●序盤
廃墟と化したビルの機械的なジャングル。
セントラルの大通り、神楽(
ka2032)は魔導トラックを運転していた。
「肝心の二人を乗せておくっすよ」
魔導トラックには、トマーゾ・アルキミア(
kz0214)とルビー(
kz0208)が乗っていた。
「皆さん、気を付けて下さい」
ルビーは、トマーゾ教授を守るため、トラックの荷台で防御態勢を取っていた。あえて攻勢に動く必要はないと判断したのだ。
何故なら、立ちはだかるオート・パラディン軍団に向かって、ハンターたちが既に攻撃を仕掛けていたからだ。
「この名に懸けても、道を切り開きます」
阻む総ての敵を屠ろう……ユーリ・ヴァレンティヌス(
ka0239)はイェジドのオリーヴェを駆り、 蒼姫刀「魂奏竜胆」の一振りで『薙ぎ払い』を繰り出し、道を阻むオート・ソルジャーを斬り倒していく。
後方から、無限 馨(
ka0544)が乗る試作魔導バイク「ナグルファル」が敵に追いつく。バイクから降りた 馨は、試作振動刀「オートMURAMASA」を構えた。
「まずは、味方の攻撃が終わってからっすね」
馨は確実に攻撃を決めるため、次の攻撃に備えていた。
ラスティ(
ka1400)は、ルートを確保するため、R7エクスシアのスカラーに騎乗し、スキルトレース【Lv10】を発動させ、『機導の徒』を使い、わざとセンサーに引っかかる。
「エバーグリーンでの大きな戦い……それでも、オレにだって、できることはあるんだ」
手薄になっている箇所に加勢すると、ラスティは決めていたのだ。
R7エクスシアのスカラーが移動したことにより、センサーが作動し、光の檻が発生……だが、イニシャライズフィールドのおかげで罠から抜け出すことができた。
一度発動し、その効果を終了したトラップはどうやら再起動しないらしい。ならば、抵抗力の高いハンターがあえて引っかかることに意味はある。
続いて、アニス・テスタロッサ(
ka0141)は、オファニムのレラージュ・ベナンディを駆り、『プラズマクラッカー』を発射した。
「道開けやがれ、デカブツがあああっ!!」
光弾は一定の距離を進んだ後、周囲を巻き込み爆発……攻撃範囲内にいたオート・パラディンが粉々に砕け散った。
その隙に、神楽の魔導トラックは広場へと向かっていた。
「神楽さんのトラックに荷台がたくさんあって助かったよ。トマーゾ博士は、腰に気を付けてね」
ジュード・エアハート(
ka0410)はユグディラのクリムを同行させ、アサルトライフル「スターナーAAC」を構えて、『直感視』を駆使して周囲を警戒していた。
移動しながらセンサーを見つけるのは言うほど簡単ではなかったが、ジュードはスキルにより他のハンターよりカバーできる範囲が広い。
トマーゾはトラックの後部座席に乗り、しばらく黙り込んでいたが、ルビーが丁寧にトマーゾ教授の腰を支えると「わしの腰は、いたって丈夫じゃ」と、そっけない態度をしていた。
そんな二人の遣り取りを見て、神楽は「教授、無理しない方が良いっすよ。トラックに乗る気マンマンなのは、こっちとしては有難いっすけどね?」と笑っていた。
注意深く観察すれば、罠は発見できた。
ジュードがペイント弾を放つと、銃座に命中し罠が誤作動していた。
センサーは一定範囲内の動体を検知しているようだが、センサー自体がペイントで塗りつぶされても反応するらしい。
エリシャ・カンナヴィ(
ka0140)は神楽が運転するトラックの荷台から、試作型魔導銃「狂乱せしアルコル」を固定させて、罠を狙っていた。
「固定させちゃうと、決まった方向しか撃てないけど、とりあえず前方にある罠でも狙っておくかな」
エリシャはペイント弾を放ち、センサーのカメラに目印を付けることができた。
神楽は、エリシャが付けてくれた目印を避けて、魔導トラックを目的地まで移動させることに専念していた。
その頃、ジャック・エルギン(
ka1522)はカッツォ・ヴォイの行方を追っていた。
カッツォを肩に乗せたオート・パラディンは、高速道路を疾走して、他のオート・パラディンやビルの隙間を擦り抜け、姿が見えなくなった。
