「悪いが盾になってもらう」
 棍棒を手にした巨人へエヴェクサブトスT7を放ち動きを止めたオウカ。
 そのまま武装巨人の砲へサイクロプスを突き押した。
 武装巨人のガトリング砲にその身を晒しながら、派手に転倒。弾丸で体を貫かれ、地面へ伏す頃には立ち上がる事すらできない状況だ。
 そして、この間にオウカは武装巨人の傍まで接近していた。
「言ったはずだ。射撃戦は得意ではない、と」
 斬艦刀「雲山」を手にしていた王牙は突きを放った。
 巨人用防護服の隙間を縫う形で突き刺さった刃。その勢いのまま、他の武装巨人に向かって走り出す。
 武装巨人のガトリング砲は、貫かれた巨人の体へと吸収されていく。
「終わりだ」
 絶命した巨人を武装巨人へとぶつけ、怯んだ隙に雲山の斬撃を浴びせかける。
 首を斬られた武装巨人は、力を失ってその場へと倒れ込んだ。
「巨人に武装に差があるな。急拵えの装備で倒せる程、甘くはない」
 そう言い残したオウカは、次の巨人が戦う場所へと移動を開始した。

 一方、ロックワンバスターの近くでは――。
「またヨアキム王とロックワンバスターの防衛ができるとは光栄な話だ。
 それも以前とは規模が桁違い。それだけ責任も大きい。気を締めないとな」
 ジーナ(ka1643)は、いつも以上に気合いを入れてこの戦いに臨んでいた。
 かつて地下城ヴェドルを守る戦いに用いられた辺境ドワーフが作った兵器『ロックワンバスター』。大型グランドワームのロックワンを倒す為に用いられた兵器であり、その時もチャージ時間を稼ぐ為に敵の侵攻を食い止めていた。
 だが、あの頃とは状況が大きく異なる。
 狙う相手は怠惰王ビックマー・ザ・ヘカトンケイル。
 ロックワンバスター破壊を目論むのは、近代兵器に身を包んだ武装巨人達。
 敵が各段に強くなっている上、ジーナにかかる責任も相応に大きくなっている。
「西から敵が抜けた。誰か、対応を!」
 ジーナのトランシーバーからキヅカの声が聞こえてくる。
 西――正面の戦線に近い場所。下手に合流されれば厄介だ。早期に片付ける必要がある。
「こちらジーナ。了解した。西へ向かう」
 素早くトランシーバーで応答したジーナは、そのまま魔導アーマー「プラヴァー」『タロン』を走らせる。
 事前に準備していた地形判定プログラムを利用して早々に西へ逃れる巨人の後を追いかける。エラからもたらされた情報では正面の戦線も持ち直しているものの、油断はできない状況。ならば、尚更正面へ向かわせる訳にはいかない。
「……あれか」
 
 魔導レーダー「アイステーシス」が検知したのは二体のサイクロプス。その周りにはジャイアントらしき姿もある。
 接近して目視で確認してみたが、手に棍棒が握られている。武装巨人ではないようだ。
 だが、見過ごすつもりはまったくない。
「行かせるか」
 木々の間を縫って飛び出したジーナは、サイクロプス目掛けてナックル「ラウムシュラーゲン」を振り下ろす。奇襲の形になったジーナは、そのままワイルドラッシュでサイクロプスに拳撃を浴びせかける。
 気圧される敵の一団。しかし、ジーナはそれで攻撃を止めるつもりはない。
「辺境ドワーフの叡智の結晶。絶対に壊させない」
 タロスの右腕が、残るサイクロプスに向かって大きく振り上げられた。


 各戦域が戦線を押し上げつつある状況は、ハンター側にとって優勢といえた。
 元々ロックワンバスターはビックマーを倒す手立てではない。ビックマーと巨人の目を惹き付ける為のものであり、可能な限りこの場に足止めする餌に過ぎない。
 それでも戦線が維持できているならば、主目的の達成は難しくない。
 ハンターの誰もがそう考えていた。

