ゲスト
(ka0000)
【審判】これまでの動き


これまでの【審判】
経緯
1015年 初頭
エクラ教の巡礼集団が巡礼中にキメラの襲撃を受け殺害される事案が勃発。
聖堂戦士団長ヴィオラ・フルブライト曰く、この事件が連続襲撃事件の起源ではないかとされている。
1015年 4月頃
この段階ではまだ偶発的な事件として捉えられ、王都を守る騎士団の管轄で処理されることも少なくなかった。
法術陣を守る聖堂戦士団もこの段階では懸念の域を出ず、簡単な調査で終えている。
王国騎士団長エリオット・ヴァレンタインはこの頃から事件の連続性を注視していた。
1015年 6月以降
事件が頻発することを受け、王国騎士団・白の隊、エクラ教会・聖堂戦士団が同時に調査開始。
この頃の調査では両組織は連携しておらず、別個に調査を行っている。
騎士団は事前情報の欠落により地道な調査を余儀なくされ、事件に対して後手に回ることが多かった
一方、聖堂戦士団は内部情報により敵の目的を正しく推測していたが、人員不足の為に調査を大きく進めることが出来ずにいた。
▼関連シナリオ
【審判】ローズクォーツを供にして
【審判】ワールドグレイヴ
【審判】孤軍暗躍
【審判】閉じた世界
1015年 10月以降
調査と付随する戦闘の結果、事情を知る人物を数名捕縛する事に成功。
断片的ながらも敵の正体に関する情報を得る。
テスカ教団、天使、などの詳細は別項に記載する。
▼関連シナリオ
【聖呪】【審判】決戦、クラベルを討伐せよ
【審判】天に至る道
【審判】明日を蝕む死の舞踏
【審判】闖入者、名を、半藏と云う
1016年 2月
テスカ教団に関する情報を得た王国騎士団長エリオット・ヴァレンタイン、 そして聖堂戦士団長ヴィオラ・フルブライトはテスカ教団の拠点制圧に乗り出すことになる。
しかし、そこで待ち受けていたのは“天使”と謳われるテスカ教首魁ベリトだった。
▼関連シナリオ
【審判】偽りの青い鳥
【審判】黒き絶望のサンクチュアリ
1016年 3月
2月でのテスカ教団拠点制圧に失敗した王国連合軍。
しかし、彼らは先の拠点制圧に際しある情報を入手していた。
王国の秘術「法術陣」、その真相へと迫る時が訪れていた──。
▼関連シナリオ
【審判】聖者の遺産
【審判】原初の碑文 エメラルドタブレット
1016年 4月
エリオット、そしてヴィオラと共に調査に乗り出したハンターたちによって、 王国が長きに渡って秘匿してきた法術陣、その真相が遂に明らかになった。
だがその時、ついにベリト率いる歪虚軍が王都侵攻を開始したとの報せが入った──。
▼関連シナリオ
【審判】想いを束ねて今ここに
【審判】王国終末論 天使の導く新世界
その他の連動シナリオはこちらから
エクラ教の巡礼集団が巡礼中にキメラの襲撃を受け殺害される事案が勃発。
聖堂戦士団長ヴィオラ・フルブライト曰く、この事件が連続襲撃事件の起源ではないかとされている。
1015年 4月頃
この段階ではまだ偶発的な事件として捉えられ、王都を守る騎士団の管轄で処理されることも少なくなかった。
法術陣を守る聖堂戦士団もこの段階では懸念の域を出ず、簡単な調査で終えている。
王国騎士団長エリオット・ヴァレンタインはこの頃から事件の連続性を注視していた。
1015年 6月以降
事件が頻発することを受け、王国騎士団・白の隊、エクラ教会・聖堂戦士団が同時に調査開始。
この頃の調査では両組織は連携しておらず、別個に調査を行っている。
騎士団は事前情報の欠落により地道な調査を余儀なくされ、事件に対して後手に回ることが多かった
一方、聖堂戦士団は内部情報により敵の目的を正しく推測していたが、人員不足の為に調査を大きく進めることが出来ずにいた。
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【審判】ローズクォーツを供にして
【審判】ワールドグレイヴ
【審判】孤軍暗躍
【審判】閉じた世界
1015年 10月以降
調査と付随する戦闘の結果、事情を知る人物を数名捕縛する事に成功。
断片的ながらも敵の正体に関する情報を得る。
テスカ教団、天使、などの詳細は別項に記載する。
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【審判】天に至る道
【審判】明日を蝕む死の舞踏
【審判】闖入者、名を、半藏と云う
1016年 2月
テスカ教団に関する情報を得た王国騎士団長エリオット・ヴァレンタイン、 そして聖堂戦士団長ヴィオラ・フルブライトはテスカ教団の拠点制圧に乗り出すことになる。
しかし、そこで待ち受けていたのは“天使”と謳われるテスカ教首魁ベリトだった。
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【審判】黒き絶望のサンクチュアリ
1016年 3月
2月でのテスカ教団拠点制圧に失敗した王国連合軍。
しかし、彼らは先の拠点制圧に際しある情報を入手していた。
王国の秘術「法術陣」、その真相へと迫る時が訪れていた──。
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【審判】原初の碑文 エメラルドタブレット
1016年 4月
エリオット、そしてヴィオラと共に調査に乗り出したハンターたちによって、 王国が長きに渡って秘匿してきた法術陣、その真相が遂に明らかになった。
だがその時、ついにベリト率いる歪虚軍が王都侵攻を開始したとの報せが入った──。
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【審判】想いを束ねて今ここに
【審判】王国終末論 天使の導く新世界
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元より彼の補佐を務める女性騎士フィアは騎士団長の指示には忠実だ。常同様、一つの疑問も挟むことなく、彼女は胸に手をあてこう答えた。
「イエス、マイ・ロード」
◇
ジューダスは、数年前まで王国騎士団に所属していた騎士だった。
忠誠を誓った王の為、王を守り、王が大切にしている人民を守り、日々を堅実に生きていた。
彼には、妻と子供がいた。一家は騎士として立派に務めを果たす大黒柱のもと、王国で幸せに暮らしていたはずだった。
しかし、王国暦1009年。王国近代史上、最も過酷で凄惨な戦争──ホロウレイドの戦いが勃発。
この大戦で、王国は国王アレクシウス・グラハムを喪った。
近衛騎士団はほぼ壊滅。王国騎士団に至っても半壊の様相を呈し、多くの人々が死に絶えた。
戦場となった王国西部は特に歪虚の動きの活発化と合わせ、農地が、家屋が、家族が、あらゆるものが戦禍を被った。
この戦いをかろうじて生き残ったジューダスにとっても、喪ったものは少なくない。
彼がこの戦いで喪ったものは、彼自身の右脚と、彼が理想とする騎士としての在り方だった。
だが、例え前線に立てずとも、騎士団には彼を迎えるべきポジションはいくらだってある。ホロウレイド後の混乱渦中にあった王国騎士団において、新たに着任した騎士団長エリオットの元で務めを果たしていたのだが……
王国暦1014年。王都を黒大公ベリアルが襲撃。戦が終結してすぐ、被害状況の報告からジューダスの妻と子が歪虚に殺害されたことが判明したのだが、その時には既に彼の姿はどこにもなかった。
「妻は敬虔なエクラの信者だった。ホロウレイドの際は、エクラの加護が俺を生かして帰してくれたのだと、そんな風にエクラに感謝を捧げていたが……その5年後、彼女は避難所に指定されていた教会の近くで、息子と共に血塗れで倒れていた。両腕で息子を抱きかかえ、その手にエクラの御印を握りしめながら……」
その時に、気が付いた。──エクラは誰も、何も、救わないと。
「……後は知っての通り、俺は騎士団を去った。正確には……現実から、逃げ出したんだ」
それ以降、生きる意味を見出すことができず、それでも妻と子が最期を迎えた場所から離れることも出来ず。王都の片隅で世捨て人のように暮らしていたジューダスに、差しのべられた手があった。
「団長殿は、テスカ教を存じておいでか?」
「いや。……詳しく聞かせてくれ」
「平たく言えば新興宗教だ。様々な理由でエクラに救われずに絶望した、心の弱い人間の集まりさ」
テスカ教──その起源はホロウレイド以前より実在していた宗教だ。
元よりクリムゾンウェストではリアルブルーという異世界からの流入もあり、様々な信仰が各地に起こっていた。最大宗教であるエクラはそれらを異端などと弾圧する意向などなく、エクラの他に密かに存在していた宗教の1つだった。
テスカ教の特徴として、その信徒が元々エクラの敬虔な信者であるケースが多い。ただし、彼らの最大の共通点は、エクラに絶望しているということだった。 傾倒していた者ほど、裏切られた後の傷は深く、その後精神的支柱が必要になってくる。
その時に、彼らを救った教えこそが“テスカ教”だった。
宗教、信仰による救いを求めた者。死にとらわれた者。歪虚への畏怖にとらわれた者、あるいはみせられた者。彼らは近年激化する歪虚の侵攻こそ、救い主の慈悲だと言う。歪虚に理不尽に殺された愛する者たちを思えばこそ「死は安寧であり、大切な者達は死により救われたのだ」と思いたい。
そもそも、「生こそ素晴らしく、死は忌むべきもの。その到来は嘆かれ、厭われるものだ」という思想は果たして公正だろうか? テスカ教信者にとっては、それこそ生者の愚論であり、お粗末な思想と思えるのだ。なぜなら、我々生者は死の先を知らないからだ。知りもしない死が「真実、救いのないもの」などとどうして言えるだろう? 現世を生きる者が抱く死への悪感情は、「生」しか知らない偏った知識から産まれ出でた詭弁ではなかろうか。無論、哀れな子羊が未知のものを恐れる気持ちは理解に足る。だが、だからと言って知りもしない「死の先」を否定することは正しいのだろうか?
人は生と言う試練を乗り越えた先、ついぞ死という救いに到達する。そう考えればこそ、この世界の有り様には得心がゆくというものだ。やはり死は、主が与え給うた安寧の形なのではないか……? そう考える者がいたとして、何がおかしいだろう。
「……終末思想、か」
「この世に救いがないんなら、この世以外の場所に探しに行くしかねえだろう」
そんなテスカ教団が掲げる思想に、ある根拠を得る出来事があった。
それは、昨年の黒大公ベリアルによる王都襲撃より少し以前のことだった。
「“死の先を知る者”……ベリトと名乗る謎の存在が、教団に突如として現れたそうだ。俺は当時、教団に居たわけじゃない。これは伝聞でしかないが……彼女、いや、性別などないのかもしれないが、それはこんな予言をしたらしい」
──じき、千年の長きに渡り繁栄する王の都を神の子羊が蹂躙するでしょう。
これは避けることのできぬ定められた運命。
しかし、其は主の慈悲……世界を死の先の安寧へと導くための救いなのです。
「最初は半信半疑だった者もいたんだろう。だが、光を束にしたような輝く金の髪、慈愛を湛えた美しい微笑、そして背に生えた大きな純白の翼……あの方は、存在するだけで多くの信者の心を惑わし、畏怖を集めたそうだ」
「お前なら解ったのではないか、それが歪虚であることを」
「……俺たちには、あれが歪虚か何かなんてどうだっていい。ただ……“天使”が、そこに居たことだけは事実だった。そして、人が知り得ない“死の先を知る者”が、それを安寧と言う。ならば、死した愛する者たちが一足先に安寧に身を委ねただけなのだと信じて、何がいけない?」
もしも死が回避すべきものなのだとしたら。
王国は、これまでの戦いでどれだけの死を招いてしまったのだろう。
小さな命の死一つ、回避できなかった我々はどれほどの大罪人なのだろうか。
●大精霊アフラ・マズダ
度重なる質問にも答える素振りはなく、ただ無為な時間が過ぎていく。
ヴィオラは共を連れて鉄格子の向こうで椅子に縛り付けられた男と対峙した。
「貴方達の言う救いの教えを聞きに来ました。私にも聞かせいただけませんか?」
どんな事をされるのかと緊張していたチャドは困惑して間の抜けた顔をする。
男にとっては今日これまで、質問の返事代わりに散々呟いていたことだ。
教義を謳うぐらいは問題ない。何より死の間際には偉大なる名を讃えよと日々教わっている。
教団の存在が露見した以上、もはや彼に恐れるものはなかった。
「この世界は死と破滅に向かっている。運命づけられたことなのだ。
天使ベリト様はその運命を伝えるために大精霊アフラ・マズダ様から遣わされた使徒だ。
人々が死を安寧として迎えるように、そして新しい世界が到来するように。
我々テスカ教団は救世主であるベリト様のもと、その理念のために活動している」
「貴方のこれまで行ってきた活動も、その為のものだと?」
「そうだ。大精霊様のご威光をこの世にもたらし、新たな世界を迎えるために必要なことだ」
「法術陣への干渉が?」
「そうだと聞いている。だが詳しい術式は知らない。
尋問は無駄だぞ。俺は言われたことをやっているだけだ」
「そうですか……」
ヴィオラは無言になった。彼は彼なりに思い悩んだのだとわかる。
だからこそヴィオラは、導くことが出来なかった自分に責任も感じていた。
囚人はその無言を別の意味にとった。
「ヴィオラ殿であればわかるはず。ホロウレイドの戦いで、黒大公の襲来で、エクラがいかに無力なものだったかを!」
「…………」
ヴィオラは捕虜の目を見返した。
チャドは鉄のような硬く冷たい視線にやや怯みながらも、天使の言葉を思い起こして勇気を振り絞った。
「……エクラは誰も救わなかった。だがベリト様は違う。私達を救ってくださる。
今ならまだ遅くはない。改宗するのです。正しき世界を迎えるために!」
朗々とした演説はヴィオラの返答を待って途切れる。
しかし言葉をいかように取り繕うとも、彼が悪事をなした事実は変わらない。
ヴィオラの思いは欠片も揺らぐことは無かった。
「確かに世の禍に対して宗教は無力でした。等しく滅びる運命も事実でしょう。
けれどそれで良いのです。人を救うのは人の役割です。
私や貴方や、聖堂戦士団がそうしてきたように」
それを彼は足蹴にした。自分を含めた大勢の人の努力と成果を、何のためらいもなく。
腹立たしいと思う前にただ悲しかった。
「貴方達が自身の身勝手を反省していないのはよくわかりました。
我々は貴方を宗教家ではなく、ただの罪人として裁きます。
その肉体が滅びるまで、牢の奥で悔い改めなさい」
鉄格子の向こうで男2人が囚人の両脇を抱え上げる。
囚人は「邪教の手先」「王国の犬」などとヴィオラに罵声を浴びせかけていくが、
ヴィオラは聞こえぬ素振りで視線を動かすこともなかった。
罵声が聞こえなくなった頃を見計らい、アイリーンは話題を変えた。
「シャルシェレット卿の審問、結果はどうなったのですか?」
「のらりくらりとかわされました。少なくとも、王国を裏切ってはいないと彼は言いますが……」
ヴィオラは何かを話そうとして、結局口を噤んだ。
判明したのはただそれだけ。それ以上は全て推測でしかない。
情報を引き出そうにも話術の技術も才能もヘクス・シャルシェレット(kz0015)に及ぶ者はそうは居ない上に、今回の件はそもそもで証拠不十分。成果があがるはずもない。
ヴィオラにすれば今回の審問を強行した司教達にこそため息の出る思いであった。
「アイリーン、私は愚かだったのでしょうか?」
「……どうしたのよ急に」
「私はこの国が好きなのです。だからどのような辛い目にあっても、許せるのだと思っていました。
エクラの声を聞いたあの日、神の声で問われた時も、そう信じていました。
今も変わらないはずなのです」
腹心に尋ねる風ではあったが、その目は伏せたままどこにも向いていない。
長く彼女の言葉を側で聞いていたアイリーンには、台詞に疲労が滲んでいることは容易に理解できた。
「騎士団には判明した拠点の情報を伝えておきました。準備が整い次第、テスカ教団を攻撃します」
「それは……騎士団と協同で?」
「そうです。こういう局面では騎士団は頼りになります」
素直に騎士団の評価が上がったとはアイリーンは受け取らなかった。
教会の評価を一段切り下げたか、あるいは形振り構わなくなったのか。
外見上は冷静を装いながらもヴィオラは焦っている。そして自覚が無い。
身内の裏切りは想像以上にヴィオラの心に深く傷を残したのだろう。
不穏な空気を感じながらも、アイリーンはヴィオラの背を黙って見つめていた。
法術陣は間違いなく発動した。そしてそれによって、軍勢の多くが“消失させられた”。
「膨大な光のマテリアルの照射……それによる負のマテリアルの浄化? 或いは……」
いや、問題はそこじゃない。これが“法術陣の力”だというのなら。
「まさか……」
いにしえの時代、人間は天より落ちる雷をみて、それを神の怒りと恐れたことがあった。
まさか、まさか、古代の人間はあの“光の塊”を“エクラ”と崇めたのではあるまいな?
まさか、まさか、まさか……あの男、“初めからこれを知っていて”───!
