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【血断】

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やっぱりすごいね。わたしがこれまで見てきた世界の人達とは全然違う。
これだけどうしようもない現実を突きつけられても、諦めずに立ち向かう……。
感情論でも逃避でもなく、解決を目指す――それってもう人間技じゃないよ。
良くも悪くも化け物染みてる。少なくとも、過去の枠には収まらない。
だからこそ期待できる。信じてみてもいいかなって、そう思ったんだ。

虚飾王:バニティー

更新情報(6月11日更新)

6月11日、【血断】大規模作戦第2フェーズ「決断の時」の結果が公開!
最も得票数・功績点ともに多くなった「運命の解放者」ルートが選択される結果となりました。

邪神の殲滅に向けて動き出すハンターズ・ソサエティ。
その一方で、ハンターに提示された新たな可能性が定められた滅びの運命を変えていく。
新たに明らかになった情報、そして到達できるかもしれない新たな未来予測についての 解説を追加!
また今回の結果を受け、本日より新たな連動シナリオOPが公開開始!
この連動シナリオタイミングが世界全体が決戦状態に入る前の最後のリリースとなります。

【血断】大規模作戦第3フェーズは7月4日公開予定!
第3フェーズ以降はノンストップでラストバトルが繰り広げられます。
残り僅かな準備期間、交流や準備など、心残りのないようにお楽しみください!
▼大規模作戦第2フェーズ(5/29~6/11)結果発表▼

決断された未来とは…?
※今回のフェーズではリプレイの作成はありません。

 
 

【血断】「血断作戦 ~運命の解放者、あるいは未来の創造者~」(6月11日公開)

ナディア・ドラゴネッティ

バニティー

「大筋として、ハンターズ・ソサエティの方針は決まった。邪神とはこのまま徹底抗戦し、その討伐を目指す」
 ナディア・ドラゴネッティ(kz0207)の宣言は妥当なものだ。バニティーはそう思う。
 自分の世界をこれまで長らく侵略されてきたのだから、怒りや憎しみも相応であろう。
 失われた命、歪められた過去、その上未来まで奪われようというのだ。
 生物種であれば当然、そんな道理は受け入れられまい。だが――。
「ただし、可能な限り正面衝突は避けたいと考えておる。その為におぬしに相談に乗ってもらいたいのじゃ」
 少なくともナディアの瞳は澄み渡っている。
 きわめて冷静で、機械的過ぎるきらいすらあった。
 ハンターへの結果発表を前に、バニティーは再びリゼリオを訪れ、ナディアの私室へと招かれた。
 今回はドナテロも他の大精霊もいない。完全なナディアとのタイマンである。
「いいよ。どんな相談?」
「それが色々あってな。ハンターに広く意見を募ったところ、問題の解決に寄与しそうなものがいくつかあった。その精査を頼みたい」
「わー。じゃあこの書類の束ってもしかしてソレ?」
 相向かいに着座する二人の間には書類の塔がそびえ立つ。
「なははは……紙も積もれば山だねぇ~」
「そっちはベアトリクスらと確認済み。おぬしに見せたいのはこっちじゃ」
 紙束を受け取り、バニティーはパラパラとめくってみる。
 最初はくりくりとしていた眼差しが、徐々に険しいものへと変わっていく。
「……ちょっと待って。まさかハンターは、本当にファナティックブラッドまで救って見せるつもりなの?」
 ハンターの意見は、大抵の場合シンプルだ。
 敵だから倒す。問題があるから倒す。他の選択はできないから倒す。
 十分な理由だし、それが真実だろう。だがその中に、闘いを回避せんとする意志があった。
 それをバニティーは「救済」と捉えたが、ナディアは敢えて否定する。
「仮に結果的にそうであったとしても、望んでいるのは犠牲を抑えた勝利じゃ。“そもそも戦わないで済むならそれが一番”……バニティーも言っておったじゃろう?」
「それはそうだけど……」
 眉を顰め、バニティーは思案する。

ファナティックブラッド

 邪神ファナティックブラッドを止められる存在がファーザーだというのなら、まずは話し合いたい。そんなハンターの意見は少なくなかった。
 それで解決するのならそれが一番――確かにそうだろうが。
「わたしならお父様に取り次ぐことは出来るよ。でも、お父様は簡単に説得に応じる人じゃないわ」
「それは何の解決策も提示できない場合……じゃろう?」

 ひとつひとつの意見には、良い所も悪い所もある。
 それだけでは実現できないという欠陥。だがそれも、多数の中に繋ぎ込むピースがある。
 すべてのピースを繋ぎ合わせれば、第四の未来も見えるかもしれない。