エルギンのイェジド、フォーコは狼嗅覚でカッツォの臭いを覚えていたのだ。
「頼むぜ、フォーコ」
フォーコはエルギンを乗せて、カッツォの居場所を追跡していた。迫り来るオート・パラディンたちの攻撃を、フォーコは巧みにスティールステップで回避しながら、先を急ぐ。
「みんな、俺に付いてきてくれ」
エルギンに協力するため、アリア・セリウス(
ka6424)はイェジドのコーディに騎乗して、フォーコの後を追いかけ、高速道路を走り抜ける。
「広場からは離れてしまったわね。道にしては、地面が……かなり固いみたいね」
「ここはおそらく、高速道路だろう。リアルブルーにも、似たような道がある」
近衛 惣助(
ka0510)は、アニス・エリダヌス(
ka2491)のイェジド、シリウスがカタフラクトで二人乗りの適正を得ていたこともあり、相乗りしてもフォーコたちに追いつくことができた。
「カッツォ・ヴォイの目的が気になりますね。クリムゾンウェストに、何か仕掛けるつもりでしょうか」
アニスは故郷にいる恋人のことが気掛かりだった。
万が一、クリムゾンウェストが崩壊するとしたら、是非とも、その野望を食い止めねばなるまい。
リーリーのキウイに騎乗しているのは、東條 奏多(
ka6425)。
「カッツォは広場にいると思っていたが、俺たちの動向に気が付いていたのか。だからこんな場所まで引き付けて……ハンターたちの戦力を分散するのが狙いか?」
カッツォはどうやら能力の強化もあり、一度命令を下した自動兵器につきっきりである必要はないらしい。
ならばわざわざ人前に姿を晒す必要もない。むしろ、他のオート・パラディンに紛れてしまうつもりだろう。
奏多の言葉に、アリアが応じた。
「道中は戦力を温存した方が良いわね。カッツォとの対戦で活かせるようにね」
イェジドのコーディが、獣機銃「シエージュR4」で銃弾を放ち、オート・ソルジャーに命中し、人形が消滅していく。
リーリーのキウイは仲間を援護するため、幻獣砲「狼炎」の引き金を嘴で引き、弾丸を発射。前方にいたオート・ソルジャーに弾丸が命中して、粉々に砕け散っていった。
ボルディア・コンフラムス(
ka0796)は『野生の瞳』を活性化させ、イェジドのヴァーミリオンに騎乗したまま、大鎌「アズライール」を振り回し、『暴炎』でオート・ソルジャーの群れを薙ぎ払っていく。
「かったい道で、ヴァンが走るとはな。エバーグリーンにも、リアルブルーみてぇな道があるんだな」
ヴァンとは、ヴァーミリオンの愛称だ。
フォーコがカッツォ・ヴォイの行方を追跡し、他の仲間たちも高速道路を駆け抜けていった。
●セントラル攻防戦
同時刻。
広場へと向かうハンターたちもまた、先を急いでいた。
ジュードは、他の仲間たちのためにも、ペイント弾を駆使して確実に罠を誤作動させていく。
少し狙いがそれて誤作動しなかったとしても、罠のある場所に色をつけられれば目印になる。
「一石二鳥だね」
そう言いつつも、ジュードは周囲の警戒を怠らなかった。
廃墟となったビル群は、カッツォ・ヴォイの仕掛けで作動するようになっていたが、壊れていたはずのエレベータまで動き出した。
「ドラング、エレベーターの出口にいるオート・スパイダーたちを火炎弾で焼き払え!!」
レイオス・アクアウォーカー(
ka1990)の指示で、刻令ゴーレム「Volcanius」のドラングレーヴェが『砲撃:火炎弾』を炸裂させた。
火炎弾に巻き込まれたオート・スパイダーは、オーバー・ヒートするように爆発していく。
レイオスは魔導バイク「ゲイル」に騎乗して、トマーゾ教授に襲い掛かろうとするオート・スパイダーたちに目星を付けて、まずは敵を追い越していく。
「敵の狙いがトマーゾ教授なら、ドラングはノーマークになる。防衛戦で砲撃すれば、突破口もできるしな」
レイオスの思惑通り、オート・スパイダーたちは刻令ゴーレム「Volcanius」には気にも留めず、トマーゾ教授が乗るトラックを背後から攻め込もうとしていた。
その時、ミグ・ロマイヤー(
ka0665)が操縦する魔導型ドミニオンのハリケーン・バウ・カンコレンが、オート・スパイダーの攻撃を重装甲の機体で受け止めた。