「私を追い詰めるために、私を利用したというのか──!!」
女の貌から、あらゆる感情が削ぎ落ちた。最後に残ったものは、たった一つ。
──許しはしない。許してなるものか。
高貴な私にこれほどの屈辱を与えたこと、後悔させねば気が済むはずもない。
そのためにはこの光に耐え得るだけの災厄を“私が今この手で生み出せばいい話だ”。
「“我が怒り、我が求めに応じ、来たれ”──ラウム!」
怒気を隠そうともせずベリトが大声で呼ばわると、ベリトの影が生き物のように蠢き始め、粘着質な固まりとなり、それはやがて黒いローブを来た背の高い老人に姿を変えた。
「ここに」
恭しく礼をする老人にベリトはちらりと視線を送ると、伸ばした流麗な手で王都を指差した。
「直ちに王都を強襲なさい。信徒を贄に貴方の召喚術を使うのです」
「はっ。しかしベリト様……」
部隊は8割以上が損耗している。
幸いにも攻勢に飛び込んできていた敵は態勢を立てなおす為に引いたようだが、消耗で言えば歪虚側が圧倒的に多い。それになにより“今もなお、得体のしれない光の余波が辺りを包み、本来の力を万全に行使できる状況にはない”のだ。
しかし、狂気じみた目に睨めつけられ、顔を伏せ口をつぐんだ。
「この私を謀った罪は“滅び”に値します。この国には“相応しい懲罰”を与えねばなりません」
怒りで我を忘れている。口答えをしては命を奪われかねない。
今自分が命を失った場合、暴君と化した彼女を止める者が居なくなる。
それが何より恐ろしかった。
「御意に。飛行可能な部下を借りていきます」
「好きになさい」
一礼したラウムの背が割れる。干からびた外装を取り払うと、中からは艶やかな羽を持つ巨大なカラスが現れた。数mを越える巨大なカラスに姿を変えたラウムは、一声大きく鳴くと巨体に見合わぬ身軽さで空へと羽ばたいた。
後を追うように羽ばたくキメラ達は満身創痍の個体ばかりで心もとない。
ラウムは近い個体にいくつも指示を出しながら、主の正気が戻るよう祈り続けた。
■
あのまま歪虚の飛行部隊が王都に襲撃したのならば、それこそ自殺行為でしかない。
「一体どういうつもりだ……?」
どの道ここから部隊を崩して追うわけには行かない。
エリオットは王都防衛にあたるすべての戦力を信じて敵の飛行部隊を見送り、再びベリトの本隊へと軍を進める。
──飛行部隊の目的がまさに“自殺”であるなどと、誰が予想できただろうか。
■
普通なら撤退するところを、敵には何か勝算があるのだ。
ならば狙いは何なのか。目的を悟れないのであれば、すでに敵は事を為しているとも言える。焦りばかりが募った。
部下からの呼びかけがあると、ゲオルギウスは1秒待たずに通信機を取り上げた。
「何かわかったか?」
「飛行部隊であるキメラの背にテスカ教の信者と思しき人物らが乗っていました。それも多数です」
──嫌な予感は、その時点であった。
「人? それで、その連中はどうなった」
「それが……」
「ぐずぐずするな、黙ってないで説明しろ」
不機嫌さが伝わったのか。慌てる気配が伝わってくる。
ゲオルギウスは深呼吸をして部下の報告を待った。
「彼らは……遥か高度、歪虚の背より自らその身を投げるように飛び降り、死亡しました。一人残らず」
「……投身自殺? キメラに乗っていた信者が全てか?」
「はい。周囲を巻き込む自爆をするわけでも、人にぶつかるわけでもなく……、みな城壁の少し手前に次々落ちていくのです」
ゲオルギウスの目となっていた騎士は報告の為に目を凝らして、彼らの落下地点に生じた血だまりを観察する。
その近辺にはキメラも多数身を投げていた。今思えば自殺をしたとしか思えないキメラの個体も居た。
──やはり、間違いない。歪虚飛行部隊の王都襲撃は“彼らの死を前提とされている”。
だが、その先に何があるという? それが、どう考えてもわからなかった。
そんな終わらない疑問に答えを出したのは、一羽のカラスだった。
体長は数mを越えるサイズで、明らかに歪虚とわかった。
カラスの歪虚は信者や歪虚の死で血の池となった一角に急降下し、地面すれすれで動きを止める。
カラスが何をしたのかは城壁の上から見えずじまいだったが、様子を窺っていた騎士は直感的に良くないことだと悟った。
──血は何かに操られるように流動し、地面に巨大な魔法陣を描く。
魔法陣が赤い光を放つと、何もなかった平地から突如、のそりと巨人が立ち上がった。
外見は金属質な赤い鎧をまとった騎士のようで、下半身はケンタウロスのように四足になっている。
問題はその大きさだ。異様にでかい。背丈は20mを越し、胸部が城壁を越えている。
「これが……狙い!?」
通信機を持った騎士は思った。この場に居るのが副団長でなく自分で良かったと。
巨大歪虚は手に持った剣を振りかぶると、応戦する兵士達が居る城壁に降り下ろす。
分厚い壁はそれだけで大きく抉れ吹き飛んだ。
■
突如、ベリトの周囲に無数の歪虚──合成獣の群れが現れた。それは空から飛来する個体もあり、同時に何もない空間に突如発生した歪みのようなものから生まれ落ちる個体もいた。
それは王都南西で巨人が現れたことと同期しての行動であったが、指揮官であるエリオットのもとにその情報が届くのはもう幾許か後のことになる。
なぜなら直後、中央に佇むベリトを中心に黒い靄のようなものがあふれ始めたからだ。
靄はベリトを中心に円周上に広がり、地表を這う雲のように膨らんでいく。
「聞こえるか? 奴の動きがおかしい。最前線の騎士は厳重警戒を怠るな」
だが、瞬く間に広がる黒い靄の中へと騎士たちは取り込まれてしまう。
幸いにも靄は体調に変化を起こすような毒ではなかった。ただ、そのほうが幾分かマシだったかもしれない。
騎士たちが靄の中に見たのは、“人の形をした何か”だった。
それは、自分たちの影をそのまま立体化したかのような騎士の姿をし、それぞれが鎧を着こみ、手に槍や剣、斧や杖を持っている。
そして──
『団長、報告です! 黒い影のような騎士たちが無数に出現! 我々への攻撃行動が見られたため、これに応戦します! 』
通信から聞こえてくる声は逼迫した状況を訴えていた。
多数のキメラの隙間を縫うように現れたそれらを交え、騎士団は否応もなく正面から切り結ぶ。
同時に戦域に動揺が走った。
『まさか……これは……』
「何があった」
『……貴方は、死んだはずの……どうして、そんな……』
「狼狽えるな、一体何があった!」
声を張るエリオットに応じた通信機の音声は、悲惨な現実を訴えていた。
遥か前方の黒い霧に目を凝らしたエリオットは無意識のうちに息を呑む。
なぜなら……影の騎士たちは、死んだ仲間の顔をしていたからだ。
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●事の起こり(1月22日公開)
──王国暦1009年。
グラズヘイム王国西方に位置するイスルダ島から王国本土に侵攻してきた黒大公ベリアル率いる歪虚軍に対し、当時の王アレクシウス・グラハム自ら率いる王国軍が激突。激戦を繰り広げたのちに指揮官と思しき敵に痛打を与えるが、一方で王国軍は王が戦死。両軍入り乱れた混乱の中、後退し、何とか立て直した時には、歪虚の本隊は既にイスルダ島へと撤退を終えていたのだった──。
王国近代史で最も重要な事件とされる、上述の『ホロウレイドの戦い』から5年後の王国暦1014年秋──この国は再び惨劇の舞台となった。
黒大公ベリアルの復活。王都は歪虚の侵攻を許し、大きな犠牲を払うこととなった。命を失った者だけではない。生き延びた者の中には、家を、家族を、職を、故郷を、自らの体の自由を、何もかもを失った者もいただろう。ホロウレイドの傷を抱えたままの人々にとって、あの侵攻がどんな切欠をもたらしたのかは想像に難しくない。
それでも、事件以降復興は着実に進んできた。王国が歪虚との戦いの影で復興政策に注力してきたこともあるが、今王都が王都として機能しているのは、なにより王国の民の心が“おれていない”事の証でもあるはずだと人々は信じていた。
北方動乱──後にそう名付けられたこの戦いの起源は、王国暦1000年に催された千年祭ソリス・イラに遡る。
ソリス・イラとは、王国の暦上の節目にあたる年に、国が主催する記念祝典のこと。
祝典では、一人の聖女が舞を披露し、それによって大精霊を降臨せしめ、次の500年間の守護を約束すると伝えられている。
一度目は王国暦500年に、そして二度目は今から16年前にあたる王国暦1000年と、過去に二度開催された実績があるが、しかし……二度目のソリス・イラで、事件は起こった。
聖女エリカの取り行った儀式は、大精霊の降臨に失敗。そしてそれは、大きな悲劇を生んだ。千年祭の儀式失敗により、長い年月に渡って【法術陣】に貯蔵されてきた膨大な正のマテリアルが忽然と消失してしまったのだ。それはつまり王国が国の舞台裏で千年に渡って守り続けてきた秘術の動力源が丸ごと消失したことと同義だった。
儀式失敗や法術陣の非常事態による様々な圧力や責めを受け、聖女エリカは北部の大峡谷に身投げ。千年祭の悲劇として、その後関係者は皆一様に口を閉ざしてきた。だが、異変が起こったのはそれから10数年後だった。
王国暦1015年夏頃。聖女が身投げした北部の大峡谷から異常な力を持った亜人たちが出現し、突如王国北部を力で支配し始めた。
後日、ハンターと王国軍による調査や戦いを経て、法術陣が蓄えていた膨大なマテリアルを期せずして聖女エリカが吸収・保有していたことが判明。彼女の遺体を食らった亜人にその力が引き継がれ、そしてゴブリンは膨大なマテリアルによる異常を起こし、長い時間をかけて変質。こうして、北方動乱という亜人による王国襲撃事件が起こったのだった。
あの事件において、ハンターたちは王国の勅命を受け、エリカの保有していたマテリアルを吸収して強大な力を得た亜人・茨の王から正のマテリアルを回収することに成功。こうして千年祭の負の遺産は全て清算され、法術陣は再び力を取り戻したようだが、それはこの【エクラ教巡礼者襲撃事件】の通過点にほかならなかった。
物事の全ては互いに結び連なっている。
これから始まる戦いも、そうであるように。
異端審問会
王国で最も華美な建築物を挙げるならば、王族住まうかの王城と――次いで、此の名が上がるのではないか。
聖ヴェレニウス大聖堂。その最奥に、男は居た。
「貴方なら、既に用向きは了解しているかと思いますが」
「一応聞いてもいいかい? 突然呼びつけられたからさ、心の準備ができてないんだ」
憤慨の交じる吐息が零れた。カリギリスではない。老人を中心に列座する十四人の聖職者たちの中から零れたものだった。それらを見て、へらりと笑ったヘクスは幾人かを指差し、
「……いけないな、ベルナール司教、クリフトス司教に、それからアガサ司教。僕はこう見えてもれっきとした貴族だよ? 敬えとは言わないけど、無礼を承知で振る舞うのは感心しないなあ、口が重くなっちゃうよ」
「この……!」
「おやめなさい。……これ以上は卿を徒に困らせてしまいますね。本題に移りましょう」
憤慨した男たちを押しとどめるように一瞥をし、ヘクスに苦笑と共に詫びを示したカリギリスは静かに語り出す。
「とあるハンターの指摘が報告に上がっておりまして」
「とあるハンター、ねえ。ふふ、それで?」
言葉に白い歯を見せて応じたヘクスに、
「――貴方が、歪虚と通じているのでは、と」
転瞬。周囲の空気が一転した。濃厚な敵意は、真っ直ぐにヘクスへと向けられていた。
然り、と言えるだろう。此処はエクラ教の大本営だ。歪虚を祓う事を一義に掲げる聖堂戦士団を抱える、王国の中の異国。歪虚に与する事を看過できる組織ではない。
――例えそれが、王国を代表する貴族の現当主であってもだ。
ヘクスの後方で、重厚な扉が音を立てて開く。そこから現れた人物を肩越しにヘクスは苦笑を零した。
「凄いな、まさかヴィオラまで連れて来たなんて」
「『シャルシェレット卿』。光のもとに、全てをお話しください。貴方が、人類の敵か否かを」
怜悧な言葉に、そういえばこの娘は僕のことをなんと呼んでいたかな、と思いながら、ヘクスはひらりと手を返す。信仰の名の元に覆われた虚飾を払うかのように。
「君も僕が裏切り者だと思ってるのかい?」
「……それを明らかにするための査問です」
「“異端審問”、だろ。ま、いいけど」
突き刺すようなヴィオラ達聖職者の視線を前にへクスは大げさに天井を見上げて、こう嘯いた。
「――やれやれ、僕が裏切ってたらこの国なんてとうの昔に滅んでるよ」
グラズヘイム王国西方に位置するイスルダ島から王国本土に侵攻してきた黒大公ベリアル率いる歪虚軍に対し、当時の王アレクシウス・グラハム自ら率いる王国軍が激突。激戦を繰り広げたのちに指揮官と思しき敵に痛打を与えるが、一方で王国軍は王が戦死。両軍入り乱れた混乱の中、後退し、何とか立て直した時には、歪虚の本隊は既にイスルダ島へと撤退を終えていたのだった──。
王国近代史で最も重要な事件とされる、上述の『ホロウレイドの戦い』から5年後の王国暦1014年秋──この国は再び惨劇の舞台となった。
黒大公ベリアルの復活。王都は歪虚の侵攻を許し、大きな犠牲を払うこととなった。命を失った者だけではない。生き延びた者の中には、家を、家族を、職を、故郷を、自らの体の自由を、何もかもを失った者もいただろう。ホロウレイドの傷を抱えたままの人々にとって、あの侵攻がどんな切欠をもたらしたのかは想像に難しくない。
それでも、事件以降復興は着実に進んできた。王国が歪虚との戦いの影で復興政策に注力してきたこともあるが、今王都が王都として機能しているのは、なにより王国の民の心が“おれていない”事の証でもあるはずだと人々は信じていた。
“此度の事件”の起こりは、黒大公襲撃から半年が経過した、昨年1015年春頃に遡る。 王国騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)は、ある2つの事件に遭遇する。(「【審判】ローズクォーツを供にして」/「【審判】ワールドグレイヴ」) その2つの事件には、ある特徴があった。 『エクラ教の巡礼者集団が、歪虚の襲撃をうけた』 歪虚に襲撃される事件自体、この時勢珍しいことではない。だが、騎士団の長であるエリオットのもとには国内の様々な事件に関する情報が入ってきており、この件のほかにもエクラ教巡礼者の襲撃に関する別件が既に幾つか耳に入っていた。 これらの事件は連続性があるものなのではないか──? それを危惧したエリオットは、ハンターの力を借り、現場へと急行するのだった。 |
![]() エリオット・ヴァレンタイン |
他方、聖堂教会が保有する聖堂戦士団の長を務めるヴィオラ・フルブライト(kz0007)も、エリオットと同様に【エクラ教巡礼者襲撃事件】に関する調査、対策を進めていた。 彼女たちは、エリオットが本件の調査に動きだすよりはるか以前、具体的には1015年初頭前後からこの一件に気付き、着手していた事実がある。だが、それらは今日まで共有されずにいた。それはなぜか? 王国と聖堂教会との間で守り継がれてきた秘術【法術陣】、その存在がすべての理由だった。 ●全てを繋ぐ、王国秘術【法術陣】 王国騎士団、聖堂戦士団がそれぞれにハンターの協力を得て、本件【エクラ教巡礼者襲撃事件】を調査している最中、王国北部を中心にある動乱が勃発した。(王国連動シナリオ【聖呪】がこの一連の事件を描いている) |
![]() ヴィオラ・フルブライト |
北方動乱──後にそう名付けられたこの戦いの起源は、王国暦1000年に催された千年祭ソリス・イラに遡る。
ソリス・イラとは、王国の暦上の節目にあたる年に、国が主催する記念祝典のこと。
祝典では、一人の聖女が舞を披露し、それによって大精霊を降臨せしめ、次の500年間の守護を約束すると伝えられている。
一度目は王国暦500年に、そして二度目は今から16年前にあたる王国暦1000年と、過去に二度開催された実績があるが、しかし……二度目のソリス・イラで、事件は起こった。
聖女エリカの取り行った儀式は、大精霊の降臨に失敗。そしてそれは、大きな悲劇を生んだ。千年祭の儀式失敗により、長い年月に渡って【法術陣】に貯蔵されてきた膨大な正のマテリアルが忽然と消失してしまったのだ。それはつまり王国が国の舞台裏で千年に渡って守り続けてきた秘術の動力源が丸ごと消失したことと同義だった。
儀式失敗や法術陣の非常事態による様々な圧力や責めを受け、聖女エリカは北部の大峡谷に身投げ。千年祭の悲劇として、その後関係者は皆一様に口を閉ざしてきた。だが、異変が起こったのはそれから10数年後だった。
王国暦1015年夏頃。聖女が身投げした北部の大峡谷から異常な力を持った亜人たちが出現し、突如王国北部を力で支配し始めた。
後日、ハンターと王国軍による調査や戦いを経て、法術陣が蓄えていた膨大なマテリアルを期せずして聖女エリカが吸収・保有していたことが判明。彼女の遺体を食らった亜人にその力が引き継がれ、そしてゴブリンは膨大なマテリアルによる異常を起こし、長い時間をかけて変質。こうして、北方動乱という亜人による王国襲撃事件が起こったのだった。
あの事件において、ハンターたちは王国の勅命を受け、エリカの保有していたマテリアルを吸収して強大な力を得た亜人・茨の王から正のマテリアルを回収することに成功。こうして千年祭の負の遺産は全て清算され、法術陣は再び力を取り戻したようだが、それはこの【エクラ教巡礼者襲撃事件】の通過点にほかならなかった。
事実を知る数少ない存在、大司教セドリック・マクファーソン(kz0026)は先ごろ王女システィーナ・グラハム(kz0020)にこんなことを告げていた。 「巡礼陣を発動できてさえいれば、つまりソリス・イラの失敗さえなければ、先王は死ななかったかもしれぬ。多くの人々は死ななかったかもしれぬ」 つまり、この事件がなければ──法術陣から正のマテリアルが消失してさえいなければ、ホロウレイドの戦いにおいて王国が侵されることはなく、国王アレクシウス・グラハムが戦死することなく、王国騎士団が半壊することも、多くの国民が死ぬことも、なかったのかもしれないのだと。 それほどに、法術陣の秘めた力は絶大であるということだろうか。 この事実は、ハンターたちが知るところではない。だがしかし、歯車の小さな掛け違いが未来へ深刻な影響を与えることを、王国首脳陣は身をもって知ったのだ。 |
![]() セドリック・マクファーソン |
物事の全ては互いに結び連なっている。
これから始まる戦いも、そうであるように。
異端審問会
王国で最も華美な建築物を挙げるならば、王族住まうかの王城と――次いで、此の名が上がるのではないか。
聖ヴェレニウス大聖堂。その最奥に、男は居た。
ヘクス・シャルシェレット(kz0015)。王家の傍流であるシャルシェレット家の現当主の装いは、教会からの『正式な召喚』にも関わらず洒脱な旅装束のままだった。だだっ広い部屋の中央に据え置かれた質素な椅子に座り、そうして、勝手知ったる我が家のような面持ちでヘクスは室内をぐるりと見渡している。
『ひとりひとり』を、眺めるように。 「……ヘクス・シャルシェレット卿」 「ん、なんだい、カリギリス・ヴィルマンティ“大司教”」 ヘクスの視線を遮るように重く響いたのは、嗄れた声だった。セドリック・マクファーソン(kz0026)が居ないこの場においては――否、仮にここに居たとしても、その声の主こそが最高位たる人物であろう。 カリギリス・ヴィルマンティ。絢爛たる法衣の上からでもひと目で分かる枯れ枝のような身体、皺だらけの顔を見るまでもなく、相当の高齢者であると知れる。平素はその温厚さで教会をまとめ上げる老人の顔は、この場においても温厚そのもので。 |
![]() ヘクス・シャルシェレット |
「一応聞いてもいいかい? 突然呼びつけられたからさ、心の準備ができてないんだ」