 ――あの闖入者が現れるまでは。

「……ん?」
 イェジド『レグルス』に乗って巨人を倒し続けていた鞍馬 真(ka5819)が、異変に気付く。
 先程までレグルスで木々を縫うようにして走り、視覚から巨人を不意打ち。強撃を叩き込んで転倒させていた。敢えて放置して後続から来る巨人を障害物にして行く手を阻み続けていた。
 それだけでは巨人が増えすぎる為、魔導剣「カオスウィース」と響劇剣「オペレッタ」を握り締め、敵陣へ突入。巨人達を複数斬りつけて撃破を繰り返していた。
 既に何体もの巨人を葬って来たから分かる。
 感じ取った異変が巨人とは異質なものであると――。
「!」
 振り返った瞬間、鞍馬の眼前に現れる黒い影。
 反射的にカオスウィースを前方へ構えた。
 ――衝突。
 レグルスの上から弾き飛ばされるのではないかと思う衝撃が、カオスウィースを通じて腕へと伝わってくる。
「何者?」
「ラッパを吹く天使が、私の行く手を阻みますか。終末へ向かう運命は覆せませんよ?」
 鞍馬から距離を取って地面に着地したのは神父姿の男。
 鞍馬は直ぐに目の前の男から負のマテリアルを感じ取った。
 そして、以前確認した報告書に外見と見合う存在がいた事を思い出した。
「ブラッドリー……?」
「これはこれは。私の事をご存じでしたか。申し訳ありませんが、今は時間がありません」
 鞍馬にはブラッドリーが何を言っているのか分からない。
 だが、これだけは分かる。
 ブラッドリーを先に行かせてはならない。もし、ロックワンバスターへ近付ければ何をしでかすか分かったものではない。
 だからこそ、鞍馬は敢えて攻撃する前に『ある行動』に出た。
「エラさん、ブラッドリーだ」
「……え?」
 思わぬ展開に聞き返したエラ。
 鞍馬は敢えて攻撃する前に仲間へブラッドリーの出現を知らせた。
 万一ここを抜けられても、情報を知っていれば仲間が退所する事も可能だ。
 保険を掛けておく事は戦略的に間違っていない。
「歓迎の準備ですか。ですが、もう青白い馬は訪れています。避けられない運命を素直に受け入れるべきです」
 ブラッドリーがそう言い放った瞬間、ブラッドリーの周囲を回っていた光球が激しく光り始める。
 森林地帯に突如生まれた強い光。
 鞍馬の眼前で燃えるように輝き出す。
「……くっ、逃げたか」
 光が収まった頃、ブラッドリーの姿は消えていた。
 何か目的がある。言い知れぬ不安を鞍馬は抱いていた。


 ブラッドリーが現れた情報は、他のハンターにももたらされる。
「また面倒な時に……」
 エラからの情報を請け、キヅカは苦々しい顔を浮かべる。
 ブラッドリーの登場は他のハンターに影響を及ぼす。ハンターに戦力を回せば、それだけ戦力バランスが崩れる事を意味している。
「ブラッドリーは俺が後を追う。エラはみんなの補佐に回ってくれ」
「分かったわ。ヴェルナーにもバリスタの準備を打診するわ。これでブラッドリーが退いてくれるとは思えないけど」
 エラもこの先の展開を読めない様子だ。
 一人の闖入者に戦場が左右される展開。好ましい状況とは言えなかった。

 また山沿いでは――。
「ああん? 新手だとぉ?」
 アニスは真夕からの情報に思わず聞き返した。
 大忙しの状況で更にややこしい状況が発生したのだ。
 もう少しで予定の30分が経過するのだが――。
「森林を抜けたって事は正面が狙いか。あっちの連中は応対できそうなのかよ?」
「分かりません。戦線の立て直しには成功してますが、前衛の被害は大きいようです」
「かといってこちらの戦力を割くのは得策ではありませんわ」
 アニスと真夕の間にフェリアが割って入る。
 山沿いの戦線は一番安定しているが、それは現状を維持すればの話だ。多数のハンターが抜ければ影響は免れない。
「こっから狙撃するのは無理があるな。どうするか……」
「私は宣言する。正面へ行くと」
 雨を告げる鳥が正面への救援に向かうと言い出した。
 上空支援は真夕がいる。雨を告げる鳥が抜けても短時間ならば戦線の維持は可能だろう。
 だが――。
「大丈夫なのかよ? 得体の知れねぇ奴なんだろ?」
 アニスの言葉。
 それに対して雨を告げる鳥は、自信を持って答えた。
「私は為す。彼の者を足止めする事を」