「ミグのハリケーン・バウ・Cならば、これきしの攻撃、耐えられるのじゃ」
重装甲の強化により、オート・スパイダーたちの攻撃を受けても、ほとんどダメージは受けていなかった。恐るべし、ハリケーン・バウ・C。
ミグのCAMは防御性能に特化した重装甲タイプ。そしてサイズ3であるため、神楽たちを乗せたトラックの前に立ちふさがれば、占有スクエアにより射線を防ぐことができる。
だが、重装甲ゆえに移動力は低かった。ミグが仲間のスピードについていくためには、攻撃をしている余裕がない。
また、別方向からの攻撃まで遮断することはできず、神楽の魔導トラックは集中攻撃を受け、車体の屋根が吹き飛んでいた。
「またオープン・カーみたいになったっす!? このトラックはろくに攻撃も防御もできないっすよー!」
神楽の様子を見て、ジュードに同行していたユグディラのクリムは助手席に座り、リュート「リンダール」で『森の午睡の前奏曲』を奏で、周囲にいるハンターたちの怪我を癒していた。
「オート・スパイダーは、こっちで引き受けるっすよ」
馨は『アクセルオーバー』で加速すると、試作振動刀「オートMURAMASA」に『ベノムエッジ』の毒を纏わせ、『アサルトディスタンス』で駆け抜けながら、オート・スパイダーの胴部を切り裂いた。
「じわりじわりと毒は効くっすからね」
馨が『ドッジダッシュ』でオート・スパイダーの攻撃を回避……そのまま間合いを取るように後方へと移動した。
「ったく、次から次へと出てくるな。デカブツの方は、俺に任せな」
テスタロッサのレラージュ・ベナンディが『プラズマクラッカー』を発射……オート・パラディンに命中し、光弾に巻き込まれ、爆発していく。
ラスティはR7エクスシアのスカラーに騎乗し、『機導の徒』を発動させて操縦……アクティブスラスターで移動中にセンサーが反応して、移動不能になった。
「イニシャライズフィールド全開!!」
R7エクスシアのイニシャライズフィールドは、狂気の影響を遮断する目的で作られたが、それ以外の妨害効果に対しても威力を発揮することがある。
スカラーは罠を突破することに成功……強度によっては、必ずしも成功するとは限らないが、少なくとも、カッツォ・ヴォイの仕掛けた罠が、イニシャライズフィールドでも解除できることが分かった。
神楽の魔導トラックはさらに前方へと移動していくが、オート・パラディンやVOIDオートマトンの集団が、道を塞ぐように立ち尽くしていた。
「邪魔するならば、貴様らをスクラップに変えて突破するのみ」
魔導バイク「ソーペルデュ」に騎乗したコーネリア・ミラ・スペンサー(
ka4561)は、銀色のライフル「ルインズタワー」を構え、『コンバージェンス』でマテリアルを収束し『フローズンパニッシャー』を放った。狙ったのは、オート・パラディンだ。
敵の胴部に命中したかと思うと、瞬く間に冷気が飛散し、オート・パラディンの身体が氷漬けとなった。これでは身動きが取れない。
「コーネリアさん、俺が援護するね」
ジュードは、アサルトライフル「スターナーAAC」で狙いを定めて『銀雨』を放った。白銀の光を帯びた弾丸が降り注ぎ、範囲内にいたオートマトンの集団が雨に撃たれるように消滅していった。
夢路 まよい(
ka1328)はトマーゾ護送班の護衛として、ゴースロンに騎乗していた。
「まずはオート・パラディン、次はVOIDオートマトンの集団ね」
まよいはスタッフ「クレマーティオ」を掲げ、『ダブルキャスト』を詠唱……『グラビティフォール』が解き放たれ、さらに『グラビティフォール』が発動。
最初の『グラビティフォール』はオート・パラディンを消滅させ、次の『グラビティフォール』が行く手を阻むVOIDオートマトンの集団を圧縮して、握り潰すように消え去っていった。
都市の地下からは、リフトが上昇して、さらなるオート・パラディンやVOIDオートマトンの集団が地上へと群がっていた。
「歪虚化して操られるお前達には同情するぜ。だが、今は押し通らせてもらう!」
レイオスは『ソウルエッジ』を施した斬魔刀「祢々切丸」を構え、『薙ぎ払い』を駆使して前方にいるVOIDオートマトンの集団を切り裂き、消滅させていく。