憤慨の交じる吐息が零れた。カリギリスではない。老人を中心に列座する十四人の聖職者たちの中から零れたものだった。それらを見て、へらりと笑ったヘクスは幾人かを指差し、
「……いけないな、ベルナール司教、クリフトス司教に、それからアガサ司教。僕はこう見えてもれっきとした貴族だよ? 敬えとは言わないけど、無礼を承知で振る舞うのは感心しないなあ、口が重くなっちゃうよ」
「この……!」
「おやめなさい。……これ以上は卿を徒に困らせてしまいますね。本題に移りましょう」
憤慨した男たちを押しとどめるように一瞥をし、ヘクスに苦笑と共に詫びを示したカリギリスは静かに語り出す。
「とあるハンターの指摘が報告に上がっておりまして」
「とあるハンター、ねえ。ふふ、それで?」
言葉に白い歯を見せて応じたヘクスに、
「――貴方が、歪虚と通じているのでは、と」
転瞬。周囲の空気が一転した。濃厚な敵意は、真っ直ぐにヘクスへと向けられていた。
然り、と言えるだろう。此処はエクラ教の大本営だ。歪虚を祓う事を一義に掲げる聖堂戦士団を抱える、王国の中の異国。歪虚に与する事を看過できる組織ではない。
――例えそれが、王国を代表する貴族の現当主であってもだ。
ヘクスの後方で、重厚な扉が音を立てて開く。そこから現れた人物を肩越しにヘクスは苦笑を零した。
「凄いな、まさかヴィオラまで連れて来たなんて」
「『シャルシェレット卿』。光のもとに、全てをお話しください。貴方が、人類の敵か否かを」
怜悧な言葉に、そういえばこの娘は僕のことをなんと呼んでいたかな、と思いながら、ヘクスはひらりと手を返す。信仰の名の元に覆われた虚飾を払うかのように。
「君も僕が裏切り者だと思ってるのかい?」
「……それを明らかにするための査問です」
「“異端審問”、だろ。ま、いいけど」
突き刺すようなヴィオラ達聖職者の視線を前にへクスは大げさに天井を見上げて、こう嘯いた。
「――やれやれ、僕が裏切ってたらこの国なんてとうの昔に滅んでるよ」
●死の先を信ずる者(1月29日公開)
それは、今から一月ほど前のことだった。 「フィア、急ぎ頼まれてほしいことがある」 「エリオット様? 一体どうなされたのですか」 「この少年の容体が安定するまで、本部の治療室へ置いてほしい。それともう一つ……』 そう言って、王国騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)と彼の依頼に同行したハンターたちが連れてきたのは、一人の男だった。 「この男を保護したい。内務省の連中に嗅ぎつけられないように、だ」 くたびれ果てたローブをフードから被り、俯いたままの男の顔は見ることができない。 得体のしれない男の保護を理由も告げずに申しつけるエリオットは、常と異なるヒリついた空気を纏っている。それは、周囲のハンターたちも同様だった。 |
![]() エリオット・ヴァレンタイン |
「イエス、マイ・ロード」
◇
ジューダスは、数年前まで王国騎士団に所属していた騎士だった。
忠誠を誓った王の為、王を守り、王が大切にしている人民を守り、日々を堅実に生きていた。
彼には、妻と子供がいた。一家は騎士として立派に務めを果たす大黒柱のもと、王国で幸せに暮らしていたはずだった。
しかし、王国暦1009年。王国近代史上、最も過酷で凄惨な戦争──ホロウレイドの戦いが勃発。
この大戦で、王国は国王アレクシウス・グラハムを喪った。
近衛騎士団はほぼ壊滅。王国騎士団に至っても半壊の様相を呈し、多くの人々が死に絶えた。
戦場となった王国西部は特に歪虚の動きの活発化と合わせ、農地が、家屋が、家族が、あらゆるものが戦禍を被った。
この戦いをかろうじて生き残ったジューダスにとっても、喪ったものは少なくない。
彼がこの戦いで喪ったものは、彼自身の右脚と、彼が理想とする騎士としての在り方だった。
だが、例え前線に立てずとも、騎士団には彼を迎えるべきポジションはいくらだってある。ホロウレイド後の混乱渦中にあった王国騎士団において、新たに着任した騎士団長エリオットの元で務めを果たしていたのだが……
王国暦1014年。王都を黒大公ベリアルが襲撃。戦が終結してすぐ、被害状況の報告からジューダスの妻と子が歪虚に殺害されたことが判明したのだが、その時には既に彼の姿はどこにもなかった。
「妻は敬虔なエクラの信者だった。ホロウレイドの際は、エクラの加護が俺を生かして帰してくれたのだと、そんな風にエクラに感謝を捧げていたが……その5年後、彼女は避難所に指定されていた教会の近くで、息子と共に血塗れで倒れていた。両腕で息子を抱きかかえ、その手にエクラの御印を握りしめながら……」
その時に、気が付いた。──エクラは誰も、何も、救わないと。
「……後は知っての通り、俺は騎士団を去った。正確には……現実から、逃げ出したんだ」
それ以降、生きる意味を見出すことができず、それでも妻と子が最期を迎えた場所から離れることも出来ず。王都の片隅で世捨て人のように暮らしていたジューダスに、差しのべられた手があった。
「団長殿は、テスカ教を存じておいでか?」
「いや。……詳しく聞かせてくれ」
「平たく言えば新興宗教だ。様々な理由でエクラに救われずに絶望した、心の弱い人間の集まりさ」
テスカ教──その起源はホロウレイド以前より実在していた宗教だ。
元よりクリムゾンウェストではリアルブルーという異世界からの流入もあり、様々な信仰が各地に起こっていた。最大宗教であるエクラはそれらを異端などと弾圧する意向などなく、エクラの他に密かに存在していた宗教の1つだった。
テスカ教の特徴として、その信徒が元々エクラの敬虔な信者であるケースが多い。ただし、彼らの最大の共通点は、エクラに絶望しているということだった。 傾倒していた者ほど、裏切られた後の傷は深く、その後精神的支柱が必要になってくる。
その時に、彼らを救った教えこそが“テスカ教”だった。
宗教、信仰による救いを求めた者。死にとらわれた者。歪虚への畏怖にとらわれた者、あるいはみせられた者。彼らは近年激化する歪虚の侵攻こそ、救い主の慈悲だと言う。歪虚に理不尽に殺された愛する者たちを思えばこそ「死は安寧であり、大切な者達は死により救われたのだ」と思いたい。
そもそも、「生こそ素晴らしく、死は忌むべきもの。その到来は嘆かれ、厭われるものだ」という思想は果たして公正だろうか? テスカ教信者にとっては、それこそ生者の愚論であり、お粗末な思想と思えるのだ。なぜなら、我々生者は死の先を知らないからだ。知りもしない死が「真実、救いのないもの」などとどうして言えるだろう? 現世を生きる者が抱く死への悪感情は、「生」しか知らない偏った知識から産まれ出でた詭弁ではなかろうか。無論、哀れな子羊が未知のものを恐れる気持ちは理解に足る。だが、だからと言って知りもしない「死の先」を否定することは正しいのだろうか?
人は生と言う試練を乗り越えた先、ついぞ死という救いに到達する。そう考えればこそ、この世界の有り様には得心がゆくというものだ。やはり死は、主が与え給うた安寧の形なのではないか……? そう考える者がいたとして、何がおかしいだろう。
「……終末思想、か」
「この世に救いがないんなら、この世以外の場所に探しに行くしかねえだろう」
そんなテスカ教団が掲げる思想に、ある根拠を得る出来事があった。
それは、昨年の黒大公ベリアルによる王都襲撃より少し以前のことだった。
「“死の先を知る者”……ベリトと名乗る謎の存在が、教団に突如として現れたそうだ。俺は当時、教団に居たわけじゃない。これは伝聞でしかないが……彼女、いや、性別などないのかもしれないが、それはこんな予言をしたらしい」
──じき、千年の長きに渡り繁栄する王の都を神の子羊が蹂躙するでしょう。
これは避けることのできぬ定められた運命。
しかし、其は主の慈悲……世界を死の先の安寧へと導くための救いなのです。
「最初は半信半疑だった者もいたんだろう。だが、光を束にしたような輝く金の髪、慈愛を湛えた美しい微笑、そして背に生えた大きな純白の翼……あの方は、存在するだけで多くの信者の心を惑わし、畏怖を集めたそうだ」
「お前なら解ったのではないか、それが歪虚であることを」
「……俺たちには、あれが歪虚か何かなんてどうだっていい。ただ……“天使”が、そこに居たことだけは事実だった。そして、人が知り得ない“死の先を知る者”が、それを安寧と言う。ならば、死した愛する者たちが一足先に安寧に身を委ねただけなのだと信じて、何がいけない?」
もしも死が回避すべきものなのだとしたら。
王国は、これまでの戦いでどれだけの死を招いてしまったのだろう。
小さな命の死一つ、回避できなかった我々はどれほどの大罪人なのだろうか。
●大精霊アフラ・マズダ
ヴィオラ・フルブライト(kz0007)が屋敷の牢に現れた時も、その囚人はふてぶてしい態度を崩さなかった。 囚人の名はチャド。元はエクラ教の司祭で、ホロウレイド以降に聖堂戦士団にも所属した。 まだ若く血気にはやることもある若者だったが、黒大公の襲撃以後はその猪突猛進ぶりはなりを潜めていた。 その時には既に彼は異教への改宗を済ませていたのだろう。 彼はハンターの機転により罠へと誘い込まれ、この屋敷であっけなく捕縛された。 当初は怯えを隠せていなかった彼だが、ここ数日の対応でヴィオラ――と、主に彼女の腹心のアイリーン――が囚人への苛烈な対応を行わないと知った。 |
![]() ヴィオラ・フルブライト |
ヴィオラは共を連れて鉄格子の向こうで椅子に縛り付けられた男と対峙した。
「貴方達の言う救いの教えを聞きに来ました。私にも聞かせいただけませんか?」
どんな事をされるのかと緊張していたチャドは困惑して間の抜けた顔をする。
男にとっては今日これまで、質問の返事代わりに散々呟いていたことだ。
教義を謳うぐらいは問題ない。何より死の間際には偉大なる名を讃えよと日々教わっている。
教団の存在が露見した以上、もはや彼に恐れるものはなかった。
「この世界は死と破滅に向かっている。運命づけられたことなのだ。
天使ベリト様はその運命を伝えるために大精霊アフラ・マズダ様から遣わされた使徒だ。
人々が死を安寧として迎えるように、そして新しい世界が到来するように。
我々テスカ教団は救世主であるベリト様のもと、その理念のために活動している」
「貴方のこれまで行ってきた活動も、その為のものだと?」
「そうだ。大精霊様のご威光をこの世にもたらし、新たな世界を迎えるために必要なことだ」
「法術陣への干渉が?」
「そうだと聞いている。だが詳しい術式は知らない。
尋問は無駄だぞ。俺は言われたことをやっているだけだ」
「そうですか……」
ヴィオラは無言になった。彼は彼なりに思い悩んだのだとわかる。
だからこそヴィオラは、導くことが出来なかった自分に責任も感じていた。
囚人はその無言を別の意味にとった。
「ヴィオラ殿であればわかるはず。ホロウレイドの戦いで、黒大公の襲来で、エクラがいかに無力なものだったかを!」
「…………」
ヴィオラは捕虜の目を見返した。
チャドは鉄のような硬く冷たい視線にやや怯みながらも、天使の言葉を思い起こして勇気を振り絞った。
「……エクラは誰も救わなかった。だがベリト様は違う。私達を救ってくださる。
今ならまだ遅くはない。改宗するのです。正しき世界を迎えるために!」
朗々とした演説はヴィオラの返答を待って途切れる。
しかし言葉をいかように取り繕うとも、彼が悪事をなした事実は変わらない。
ヴィオラの思いは欠片も揺らぐことは無かった。
「確かに世の禍に対して宗教は無力でした。等しく滅びる運命も事実でしょう。
けれどそれで良いのです。人を救うのは人の役割です。
私や貴方や、聖堂戦士団がそうしてきたように」
それを彼は足蹴にした。自分を含めた大勢の人の努力と成果を、何のためらいもなく。
腹立たしいと思う前にただ悲しかった。
「貴方達が自身の身勝手を反省していないのはよくわかりました。
我々は貴方を宗教家ではなく、ただの罪人として裁きます。
その肉体が滅びるまで、牢の奥で悔い改めなさい」
鉄格子の向こうで男2人が囚人の両脇を抱え上げる。
囚人は「邪教の手先」「王国の犬」などとヴィオラに罵声を浴びせかけていくが、
ヴィオラは聞こえぬ素振りで視線を動かすこともなかった。
罵声が聞こえなくなった頃を見計らい、アイリーンは話題を変えた。
「シャルシェレット卿の審問、結果はどうなったのですか?」
「のらりくらりとかわされました。少なくとも、王国を裏切ってはいないと彼は言いますが……」
ヴィオラは何かを話そうとして、結局口を噤んだ。
判明したのはただそれだけ。それ以上は全て推測でしかない。
情報を引き出そうにも話術の技術も才能もヘクス・シャルシェレット(kz0015)に及ぶ者はそうは居ない上に、今回の件はそもそもで証拠不十分。成果があがるはずもない。
ヴィオラにすれば今回の審問を強行した司教達にこそため息の出る思いであった。
「アイリーン、私は愚かだったのでしょうか?」
「……どうしたのよ急に」
「私はこの国が好きなのです。だからどのような辛い目にあっても、許せるのだと思っていました。
エクラの声を聞いたあの日、神の声で問われた時も、そう信じていました。
今も変わらないはずなのです」
腹心に尋ねる風ではあったが、その目は伏せたままどこにも向いていない。
長く彼女の言葉を側で聞いていたアイリーンには、台詞に疲労が滲んでいることは容易に理解できた。
「騎士団には判明した拠点の情報を伝えておきました。準備が整い次第、テスカ教団を攻撃します」
「それは……騎士団と協同で?」
「そうです。こういう局面では騎士団は頼りになります」
素直に騎士団の評価が上がったとはアイリーンは受け取らなかった。
教会の評価を一段切り下げたか、あるいは形振り構わなくなったのか。
外見上は冷静を装いながらもヴィオラは焦っている。そして自覚が無い。
身内の裏切りは想像以上にヴィオラの心に深く傷を残したのだろう。
不穏な空気を感じながらも、アイリーンはヴィオラの背を黙って見つめていた。
●王国軍、敗退の夜(2月24日公開)
王国騎士団と聖堂戦士団が並んで出撃したその日の夜半、王都に帰還した彼らの空気は重く張りつめていた。
連合軍の帰還──その列には、エクラの光の意匠が輝く棺がいくつか。荷馬車の台には横たわる多数の重体者も見える。
紛うことなき、敗退だった。
「今回の遠征の戦果は?」
「死傷者に関する発表は!」
夜半にも拘わらず、待ち受けた記者の質問に応じるものはなく、作戦の死者を弔うため連合軍の隊列はそのまま王都の中心であるエクラ教の総本山、聖ヴェレニウス大聖堂へと向かっていく。
彼らの持つランタンの明かりが徐々に通り道を照らし、やがて静かな王都に美しくも物悲しい鐘の音が響き渡った。
◇
そうして静謐な小部屋で此度の作戦結果に関する報告と検証が行われた。
「ベリトの配下と思しき堕落者4名、加えて比較的強力な個体であったミカエルを討伐した。……突入の際は、此方の不手際で苦労を掛けた。犠牲となった戦士には、心から冥福を祈る」
目を閉じ、祈りを捧げるようにして青年はしばし沈黙する。その胸中はさぞ複雑であっただろう。
「だが、彼らに報いる成果はあったのだろう?」
「……成果」
あの混乱を生き抜いた彼女は、思い返すように視線を落とす。
そんなヴィオラをせかすでもなく、エリオットはただ彼女の出方を待った。
先程までの感情の高ぶりを抑えるように、深呼吸をひとつ。ヴィオラは漸くエリオットの目を正面から見つめ、こう切り出した。
「ベリトの狙いは、やはり法術陣で間違いありません。彼女はこう言っていました。“まもなく法術陣を通り、偉大なる存在が顕現するでしょう。その時こそエクラに代わり我らが神が世界を救うときです”と」
「連中の救いとは死の先にある安寧。つまり、その偉大なる存在とやらは世界を死滅させるほど強大な力を持つ歪虚、ということか? しかしそれよりも……“法術陣を通り”? どういうことだ」
「やはり貴方も、同じところが気にかかりましたか」
疑問を呈すエリオットに首肯し、ヴィオラはなおも告げる。
「確かに、1000年分のマテリアルを用いれば、あらゆる奇跡が可能かもしれません。ですが、それはあくまでそのマテリアルが無色透明である場合です。法術陣は、起源として特定の法術効果を発動するために綿密に編まれた陣であり、その目的のために集積されプールされているマテリアルは陣の中におさまっている限りは術式に最適化しているはず。その都合、術式と無縁の奇跡を起こすことはできないはずです」
法術を扱うヴィオラは、明瞭にそう告げた。彼女は彼女の“推察”に一片の濁りも持っていないのだろう。
「だが、それでも連中は、法術陣を行使する用意があるということか」
逡巡──幾つかの手がかりが見えてきた。目の前の事実と事実を結びつけることで、新たな可能性を導くことができるだろう。
エリオットは、ややあって確認するようにいくつかの事実を口にした。
「此度の戦いではっきりしたことがある。お前の話を聞く限りでは、ベリトは高位の歪虚であるだろうということ。そして、そんな歪虚が新興宗教に付け入り、人の絶望を加速させ、堕落者を増やし……回りくどい手段を用いてまで成そうとしていることがある、ということだ」
「ベリトの力がただ単純に人々の殺戮に向けられたのなら、先のホロウレイドの二の舞もありえましょう。体感的にですが、恐らくあれはベリアルに近しい……それほどの負を抱えた存在です。ですが、その彼女が自らの力を直接的に行使しないことがそもそもの疑問です。もし、彼女の言う“偉大なる存在の顕現”が法術陣を用いて可能であるのならば……その疑問に対する答えとなります。確実に、ホロウレイドどころでは済まないでしょう」
──王国は、遠くない将来、壊滅する。
蝋に灯る炎が揺れ、エリオットの青い瞳を揺らめかせる。
「王国法術陣の不正使用。それにより何らかより強大な存在を現世に呼び寄せることで、世界を破滅させる──連中の目的は、はっきりしたな」
だが、対するヴィオラは曖昧な面持ちでおり、騎士団長のような覇気は感じられない。
エリオットがそんな様子を怪訝に思っていると、やがて彼女は、
「……ならば、どうだというのです」
そう言って、白い拳を机に叩きつけた。正直、エリオットはヴィオラの様子に酷く驚いた。
彼女はここまでの疲労と負傷、そしてなにより心に受けた深刻なダメージを隠し切れなかったのだろう。
「連中がそれをどう成そうとしているのか、理屈もわからなければ、止める手段も現時点では見当たりません。でも、それはいい。見つければいい、探せばいい。これからなんとでもなりましょう。ですが、私たちは……“私は、彼女に敗北している”のです! あれを破らねば、その先などほど遠い。まして世界を破滅させるほどの存在を召喚しようなどと……!」
言葉は最後まで紡がれることなく、自らが吐き出した言葉を嫌悪するように、ヴィオラは唇を噛み、咄嗟に視線を外す。
揺らめく蝋燭の炎が、女の目の縁に輝く雫を照らしていた。
◇
これまでヴィオラ・フルブライトは、幾多の戦争を勝利に導いてきた。
彼女が使徒の声を聞いたその日から、その事実をもって聖堂教会が保有する軍の長となったヴィオラに対し、当初のうちはほとんどの聖堂戦士が反抗的だったと聞いている。
だが、イスルダ島の敗戦以降、国王が死に、騎士団の半数が倒れる大敗北において、聖堂戦士団の損害は2割程度。
その指揮をとり仲間を死地より救い出したヴィオラは、戦乙女として仲間の崇拝に近い尊敬を勝ち取った。
あの戦いの場に居たエリオット自身、彼女の采配には畏敬の念すら抱いていた。あのときの彼女は、まさに神の奇跡の体現者のように思えたからだ。
しかしそれは彼女にとって孤独の始まりでしかなかったのだろう。
エリオットですら、当時王国最強の騎士団を率いるに“若すぎる”と非難されたこともあった。
──にもかかわらず、自分より若い彼女は、自分よりも早くその任を負い、途方もない大戦を切り抜けた。