「ひとつずつ解決しよう。まず、なぜファーザーは他者の説得に耳を貸さぬのか?」
 説得とはお互いの妥協点を探すということだ。
 ファーザーの目的を達成できないような一方的な説得は意味がない。
「逆に言えば、ファーザーの目的を部分的にでも達成できるのなら、説得の余地はある」
「部分的にって……。お父様の目的は全宇宙の救済だよ? そして、有限を超えた永遠への再誕……普通に考えて無理じゃない?」
「無理じゃな。なので、諦めてもらう点を絞る。“全宇宙”と“永遠”じゃ」
 そもそも、永遠なんてロクなもんじゃない。それは彼だって理解しているはず。
 自分が救おうとしたものを見捨てられないのが理由だというのなら、見捨てずに済む方法があればよい。
「ファナティックブラッドには、宇宙再誕の為の正マテリアルが既に存在している。永遠ではなくとも、全宇宙ではなくとも、新たな“世界”を作れぬだろうか」
 初期設定された目的があまりも大きすぎて辿り着けないだけで、妥協すれば部分的にその目的を達成できるかもしれない。
 それが成れば、ファナティックブラッドは役割を終え、停止するのではないか?
「クリムゾンウェストでもリアルブルーでもエバーグリーンでもない、第四の世界を作るってこと? それなら確かに……交渉のカードにはなるかも。でも、問題はどうやってそれを実現するかだよ」
 世界を作りますと言って、ハイ出来ましたというのなら苦労はない。
 大精霊すら、世界の始まりにただ存在しただけのものだ。自ら世界をゼロから生み出すことはできない。
「その前に、再誕に必要なものを確認したい」
「えーと……元になる世界の情報。それから、莫大な正のマテリアル。命を生み出すには負のマテリアルじゃダメだから。あとは……なんだろう? わたしにはわからないけど……」
「“それ”こそ、邪神に不足している最後のピース……という考え方もできる。一度質問を変えよう。邪神が世界を取り込むためには、その世界の“同意”が必要なのじゃろう?」
「うん、そうだよ。あなた達は同意しなかった――古代人が、だけど――から、こうやって戦うことになってる」
「ハンターに言われたのじゃ。“諦めなければ邪神と一つにはなれない。だが、絶望や諦観では未来を作れない”と」