刻令ゴーレム「Volcanius」のドラングレーヴェは、前もって指示されていた通り、トマーゾ教授が乗るトラックが通り過ぎていくと、オート・パラディンたちに狙いを定めて『砲撃:炸裂弾』を放った。
範囲内にいたオート・パラディンは炸裂弾に巻き込まれ、爆発……周辺の地面にはマテリアルの霰玉をまき散らした跡が残り、残骸が散らばっていた。
さらに地下のリフトからはVOIDオートマトンの群れが出現し、出口にいた刻令ゴーレム「Volcanius」のドラングレーヴェの胴部を狙って、大型の槍で突き刺していた。
もし、ドラングレーヴェがエレベーターの出口に配置されていなかったら、さらに被害は拡大していただろう。レイオスと刻令ゴーレム「Volcanius」の鉄壁な守りは、他のハンターたちにとっても防衛の要にもなっていた。
ミグのハリケーン・バウ・Cは、『リブート』で光の檻による移動不能を解除して、アクティブスラスターを噴射して強引に罠を振り切った。
「罠に嵌っても、こうすれば問題ないのじゃ」
確かに、ハリケーン・バウ・Cの性能なら、罠を振り切ることは可能だった。
攻撃を免れたオート・パラディンたちは、走り去っていく魔導トラックに狙いを定めて、マテリアルレーザーを放った。
トラックの荷台にいたハンターたちは回避することができたが、敵の放ったレーザーは、魔導トラックの後部にある窓を貫通し、ガラスが飛び散った。
「トマーゾ教授!」
ルビーがとっさに庇ったこともあり、トマーゾは無事だった。
「すまんな、ルビー」
「何故、トマーゾ教授が謝るのですか?」
ルビーの問いに、トマーゾは何も答えなかった。否、言う言葉が見つからなかったのだ。
「……仕方ないっすね。ルビーちゃんのためにも、全力で目的地まで行くっすからね!!」
神楽は運転に集中して、魔導トラックに装備した【闘祭】スピア「ボガダラフ」の二叉にわかれた刃で押し斬り、群がるオート・ソルジャーたちを振り切った。
「行く手を阻むならば、斬り拓く……未来を掴む為にも」
ユーリはイェジドのオリーヴェに騎乗して、敵陣に走り込むと、蒼姫刀「魂奏竜胆」による『刺突一閃』でオート・パラディンの身体を貫いた。
「ユーリさん、どうもっす」
神楽は礼を言った後、魔導トラックを走らせた。
●白い仮面の男
「見つけたぜ、カッツォ・ヴォイ」
エルギンは、ついに対面した。因縁の男と……。
災厄の十三魔として、嫉妬の眷属であるカッツォ・ヴォイの名は知っていたが、直接、会うのは初めての者も多かった。
イェジドのフォーコが追跡で辿り着いた場所は、広場から少し離れた公園跡だった。
「おまえは……ジャック・エルギンだな」
カッツォ・ヴォイ(
kz0224)は白い仮面を付け、ステッキでオート・パラディンの腕を軽く叩いた。
「なんで俺の名前、知ってんのかね。それよりも、同盟で宝石や鉱石を歪虚化してまわってんのはお前か、何を企んでやがる!?」
答えもせず、オート・パラディンの肩に立つカッツォ。近衛 惣助がライフル「ルインズタワー」で『高加速射撃』を繰り出すが、カッツォは舞うように全ての銃弾を回避した。
「なんだと? 俺の射撃を全て避けた……!?」
惣助は背筋が凍る思いがした。
イェジドのみかんに騎乗したアメリア・フォーサイス(
ka4111)は、割り込んで魔導拳銃「ネグラナーダ」を構えて『牽制射撃』を試みるが、カッツォはさらに攻撃を回避する。
「牽制しても避けるなんて……」
牽制射撃は、回避する敵に対して牽制を加える技だ。それでも尚、カッツォは銃弾をほとんど回避していたのだ。
それにカッツォが強化を施したオート・パラディンによる防御もある。
多くのハンターがカッツォへの直接攻撃を狙っていたが、逆にそれがカッツォを攻撃から遠ざけていた。
「まずは足を止めないことには始まらないな。みんな、先にパラディンを潰すぞ!」
エルギンはロングボウ「レピスパオ」を構え、『貫徹の矢』を放ち、オート・パラディンの胴部に矢が貫通した。
『貫徹の矢』は、仲間の攻撃の威力も底上げする効果がある。また、オート・パラディンは巨体で、攻撃位置を調節しやすかった。