彼女はどんな思いでこれまでを戦い続けてきたのか。
恐らく、それは想像を絶する孤独。
不敗の戦乙女が遂に迎えた、初の敗北。浴びせ続けられる期待の声は、華奢なその体にどれほどの重圧をかけたのだろう。
「ヴィオラ」
呼ばれた名はいつもより幾分人間味のある声音を纏っている。それに気付きながら、なお視線を外し続けたヴィオラに──
「……心配ない。この件には心当たりがある。それに、今回騎士団からは具体的な犠牲は出てない。ハンターは、重体者を出してしまったがな。だが、ともあれ今度は我々が……必ず、“借りを返す”。だからもう、今日は眠るんだ」
◇
ヴィオラは、目の前の男の有様に、強い戸惑いを感じていた。
エリオット・ヴァレンタイン──当初、この男のことをホロウレイドにおいて王の近くにいながら主を守り抜くことができず、おめおめと生還した不甲斐ない騎士だと、そう思っていた。
だが、法術陣という切り札を失って大敗北を喫した瓦礫の王国と、半数を失い組織として破綻しかけた騎士団を、希望の象徴として彼が背負い続けてきたことを今では理解している。
──正直、当初は彼を憐れんでいた。国が負った多額の負債を返し続けるために捧げられた男だと。
平たく言えば、“人柱”。だが、それが悪い事だとは微塵も思わなかった。
当のヴィオラ自身が、同じ道を選び、歩んでいるからだ。
ホロウレイド終戦より、今年で7年になる。その間、騎士団と戦士団との間には様々なことがあった。
互いに顔を合わせるのは定例軍議やその他非常時の招集程度のものだったが、男は馬鹿正直に国に尽くし、今日の復興を成し得てしまった。
無論、今の王国が十全とは決して言い難い。それでも、これまでの在り方を見ていたからこそ、不本意ながら理解できてしまったのだ。
この茨道を歩みだそうという覚悟も、歩み続ける意思も、痛みも、願いも、その先に抱く希望も。
──もしかして私は……気付かぬ間に、彼に自分自身を重ねていたのかもしれない。
ヴィオラがエリオットに特別きつく当たってしまうのは、“自分”に厳しく有り続けるヴィオラにとってごく自然なことだったのだろう。
ただ、その理由が自分自身にも解らないままであったことが、これまでヴィオラの苛立ちを助長していた原因だった。
「……解りました」
本来ならば「貴方にそんなことを言われるようになったのなら、私もお終いですね」などと反抗的な態度を見せたのだろうが……今のヴィオラには“そんな余力はない”。そういうことにしておこうと、彼女は思った。
「“借り”、必ず返してください」
貴方がたの作戦が成功し、我々が負傷していなければもう少しベリトに対抗する手もあったでしょうから──いつもの口調を保とうとするヴィオラは、どこか歯切れが悪い。
先のエリオットの言葉に戸惑ったのは、これまで自身が彼に対して見せてきた態度への“返答”としては余りに優しすぎるからだ。
恐らくそれは、同情に由来するものであることをヴィオラは解っている。だが、なぜか今だけは、不思議と心地良く感じられたのだ。
「それと……」
罰が悪そうに立ち上がったヴィオラは、エリオットに背を向けたまま、消え入るような声でこう言った。
「……ありがとう」
それがエリオットに聞こえたかどうか確かめないまま、ヴィオラは足早に部屋を辞していった。
●法術陣の真実を明かせ
ふ、と吐き出した紫煙の向こうに騎士団長の姿を見て、ゲオルギウスはソファの背に自らの体を預ける。
「歪虚との交戦はお前たち覚醒者の仕事だ。非覚醒者のわしを必要としたのは、先日頼まれていた例の法術陣のことか」
先の作戦前、エリオットはゲオルギウスにある者を手渡していた。それは、ある危険な任務に対する対価。
騎士団の仕事の範疇を超えた、国家機密の諜報任務──法術陣の真相を暴かねばならない時が来たと、青年はその時既に理解していたのだ。
「……流石はゲオルギウス副団長。どうか、お力を貸して頂きたい」
相手はエリオットが新米騎士の頃よりその知略謀略姦計でもって騎士団の陰の立役者として活躍してきた男だ。
老いてなお曇りない眼と舌を持つ老騎士には、時折エリオットも自身が長であることをさしおいた応対をしてしまうことがある。
「よせ、やめろ。頭を下げるな。お前のそれはわしの頭より重くなくては意味がない。老人の朝は早いんだ。要件は手短に済ませてくれ」
一呼吸の後、エリオットが切り出したのはこんな話だった。
「王国に張り巡らされた法術陣。その真相を今、すべて明らかにすべきと考えている。ベリトの目的は法術陣の不正使用による、恐らく最高位の歪虚の召喚だ。彼女ですら、ベリアルクラスの力を持つと目される。それが“神”と敬う存在だ。降臨されれば王国は──世界は、史上最悪の災禍に飲まれる」
「なるほど、あれの不正使用と来たか」
顎鬚を掻き、老騎士は思案する。その表情は、聊か厳しい。
「そもそも法術陣に蓄えられたマテリアルは、その時点で術式の発動に備えてある方向性を持たされているはず。それを強引に捻じ曲げるなどすれば、法術陣の術式自体を破壊しかねず、それはつまり長らく貯蔵したマテリアルの霧散にも繋がりかねん。だが、ベリトはそれを超越し、召喚を成すという。つまり……」
「お前は気付いたのか。法術陣が持つと伝えられている、その力の形に」
短い沈黙が支配する部屋の中、老騎士の手元のパイプから上がる煙だけが唯一時の流れを正しく表している。
「わしの調査によれば、だが……」
腹をくくったような、深い吐息。そうして、ゲオルギウスは語り始めた。
──王国法術陣が発動した時、“大精霊エクラが顕現する”。
「言い伝えによれば、だがな。法術陣が発動した履歴を見つけることはできなかった。故に事実を目にした者の記録がない以上、確証はない。そういうものらしい、という程度にとどめておけ。この情報自体、恐らく教会のトップと、ごく一部の法術研究家だけが知り得ていることだろうからな」
「大精霊エクラの顕現……!? まさか、そんなことが」
「起こり得るはずがない、か? ヴィオラは言っていたのだろう。“1000年分のマテリアルを用いれば、あらゆる奇跡が可能かもしれません”、とな」
黙り込むエリオット。その表情が明確に険しさを増したことを、ゲオルギウスは理解していた。
「お前の想像通りだったろう。連中は法術陣の元来の機能たる“エクラ召喚”のベクトルを維持したまま、その実それをなんらかの手段で不正使用することにより“エクラと対極にあたる大精霊級の負の存在を呼び出そうとしている”、ということだ」
「……いよいよ連中の妄言では済まされなくなったな。もはや命を賭してでも止めねばならないだろう」
「あぁ、そうだろうとも。お前の話、久々に背筋が寒くなった」
ゲオルギウスは、先の話を楽しむかのように口の端を上げる。
「この歳まで生きて、様々な事象を見知った。もはや、ある程度怖いものはないと思っておったが……未知の恐怖は尚も尽きん。もはや他人事の顔をしてはいられんな」
挑発的なその表情は、今のエリオットを奮い立たせるにふさわしい熱を帯びていた。
連合軍の帰還──その列には、エクラの光の意匠が輝く棺がいくつか。荷馬車の台には横たわる多数の重体者も見える。
紛うことなき、敗退だった。
「今回の遠征の戦果は?」
「死傷者に関する発表は!」
夜半にも拘わらず、待ち受けた記者の質問に応じるものはなく、作戦の死者を弔うため連合軍の隊列はそのまま王都の中心であるエクラ教の総本山、聖ヴェレニウス大聖堂へと向かっていく。
彼らの持つランタンの明かりが徐々に通り道を照らし、やがて静かな王都に美しくも物悲しい鐘の音が響き渡った。
◇
日付が変わる頃、事後処理を終えた聖堂戦士団の長、ヴィオラ・フルブライト(kz0007)と王国騎士団の長、エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が居たのは大聖堂の一室だった。 無数の蝋燭に火が灯っただけの薄暗く冷たい部屋の中で、二人は漸く言葉を交わそうとしていた。 だが、いつまでたっても重苦しい沈黙が続く。 いつもの彼女なら、鋭い切り口でエリオットの失態を非難し、自らの見解と次の手を告げてさっさと去っていくだろう。なのに、そんな雰囲気はない。 彼女の様子がおかしいことは、エリオットにもすぐわかった。 白磁のごとき美しい肌をしたヴィオラの顔は、いつもなら柔らかな血色が指し、神秘的な美を漂わせていただろう。 しかし今、目の前にした女の顔から文字通り血の気が失せている。まるで毒林檎で仮死に瀕した白雪姫のようだ。 「……疲労が濃いなら、先に仮眠をとってはどうだ」 せめてもの優しさだろうが、沈黙を破ったエリオットの言葉にはどこか探るような色が滲んでいる。 「結構です。貴方にそのような言葉をかけられるなど、私も随分……」 なぜか。 その時エリオットには、未だ剣のある言葉を並べ立てるヴィオラが、年よりずっと幼い少女のように見えた。 「もういい、解った」 敢えて強気を見せようとするヴィオラの言葉を、同じく言葉で遮って、エリオットは小さく息をつく。 「とにかく……報告を始めよう」 |
![]() ヴィオラ・フルブライト ![]() エリオット・ヴァレンタイン |
「ベリトの配下と思しき堕落者4名、加えて比較的強力な個体であったミカエルを討伐した。……突入の際は、此方の不手際で苦労を掛けた。犠牲となった戦士には、心から冥福を祈る」
目を閉じ、祈りを捧げるようにして青年はしばし沈黙する。その胸中はさぞ複雑であっただろう。
「だが、彼らに報いる成果はあったのだろう?」
「……成果」
あの混乱を生き抜いた彼女は、思い返すように視線を落とす。
そんなヴィオラをせかすでもなく、エリオットはただ彼女の出方を待った。
先程までの感情の高ぶりを抑えるように、深呼吸をひとつ。ヴィオラは漸くエリオットの目を正面から見つめ、こう切り出した。
「ベリトの狙いは、やはり法術陣で間違いありません。彼女はこう言っていました。“まもなく法術陣を通り、偉大なる存在が顕現するでしょう。その時こそエクラに代わり我らが神が世界を救うときです”と」
「連中の救いとは死の先にある安寧。つまり、その偉大なる存在とやらは世界を死滅させるほど強大な力を持つ歪虚、ということか? しかしそれよりも……“法術陣を通り”? どういうことだ」
「やはり貴方も、同じところが気にかかりましたか」
疑問を呈すエリオットに首肯し、ヴィオラはなおも告げる。
「確かに、1000年分のマテリアルを用いれば、あらゆる奇跡が可能かもしれません。ですが、それはあくまでそのマテリアルが無色透明である場合です。法術陣は、起源として特定の法術効果を発動するために綿密に編まれた陣であり、その目的のために集積されプールされているマテリアルは陣の中におさまっている限りは術式に最適化しているはず。その都合、術式と無縁の奇跡を起こすことはできないはずです」
法術を扱うヴィオラは、明瞭にそう告げた。彼女は彼女の“推察”に一片の濁りも持っていないのだろう。
「だが、それでも連中は、法術陣を行使する用意があるということか」
逡巡──幾つかの手がかりが見えてきた。目の前の事実と事実を結びつけることで、新たな可能性を導くことができるだろう。
エリオットは、ややあって確認するようにいくつかの事実を口にした。
「此度の戦いではっきりしたことがある。お前の話を聞く限りでは、ベリトは高位の歪虚であるだろうということ。そして、そんな歪虚が新興宗教に付け入り、人の絶望を加速させ、堕落者を増やし……回りくどい手段を用いてまで成そうとしていることがある、ということだ」
「ベリトの力がただ単純に人々の殺戮に向けられたのなら、先のホロウレイドの二の舞もありえましょう。体感的にですが、恐らくあれはベリアルに近しい……それほどの負を抱えた存在です。ですが、その彼女が自らの力を直接的に行使しないことがそもそもの疑問です。もし、彼女の言う“偉大なる存在の顕現”が法術陣を用いて可能であるのならば……その疑問に対する答えとなります。確実に、ホロウレイドどころでは済まないでしょう」
──王国は、遠くない将来、壊滅する。
蝋に灯る炎が揺れ、エリオットの青い瞳を揺らめかせる。
「王国法術陣の不正使用。それにより何らかより強大な存在を現世に呼び寄せることで、世界を破滅させる──連中の目的は、はっきりしたな」
だが、対するヴィオラは曖昧な面持ちでおり、騎士団長のような覇気は感じられない。
エリオットがそんな様子を怪訝に思っていると、やがて彼女は、
「……ならば、どうだというのです」
そう言って、白い拳を机に叩きつけた。正直、エリオットはヴィオラの様子に酷く驚いた。
彼女はここまでの疲労と負傷、そしてなにより心に受けた深刻なダメージを隠し切れなかったのだろう。
「連中がそれをどう成そうとしているのか、理屈もわからなければ、止める手段も現時点では見当たりません。でも、それはいい。見つければいい、探せばいい。これからなんとでもなりましょう。ですが、私たちは……“私は、彼女に敗北している”のです! あれを破らねば、その先などほど遠い。まして世界を破滅させるほどの存在を召喚しようなどと……!」
言葉は最後まで紡がれることなく、自らが吐き出した言葉を嫌悪するように、ヴィオラは唇を噛み、咄嗟に視線を外す。
揺らめく蝋燭の炎が、女の目の縁に輝く雫を照らしていた。
◇
これまでヴィオラ・フルブライトは、幾多の戦争を勝利に導いてきた。
彼女が使徒の声を聞いたその日から、その事実をもって聖堂教会が保有する軍の長となったヴィオラに対し、当初のうちはほとんどの聖堂戦士が反抗的だったと聞いている。
だが、イスルダ島の敗戦以降、国王が死に、騎士団の半数が倒れる大敗北において、聖堂戦士団の損害は2割程度。
その指揮をとり仲間を死地より救い出したヴィオラは、戦乙女として仲間の崇拝に近い尊敬を勝ち取った。
あの戦いの場に居たエリオット自身、彼女の采配には畏敬の念すら抱いていた。あのときの彼女は、まさに神の奇跡の体現者のように思えたからだ。
しかしそれは彼女にとって孤独の始まりでしかなかったのだろう。
エリオットですら、当時王国最強の騎士団を率いるに“若すぎる”と非難されたこともあった。
──にもかかわらず、自分より若い彼女は、自分よりも早くその任を負い、途方もない大戦を切り抜けた。
彼女はどんな思いでこれまでを戦い続けてきたのか。
恐らく、それは想像を絶する孤独。
不敗の戦乙女が遂に迎えた、初の敗北。浴びせ続けられる期待の声は、華奢なその体にどれほどの重圧をかけたのだろう。
「ヴィオラ」
呼ばれた名はいつもより幾分人間味のある声音を纏っている。それに気付きながら、なお視線を外し続けたヴィオラに──
「……心配ない。この件には心当たりがある。それに、今回騎士団からは具体的な犠牲は出てない。ハンターは、重体者を出してしまったがな。だが、ともあれ今度は我々が……必ず、“借りを返す”。だからもう、今日は眠るんだ」
◇
ヴィオラは、目の前の男の有様に、強い戸惑いを感じていた。
エリオット・ヴァレンタイン──当初、この男のことをホロウレイドにおいて王の近くにいながら主を守り抜くことができず、おめおめと生還した不甲斐ない騎士だと、そう思っていた。
だが、法術陣という切り札を失って大敗北を喫した瓦礫の王国と、半数を失い組織として破綻しかけた騎士団を、希望の象徴として彼が背負い続けてきたことを今では理解している。
──正直、当初は彼を憐れんでいた。国が負った多額の負債を返し続けるために捧げられた男だと。
平たく言えば、“人柱”。だが、それが悪い事だとは微塵も思わなかった。
当のヴィオラ自身が、同じ道を選び、歩んでいるからだ。
ホロウレイド終戦より、今年で7年になる。その間、騎士団と戦士団との間には様々なことがあった。
互いに顔を合わせるのは定例軍議やその他非常時の招集程度のものだったが、男は馬鹿正直に国に尽くし、今日の復興を成し得てしまった。
無論、今の王国が十全とは決して言い難い。それでも、これまでの在り方を見ていたからこそ、不本意ながら理解できてしまったのだ。
この茨道を歩みだそうという覚悟も、歩み続ける意思も、痛みも、願いも、その先に抱く希望も。
──もしかして私は……気付かぬ間に、彼に自分自身を重ねていたのかもしれない。
ヴィオラがエリオットに特別きつく当たってしまうのは、“自分”に厳しく有り続けるヴィオラにとってごく自然なことだったのだろう。
ただ、その理由が自分自身にも解らないままであったことが、これまでヴィオラの苛立ちを助長していた原因だった。
「……解りました」
本来ならば「貴方にそんなことを言われるようになったのなら、私もお終いですね」などと反抗的な態度を見せたのだろうが……今のヴィオラには“そんな余力はない”。そういうことにしておこうと、彼女は思った。
「“借り”、必ず返してください」
貴方がたの作戦が成功し、我々が負傷していなければもう少しベリトに対抗する手もあったでしょうから──いつもの口調を保とうとするヴィオラは、どこか歯切れが悪い。
先のエリオットの言葉に戸惑ったのは、これまで自身が彼に対して見せてきた態度への“返答”としては余りに優しすぎるからだ。
恐らくそれは、同情に由来するものであることをヴィオラは解っている。だが、なぜか今だけは、不思議と心地良く感じられたのだ。
「それと……」
罰が悪そうに立ち上がったヴィオラは、エリオットに背を向けたまま、消え入るような声でこう言った。
「……ありがとう」
それがエリオットに聞こえたかどうか確かめないまま、ヴィオラは足早に部屋を辞していった。
●法術陣の真実を明かせ
そのままその足で王国騎士団本部に帰還したエリオット・ヴァレンタイン王国騎士団長は、すぐさま副団長であり諜報に秀でた青の隊隊長のゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトを召喚した。 「……深夜に爺を呼び出しおって。よほどの事態なのだろうな」 「あぁ。日付をまたいだが、昨日行った例のテスカ教団拠点制圧作戦で……」 「聞いておる。作戦失敗──王国が誇る騎士団長と、不敗の戦乙女が出陣してなおそのざまとは、世も末だ」 落ち着いた濃紺のガウンを羽織った老騎士は、取り出したパイプに火をつけ、深くそれを吸い込んだ。 「いくつか想定外の事態もあった。特に敵首魁と思しきベリト──やつが行使した術は、恐らく過去例を見ない強力なものだった」 「わしを呼び出したのは“それ”が理由ではなかろう」 |
![]() ゲオルギウス・グラニフ・ グランフェルト |
「歪虚との交戦はお前たち覚醒者の仕事だ。非覚醒者のわしを必要としたのは、先日頼まれていた例の法術陣のことか」
先の作戦前、エリオットはゲオルギウスにある者を手渡していた。それは、ある危険な任務に対する対価。
騎士団の仕事の範疇を超えた、国家機密の諜報任務──法術陣の真相を暴かねばならない時が来たと、青年はその時既に理解していたのだ。
「……流石はゲオルギウス副団長。どうか、お力を貸して頂きたい」
相手はエリオットが新米騎士の頃よりその知略謀略姦計でもって騎士団の陰の立役者として活躍してきた男だ。
老いてなお曇りない眼と舌を持つ老騎士には、時折エリオットも自身が長であることをさしおいた応対をしてしまうことがある。
「よせ、やめろ。頭を下げるな。お前のそれはわしの頭より重くなくては意味がない。老人の朝は早いんだ。要件は手短に済ませてくれ」
一呼吸の後、エリオットが切り出したのはこんな話だった。
「王国に張り巡らされた法術陣。その真相を今、すべて明らかにすべきと考えている。ベリトの目的は法術陣の不正使用による、恐らく最高位の歪虚の召喚だ。彼女ですら、ベリアルクラスの力を持つと目される。それが“神”と敬う存在だ。降臨されれば王国は──世界は、史上最悪の災禍に飲まれる」
「なるほど、あれの不正使用と来たか」
顎鬚を掻き、老騎士は思案する。その表情は、聊か厳しい。