「ブラッドリー!? このクソ忙しいのに相手にしていられるか!」
 紫苑が悲鳴にも似た声を上げる。
 折角ハンター達が維持してきた戦線だが、ブラッドリーの登場でハンターの陣形に影響が生じ始めていた。もう少しでロックワンバスターが発射できるという段階で、面倒な相手をしている余裕はない。
「ヴェルナー、バリスタは?」
「エラさんにも打診されて攻撃を開始しています。連続発射は難しいですが、少しの時間なら巨人の侵攻を止められるでしょう」
 紫苑とエラの要請でヴェルナーは正面の戦域に向けてバリスタを放っていた。
 わざわざ要塞『ノアーラ・クンタウ』から持参したバリスタだ。巨人の一掃は難しいが、巨人を一時的に足止めする事は可能だろう。
「そうか。キャリコ、奴の頭の上に砲撃は可能か?」
「……難しいな。巨人と違って的が小さいからな」
 キャリコの砲撃で吹き飛ばす事も考えたが、ブラッドリーの移動力は巨人よりも早い。
 それに報告書にある光の盾を使われれば砲撃を防がれる可能性もある。
 この時点で紫苑の残された策は一つしかない。
 それはこの戦線に維持に影響を出しかねない策である上、別の意味でも問題がある。
 できれば使いたくなかったのだが――。
「アルマ、行ってこい! 無理すんなよ!」
「シオン? はいですー!」
 ブラッドリーと少なからず因縁を持つアルマ。
 まるでピクニック気分でブラッドリーへ向かって行くが、残されたハンター達に負担は大きくかかる。
「時間は、残り僅か。アルマなしで何処まで巨人を止められるか……」
 紫苑の体が小さく震えた。