「さすがは災厄の十三魔と呼ばれることはあるぜ。一か八か、やってみるか」
ボルディアが『炎檻』を発動させると、赤熱した腕から幾条もの炎鎖の幻影が出現し、オート・パラディンの腕に絡みつく。すかさず『暴炎』で大鎌「アズライール」を振り回し、オート・パラディンの胴部を打ち砕くが、完全に破壊することはできなかった。
「これで、決めてみせる」
セレス・フュラー(
ka6276)は『アクセルオーバー』でオート・パラディンに接近すると、雷虹剣「カラドボルグ」を構え『アサルトディスタンス』で駆け抜けながら、すれ違いざまに斬り倒した。オート・パラディンはバラバラに砕け散り、消滅していた。
カッツォは足場を失い、地面に降り立つ。
「ほほう、面白い技を使うな。オート・パラディンに狙いを付けたのは、誉めてやろう」
どこか楽しげなカッツォ。
その男に対して、憤慨するのは、ジャック・J・グリーヴ(
ka1305)だ。
「俺様らは、オートマトンや機械を助ける事に腐心して来たんだぜ? それをこんなあっさりと利用されるのはクソムカつくんだよ!」
グリーヴはR7エクスシアのヘクトルに騎乗し、『イニシャライズオーバー』の結界を周囲に張り巡らせた。
結界内にいるハンターたちは、防衛装置の罠に引っかかっても、イニシャライズオーバーの効果により、すぐに罠から抜け出すことができた。
ヘクトルの操縦席から叫ぶグリーヴ。
「てめぇゴラ! やる気ねぇならとっととお国に帰れや、クソカッツォ! 殺人脚本家とか中二病みてぇな二つ名持ちやがって寒ぃんだよバーカ!」
トランシーバーを持っていたハンターたちには、グリーヴの叫びが聴こえていた。
そして、何故か、カッツォ・ヴォイにも、グリーヴの声が聞こえたらしく、こう応じた。
「ふっ、ジャック・J・グリーヴよ。オートマトンや機械は所詮、道具に過ぎないのだよ。それを有効活用しているのは、おまえらも同じだろう」
カッツォとの睨み合いが続く。
「その理屈だと、宝石や鉱石も、お前にとっては『道具』ってことになるよな?」
エルギンの問いに、カッツォは静かに頷く。
「そうだ。おまえらが使っている武器も防具も、全て道具に過ぎないのだよ。それはオートマトンや機械兵器とて同じこと……」
「……そうだな。カッツォの言うことも正しいと思う者もいるだろう」
惣助は、元軍人だった。
「だが、俺は……人々の平和な生活を守りたいと考え、軍人を志したんだ。カッツォ、お前は、ただの三流脚本家だ。殺人を正当化することだけは、断じて許さない」
アニス・エリダヌスのイェジド、シリウスは惣助を乗せて、できるだけカッツォに接近していく。
「……約束、しましたから。無事に守り通して帰ると」
エリダヌスが錬金杖「ヴァイザースタッフ」を法具の発動体として『ホーリーライト』を放った。カッツォの右腕に輝く光の弾が当たり、衝撃が走った。
「今度は外さない」
惣助がライフル「ルインズタワー」で標準を合わせ『凍結弾』を放った。命中が上がったことにより、カッツォの胴部に弾丸が撃ちこまれ、冷気によって行動を阻害することができた。
さらに、イェジドに騎乗したアメリアが、ライフル「Mr.Lawrence」を構えて『レイターコールドショット』を放つ。
足場としていた機動力を強化したオート・パラディンの回避力や防御力も今はない。カッツォの左腕に命中し、見れば氷を纏った人形のようであった。
ミリア・ラスティソード(
ka1287)はイェジドのざんぎえふに騎乗したまま『攻めの構え』を取り、斬魔刀「祢々切丸」に『ソウルエッジ』を施すと『渾身撃』を繰り出した。
「……えっ?!」
確かに手応えはあった。だが、ミリアが打ち砕いたのは、氷の人形だった。カッツォが何か仕掛けると予想はしていたが、間に合わない。
カウンターで繰り出されたカッツォのステッキが、ミリアの腹部に深く突き刺さっていた。
「……う……くっ……」
ミリアの腹部から血が吹き零れた。その傷は重く、身動きが取れない。
カッツォは身嗜みを整えると、右手を掲げた。
「さあ、私の道具たちよ。集結せよ」