 矛盾――。
 未来を求めようというのに、諦めて一つになる。
 これは明確な意志の矛盾だ。未来を人任せにし、“どうにでもなれ”と匙を投げた。

「もしかして……それが最後の鍵だった?」
「諦める為ではなく、真に未来を求めて邪神とひとつになったなら、我々は宇宙を再誕できるのかもしれない。ハンターはそう言っていた」
「でも、それは危険すぎる賭けだよ」
「じゃな。故に最終手段であるとして――つまり、未来を求める意志。これが世界の誕生に必要なのではないかと考える」
 元々、世界はヒトの意思と密接に関係している。
 観測者が存在するから世界はあり、観測者の意思に応じて変化する。
 大地も空も時の流れさえもが、観測者ありきで成立する概念だ。
 “誰もそれを見ようとしなければ、そこには何もないのと同じ”なのだから。
「今、邪神の中に存在する人々……シェオルの意志は、本当に未来を求めていると言えるのじゃろうか?」
 彼らは既に己の願いも忘れ、“持たざる者”として命を羨み、未来を妬み、ただそれを壊すことだけに囚われている。  繰り返される永遠も、救われぬもの達の憎悪も、ファナティックブラッドを狂わせた理由に数えるべきだ。
「以前バニティーが“お父様は毒電波と戦っている”と言っておったな。それは――“未来を否定する者たちの意思”のことではないのか?」
 あるハンターはそれを“反動存在(ルサンチマン)”と呼んだ。
 邪神翼のひとつ、リヴァイアサンが救おうとして救えなかったモノ。
 命の誕生と存続を否定する。闇に堕ちたヒト、即ち観測者の漆黒の意思である。
「え……嘘でしょ!? わたし、そんな説明一言もしてないのに……どうしてわかったの!?」
「まあ、ハンターも色々経験しておるからな。つまり、ファーザーは――」
「そうだよ。お父様は、世界再誕を否定する負の力を制御しようとしているの。それはお父様の力を以てしても解決できないほど重くて深い」
「だからファーザーはそれにつきっきり、ということか……なるほどな。ならばそれが宇宙の再誕を妨げているのは明白じゃ」
 もしも、ファナティックブラッドの主導権が既にファーザーにはなく。
 夥しい数の悪意により、邪神と呼ばれる怪物が突き動かされているのだとすれば……。
「クリムゾンウェストが取り込まれたところで、宇宙が再誕できるとは思えぬな」
「……そうだね。だからわたしは、ファナティックブラッドというシステムは消滅させるしかないと思ってた」
「いや。なればこそ、世界救済機能(ファナティックブラッド)は消滅させてはならない。それを扱う知識を持つファーザーも、倒してはいけない」
 彼の大罪を赦すことはできない。
 だが、その能力は今、この世界を守るために必要だ。
「再誕を防ぐシェオルの意志を祓い、ファーザーを味方につけ、再誕の力を正しく起動できれば、第四の世界を作ることは不可能ではない。その力、勝利の為に利用させてもらう」
「……うん。状況の改善に繋がる。これならお父様も話を聞いてくれるかも……!」
 ぱあっと、バニティーが瞳を輝かせる……が。
「でも……歪虚に堕ちてしまったお父様に、世界を生み出すほどの正のマテリアルを扱えるかな……」
 邪神の中枢、ファーザーが座する地点は宇宙再誕の中心座標。
 世界を生み出す儀式を行うのには最適の場所だが、そこに蓄積した莫大な正マテリアルを負の存在であるファーザーが適切に扱えるかは疑問が残る。
「お手伝いはしてくれると思うけど、核になるモノが必要だと思う」
「その時は、わらわ……というか、クリムゾンウェストがその役割を果たそう」
 クリムゾンウェストは、元々異世界を喰らう性質を偶発的に得てしまった世界だ。
 過去に邪神の侵攻を受け、終わりを否定し、逃げ回りながら、傷つきながらも生き延びようとした結果の変質。
 生物が命を繋ぐために環境に適応することを進化と呼ぶのなら、まさにそれだろう。
 進化したクリムゾンウェストは、ファナティックブラッドとよく似ている。とても偶然とは思えない程に。
「再誕のエネルギーさえ確保して、場のコントロールをファーザーに補助してもらえば……恐らく可能じゃ」
「おそらく……」
「だ、誰も試したことすらないからな……。トマーゾに訊いてもわからんかった。だが、わが身に宿る神は、やってやれぬことではないと答えた」
 クリムゾンウェストの大精霊は、守護者を通じて多くの人々の願いを受け入れた。
 エバーグリーンやリアルブルーを取り込んだからこそ、そこに脈々と流れる世界の在り方を理解し、ひとつにする力を手に入れた。
「わらわの相棒ならできる。いや、あやつにしか出来ぬことじゃ。あやつだけが、邪神の中に散らばる数多の星々を一つに束ね、第四の世界を創造できる」
「宇宙をバラバラに再誕させるのではなく、ひとつにした世界を作る……? リソースも少なくて済む……確かに、それなら……」
「そして世界が再誕してしまえば、敵対する理由など何もない――我らの完全勝利じゃろ?」
 これは善悪の話ではない。
 最も犠牲少なく勝利する効率的な方法。
 世界を救済するために何ができるのか考えた結果だ。
「無論、今はただの理想論じゃ。戦いは避けられぬじゃろう」
「……そうだね。それは、あなたたちが邪神に勝利できるだけの力を持っているという前提だから」
「故に次の戦い、邪神に囚われたすべての世界に伝えたい。我らの力を、信じるに値する――未来を求める意志を」
 倒すだけではきっと足りない。
 消滅させるにはキリがない。だから、気づいて欲しい。わかってほしい。
 何かを憎むだけではなく。過去を振り返るだけではなく。
 弱さの殻に閉じこもり、自らの手で可能性を閉ざさないで。
「彼らに問いたい。本当にそのままでいいのか、と。望んで地獄に留まる闇ならば、討つも已む無し。だが、共に未来を求められるなら……」
「仲間に出来る? わたしみたいに」
「できるとも。例え相容れぬ者同士でも、たった一時の幻でも。その意思を示すことこそ、世界再誕に不可欠な最後のピースなのだから」