「そもそも法術陣に蓄えられたマテリアルは、その時点で術式の発動に備えてある方向性を持たされているはず。それを強引に捻じ曲げるなどすれば、法術陣の術式自体を破壊しかねず、それはつまり長らく貯蔵したマテリアルの霧散にも繋がりかねん。だが、ベリトはそれを超越し、召喚を成すという。つまり……」
「お前は気付いたのか。法術陣が持つと伝えられている、その力の形に」
短い沈黙が支配する部屋の中、老騎士の手元のパイプから上がる煙だけが唯一時の流れを正しく表している。
「わしの調査によれば、だが……」
腹をくくったような、深い吐息。そうして、ゲオルギウスは語り始めた。
──王国法術陣が発動した時、“大精霊エクラが顕現する”。
「言い伝えによれば、だがな。法術陣が発動した履歴を見つけることはできなかった。故に事実を目にした者の記録がない以上、確証はない。そういうものらしい、という程度にとどめておけ。この情報自体、恐らく教会のトップと、ごく一部の法術研究家だけが知り得ていることだろうからな」
「大精霊エクラの顕現……!? まさか、そんなことが」
「起こり得るはずがない、か? ヴィオラは言っていたのだろう。“1000年分のマテリアルを用いれば、あらゆる奇跡が可能かもしれません”、とな」
黙り込むエリオット。その表情が明確に険しさを増したことを、ゲオルギウスは理解していた。
「お前の想像通りだったろう。連中は法術陣の元来の機能たる“エクラ召喚”のベクトルを維持したまま、その実それをなんらかの手段で不正使用することにより“エクラと対極にあたる大精霊級の負の存在を呼び出そうとしている”、ということだ」
「……いよいよ連中の妄言では済まされなくなったな。もはや命を賭してでも止めねばならないだろう」
「あぁ、そうだろうとも。お前の話、久々に背筋が寒くなった」
ゲオルギウスは、先の話を楽しむかのように口の端を上げる。
「この歳まで生きて、様々な事象を見知った。もはや、ある程度怖いものはないと思っておったが……未知の恐怖は尚も尽きん。もはや他人事の顔をしてはいられんな」
挑発的なその表情は、今のエリオットを奮い立たせるにふさわしい熱を帯びていた。
●真実を求めて(2月26日公開)
●ヘクスの大漁旗
「号外! 号外だよ!! 王国の大スキャンダル発覚だ!!」
テスカ教団拠点制圧失敗の翌日、太陽が頂点を通りかかろうという頃、王都はいつもと違う賑わいを見せていた。
「王国戦後初の異端審問が開かれた! 嫌疑にかけられたのは、なんと、あのシャルシェレット卿だ!!」
騒めく王の都。その話題は瞬く間に人々の口を伝っていった。
ヘクス・シャルシェレットが、自らの息のかかった酒場でハンター相手にその時のことを憚りもせず語っていたらしい。その時、その酒場にはヘルメス新聞社のデスクが“丁度居合わせており”、これを独占スクープとして一面に飾ったのだという。
「見たか、エリオット。そこの挿絵などは傑作だぞ」
ゲオルギウスが指した紙面には、ヘクスが参加していたという飲み会の様子をイメージした挿絵が載っている。
ヘクスが美しい女性を侍らせつつ豪快に酒を堪能する端で壁を殴るおかしなハンターや酔いつぶれて倒れるハンターの姿も描かれている。
法廷画家でもいたのかというほどの詳細なイメージ画は、見覚えのあるハンターの顔なら個人が特定できてしまうほどだ。
「……頭が痛くなってきたんだが」
「ヤツもしっかり踊らされたようだな。ふむ、結構。……あの男、まこと人を“利用する”のが上手い。国の関係者を酒席に呼ばず、ゴシップの責任所在を全て自分に向けるところまで良く計算されている」
くつくつと笑いをこらえきれない様子でいたが、ゲオルギウスが漸く深い息をついた。
「さて、お前はこれで首の皮一枚、繋がったわけだ」
「俺が、か……?」
「解らんか? ……お前は自分のことになると途端に察しが悪くなる」
呆れた様子で煙を吐き出すと、ゲオルギウスは言葉にするのも面倒臭いという様子でいたが、渋々説明を開始する。なんだかんだ言って、面倒見が良い男なのだ。
「お前と卿の間にどういう縁故があるかはさておき、この男、自らを餌に国民の多くを釣り上げおった。仮にも奴は王家の傍流。この件は、いまや2つの意味でゴシップと化しておるのよ」
「……まさか、あいつ」
「記事では卿への疑惑と同時に、教会のやり口に対する疑念にも触れられていたな? 国民の心にそれらが芽吹いた以上、もはや“次の異端審問を軽々しく行うことができなくなった”わけだ」
「ヘクスの次に召喚されるだろう俺の……異端審問を、阻止したのか」
「あの男の事だ。単にお前を守るというより、お前の馬鹿正直さを恐れたのかもしれんがな」
号外に並ぶ様々な情報。それは決して生温いものではない。ヘクス自身にかけられた嫌疑はやがて大なり小なり彼へのバッシングに繋がるだろうことは想像に容易い。
「“今ならまだ奴は王都にいる”可能性が高い……すまないが、作戦会議は一時中断させてもらえないか」
窓から差し込む朝日に目を眇め、ゲオルギウスは立ち上がる。
「やれやれ、老人を朝まで扱き使ってくれた。だがまぁ、王国最大級のスキャンダルは回避されたのだ。礼の一つでも言うがいい」
──そこのそれは土産だ。卿にくれてやれ。
ゲオルギウスのさした土産の紙袋には、ヘクスが治める港町ガンナ・エントラータの土産品の一つ、“大漁旗”がおさめられていた。
●何を選び、何を壊すのか
「……へぇ。“聞きたいこと”ねぇ」
くす、と意地の悪い笑みを浮かべると、エリオットの真向かいのソファに腰をおろしてヘクスは言う。
「で、なんだい? 折角の逢瀬を無粋に使ってまで聞きたいことって、さ」
「いま国を騒がせている元凶……法術陣を巡る事件、お前は知っているんだろう?」
単刀直入。無駄を省いたと言えば効率が良いが、前置きは一切ない。
大貴族はおかしそうに笑うと、首を傾げて青年を見やる。
「さて、ねぇ。エリーは何か気付いたんじゃないの? だから僕のところにやってきた、そうだろう?」
はぐらかすような物言いに眉をひそめる騎士団長は「質問をしたのは俺の方だ」と不平を漏らし、それでも素直に応じる。
「まだ手元にある情報だけを元にした仮説でしかないが、法術陣の本来の機能は……大精霊エクラの召喚にあるのではないかと、推測されている。それが、近く歪虚に利用されるだろうということも」
エリオットの言葉には、現時点では何の確証もない。だからこそ、彼はこの男を足がかりにしたかったのだ。
だが。
「……く、ふふふ……」
ヘクスの反応は──ある意味想定の範疇と言えたが──見ての通り。声をこらえるようにして、笑い始めた。
「あのな……俺は大真面目だ。それに、何もお前に法術陣の真相を吐けと迫っているわけじゃない。ただ……」
逡巡し、青年は声を落とす。
「お前は、“現状”をどう思っている? ……それを、聞きたかったんだ」
そこには、幾つかの感情が内包されていて、ヘクスにはそれが手に取るようにわかった。
恐らく彼は、ヘクスのことを案じているのだろう。号外記事を見て馬鹿正直にヘクスの今後を慮っているのだろうし、同時に“件の疑惑”についても彼の知り得る限りで疑わしい事実を把握しながら、それでなお変わることのない信頼を寄せている。
それを目の当たりにしたヘクスは、先程にも増して笑みを深めた。
──本当に、人が善いねえ。
エリオットも……“彼ら”も。その事はヘクスにとってはとても好ましい事実で──偽り無く、愉快に感じている。
だからこそ、彼はこう告げた。
「僕? そうだねぇ……『エリー頑張ってるなぁ』って思ってるよ」
「ふざけるな」
それまでにやついていたヘクスだが、突然表情を変えると言葉を選びながら喋り出した。
「現状、そうだな。しいて言えば、“なんとも思ってない”ね。全ては些事だ」
溜息を吐くエリオットをよそに、ヘクスはなおも続ける。
「どんな審問もゴシップも、僕の枷には成り得ない。それに、ほら。どんな歪虚が来たって、キミがこの国をなんとかしてくれるんだろう?」
──だから、この男は嫌なんだ。稀にこうして“本気に見えるような目”をしてみせる。 「胡散臭さでお前の右に出る男は居ないな」
「酷いなぁ、エリーは。でも、そうだね……」
ヘクスは立ち上がって窓の外を見下ろした後、肩越しに青年を振り返る。
「エリーも勘づいている通り、どうやら法術陣についてはもう少しだけ事情がありそうだね。 前王アレクシウスがシスティーナへの継承前に戦死して情報が失われたことが原因かな。ま、幾つか理由はあるんだろうけど、あのゲオルギウスですら調べがつかなかったんだろ? それってつまりはそういう事だ」
「……!」
「ともあれ……それを勘づいているキミは、もう腹を括ってるはずだ」
そう言って、ヘクスは微笑む。
「大丈夫だ、エリオット。“間違いない”から動いてみればいい」
また、だ。こんなときばかりいつもの胡散臭い笑みではなく、恐らくはヘクス本来の柔らかい笑みを湛えるから扱いに困るのだ。
「随分簡単に言ってくれる」
「まぁね。でも、事実だ。キミは何一つ気にしなくていい。もはや何人もキミを阻むことはないだろうさ。それにそういうくだらないしがらみはね、ぶち壊すために存在してるんだから」
ヘクスの笑みに一瞬不敵さが滲んだように見えたのだが、窓辺の逆光がその表情を覆い隠してしまった。
「……そうか。それと、最後に一つ」
「ん、名残惜しいの?」
「そうじゃない。ただ……助かった。感謝していると、伝えたかった」
律儀な礼と共に、部屋の扉が閉まる音がした。
「はは。本当、呆れるほどに馬鹿正直だね」
──待ってるよ。キミ達が“此処”にやってくる日を、ね。
●真実を求めて
「号外! 号外だよ!! 王国の大スキャンダル発覚だ!!」
テスカ教団拠点制圧失敗の翌日、太陽が頂点を通りかかろうという頃、王都はいつもと違う賑わいを見せていた。
「王国戦後初の異端審問が開かれた! 嫌疑にかけられたのは、なんと、あのシャルシェレット卿だ!!」
騒めく王の都。その話題は瞬く間に人々の口を伝っていった。
王国西方のテスカ教団拠点制圧に失敗した王国騎士団ならびに聖堂戦士団は、各所の圧力を受け早急に次の対処を求められていた。 作戦終了後からその足でゲオルギウスを呼びつけたエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)は、早朝になってもまだ老騎士を伴って騎士団長室で議論を交わしていたところだったのだが──その時、突然ノックが鳴った。 老騎士は、扉を開けると開口一番、 「ご苦労。編集長には、また近く足を運ぶと伝えてくれ」 そういって作り笑いを浮かべた。 使者が差し出したのは、王国シェアトップを誇るヘルメス新聞社が解禁を控えた号外記事の先刷りだった。 「面白い情報が載っとる。見てみろ」 ゲオルギウスから差し出されたのは『号外』の文字が躍る誌面。 『凶報!! ヘクス・シャルシェレット卿に異例の異端審問!! 王国は既に歪虚の魔の手に蝕まれているのか? 教会の強引な審問招集は適切だったのか? その真実に、迫る!』 ──飛び込んできた見出しに、エリオットは思わず漆黒の髪をぐしゃりと掻き乱した。 記事は紛れもなく王国のスキャンダルで、証拠もなく大貴族を呼びつけておきながら無罪放免とした教会にとっても“隠したい事実”だろう出来ごとを赤裸々に綴っている。 本来ならばあり得ない情報流出だ。それが、なぜこんな新聞の一面を飾っているのか? 記事を読めば、その理由は明白だった。 |
![]() エリオット・ヴァレンタイン ![]() ゲオルギウス・グラニフ・ グランフェルト |
「見たか、エリオット。そこの挿絵などは傑作だぞ」
ゲオルギウスが指した紙面には、ヘクスが参加していたという飲み会の様子をイメージした挿絵が載っている。
ヘクスが美しい女性を侍らせつつ豪快に酒を堪能する端で壁を殴るおかしなハンターや酔いつぶれて倒れるハンターの姿も描かれている。
法廷画家でもいたのかというほどの詳細なイメージ画は、見覚えのあるハンターの顔なら個人が特定できてしまうほどだ。
「……頭が痛くなってきたんだが」
「ヤツもしっかり踊らされたようだな。ふむ、結構。……あの男、まこと人を“利用する”のが上手い。国の関係者を酒席に呼ばず、ゴシップの責任所在を全て自分に向けるところまで良く計算されている」
くつくつと笑いをこらえきれない様子でいたが、ゲオルギウスが漸く深い息をついた。
「さて、お前はこれで首の皮一枚、繋がったわけだ」
「俺が、か……?」
「解らんか? ……お前は自分のことになると途端に察しが悪くなる」
呆れた様子で煙を吐き出すと、ゲオルギウスは言葉にするのも面倒臭いという様子でいたが、渋々説明を開始する。なんだかんだ言って、面倒見が良い男なのだ。
「お前と卿の間にどういう縁故があるかはさておき、この男、自らを餌に国民の多くを釣り上げおった。仮にも奴は王家の傍流。この件は、いまや2つの意味でゴシップと化しておるのよ」
「……まさか、あいつ」
「記事では卿への疑惑と同時に、教会のやり口に対する疑念にも触れられていたな? 国民の心にそれらが芽吹いた以上、もはや“次の異端審問を軽々しく行うことができなくなった”わけだ」
「ヘクスの次に召喚されるだろう俺の……異端審問を、阻止したのか」
「あの男の事だ。単にお前を守るというより、お前の馬鹿正直さを恐れたのかもしれんがな」
号外に並ぶ様々な情報。それは決して生温いものではない。ヘクス自身にかけられた嫌疑はやがて大なり小なり彼へのバッシングに繋がるだろうことは想像に容易い。
「“今ならまだ奴は王都にいる”可能性が高い……すまないが、作戦会議は一時中断させてもらえないか」
窓から差し込む朝日に目を眇め、ゲオルギウスは立ち上がる。
「やれやれ、老人を朝まで扱き使ってくれた。だがまぁ、王国最大級のスキャンダルは回避されたのだ。礼の一つでも言うがいい」
──そこのそれは土産だ。卿にくれてやれ。
ゲオルギウスのさした土産の紙袋には、ヘクスが治める港町ガンナ・エントラータの土産品の一つ、“大漁旗”がおさめられていた。
●何を選び、何を壊すのか
エリオットが訪れたのは、王国出身のハンターの多くが最初に属するユニオン、アム・シェリタ―揺籃館―その執務室に“珍しく”、尋ね人は座っていた。 わざとらしく書類仕事などをして見せているが、“解りやすい場所で待ち受けていただけ”にすぎないことはすぐに解る。 「やぁ、エリーじゃないか! 急にどうしたんだい。ささ、そこに座るといいよ」 エリオットを出迎えた揺籃館の主ヘクス・シャルシェレット(kz0015)は、どこか機嫌良さそうに青年を手前のソファに促す。 「……白々しい。俺が来ることは解っていたんだろう?」 自分に向けられる胡乱気な視線に気付いたようだが、ヘクスはそれすらも楽しんでいる。上がった口角をわざとらしく手で覆い隠すと、俄かに目を細めた。 「ともかく、だ。お前に聞きたいことがあって来た」 |
![]() ヘクス・シャルシェレット |
くす、と意地の悪い笑みを浮かべると、エリオットの真向かいのソファに腰をおろしてヘクスは言う。
「で、なんだい? 折角の逢瀬を無粋に使ってまで聞きたいことって、さ」
「いま国を騒がせている元凶……法術陣を巡る事件、お前は知っているんだろう?」
単刀直入。無駄を省いたと言えば効率が良いが、前置きは一切ない。
大貴族はおかしそうに笑うと、首を傾げて青年を見やる。
「さて、ねぇ。エリーは何か気付いたんじゃないの? だから僕のところにやってきた、そうだろう?」
はぐらかすような物言いに眉をひそめる騎士団長は「質問をしたのは俺の方だ」と不平を漏らし、それでも素直に応じる。
「まだ手元にある情報だけを元にした仮説でしかないが、法術陣の本来の機能は……大精霊エクラの召喚にあるのではないかと、推測されている。それが、近く歪虚に利用されるだろうということも」
エリオットの言葉には、現時点では何の確証もない。だからこそ、彼はこの男を足がかりにしたかったのだ。
だが。
「……く、ふふふ……」
ヘクスの反応は──ある意味想定の範疇と言えたが──見ての通り。声をこらえるようにして、笑い始めた。
「あのな……俺は大真面目だ。それに、何もお前に法術陣の真相を吐けと迫っているわけじゃない。ただ……」
逡巡し、青年は声を落とす。
「お前は、“現状”をどう思っている? ……それを、聞きたかったんだ」
そこには、幾つかの感情が内包されていて、ヘクスにはそれが手に取るようにわかった。
恐らく彼は、ヘクスのことを案じているのだろう。号外記事を見て馬鹿正直にヘクスの今後を慮っているのだろうし、同時に“件の疑惑”についても彼の知り得る限りで疑わしい事実を把握しながら、それでなお変わることのない信頼を寄せている。
それを目の当たりにしたヘクスは、先程にも増して笑みを深めた。
──本当に、人が善いねえ。
エリオットも……“彼ら”も。その事はヘクスにとってはとても好ましい事実で──偽り無く、愉快に感じている。
だからこそ、彼はこう告げた。
「僕? そうだねぇ……『エリー頑張ってるなぁ』って思ってるよ」
「ふざけるな」
それまでにやついていたヘクスだが、突然表情を変えると言葉を選びながら喋り出した。
「現状、そうだな。しいて言えば、“なんとも思ってない”ね。全ては些事だ」
溜息を吐くエリオットをよそに、ヘクスはなおも続ける。
「どんな審問もゴシップも、僕の枷には成り得ない。それに、ほら。どんな歪虚が来たって、キミがこの国をなんとかしてくれるんだろう?」
──だから、この男は嫌なんだ。稀にこうして“本気に見えるような目”をしてみせる。 「胡散臭さでお前の右に出る男は居ないな」
「酷いなぁ、エリーは。でも、そうだね……」
ヘクスは立ち上がって窓の外を見下ろした後、肩越しに青年を振り返る。
「エリーも勘づいている通り、どうやら法術陣についてはもう少しだけ事情がありそうだね。 前王アレクシウスがシスティーナへの継承前に戦死して情報が失われたことが原因かな。ま、幾つか理由はあるんだろうけど、あのゲオルギウスですら調べがつかなかったんだろ? それってつまりはそういう事だ」
「……!」
「ともあれ……それを勘づいているキミは、もう腹を括ってるはずだ」
そう言って、ヘクスは微笑む。
「大丈夫だ、エリオット。“間違いない”から動いてみればいい」
また、だ。こんなときばかりいつもの胡散臭い笑みではなく、恐らくはヘクス本来の柔らかい笑みを湛えるから扱いに困るのだ。
「随分簡単に言ってくれる」
「まぁね。でも、事実だ。キミは何一つ気にしなくていい。もはや何人もキミを阻むことはないだろうさ。それにそういうくだらないしがらみはね、ぶち壊すために存在してるんだから」
ヘクスの笑みに一瞬不敵さが滲んだように見えたのだが、窓辺の逆光がその表情を覆い隠してしまった。
「……そうか。それと、最後に一つ」
「ん、名残惜しいの?」
「そうじゃない。ただ……助かった。感謝していると、伝えたかった」
律儀な礼と共に、部屋の扉が閉まる音がした。
「はは。本当、呆れるほどに馬鹿正直だね」
──待ってるよ。キミ達が“此処”にやってくる日を、ね。
●真実を求めて
拠点制圧失敗の翌日夕方。 「ヴィオラ、もういいのか?」 「はい。昨夜は……その、すみませんでした。私らしくありませんでした」 珍しく素直な謝罪があったと思えば、ヴィオラ・フルブライト(kz0007)はいつもの表情に戻ってこう尋ねる。 「それで、“借り”を返して頂く手はずは整ったのですか?」 言葉に未だ小さな棘を感じることは否定しないが、エリオットにはなぜか今はそれが頼もしく感じられた。 「少し調子が戻ったようだな。おかげで戦士団に無茶を言いやすい」 「それはお互い様、ですね。……さぁ、話しましょう」 この世界に迫った史上最大級の災厄に抗う──そのために、人類が行くべき道筋を。 |
![]() ヴィオラ・フルブライト |
●真実へのカウントダウン(3月23日公開)
●???