地面に転がっていた残骸が、カッツォの前に集まった。まるで細胞分裂を起こすように、魂を宿さない破棄されたオートマトンの残骸が融合して、オート・パラディンへと変貌した。
「なにっ?!」
惣助の傍に、オート・パラディンが出現し、マテリアルブレードを振り下ろした。
反射的にエリダヌスを庇う惣助。
アメリアは惣助を守るため、『妨害射撃』を試みたが、マテリアルブレードの勢いは止まらず、惣助の身体を斬り裂いた。さらに背後から別のオート・パラディンが現れ、アメリアの胴部を狙ってマテリアルレーザーを放った。
「近衛さん! アメリアさん!」
イェジドのシリウスは危機を察して、その場から離脱……エリダヌスは『ヒーリングスフィア』を惣助に施した。背中からの流血は止まったが、傷口が深く、惣助は重体となってしまった。
「エリダヌスさん、すまない……」
「そんな……近衛さんのおかげで、私は無事です」
「そうか……なら、良かった」
そう呟くと、惣助は気を失った。
アメリアは怪我を負いながらも、イェジドに騎乗して、他の仲間たちを援護していた。
「やっろー。ぜってー許さねーからなっ!!」
エルギンの狙いは、オート・パラディンだ。ロングボウ「レピスパオ」を構え、『貫徹の矢』を放つと、オート・パラディンの胴部に深く貫通した。
ハンターたちの脳裏に、過去の破滅が過った。
「私は諦めないわ。斬り拓きましょう。絶望という闇を」
アリア・セリウスは『天蓋花・詠雪』の祈りにより『攻めの構え』を取り続け、マテリアルは雪色の光と化し、彼岸花の姿を描き身体を包む……イェジドのコーディはアリアを乗せて、オート・パラディン目掛けて走り抜け、アリアの大太刀「破幻」は攻撃前の発動で『織花・祈奏』によって魔法剣となり、『透刃花・玲瓏』が煌めくと、軌道上にいたオート・パラディンを刺し貫いた。
エルギンの放った矢による貫通によって脆くなっていた胴部は、アリアの一閃で砕け散った。だが、完全に消滅した訳ではなかった。
「リアルブルーには世界が破滅するSF小説がいくつかあるが、エバーグリーンが滅んだのは創作ではなく、現実……なら、ハッピーエンドを見届けたいよな」
今できる最善の結果を見たい、そのために全力を……東條 奏多は『アクセルオーバー』で残像を纏い加速すると、『ランアウト』でオート・パラディンに接近して『アサルトディスタンス』を駆使して大太刀「獅子王」で斬り倒していく。
その衝撃で、オート・パラディンが消滅。
別のオート・パラディンが奏多を狙ってマテリアルブレードで攻撃を繰り出すが、奏多は『瞬影』で敵の攻撃をいなして、Star of Bethlehemを投げ付けた。
アメリアはライフル「Mr.Lawrence」を構えて、『レイターコールドショット』を放つが、カッツォは回避して、不敵な笑みを浮かべているように思えた。
「カッツォ・ヴォイ、ゴー・トゥ・ヘル、ですよ」
息を切らしながら、罵倒するアメリア。カッツォが指を鳴らすと、背後にいたオート・パラディンが、マテリアルブレードを振り下ろす。その刹那、アメリアの身体が斬り裂かれた。
「く……はっ……」
アメリアの全身から血が流れ、口元からも血が零れ落ちていた。重体になったアメリアをイェジドのみかんは背に乗せて、その場から退避した。
「なんて、酷いことを……」
奏多の相棒であるリーリーのキウイが、アメリアに対してリーリーヒーリングを施すと、彼女の血は止まったが、さすがに重体では怪我まで癒すことはできなかった。
「こんちきしょーがっ!!」
グリーヴのヘクトル機がスキルトレース【Lv15】による『矜持』の構えを取り、Mハルバード「ウンヴェッター」のトリガーを引くと、非実体の刃が出現し、オート・パラディン目掛けて斬撃を繰り出した。敵は粉々に砕け散り、消滅。
爆風が消えると、カッツォが目前に立っていた。
「覚悟しやがれ、カッツォ!!」
エルギンのバスタードソード「アニマ・リベラ」が、自らの生命力から捻出した『ブラッドバースト』のマテリアルを纏い、カッツォ目掛けて振り下ろされた。左肩に命中し、カッツォはかなりのダメージを受けていた。
続け様に、ボルディアが攻撃を仕掛ける。