「おや、駄犬さん。終末を前にあなたは変わりませんね」
 ブラッドリーと遭遇したアルマ。
 脳天気な雰囲気を醸し出すアルマだが、周囲は武装巨人を始め、多くの怠惰の軍勢が存在している。アルマ以外は戦場独特の雰囲気を醸し出している。
 そんな中、アルマは唐突にとんでもない事を言い出した。
「紹介します、シオンですー。僕の参謀です!」
 紫苑のHUDOを指差すアルマ。
 どうやら紹介のつもりのようだ。
「参謀? いえ、彼の者も天使です。ラッパを吹き鳴らし、終末へ誘う騎士を呼ぶ者です」
「わう? よく分からないですー」
「あなたも天使ですよ、駄犬さん」
 意味不明なやり取りが繰り返される二人の会話。
 だが、その会話もアルマの一言で一変する。
「何か壊したり持っていかないなら、一緒に遊ぶです?」
 一緒に遊ぶ。
 アルマにとってそれは共闘を意味していた。
 だが、ブラッドリーは――。
「共に歩む気持ちは理解しますが、天使には天使の成すべき定めがあり、道があります。神の御遣いである私と同じ道を歩む事は叶わないでしょう」
「ふぅん……じゃ、ドリーさんと遊ぶです!」
 アルマは錬金杖「ヴァイザースタッフ」をブラッドリーに向けてかざした。
 次の瞬間、アイシクルコフィンの氷柱がブラッドリーへ襲いかかる。
 しかし、ブラッドリーの体に届く前に光の盾が形成されて氷柱は届かない。
「わーい、また盾が見られたですー」
 アルマの攻撃を前にブラッドリーはすべての光の球を消失させていた。
 ブラッドリーは強力な盾を保有しているが、それは光の球が存在している場合のみ。アルマのような強い攻撃を防げたとしても、盾を形成する光の球は失われてしまう。
 そして、失った光の球はブラッドリー自身で再生する事ができない。
 光の球が無くなった時点で光の盾も使えないのだ。
「力を有する天使は、末恐ろしい。ですが、ここは戦場。死と欲望が渦巻き、生への執着を見せる場。光は決して失われません」
 そう言ったブラッドリーは近くの巨人に近寄ると右手で巨人の体に触れた。
 次の瞬間、激しい電撃。巨人の体が塵になると同時に、ブラッドリーの周囲に新たな光の球が誕生する。
「今までのようにはいきませんよ、駄犬さん」
「凄いですー! もっともっと遊べるですー」
「待て、ブラッドリー!」
 ここで森林からキヅカが追いついた。
 新たなる来訪者を前にしながら、ブラッドリーは次々と巨人を光の球へと変え続けている。
「おや、新たなる天使の登場ですか。あなたの吹くラッパは何番目でしょう?」
「うるさい。これ以上行かせない……頼む!」
「分かった。死ぬなよ」
 キヅカはここで賭けに出る。
 キャリコに自身を含めてブラッドリーの近くへ砲撃をさせる。
 自分への被害は免れないが、聖盾剣「アレクサンダー」と機導剣・操牙を使ってブラッドリーの足止めを試みる。
 キャリコも直撃を避けてくれているが、爆風はしっかりとキヅカにも当たっている。
 そんな決死のキヅカであるが、ブラッドリーの能力は乱戦の方が向いているようだ。
「ニガヨモギがそれ程、辛いのでしょうか? 顔色が良くありませんよ」
 キヅカとキャリコの攻撃でブラッドリーは光の盾を生み出し、光の球を消費させている。だが、その間にブラッドリーは巨人へ近づいて新たなる光の球を生み出していく。
 後続の巨人達が次々と押し寄せている状況だ。言うなれば、ブラッドリーは無尽蔵に光の球を生み出す事ができる。巨人を犠牲にして成り立っているが、ブラッドリーに一撃を入れる事は簡単ではなさそうだ。
「なんて奴だ……」
「良い覚悟です。その覚悟が、終末を早めます。子羊により封印は解かれ、騎士はその行動を露わにするでしょう。気付かぬは偽りの頂に立つ殉教者のみ」
「我は問う。終末の獣とは何か?」
 山沿いの戦場から雨を告げる鳥が姿を見せる。
 新手の登場に、ブラッドリーは雨を告げる鳥へ向き直った。
「終末の獣。それは騎士が甲冑を脱ぎ捨てた姿。騎士はまだ知らないのです。終末を越えた先の結末では、絶望の果てにすべてを喰らう獣となるかもしれない事を。
 古代で迎えた終末では、そのような事にはなりませんでしたが……」
「!」
 ここで雨を告げる鳥は、ブラッドリーの言葉に引っかかった。
 ――古代。
 その言葉が、雨を告げる鳥の中で符号する。
 チュプ大神殿。
 古代遺跡。
 歪虚と対峙する壁画。
 遺跡に眠る古代魔導アーマー『ピリカ』。
「我は問う。古代文明が滅んだ事に終末は関係するのか?」
「無論。古代の千年王国に終末が訪れ、そして滅んだ。遺跡は古代の残滓」
 雨を告げる鳥の推論。それは思わぬ所で繋がった。
 辺境の地に眠る古代文明にも終末は訪れていた。
 そして、その終末が古代文明を滅ぼした。
 だが、新たなる疑問も生まれる。
「ブラッドリー、お前は一体なんなんだ?」
 肩で息をするキヅカ。
 厄介な相手であるが、何か重要な事を知っている。
 その気配はキヅカにも分かる。
「神の御遣い。私は終末を導く騎士を……」
 そう言い掛けた瞬間、揺れる空気。
 振り返れば、ロックワンバスターのチャージが完了したのだろう。ロックワンバスターに大きなエネルギーが集まっていくのが分かる。
「みんな、衝撃に備えろ! ぶっ放すぞ!」
 ヨアキムの叫びを掻き消すかのように、放たれる強烈なマテリアル。
 一直線に北へと延びていく光線は、ビックマーに向かって突き進む。
 そして、ビックマーの体へ直撃する。
 沸き起こる爆発。
 倒せない事は分かっている。大切なのは、ビックマーの注意を惹くと共に、被害を減らして撤退する事。
「もう充分でしょう。総員に撤退を指示して下さい。申し訳ありませんが、ハンターの皆さんには殿をお願いします」
「ヴェルナーさん、ロックワンバスターを破壊するべきです」
 撤退が開始される中、シグはヴェルナーに上申する。
 既に発射の衝撃で砲身が破損しているが、敵にロックワンバスターの技術を奪われる訳にはいかない。この場でロックワンバスターの破壊を行うよう提案したのだ。
「そうですね。……ヨアキムさん」
「分かってるよ。すまんな、ロックワンバスター。おめぇの欠片はワシが必ず拾ってやる」