仄暗い虚の中。半年前と変わらず不吉を孕んだ蒼く黒い負のマテリアルがそこを照らしている。
ある者は、そこを「世界の裏側」と言った。
どろりと凝る黒い闇──光を呑み込んだその闇を、誰も見通すことはできないだろう。
人間がそこに足を踏み入れたのならば、触れる事はおろか、そこにいるだけで消耗していくような闇。もっとも、耐性のない普通の人間ならば一瞬で命を失い、無と化すだろうことは想像に難くないが。
粘質な気配が沈黙する闇の中、それは深く思索していたようだった。
傷を癒し、力を蓄え、時折こうして──
「ということだ。存外脆いものだ。お前の軍があの国相手に何をそんなに手間取ったのか些か信じ難いほどに、な」
──悪魔の囁きにも似た、情報を得る以外は。
「ベリアルよ、お前がそうしている間に随分事は運んだ。とはいえ、“そうしてただ堕落を貪るだけ”の意味はあったのだろう?」
「何もお前をとって食らおうという話ではない。彼の国をたった一夜で落とす──そのために、少しばかり手が要るだけだ」
刹那、黒い粘性の“溜まり”がメフィストに吸い込まれるようにずるずると這い、そして“呑み込まれて”ゆく。呼応するように、メフィストから荒い息と呻きにも似た声が上がった。
「ブッシシ……件の法術陣とやらに未だ執着しておるのか」
悶えたまま異形は何も答えない。
だが、ようやく飲み下したそれを実感したのか、ややあって闇の中で高笑いが響き渡った。
それが秘める力は余りに強く、禍々しい。まるで世界の醜悪を集めて捏ねた泥人形のようだ。
「なぁベリアルよ、先の報告を聞いて解っただろう。駒は強かろうが弱かろうが実際的には関係がない……ということだ」
「またも……またしても私の双子を冒涜するか貴様ぁ! ……ブシ、ブシシシ……余程私を怒らせたいと見える……」
「そうじゃあない。要は“駒は目的に応じた手段”と割り切って活かせるか否かだ。そういった意味では……先の赤い髪の子羊、名を何といったか。あれの消失は私の采配の結果と言えよう」
その言葉の意味を理解し、黒大公が驚嘆に目を剥く。
──だが、そうだ。そうだった。奴は“そういう存在”だ。
恐ろしく合理的に状況を判断し、適切な運用がされるよう常に自らの世界に最適化を施していく。
些事の手違いはあろうが、大局的には必ず自らの思うがままに全てを動かしていくのだ。
「案ずるな。お前の失態を挽回できるほどの利を──あの御方に相応しい“城”を、私が手配して差し上げよう。それに、だ。いまの私は──……」
背を向け、黒き威容は去ってゆく。
──ひどく高揚している。
そんな言葉を、闇の中に残して。
●奇跡の解明を
「ああ、はい、もちろん。だけど、まさか……」
少年領主──フリュイ・ド・パラディ(kz0036)がある重厚な扉の前で何事か唱える。彼がかざした手のひらからふわりと浮かび上がる魔法陣。それが瞬時に光を放って消えたかと思うと、自発的に扉が開かれた。
「……まさか本当に、エメラルドタブレットが現存しているなんて」
「君ら“普通の人間”にしたら御伽話のようだろうね。でも、間違いなくそれはホンモノさ。まぁ、狙われては困るからね。眉唾くらいがちょうどいい」
男──法術研究家オーラン・クロスの目の前に現れたのは、エメラルドでできた巨大な石碑だった。
高さ約2m、横幅1mほどの巨大なエメラルドには謎の記号がびっしりと羅列している。
ぼんやりとした緑色の光を放つその下には見たこともない魔法陣が敷かれており、
「一応“持ち出し禁止”にはしておいたよ。現存していると解った途端、国と教会双方が管理について五月蠅くて敵わない」
と言って、気付いたオーランにフリュイがにこりと他意のある笑みを浮かべる。
「では……僕は、しばらくこの部屋で?」
「そうだね。籠の鳥だ。教会の狗には居心地が悪いだろうけどね。必要なものがあればいつでもベルを鳴らしてくれ。何人か君にはつけておいたからね。さて、僕も別室で写し取った暗号の解読に取り掛かるとしよう」
そういって、始終目を輝かせて年相応な表情をしていた少年領主は、部屋の中にオーランを押し込んでさっさと身を翻した。よほどこの歴史上秘されてきた謎に心をときめかせているのだろう。
だが、それはオーランも同じだ。
「これが……法術陣の原初の碑文──“エメラルドタブレット”」
静まり返った部屋、中央に“封印された”それを目の前にして、研究家である男が興奮を抑えることは困難だっただろう。
それに触れたら、消えてしまいそうで。目の前の真実を解き明かしたら、世の常識すら覆りそうで。
男はしばらくそれに触ることができなかった。
「……感謝します」
だが、祈るように胸に手を当てた男は、ややあって持ち込んだ大量の書物とスクロールを広げると仕事を開始した。
●永い冬の終わりに
「昨年初頭より、法術陣の巡礼路──つまりマテリアル吸収経路を歪虚や堕落者の類が意図的に徘徊していた目的はこれで間違いないでしょう」
「そうか」
「ええ」
「よかったな」
「……はい?」
話の腰がぼきりと音を立てて折れた気がした。
「ふざけないでください。貴方、私の話を聞いていたのですか?」
ヴィオラの端正な顔に怒りが滲む。このあたりは相変わらずの様で、別の意味で居心地が良いのだが。
「問題ない、正しく把握している。要はこちらの読み通りで相違ないようだ。さて我々の報告だが……」
怪訝な視線を向けながら、おとなしくヴィオラはエリオットの報告を待っている。
こんな風な会話ができるようになるなど、一年前は想像もできなかった。
この事件を機に、様々なものを喪った。今や国は最大級の危機に瀕しているというのに、互いに焦燥感や悲壮感がごく小さい範囲に抑え込めているのは“信頼できる仲間がいる”──要は“自分はひとりじゃない”というただそれだけの非論理的な理由。
僅かに口角を挙げたエリオットに気付いてまたヴィオラの眉が吊り上がるが、落ち着いた様子で青年は話を元に戻した。
「タブレットは現在ある場所で保管されている。物が物だから、保管場所は俺にも知らされていない。とはいえ、そこでフリュイとオーラン、この2名に解読を任せることとした」
「……ロストテクノロジーとも謳われる暗号の解読を、たった二人に、ですか」
否定的な意味ではない。ヴィオラのそれは、驚嘆の音色を伴って発せられた。
「俺もそのあたりはよくわからんが、フリュイはもともと『自分ひとりで十分だが、国と教会が安心を得るには保険が必要だろう』と言って、もう一人オーラン・クロスをつけることになった。この男のことは知っているだろう?」
「ええ。先の北方動乱の折、法術陣の一端を起動し、使役したといわれていますね。あくまで研究家であって法術のエキスパートではありませんが」
ぴしゃりというヴィオラに、エリオットは「そうだな」と苦笑する。
「先の動乱でもとよりオーラン・クロスは本件の重要人物として青の隊の人間をつけて動向を探っていたが、彼に妙なところはない。此度の協力にも前向きに応じてくれている」
「分かりました。今はその解読を待つばかり、というところですね」
少々のもどかしさを感じるが、ヴィオラは真っ直ぐにエリオットを見上げ、こう言った。
「ともかく、タブレットの状況がどうあれ、大聖堂のマテリアルプールの汚染だけは先んじて手を打つ必要があります」
あれを放っておけば、この国に途方もない災厄が訪れる。
それこそがあの美しき天使──ベリト(kz0178)の狙いに他ならない。
「そうだな。汚染に対する手段といえば、取り得ることは一つ……」
「はい。大聖堂地下墓地で、法術陣マテリアルプールの“浄化儀式”を執り行います」
仄暗い虚の中。半年前と変わらず不吉を孕んだ蒼く黒い負のマテリアルがそこを照らしている。
ある者は、そこを「世界の裏側」と言った。
どろりと凝る黒い闇──光を呑み込んだその闇を、誰も見通すことはできないだろう。
人間がそこに足を踏み入れたのならば、触れる事はおろか、そこにいるだけで消耗していくような闇。もっとも、耐性のない普通の人間ならば一瞬で命を失い、無と化すだろうことは想像に難くないが。
粘質な気配が沈黙する闇の中、それは深く思索していたようだった。
傷を癒し、力を蓄え、時折こうして──
「ということだ。存外脆いものだ。お前の軍があの国相手に何をそんなに手間取ったのか些か信じ難いほどに、な」
──悪魔の囁きにも似た、情報を得る以外は。
「ベリアルよ、お前がそうしている間に随分事は運んだ。とはいえ、“そうしてただ堕落を貪るだけ”の意味はあったのだろう?」
闇の主──黒大公ベリアルは荒い鼻息と共に憤りを見せる。 「戯言を……トレークハイトの連中と私を同じにされては困る。ブシ、シシシ……」 巨体の後背で、闇がどろりと蠢いた。 「して、メフィストよ。此度は何用だ」 突き出した腹のせいで浅く玉座に腰かけざるを得ない巨大な羊は、ぎょろりとした獣の目を向ける。 メフィストと呼ばれた異形の人型──その臀部に生えた気味の悪い尾が、ぱたりと一度だけ動いた。 「怠惰のつけを、もらい受けに」 その表情はまるで読めない。どこか愉悦に満ちた声色だけが闇の中で響いている。 「貴様、一体何を……」 |
![]() ベリアル |
刹那、黒い粘性の“溜まり”がメフィストに吸い込まれるようにずるずると這い、そして“呑み込まれて”ゆく。呼応するように、メフィストから荒い息と呻きにも似た声が上がった。
「ブッシシ……件の法術陣とやらに未だ執着しておるのか」
悶えたまま異形は何も答えない。
だが、ようやく飲み下したそれを実感したのか、ややあって闇の中で高笑いが響き渡った。
それが秘める力は余りに強く、禍々しい。まるで世界の醜悪を集めて捏ねた泥人形のようだ。
「なぁベリアルよ、先の報告を聞いて解っただろう。駒は強かろうが弱かろうが実際的には関係がない……ということだ」
「またも……またしても私の双子を冒涜するか貴様ぁ! ……ブシ、ブシシシ……余程私を怒らせたいと見える……」
「そうじゃあない。要は“駒は目的に応じた手段”と割り切って活かせるか否かだ。そういった意味では……先の赤い髪の子羊、名を何といったか。あれの消失は私の采配の結果と言えよう」
その言葉の意味を理解し、黒大公が驚嘆に目を剥く。
──だが、そうだ。そうだった。奴は“そういう存在”だ。
恐ろしく合理的に状況を判断し、適切な運用がされるよう常に自らの世界に最適化を施していく。
些事の手違いはあろうが、大局的には必ず自らの思うがままに全てを動かしていくのだ。
「案ずるな。お前の失態を挽回できるほどの利を──あの御方に相応しい“城”を、私が手配して差し上げよう。それに、だ。いまの私は──……」
背を向け、黒き威容は去ってゆく。
──ひどく高揚している。
そんな言葉を、闇の中に残して。
●奇跡の解明を
「先の北方動乱から、僕自身法術陣には興味があってね。個人的に調べてはいたんだ」 男の隣を歩く少年は高慢な素振りを崩さず、楽しげに、そして一方的に語り続ける。 「でも、事これに至っては良くできてた。僕が二、三日手を割かなきゃならないレベルだよ。褒めてあげたいね。けど、そもそもだ。僕はもともと先人の危機管理能力について以前から……」 少年は過去の偉人を(自らを棚に上げて)高慢と呼びながら、ひたすらに彼らの秘術やアーティファクトに類するものの保存法に関する“見積もりの甘さ”を批判しつつ持論を展開している。あえてわかりやすい言葉にしているのは、“受講者”が法術研究家だからだろうか。 「……ま、そんな経緯で今回は君の見解を聞きたくてね。疲弊した国と老化した教会の上層部連中は、保険がないと不安で仕方がないらしい」 |
![]() フリュイ・ド・パラディ |
少年領主──フリュイ・ド・パラディ(kz0036)がある重厚な扉の前で何事か唱える。彼がかざした手のひらからふわりと浮かび上がる魔法陣。それが瞬時に光を放って消えたかと思うと、自発的に扉が開かれた。
「……まさか本当に、エメラルドタブレットが現存しているなんて」
「君ら“普通の人間”にしたら御伽話のようだろうね。でも、間違いなくそれはホンモノさ。まぁ、狙われては困るからね。眉唾くらいがちょうどいい」
男──法術研究家オーラン・クロスの目の前に現れたのは、エメラルドでできた巨大な石碑だった。
高さ約2m、横幅1mほどの巨大なエメラルドには謎の記号がびっしりと羅列している。
ぼんやりとした緑色の光を放つその下には見たこともない魔法陣が敷かれており、
「一応“持ち出し禁止”にはしておいたよ。現存していると解った途端、国と教会双方が管理について五月蠅くて敵わない」
と言って、気付いたオーランにフリュイがにこりと他意のある笑みを浮かべる。
「では……僕は、しばらくこの部屋で?」
「そうだね。籠の鳥だ。教会の狗には居心地が悪いだろうけどね。必要なものがあればいつでもベルを鳴らしてくれ。何人か君にはつけておいたからね。さて、僕も別室で写し取った暗号の解読に取り掛かるとしよう」
そういって、始終目を輝かせて年相応な表情をしていた少年領主は、部屋の中にオーランを押し込んでさっさと身を翻した。よほどこの歴史上秘されてきた謎に心をときめかせているのだろう。
だが、それはオーランも同じだ。
「これが……法術陣の原初の碑文──“エメラルドタブレット”」
静まり返った部屋、中央に“封印された”それを目の前にして、研究家である男が興奮を抑えることは困難だっただろう。
それに触れたら、消えてしまいそうで。目の前の真実を解き明かしたら、世の常識すら覆りそうで。
男はしばらくそれに触ることができなかった。
「……感謝します」
だが、祈るように胸に手を当てた男は、ややあって持ち込んだ大量の書物とスクロールを広げると仕事を開始した。
●永い冬の終わりに
「エメラルドタブレットの入手、お疲れ様でした」 数日ぶりに王都で再会したヴィオラ・フルブライト(kz0007)とエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)。 だが、エリオットはヴィオラの様子にひどく驚いた。 「こちらも大聖堂の件の報告があります。簡潔に書面にまとめておきましたから、時間はとらせません」 「あ……ああ、解った。頼む」 一つ、ヴィオラが“王国騎士団本部”に直接赴いてきたこと。 一つ、ヴィオラがこちらを慮った事。 一つ── 「貴方の推測通り、聖ヴェレニウス大聖堂地下は聖人ヴェレヌスの墓地であり、聖遺物が保管されていました。そして、その聖遺物を中心として当時の文明では……いえ、ひょっとしたら現代においても言えることかもしれませんが、国家最高レベルのマテリアルプールが設えられていました」 「やはり、か」 「はい。また同時に……マテリアルプールは予想通り、歪虚に侵されています」 ヴィオラはもとより強く凛とした女性だ。だが、それはこの国最強の戦乙女として聖堂戦士団を率いる彼女のトレードマークでもあり、同時に“仮面”でもあったことをエリオットは知っている。 だが、今はまるで“仮面のような作り物”の匂いがない。その様子が、どこか嬉しくもあった。 話の内容が内容だ。彼女は決して微笑むことはないのだが、それでも今の彼女には“正のマテリアル”が満ち溢れているように思える。 |
![]() エリオット・ヴァレンタイン ![]() ヴィオラ・フルブライト |
「そうか」
「ええ」
「よかったな」
「……はい?」
話の腰がぼきりと音を立てて折れた気がした。
「ふざけないでください。貴方、私の話を聞いていたのですか?」
ヴィオラの端正な顔に怒りが滲む。このあたりは相変わらずの様で、別の意味で居心地が良いのだが。
「問題ない、正しく把握している。要はこちらの読み通りで相違ないようだ。さて我々の報告だが……」
怪訝な視線を向けながら、おとなしくヴィオラはエリオットの報告を待っている。
こんな風な会話ができるようになるなど、一年前は想像もできなかった。
この事件を機に、様々なものを喪った。今や国は最大級の危機に瀕しているというのに、互いに焦燥感や悲壮感がごく小さい範囲に抑え込めているのは“信頼できる仲間がいる”──要は“自分はひとりじゃない”というただそれだけの非論理的な理由。
僅かに口角を挙げたエリオットに気付いてまたヴィオラの眉が吊り上がるが、落ち着いた様子で青年は話を元に戻した。
「タブレットは現在ある場所で保管されている。物が物だから、保管場所は俺にも知らされていない。とはいえ、そこでフリュイとオーラン、この2名に解読を任せることとした」
「……ロストテクノロジーとも謳われる暗号の解読を、たった二人に、ですか」
否定的な意味ではない。ヴィオラのそれは、驚嘆の音色を伴って発せられた。
「俺もそのあたりはよくわからんが、フリュイはもともと『自分ひとりで十分だが、国と教会が安心を得るには保険が必要だろう』と言って、もう一人オーラン・クロスをつけることになった。この男のことは知っているだろう?」
「ええ。先の北方動乱の折、法術陣の一端を起動し、使役したといわれていますね。あくまで研究家であって法術のエキスパートではありませんが」
ぴしゃりというヴィオラに、エリオットは「そうだな」と苦笑する。