「まさかとは思うが、おまえの能力は無機物を融合させることかっ?!」
ボルディアは『砕火』を駆使して大鎌「アズライール」を振り回し、カッツォの胴部を斬り裂いた。
イェジドのヴァーミリオンはボルディアを守るため、ブロッキングでカッツォの移動を食い止め、互いに移動不能となる。
……だが、行動はできるのだ。カッツォは移動不能になっても、その場でステッキを振り回した。
「そうだ。生身の身体で良かったではないか」
カッツォはボルディアの大鎌を右手で掴んだまま、左手でステッキを振り下し、彼女の背中を突き刺した。
「な……や、ろー……」
ボルディアは、耐えた。
傷口から血しぶきが飛び、カッツォの仮面に血糊が付いた。
「乙女の血は、劇の演出には欠かせぬからな」
そう言いながら、カッツォはボルディアから離れ、エルギンに攻撃をしかけた。
「なんてことしやがるんだ!! マジで許さねーからなっ!!」
エルギンは『鎧受け』でカッツォのステッキを受け流すが、ボルディアたちにしたことを考えると、怒りを隠せなかった。
「に……にが…さねぇ……」
ボルディアは地面に倒れながらも、カッツォの右脚を掴んだ。
イェジドのヴァーミリオンは唸り声をあげて、威嚇していた。
「ほお、重体だと言うのに、まだそれだけの力が残っているとはな。覚醒者とは、素晴らしいモノだな」
涼しげな声で言うカッツォ。
「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、俺様たちをモノ扱い、すんじゃねぇ!!」
グリーヴのヘクトル機は、スキルトレース【Lv15】を起動させ、Mハルバード「ウンヴェッター」による『強撃』を繰り出した。
だがカッツォは、ヒラリと回避すると、何事も無かったかのように一礼した。
「それでは、ごきげんよう」
そう一言、残すと、カッツォの姿は消えていた。
「ボルディアっ!!」
エルギンが、ボルディアを助け起こした。
「……ボルディア、すまねえ」
「……そんな顔、すんな……いつもみたいに、笑ってくれよ……な?」
痛みを堪えながらボルディアが、明るい笑みを浮かべた。
エルギンは、自分が今、どんな顔をしているのか、分からなかった。
どことなく、ぎこちない微笑みだった。
●セントラル広場へ
数分後。
ジュード・エアハートは軍用双眼鏡で周囲を偵察していると、東へ100メートル付近に、黄金のR7エクスシアが炎のようなオーラを纏っているのが見えた。
どうやらグリーヴが『獅子吼』をスキルトレースで発動させていたようだ。
「こちらジュード、そちらの状況はどうかな?」
魔導短伝話で通信してみると、応答の反応があった。
「こちらセレス・フュラー。公園跡にてカッツォ・ヴォイと遭遇。交戦したのち、カッツォは瞬間移動で姿を消したようだね。おそらく、クリムゾンウェストに戻った可能性があるよ」
「そうか。それで、こっちの様子が変わったのかな。オート・ソルジャーたちが、まるで糸の切れた人形のようにふら付いて歩き回っているんだよね。こちらは敵を突破次第、トマーゾ博士たちを目的地まで連れて行けそうだよ」
ジュードはそう言った後、通信を切った。
カッツォと直接、交戦する危機は免れたが、今はなるべく早く、トマーゾ教授を目的地まで護送しなければならないのだ。
ユグディラのクリムは『森の午睡の前奏曲』を演奏して、周囲にいるハンターたちの怪我を回復させていた。
「ありがとう、クリム」
ジュードが頭を撫でると、クリムはうれしそうな、それでいて少し恥ずかしそうな笑顔を見せた。
「カッツォのことは、できるだけ多くの人達に知らせますね」
エラ・“dJehuty”・ベル(
ka3142)は、試作前線指揮用魔導二輪「Grand Kings」に搭載している魔導短伝話を使い、公園跡の状況を仲間に知らせていた。『連結通話』も駆使して、複数の通信機器で同時通話が可能になった。
ジーナ(
ka1643)がエラに協力して、魔導型デュミナスのバレルに騎乗し『通信拡張』を発動した。ジャミング緩和だけでなく、魔導短伝話一台の通信可能な距離を、さらに500メートル広げることができた。