 部族会議の撤退後、巨人が取り囲む中でロックワンバスターは破壊される事となった。
 多数の巨人を巻き込む形で爆破できたのが唯一の救いであろう。


「ヴェルナーさん。あの……ブラッドリーは、何故来たのでしょう?」
 撤退の最中、りるかはヴェルナーへ話し掛けた。
 結局ブラッドリーはどさくさに紛れる形で逃走した。
 何故、この戦場に現れたのか。
 その理由は検討も付かない。
「分かりません。独特な思想をしている歪虚のようですが、単に暴れるのが目的には思えません」
「だが、奴が現れた事で巨人達が光の球に化けやがった。攻勢を抑えられたのは助かったぜ」
 紫苑は、結果的にブラッドリーの登場に救われていた。
 当初はアルマが戦力に取られたと思っていたが、アルマ、キヅカ、雨を告げる鳥らが押さえる事で戦線の維持に成功した。だが、それ以上に注目すべきはブラッドリーが周囲の巨人を光の球へ変えた事で巨人の攻勢が崩れて正面の攻勢を防ぐ事が容易になった。
「ブラッドリーか。今度、是非手合わせをしてみたいのう。しかし、本当に何をしに現れたのか……」
「私は思う。一つの可能性を」
 バリトンの傍らで雨を告げる鳥がぽつりと呟いた。
 反射的にバリトンは雨を告げる鳥へ問いかける。
「可能性? なんだそりゃ」
「私は告げる。根拠の無い推論を」
 それは何処にも証拠がない上、証明する術もない。
 ブラッドリーに聞いても否定するに決まってる。
 正体不明の歪虚が狙った一つの可能性――それは、雨を告げる鳥から見ても荒唐無稽な推論であった。
「ブラッドリーは……終末へ導く騎士を救う為に天使、つまりハンターを助けに来た。ハンターと交戦しながら、巨人の群れを塵へ帰した」

依頼結果

依頼成功度成功
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MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 双璧の盾
    近衛 惣助ka0510
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacruxka2726
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベルka3142
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火ka4407
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901
  • 大局を見据える者
    仙堂 紫苑ka5953
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥ka6258
  • 覚悟の漢
    南護 炎ka6651

重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    プルートー
    閻王の盃(ka0013unit001
    ユニット|CAM
  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ノーム」
    刻令ゴーレム「Gnome」(ka0038unit009
    ユニット|ゴーレム
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤテンニシキ オウガ
    夜天弐式「王牙」(ka0301unit005
    ユニット|CAM
  • サバイバルの鉄人
    リュラ=H=アズライト(ka0304
    人間(紅)|16才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    セントヘレンズ
    セントヘレンズ(ka0304unit003
    ユニット|ゴーレム
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シンカイ
    真改(ka0510unit002
    ユニット|CAM
  • 勝利への開拓
    ジーナ(ka1643
    ドワーフ|21才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    タロン
    タロン(ka1643unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    アリアドネ(ka2726unit001
    ユニット|CAM
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    モーントナハト
    月夜(ka2870unit001
    ユニット|幻獣
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ノースポール
    北極(ka3142unit008
    ユニット|幻獣
  • ヴェルナーの懐刀
    桜憐りるか(ka3748
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    コタロウ
    小太郎(ka3748unit001
    ユニット|幻獣
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ルビス
    ルビス(ka3977unit003
    ユニット|幻獣
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アサルトガルチャン
    ガルちゃん・改(ka4407unit004
    ユニット|CAM
  • 百年目の運命の人
    弓月・小太(ka4679
    人間(紅)|10才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ダインスレイブ
    ダインスレイブ(ka4679unit003
    ユニット|CAM
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ミーティア
    ミーティア(ka4901unit005
    ユニット|幻獣
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    アラドヴァル
    アラドヴァル(ka5044unit004
    ユニット|CAM
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ヴォルカヌス」
    刻令ゴーレム「Volcanius」(ka5112unit006
    ユニット|ゴーレム
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ゼフィール
    ゼフィール(ka5754unit001
    ユニット|幻獣

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    レグルス
    レグルス(ka5819unit001
    ユニット|幻獣
  • 大局を見据える者
    仙堂 紫苑(ka5953
    人間(紅)|23才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    フドウ
    HUDO(ka5953unit002
    ユニット|CAM
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ルジェ
    ルジェ(ka6258unit001
    ユニット|幻獣
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    ムラクモ
    ムラクモ(ka6568unit002
    ユニット|幻獣
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    スターダスト
    STAR DUST(ka6651unit004
    ユニット|CAM
  • まだ見ぬ家族を求めて
    シグ(ka6949
    オートマトン|15才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    クロスバレル
    X-B(ka6949unit001
    ユニット|CAM
  • 百花繚乱
    花瑠璃(ka6989
    鬼|20才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    オウカ
    櫻華(ka6989unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
仙堂 紫苑(ka5953
人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/07/28 11:58:43
アイコン 相談卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/07/30 20:00:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/07/29 22:49:02