「先の動乱でもとよりオーラン・クロスは本件の重要人物として青の隊の人間をつけて動向を探っていたが、彼に妙なところはない。此度の協力にも前向きに応じてくれている」
「分かりました。今はその解読を待つばかり、というところですね」
少々のもどかしさを感じるが、ヴィオラは真っ直ぐにエリオットを見上げ、こう言った。
「ともかく、タブレットの状況がどうあれ、大聖堂のマテリアルプールの汚染だけは先んじて手を打つ必要があります」
あれを放っておけば、この国に途方もない災厄が訪れる。
それこそがあの美しき天使──ベリト(kz0178)の狙いに他ならない。
「そうだな。汚染に対する手段といえば、取り得ることは一つ……」
「はい。大聖堂地下墓地で、法術陣マテリアルプールの“浄化儀式”を執り行います」
●グラズヘイムの未来のために(3月25日公開)
●矛盾と疑問と真実と
「……何だ」
応答した瞬間、青年の顔が強張る。
ヴィオラたちには、それが意味するところが理解できてしまった。
「解った、すぐに戻る。だが、その数時間すら惜しい。ゲオルギウスに状況を報告し、短時間だが彼の指揮下に入れ」
ぶつ、と。切れた通信の向こうで慌ただしくしていた騎士たちの声が聞こえた気がした。
すぐさまエリオットはその場の三人を見渡し、こう告げる。
「ベリトが現れた。王都西方の巡礼路上に、夥しい数の歪虚の軍勢を引き連れているとの情報だ」
ヴィオラの顔つきが明白に変わった。強張る中に、決意のような色を滲ませている。
「連中、遂に強硬手段に打って出たようだ。想定通りだが、これがテスカ教団にとっての決戦になるだろう。つまり──」
「──彼らの最終目的地は、王都。王城に隣接する聖ヴェレニウス大聖堂ですね」
部屋を辞していく二人の長を見送りながら、フリュイは思案気に腕を組む。
「ベリト、ベリトか……。ま、いいさ。ねえ、オーラン。少し“僕の研究”に付き合う気はないかい?」
●テスカ教、最後の巡礼
「つまり、我々が打つべき手は大きく二つ。一つ、巡礼路に干渉する歪虚への対処。そして、もう一つはマテリアルプールの浄化ということだな」
顎に指を絡め、思案しながらエリオットは続ける。
「では、まず巡礼路へ干渉する歪虚についての話を進めよう。敵の動向は?」
「目撃情報によれば、大聖堂の一つ手前、最後の聖堂のある町に訪れた美しい女が、町を出た直後に夥しい歪虚を召喚したと聞いておる。そこからずっと歪虚を引き連れて王都の方角へ進軍中とのことだ。だが、時間を追うごとにあちこちの歪虚を引き寄せるのか、或は生み落としているかはわからんが、軍の勢いが少しずつ増しているらしい。また同時に、別途国内各地の巡礼路上に歪虚が集まってきているという情報も多数寄せられている。まるで手が足りん」
常より強めにパイプを吸うと、老爺はため息の様にそれを吐き出した。
「しかし不気味よのう。恐ろしく統制が取れすぎている。ベリトという女、まともに手を出して敵う存在とは思えん」
「ヴィオラの見解ではベリアル級の歪虚だと言っていたからな」
淡々とした応答。ベリトの名がちらつくたび、ヴィオラに緊張感が走るが、それは怯えや恐れなどといった負の感情によるものではないだろう。
「お前……ベリアル級などと、よくもあっさり言えたものだ。当然、勝算はあるのだろうな」
「その為にこれまで調査と対策に力を尽くしてきた。ともかく、連中は目的の都合上巡礼路を歩むしかない」
エリオットは卓上に自らがこれまで何度も何度も検証を重ねてきたのだろう古びた王国の地図を重ね合わせる。そこに描かれていたのは、エクラ教の巡礼路そのものだった。
「必然的にルートが判明している以上、連中がどの門から大聖堂を目指すのかも明白なわけだ」
「だろうな。既に西門の配備は完了している」
「助かる。だが、王都に到達するより前に連中を足止めしたい」
「無論だ。策を弄するなら我が青の隊の本領発揮といったところだが」
試したい人材がいる──そういってゲオルギウスは思案気な瞳でパイプをくわえなおす。
「残る軍勢外の歪虚に関する対策だが……」
「それには戦士団を各地へ派遣しましょう。もとは教会が秘していた法術に関する話。なれば、これは元来私達の責任範疇における事件です。情報には一部規制を設けますが、各地の司教クラスには巡礼路に歪虚の襲撃があることを通知し、自衛を促すべきかと」
その時、突然エリオットが立ち上がった。不思議に思うヴィオラの正面から見据えてくるエリオットの視線は、いつもより一段と強く鋭い。
「ヴィオラ……それがお前の、お前たちの責任だと言うつもりなら、随分この国の人間を低く見積もりすぎだ。この国はお前に守られるだけの存在じゃない。それに、戦士団──ひいてはお前ひとりに責を負わせるつもりなど毛頭ない」
青年の言葉は、少しだけ怒気を孕んだように感じられた。この男が怒りの感情を、というよりも感情自体を表に出すことは珍しい。以前の自分とその点はよく似ていたからヴィオラには解るのだ。
「“俺たちの国をどう守るか”、互いに信じ、委ねるべきは委ねればいい。騎士団も可能な戦力を派遣する。ダンテが遺跡に遠征中であることが惜しまれるが、国内に駐留中の赤の隊は一時俺の指揮下に置く。彼らを中心に、地の利のある騎士を各地に派遣しよう」
言い終えて少し冷静になったのか、髪を掻きながら着席するエリオットにヴィオラは小さく笑った。
「解りました。では、私も教会の上層部に掛け合い、国と教会連名で各地の領主へ自衛の沙汰を出すようにしましょう」
「教会の大司教殿たちの訴えならば情報統制も容易なうえ、確度は高かろう。これを機に貴族連中が調子付こうが、国が滅んでは元も子もあるまい」
ヴィオラの手前、教会上層部に配慮しつつゲオルギウスが頷く。
「かの孤高の戦乙女が、他所に助けを求めるなど……少々意外ではあったがのう」
──見ない間に、伸びたか。
心の中で、老爺はそう独り言ちた。
「さて、ここからは本作戦の核心に関することだ。この先を共有した瞬間から、“それを知る者は等しく然るべき時まで前線への出撃を禁じる”ことになるが、問題ないか」
「もとより私は戦に出ん」
即答する老騎士に対し、ヴィオラは慎重な面持ちでエリオットに尋ねる。
「……どういう理由か、聞かせてください」
ベリトは高位の歪虚だ。
理知的な行動で他の存在を率いている以上【狂気】でないことは明白であり、ここまで緻密な作戦を実行させる周到さは【怠惰】とも言い難い。
アンデッド、または竜を想像させる外見的特徴が見受けられなかったことから【暴食】や【強欲】の可能性は低そうに思え、かつ動植物の集合体でもないうえに以前の会話や目的を考察するに【憤怒】も遠いだろうと目される。
目星をつけるとしたら現時点では2属性。
──【嫉妬】か、【傲慢】。そのどちらかではないか、と。
「これから俺が話すのは“ベリトを撃ち滅ぼすための策”だ。だが、その情報が相手に渡っては意味がない」
「つまり、もし敵が傲慢であった場合、戦場での情報漏えいを避けるために、この先の話を知る者は前線に立てない、と」
「先の“クラベル討伐戦”という試金石は、やり方がどうあれうまくいったようだからな」
神妙な面持ちでいたヴィオラだが、やがて覚悟を決めたようにただ一度首肯した。
「では、話をしよう。分類がどちらにせよ、元より此度の戦で取れる手段は決まっている」
そう言って、エリオットは持ち込んだ書類を卓上に広げる。
「何が来ようが、必ず奴を叩き潰す。ホロウレイドの惨劇は二度と繰り返さない」
しばし黙ってそれを見ていたゲオルギウスが、重い口を開いた。
「お前はこれまでベリトのサバトが巡礼路の順に行われていたことを見抜いていながら、今日まで泳がせ敵軍を王都付近まで誘き寄せたのか」
「……準備に時間がかかった事は否定しないが、計算上“間に合う”だろうと見込んでいた」
「ほう。では、此度の作戦で現場が彼奴の足止めに失敗した時、時間を稼ぎ切れなかった時はどうする」
二人の騎士の視線がぶつかり合う。
「お前の判断を、国が、教会が、許すとは思えんぞ。それでもお前は“この作戦”を執るのだな」
真っ直ぐに老騎士を見据えていた騎士団長は、一度も瞳を逸らすことなく明瞭に告げた。
「俺がこの国を守るのに、誰かの許可が必要か?」
沈黙──ややあって、珍しくゲオルギウスが声をあげて笑った。
「は、いい根性だ。よかろう。此度の策に乗ってやろう。上手く使うがいい」
「あぁ、頼りにしている。この作戦、いかに時間を稼げるかが重要だ。それと、もう一つ」
書類に目を落としたまま難しい顔をしている戦乙女の傍に寄り、青年は言う。
「……頼めるか、ヴィオラ」
「貴方、“最初からこのつもり”で私をアークエルスへ連行したのですね」
睨みつけるような視線。だが、そこに悪意はない。
「俺が知り得る限り、最高の“法術使い(クルセイダー)”はお前だ、ヴィオラ・フルブライト」
──大聖堂地下のマテリアルプールを浄化後、直ちにお前が術者となって“法術陣を起動”してくれ。
「私が法術陣を正しく起動できなかったなら……この国は、滅びるのですね」
「解明された術式をもって、適切に行えば危険はないはずだ。大丈夫……お前なら、必ず」
戦乙女の肩に力強い掌が重ねられる。
気付いてエリオットを見上げるヴィオラは、凛とした表情を崩さずにこう告げた。
「私は、この国が好きです。この国に住まう人々も全て、何より大切に思っています」
想定外の答えに驚くエリオットをよそに、ヴィオラは肩にあてられていた手をとり、そして──
「ですから、もしも千年祭の聖女のように儀式にその身を捧げることになったとしても、私は構いません。それでこの国が救えるのなら。……これは、貴方がこの作戦に不幸が重なった末の最終手段として、貴方の命を賭すことを策に含めていることと同様の覚悟です」
「……目聡いな」
「いいえ、貴方が私に似ているだけです。見ていると、正直苛立ちを覚えるほどに」
「なるほど。だが、それも悪くない」
長い冬を超えて、二人の長は互いに固い握手を交わす。
いま全てを欺いた決戦の幕が、開こうとしていた──。
数日後、ヴィオラ・フルブライト(kz0007)とエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が呼び出されたのは、アークエルスのはずれにある古めかしい館の一室だった。 いや、そもそも館──というより、もとは“何もない空き地”のように見えたのだが、少年領主フリュイ・ド・パラディ(kz0036)に連れられてその場に向かうと、目の前に突然建物が現れたのだ。 どういう理屈かはわからないが、建物自体がかなり年代を感じるものであることからも、これもまたロストテクノロジーの一種か、あるいは彼らが知り得る高度な現代魔術の一端だろうとエリオットは深く考えることを諦めた。 厳重に封印された空間、さらにその中でも封印を施された部屋の扉を開けると、そこには先の禁書区域で手に入れたエメラルドタブレットと、法術研究家を名乗る男──オーラン・クロスが居た。 部屋の床一面に広げられたスクロール──そこに書きつけられた暗号式を指して二人の天才は口を開いた。 「結論を申し上げます。フリュイ氏と僕の見解は完全に一致しています」 法術陣の真実、それは──……。 「なるほど、どうやら少し状況が──というより、風向きが変わったな」 「人の噂もお伽噺も、馬鹿にならないですね」 淡々と語られた真実の中、ややあってエリオットとヴィオラが口を開く。 「事実でない事柄を廃し、残ったものを分析して結びつけた結果が真実だからね。この結論を君たちがどう受け止めようと僕らは知ったことじゃない。その先は“君らの仕事”だよ」 「流石にこの規模の法術を行使できる人間はこの世にそうは居ない。先の千年祭でも選ばれた聖女がそれを執り行ったように、もし行使するのであれば術者を選定しなければならないだろうね」 二人の天才が口々にそれを補足する中、エリオットは先程からじっとヴィオラを見つめていた。 「起動式について正しく理解できたのですから、これ以上犠牲を払うこともありません。今はそれで十分でしょう。それよりも……」 ヴィオラの話を遮るように、エリオットの通信機がアラートを鳴らした。 |
![]() ヴィオラ・フルブライト ![]() エリオット・ヴァレンタイン ![]() フリュイ・ド・パラディ |
応答した瞬間、青年の顔が強張る。
ヴィオラたちには、それが意味するところが理解できてしまった。
「解った、すぐに戻る。だが、その数時間すら惜しい。ゲオルギウスに状況を報告し、短時間だが彼の指揮下に入れ」
ぶつ、と。切れた通信の向こうで慌ただしくしていた騎士たちの声が聞こえた気がした。
すぐさまエリオットはその場の三人を見渡し、こう告げる。
「ベリトが現れた。王都西方の巡礼路上に、夥しい数の歪虚の軍勢を引き連れているとの情報だ」
ヴィオラの顔つきが明白に変わった。強張る中に、決意のような色を滲ませている。
「連中、遂に強硬手段に打って出たようだ。想定通りだが、これがテスカ教団にとっての決戦になるだろう。つまり──」
「──彼らの最終目的地は、王都。王城に隣接する聖ヴェレニウス大聖堂ですね」
部屋を辞していく二人の長を見送りながら、フリュイは思案気に腕を組む。
「ベリト、ベリトか……。ま、いいさ。ねえ、オーラン。少し“僕の研究”に付き合う気はないかい?」
●テスカ教、最後の巡礼
転移門をくぐって直ちに王都に帰還したエリオットは、王国騎士団の作戦室に招いたヴィオラと、王国騎士団副長兼青の隊隊長ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトの三者による作戦会議を緊急でとり行った。 「副団長、状況は」 「先刻、巡礼路上に夥しい数の歪虚の軍勢が発見された。律儀に巡礼路を百鬼夜行しておるようだ。このまま王都に接近されたのなら、二年前の黒大公襲撃の再来となるだろうな」 会議室にも構わず咥えていたパイプを口から離し、ゲオルギウスが状況を報告。次いでヴィオラが口を開いた。 「マテリアルプールの汚染を一気に最終段階へ押し進めるつもりでしょう。数日前の状況では、まだプールの汚染は不完全……つまり『手の打ちようがある』状況でしたから」 |
![]() ゲオルギウス・グラニフ・ グランフェルト |
顎に指を絡め、思案しながらエリオットは続ける。
「では、まず巡礼路へ干渉する歪虚についての話を進めよう。敵の動向は?」
「目撃情報によれば、大聖堂の一つ手前、最後の聖堂のある町に訪れた美しい女が、町を出た直後に夥しい歪虚を召喚したと聞いておる。そこからずっと歪虚を引き連れて王都の方角へ進軍中とのことだ。だが、時間を追うごとにあちこちの歪虚を引き寄せるのか、或は生み落としているかはわからんが、軍の勢いが少しずつ増しているらしい。また同時に、別途国内各地の巡礼路上に歪虚が集まってきているという情報も多数寄せられている。まるで手が足りん」
常より強めにパイプを吸うと、老爺はため息の様にそれを吐き出した。
「しかし不気味よのう。恐ろしく統制が取れすぎている。ベリトという女、まともに手を出して敵う存在とは思えん」
「ヴィオラの見解ではベリアル級の歪虚だと言っていたからな」
淡々とした応答。ベリトの名がちらつくたび、ヴィオラに緊張感が走るが、それは怯えや恐れなどといった負の感情によるものではないだろう。
「お前……ベリアル級などと、よくもあっさり言えたものだ。当然、勝算はあるのだろうな」
「その為にこれまで調査と対策に力を尽くしてきた。ともかく、連中は目的の都合上巡礼路を歩むしかない」
エリオットは卓上に自らがこれまで何度も何度も検証を重ねてきたのだろう古びた王国の地図を重ね合わせる。そこに描かれていたのは、エクラ教の巡礼路そのものだった。
「必然的にルートが判明している以上、連中がどの門から大聖堂を目指すのかも明白なわけだ」
「だろうな。既に西門の配備は完了している」
「助かる。だが、王都に到達するより前に連中を足止めしたい」
「無論だ。策を弄するなら我が青の隊の本領発揮といったところだが」
試したい人材がいる──そういってゲオルギウスは思案気な瞳でパイプをくわえなおす。
「残る軍勢外の歪虚に関する対策だが……」
「それには戦士団を各地へ派遣しましょう。もとは教会が秘していた法術に関する話。なれば、これは元来私達の責任範疇における事件です。情報には一部規制を設けますが、各地の司教クラスには巡礼路に歪虚の襲撃があることを通知し、自衛を促すべきかと」
その時、突然エリオットが立ち上がった。不思議に思うヴィオラの正面から見据えてくるエリオットの視線は、いつもより一段と強く鋭い。
「ヴィオラ……それがお前の、お前たちの責任だと言うつもりなら、随分この国の人間を低く見積もりすぎだ。この国はお前に守られるだけの存在じゃない。それに、戦士団──ひいてはお前ひとりに責を負わせるつもりなど毛頭ない」
青年の言葉は、少しだけ怒気を孕んだように感じられた。この男が怒りの感情を、というよりも感情自体を表に出すことは珍しい。以前の自分とその点はよく似ていたからヴィオラには解るのだ。