エラとジーナが徹底して、通信を行っていたこともあり、カッツォ・ヴォイが消えたことは、多くのハンターたちに伝わった。
ユーリ・ヴァレンティヌスはイェジドに騎乗し、合流地点となる箇所に辿り着くと、敵の進軍を足止めするため、防衛線の維持に加わった。
「中枢までのルートを確保しなければ……」
ユーリは『蒼刃共鳴』を発動させた 蒼姫刀「魂奏竜胆」を振り翳し、『薙ぎ払い』でVOIDオートマトンの群れを切り倒していく。
その隙に、神楽の魔導トラックが敵陣を突破して、中枢部へと向かっていった。
エラに同行したはずのユグディラは、魔導バイク「ユグディラ・キャリアー」に乗り、罠を見つけていた。発見できたのだが、どうやってエラに場所を伝えれば良いのかと困惑していた。
「なんじゃ、はぐれユグディラか。罠なら、破壊すれば良いのじゃ」
ミグのハリケーン・バウ・Cは、はぐれユグディラが発見した罠をアーマーペンチ「オリゾン」の先端で挟み、握り潰して破壊していた。
それを見たユグディラは一安心したのか、別の罠を探し出すため、魔導バイク「ユグディラ・キャリアー」を走らせた。
「敵の動きが不規則になってきやがったな。だか、まとめて潰してやるぜ」
テスタロッサのオファニムは、アクティブスラスターでオート・パラディンを追いかけ、『プラズマクラッカー』を発射した。敵に命中して、範囲内にあった物は全て爆発に巻きこまれ、砕け散っていた。
(ここから先は、通さないからな)
ラスティが操縦するR7エクスシアのスカラーは、スキルトレース【Lv10】を起動させ、マテリアルライフル「セークールス」を発動体とした『機導剣』がスカラーの手に現れた。光の剣はオート・パラディンを斬り裂いた瞬間、消え去ったが、オート・パラディンは防御していたこともあり、スカラーの攻撃に耐えることができた。
「頑丈な作りでも、必ずどこかに隙間があるはず」
ジーナの魔導型デュミナス、バレルがスキルトレース【Lv10】による『野生の瞳』で周囲を見極め、スナイパーライフル「オブジェクティフMC-051」でオート・パラディンの胴部を狙い、撃ち抜いた。
胴部の隙間を撃ち抜かれた衝撃で、オート・パラディンは爆発し、粉々に散っていった。
「カッツォがいなくなったとは言え、罠はまだ作動しているわ。みんな、気を付けて」
エリシャ・カンナヴィは『アクセルオーバー』で加速し、『ベノムエッジ』を纏った手裏剣「八握剣」を銃座に投げ付け、命中させた。マテリアルの毒によって蝕まれた罠は誤作動を起こした後、爆発した。
「機械であろうと、相手が歪虚ならば、容赦はしない……」
コーネリア・ミラ・スペンサーが、ライフル「ルインズタワー」のトリガーを引く。『フォールシュート』による弾丸の雨が、オート・ソルジャーたちを撃ち抜き、消滅していく。
「……ここで、防衛線を死守するのも悪くはない」
コーネリアたちの攻撃により、トマーゾ教授とルビーは中枢部へと辿り着くことができた。
「皆さん、ありがとうございます」
ルビーが礼を言うと、ハンターたちは迫り来るオート・パラディンの集団へと立ち向かっていた。
「いけ、ドラング! オート・パラディンたちを焼き尽くせ!!」
レイオス・アクアウォーカーの指示で、魔導型大砲特化の刻令ゴーレム「Volcanius」ドラングレーヴェは、42ポンドゴーレム砲にて射程を捉えると『連続装填指示』で砲弾を装填し、『砲撃:火炎弾』を放った。
オート・パラディンに命中して、ダメージを与え、周囲にいたオート・ソルジャーも燃焼によって消滅していった。
「まだまだ、敵はいます。ここで阻止して、時間を稼ぎましょう」
エラ・“dJehuty”・ベルは『三散』による光で生まれた三角形を出現させ、その頂点一つ一つから伸びた光がオート・ソルジャー三体を貫いた。
「防衛線を守ることも大事だからね」
ジュードが龍弓「シ・ヴリス」による『銀雨』を繰り出し、白銀の光のごとく矢が降り注ぎ、攻撃を喰らったオート・ソルジャーが消滅していく。
ハンターたちは、トマーゾ教授とルビーを先へと行かせるため、広場にて攻防戦を繰り広げていた。
果たして、その先に待つものは……?