「“俺たちの国をどう守るか”、互いに信じ、委ねるべきは委ねればいい。騎士団も可能な戦力を派遣する。ダンテが遺跡に遠征中であることが惜しまれるが、国内に駐留中の赤の隊は一時俺の指揮下に置く。彼らを中心に、地の利のある騎士を各地に派遣しよう」
言い終えて少し冷静になったのか、髪を掻きながら着席するエリオットにヴィオラは小さく笑った。
「解りました。では、私も教会の上層部に掛け合い、国と教会連名で各地の領主へ自衛の沙汰を出すようにしましょう」
「教会の大司教殿たちの訴えならば情報統制も容易なうえ、確度は高かろう。これを機に貴族連中が調子付こうが、国が滅んでは元も子もあるまい」
ヴィオラの手前、教会上層部に配慮しつつゲオルギウスが頷く。
「かの孤高の戦乙女が、他所に助けを求めるなど……少々意外ではあったがのう」
──見ない間に、伸びたか。
心の中で、老爺はそう独り言ちた。
「さて、ここからは本作戦の核心に関することだ。この先を共有した瞬間から、“それを知る者は等しく然るべき時まで前線への出撃を禁じる”ことになるが、問題ないか」
「もとより私は戦に出ん」
即答する老騎士に対し、ヴィオラは慎重な面持ちでエリオットに尋ねる。
「……どういう理由か、聞かせてください」
ベリトは高位の歪虚だ。
理知的な行動で他の存在を率いている以上【狂気】でないことは明白であり、ここまで緻密な作戦を実行させる周到さは【怠惰】とも言い難い。
アンデッド、または竜を想像させる外見的特徴が見受けられなかったことから【暴食】や【強欲】の可能性は低そうに思え、かつ動植物の集合体でもないうえに以前の会話や目的を考察するに【憤怒】も遠いだろうと目される。
目星をつけるとしたら現時点では2属性。
──【嫉妬】か、【傲慢】。そのどちらかではないか、と。
「これから俺が話すのは“ベリトを撃ち滅ぼすための策”だ。だが、その情報が相手に渡っては意味がない」
「つまり、もし敵が傲慢であった場合、戦場での情報漏えいを避けるために、この先の話を知る者は前線に立てない、と」
「先の“クラベル討伐戦”という試金石は、やり方がどうあれうまくいったようだからな」
神妙な面持ちでいたヴィオラだが、やがて覚悟を決めたようにただ一度首肯した。
「では、話をしよう。分類がどちらにせよ、元より此度の戦で取れる手段は決まっている」
そう言って、エリオットは持ち込んだ書類を卓上に広げる。
「何が来ようが、必ず奴を叩き潰す。ホロウレイドの惨劇は二度と繰り返さない」
しばし黙ってそれを見ていたゲオルギウスが、重い口を開いた。
「お前はこれまでベリトのサバトが巡礼路の順に行われていたことを見抜いていながら、今日まで泳がせ敵軍を王都付近まで誘き寄せたのか」
「……準備に時間がかかった事は否定しないが、計算上“間に合う”だろうと見込んでいた」
「ほう。では、此度の作戦で現場が彼奴の足止めに失敗した時、時間を稼ぎ切れなかった時はどうする」
二人の騎士の視線がぶつかり合う。
「お前の判断を、国が、教会が、許すとは思えんぞ。それでもお前は“この作戦”を執るのだな」
真っ直ぐに老騎士を見据えていた騎士団長は、一度も瞳を逸らすことなく明瞭に告げた。
「俺がこの国を守るのに、誰かの許可が必要か?」
沈黙──ややあって、珍しくゲオルギウスが声をあげて笑った。
「は、いい根性だ。よかろう。此度の策に乗ってやろう。上手く使うがいい」
「あぁ、頼りにしている。この作戦、いかに時間を稼げるかが重要だ。それと、もう一つ」
書類に目を落としたまま難しい顔をしている戦乙女の傍に寄り、青年は言う。
「……頼めるか、ヴィオラ」
「貴方、“最初からこのつもり”で私をアークエルスへ連行したのですね」
睨みつけるような視線。だが、そこに悪意はない。
「俺が知り得る限り、最高の“法術使い(クルセイダー)”はお前だ、ヴィオラ・フルブライト」
──大聖堂地下のマテリアルプールを浄化後、直ちにお前が術者となって“法術陣を起動”してくれ。
「私が法術陣を正しく起動できなかったなら……この国は、滅びるのですね」
「解明された術式をもって、適切に行えば危険はないはずだ。大丈夫……お前なら、必ず」
戦乙女の肩に力強い掌が重ねられる。
気付いてエリオットを見上げるヴィオラは、凛とした表情を崩さずにこう告げた。
「私は、この国が好きです。この国に住まう人々も全て、何より大切に思っています」
想定外の答えに驚くエリオットをよそに、ヴィオラは肩にあてられていた手をとり、そして──
「ですから、もしも千年祭の聖女のように儀式にその身を捧げることになったとしても、私は構いません。それでこの国が救えるのなら。……これは、貴方がこの作戦に不幸が重なった末の最終手段として、貴方の命を賭すことを策に含めていることと同様の覚悟です」
「……目聡いな」
「いいえ、貴方が私に似ているだけです。見ていると、正直苛立ちを覚えるほどに」
「なるほど。だが、それも悪くない」
長い冬を超えて、二人の長は互いに固い握手を交わす。
いま全てを欺いた決戦の幕が、開こうとしていた──。
●決戦。光の千年王国に勝利と栄光あれ。(4月21日公開)
光が溢れ、光に飲まれた。 ベリト(kz0178)がその瞬間に知覚したのはたったそれだけで、直後に体を貫くような激痛に襲われる。 痛みに耐え抜き目を開けたベリトが見たものは、惨憺たる有り様の歪虚の群れであった。 有象無象の下級歪虚は跡形もなく消し飛んでおり、残った者も余力のある個体は少ない。 威容を誇っていた軍勢は見る影もなく、ただただ呻き声しか聞こえなかった。 「何が……何が起こっている!?」 怒気を露にベリトが吼えた。慈愛に満ちたような美しい余裕の笑みが、怒りで醜く歪んでいる。 何が起こったのかはわからない。だが何をされたのかはわかる。 |
![]() |
いや、問題はそこじゃない。これが“法術陣の力”だというのなら。
「まさか……」
いにしえの時代、人間は天より落ちる雷をみて、それを神の怒りと恐れたことがあった。
まさか、まさか、古代の人間はあの“光の塊”を“エクラ”と崇めたのではあるまいな?
まさか、まさか、まさか……あの男、“初めからこれを知っていて”───!
「私を追い詰めるために、私を利用したというのか──!!」
女の貌から、あらゆる感情が削ぎ落ちた。最後に残ったものは、たった一つ。
──許しはしない。許してなるものか。
高貴な私にこれほどの屈辱を与えたこと、後悔させねば気が済むはずもない。
そのためにはこの光に耐え得るだけの災厄を“私が今この手で生み出せばいい話だ”。
「“我が怒り、我が求めに応じ、来たれ”──ラウム!」
怒気を隠そうともせずベリトが大声で呼ばわると、ベリトの影が生き物のように蠢き始め、粘着質な固まりとなり、それはやがて黒いローブを来た背の高い老人に姿を変えた。
「ここに」
恭しく礼をする老人にベリトはちらりと視線を送ると、伸ばした流麗な手で王都を指差した。
「直ちに王都を強襲なさい。信徒を贄に貴方の召喚術を使うのです」
「はっ。しかしベリト様……」
部隊は8割以上が損耗している。
幸いにも攻勢に飛び込んできていた敵は態勢を立てなおす為に引いたようだが、消耗で言えば歪虚側が圧倒的に多い。それになにより“今もなお、得体のしれない光の余波が辺りを包み、本来の力を万全に行使できる状況にはない”のだ。
しかし、狂気じみた目に睨めつけられ、顔を伏せ口をつぐんだ。
「この私を謀った罪は“滅び”に値します。この国には“相応しい懲罰”を与えねばなりません」
怒りで我を忘れている。口答えをしては命を奪われかねない。
今自分が命を失った場合、暴君と化した彼女を止める者が居なくなる。
それが何より恐ろしかった。
「御意に。飛行可能な部下を借りていきます」
「好きになさい」
一礼したラウムの背が割れる。干からびた外装を取り払うと、中からは艶やかな羽を持つ巨大なカラスが現れた。数mを越える巨大なカラスに姿を変えたラウムは、一声大きく鳴くと巨体に見合わぬ身軽さで空へと羽ばたいた。
後を追うように羽ばたくキメラ達は満身創痍の個体ばかりで心もとない。
ラウムは近い個体にいくつも指示を出しながら、主の正気が戻るよう祈り続けた。
■
ベリトの本隊と対峙した王国軍は進軍を一時停止した。 翼を持つ合成獣らしき一団が一斉に飛び立ち、南北に別れて王都を目指したからだ。 後方に控える指揮官の騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)は、その一団の迎撃を考えたわけではない。 敵の動向、その意図を理解できず、真意を探るために一時軍を止めたのだ。 王都イルダーナを囲む城壁には既に青の隊や貴族の私兵団を中心とする大部隊が配置されており、対空の防御は万全。 目視の限りにおいて、歪虚の飛行部隊はこれまでの巡礼者襲撃事件に現れた翼をもつ獣たちが多く、あの質と数では、例え連中が万全でも城壁は抜けないだろうこと青年は正しく理解していた。今は法術陣が機能していることもあり、なおさらだ。 |
![]() |
「一体どういうつもりだ……?」
どの道ここから部隊を崩して追うわけには行かない。
エリオットは王都防衛にあたるすべての戦力を信じて敵の飛行部隊を見送り、再びベリトの本隊へと軍を進める。
──飛行部隊の目的がまさに“自殺”であるなどと、誰が予想できただろうか。
■
かくして、エリオットの予測通りの展開となった。 用意された弓と弩が間断なく矢を放たれ、損害らしい損害を出すことなく、南北どちらの戦域も一方的に弱った歪虚を撃ち落とし続けた。 飛行部隊の襲撃を見事に防ぎ、王都は防衛軍によって守られている──そのはずだ。 しかしエリオットが自殺行為と評したその行動に、王国騎士団副団長のゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトもまた不穏な感触で胸がざわついていた。 「“これ”がかの噂の敵将が執る策なのか? 何が狙いだ?」 ゲオルギウスは落ちて行く歪虚の報告を確認しながら、必死に頭を巡らせていた。 今日この日を迎えるまで、敵軍の将ベリトは人々を巧みに騙し、操り、そして自分の手を直接汚すことなくたった一人でこの国を追い詰めた歪虚だ。あの女の今までの行いを思い返せば、“敵いもしない進軍”など有り得る話ではない。 |
![]() グランフェルト |
ならば狙いは何なのか。目的を悟れないのであれば、すでに敵は事を為しているとも言える。焦りばかりが募った。
部下からの呼びかけがあると、ゲオルギウスは1秒待たずに通信機を取り上げた。
「何かわかったか?」
「飛行部隊であるキメラの背にテスカ教の信者と思しき人物らが乗っていました。それも多数です」
──嫌な予感は、その時点であった。
「人? それで、その連中はどうなった」
「それが……」
「ぐずぐずするな、黙ってないで説明しろ」
不機嫌さが伝わったのか。慌てる気配が伝わってくる。
ゲオルギウスは深呼吸をして部下の報告を待った。
「彼らは……遥か高度、歪虚の背より自らその身を投げるように飛び降り、死亡しました。一人残らず」
「……投身自殺? キメラに乗っていた信者が全てか?」
「はい。周囲を巻き込む自爆をするわけでも、人にぶつかるわけでもなく……、みな城壁の少し手前に次々落ちていくのです」
ゲオルギウスの目となっていた騎士は報告の為に目を凝らして、彼らの落下地点に生じた血だまりを観察する。
その近辺にはキメラも多数身を投げていた。今思えば自殺をしたとしか思えないキメラの個体も居た。
──やはり、間違いない。歪虚飛行部隊の王都襲撃は“彼らの死を前提とされている”。
だが、その先に何があるという? それが、どう考えてもわからなかった。
そんな終わらない疑問に答えを出したのは、一羽のカラスだった。
体長は数mを越えるサイズで、明らかに歪虚とわかった。
カラスの歪虚は信者や歪虚の死で血の池となった一角に急降下し、地面すれすれで動きを止める。
カラスが何をしたのかは城壁の上から見えずじまいだったが、様子を窺っていた騎士は直感的に良くないことだと悟った。
──血は何かに操られるように流動し、地面に巨大な魔法陣を描く。
魔法陣が赤い光を放つと、何もなかった平地から突如、のそりと巨人が立ち上がった。
外見は金属質な赤い鎧をまとった騎士のようで、下半身はケンタウロスのように四足になっている。
問題はその大きさだ。異様にでかい。背丈は20mを越し、胸部が城壁を越えている。
「これが……狙い!?」
通信機を持った騎士は思った。この場に居るのが副団長でなく自分で良かったと。
巨大歪虚は手に持った剣を振りかぶると、応戦する兵士達が居る城壁に降り下ろす。
分厚い壁はそれだけで大きく抉れ吹き飛んだ。
■
突如、ベリトの周囲に無数の歪虚──合成獣の群れが現れた。それは空から飛来する個体もあり、同時に何もない空間に突如発生した歪みのようなものから生まれ落ちる個体もいた。
それは王都南西で巨人が現れたことと同期しての行動であったが、指揮官であるエリオットのもとにその情報が届くのはもう幾許か後のことになる。
なぜなら直後、中央に佇むベリトを中心に黒い靄のようなものがあふれ始めたからだ。
靄はベリトを中心に円周上に広がり、地表を這う雲のように膨らんでいく。
「聞こえるか? 奴の動きがおかしい。最前線の騎士は厳重警戒を怠るな」
だが、瞬く間に広がる黒い靄の中へと騎士たちは取り込まれてしまう。
幸いにも靄は体調に変化を起こすような毒ではなかった。ただ、そのほうが幾分かマシだったかもしれない。
騎士たちが靄の中に見たのは、“人の形をした何か”だった。
それは、自分たちの影をそのまま立体化したかのような騎士の姿をし、それぞれが鎧を着こみ、手に槍や剣、斧や杖を持っている。
そして──
『団長、報告です! 黒い影のような騎士たちが無数に出現! 我々への攻撃行動が見られたため、これに応戦します! 』
通信から聞こえてくる声は逼迫した状況を訴えていた。
多数のキメラの隙間を縫うように現れたそれらを交え、騎士団は否応もなく正面から切り結ぶ。
同時に戦域に動揺が走った。
『まさか……これは……』
「何があった」
『……貴方は、死んだはずの……どうして、そんな……』
「狼狽えるな、一体何があった!」
声を張るエリオットに応じた通信機の音声は、悲惨な現実を訴えていた。
遥か前方の黒い霧に目を凝らしたエリオットは無意識のうちに息を呑む。
なぜなら……影の騎士たちは、死んだ仲間の顔をしていたからだ。
【審判】関連人物
【審判に関わる人物を紹介。
彼らについての情報と登場したシナリオにて、「これまで」と「これから」がわかるかもしれません。
彼らについての情報と登場したシナリオにて、「これまで」と「これから」がわかるかもしれません。
聖堂戦士団団長 ヴィオラ・フルブライト |
![]() 天使ベリトとの決戦以後は騎士団と重複の多かった業務を改め、協調を重視した体制へ移行するために関係各所の調整に奔走している。 |
王国騎士団団長 エリオット・ヴァレンタイン |
![]() 真面目だが柔軟性に欠け、懸命だが生きるには不器用。 芯が強く、一度信じたものは、最後まで信じ、守りぬきたいと願う。 テスカ教団襲撃事件に端を発した王国最大の危機を乗り切れたことを事実として受け入れているものの、その表情は硬い。 此度の戦いで大きな課題を抱える事になるが、“共に戦う者”の存在を認めることで一つ前に進むことができた。 |
ガンナ・エントラータ領主 ヘクス・シャルシェレット |
![]() 貴族でありながら【第六商会】という商会を展開しており、同時に王国のユニオン【アム・シェリタ】の責任者でもあり、更に覚醒者でもある。 所在不明の放浪貴族であるが、過去に【傲慢】の歪虚クラベルに操られた際に王国の諜報員と共に居た(そして共に操られていた)経緯があり、王国で起こる種々の事件に関わっている懸念をとあるハンターから指摘されている。その情報を耳にした聖堂教会から異例の召喚を受けた。 |
王国騎士団副団長 「青の隊」隊長 ゲオルギウス・グラニフ・ グランフェルト |
![]() エリオットの依頼を受け、法術陣とそれに関わる王国の“裏”の面を調査し、暗躍中。 |
アークエルス領主 フリュイ・ド・パラディ |
![]() 彼自身も実年齢は60代という噂まであり、頭のネジが全部吹っ飛んだような変人。 自領内での研究は何でも認可している。が、自分の預かり知らぬところで秘かに何かをされるのは嫌いらしい。彼や彼の家系のそんな性質があってこそ、アークエルスは学術都市として自由な研究が行われるようになったのだろう。 法術陣という王国が秘してきた謎の解明という心ときめく事案を前に、始終機嫌が良い。 |
聖堂教会大司教 セドリック・マクファーソン |
![]() 普段は言葉少なで朴訥とした人間だが、仕事の最中は時に熱の篭った演説まで始める情熱家。 現在は若き王女を補佐すべく王国へ派遣され、実質的に王国を任されている。 今回の事件ではエリオットとヴィオラ両名を中心に解決を任せており、自身はそれほど関わっていない。 足並みの揃わない騎士団と聖堂戦士団の有り様に心を痛めている半面、此度の事件を通じて王国の二大組織がより密接な関係を築けることを祈っている。 |