シュレディンガー

マクスウェル

ラプラス

イグノラビムス

クドウ・マコト

クリュティエ

 長い話が終わり、バニティーは深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。
「話はわかったよ。正面衝突より遥かに勝算があると思う」
「ちなみにダメだった場合のリカバリー策も色々あるので、以前に比べるとだいぶ希望が見えたぞ」
 犠牲が出ることに変わりはない。戦いも避けられない。
 それでも確かに何かが変わったような、そんな気がした。
「不思議だね。ハンターはどうしてこんな答えを導き出せたんだろう?」
「ん……まあ、連中は一人ではないからな。あるハンターが言っておったよ。ファーザーの悲劇は、独りで抱え込んで仲間と相談しなかったことだ、とな」
 その言葉にバニティーはなんとも言えない、悲しげな笑みを浮かべる。
「……だね。わたしやシュレディンガーが、もっとちゃんとしてれば良かったんだけど」
「あー、いや、そういう意味では……」
「ちゃんとわかってるよ。でもね、やっぱりわたし達は失敗したんだ。言葉を重ねることも、想いを伝えあうことも、恐れてしまった。ハンターさんの言う通りだよ。わたしたちは何よりもまず、お互いを頼るべきだったんだ。その過去から逃げちゃいけない。だから今度こそ、わたしは……」
 悔しさを堪えるように拳を握りしめ、少女は頭を振る。
「お父様にこの話をしてみるけど……すぐには聞いてくれないかも」
「わかっておる。じゃからこそ、次の戦いで証明して見せるのじゃ。永遠に立ち向かうヒトの意思をな」
 ナディアは咳ばらいをし、改まってバニティーと向き合う。
「バニティーには、他にも説得してもらいたい者がいるのじゃ」
「うん……クリュティエたち、だよね」
 黙示騎士はファナティックブラッドという世界に紐づいた守護者だ。
 もしもファナティックブラッドに住まう人々を救える可能性があるのなら、味方につけることもできるかもしれない……そう考えたのだが。
「たぶん、黙示騎士は仲間に出来ないと思う」
 マクスウェルはハンターとの決着を望んでいる。
 元々世界を守るために戦っているという意識も薄い。
「お兄ちゃんは話せばわかるってタイプじゃないよ。仮にハンターの方が正しいと理解しても、闘いによる決着を好むと思う」
 ラプラスは自分の意思や感情で戦っているわけではない。
 ファナティックブラッドという世界の命令に従っているだけなので説得の余地がない。
 イグノラビムスはどちらかと言えばシェオル型歪虚に近い。
 彼は世界の救済をそもそも望んでいない。人類に絶望し、その悪性を滅ぼそうと戦っている。
「一番話が通じる相手だけど、行動理念は相容れないと思う」
 クドウ・マコトは、もしかしたら説明すれば手を貸してくれる可能性はある。
 だが、猜疑心が強い彼が口先だけの理想論を鵜呑みにするとも思えない。
 何らか現実的に問題解決を態度で示さない限り、理解は望めないだろう。
 テセウスは新米の黙示騎士であり、邪神との繋がりが薄いだけあって説得の余地はある。
 だが、テセウスは黙示騎士を転移させる能力を持ち、チームの中で重要なサポート役だ。裏切りを他の黙示騎士が許さないだろう。
「厄介なのはクリュティエで、たぶん全然話にならない」
 クリュティエは冷静そうに見えて、黙示騎士の中で最も感情的に物事を考えている。
 仮に多くを救える可能性があるとしても、少しでも犠牲になるものがある、何かを見捨てなければならないとなった時、冷静ではいられない。
「見捨てるという行い自体が、あの子のトラウマなんだよ。邪神の力で宇宙が再誕して、全てが救われる……その未来に縋らなければ心を保てない」
「仇花の騎士の後悔か……」
「誰よりもあの子が自分の矛盾を自覚してるし、それに苦しんでる。あの子を止めるには、やっぱり腕っぷしで黙らせるしかないって言ってた」
「……言ってた? 誰が?」
「あなた達の助っ人だよ。前にも言ったけど、賛同者は既に邪神の中にも存在しているの」
 邪神の中にいるのは、邪神により観測された――或いは作り替えられた想い出のみ。
 だが条件に合致する者は、ハンターのこれまでの冒険の中にも存在したのだ。
「あの子たちの、名前はね……」


 邪神の体内に揺蕩う様々な“異界”。
 終わりの日を繰り返す絶望に埋め尽くされた世界で、仮に己の間違いに気づいたとしても、それを一体どう正せばいいのだろう?
 自分は世界に馴染めていない。この法則性にそぐわないイレギュラーだと自覚して、その何人が地獄から抜け出す勇気を持てるのか。
 その世界も何度目かわからない終わりの時を迎えようとしていた。
 イレギュラーとして覚醒した誰かが、その終わりを何度も何度も繰り返し観測し――そしてまた絶望する。
 痛みも恐怖も枯れ果て、わかりきっている終焉をただぼんやりと眺めることしかできなかった。
 シェオル型歪虚の群れが眼前まで迫っても、彼は逃げるそぶりすら見せない。
 当たり前だ。だって逃げ場なんてない。必ず殺される。
 だったら何もしない方がいい。じっとして、膝を抱えて、両手で耳を塞いでいれば――すぐに、すぐに終わって――。

「…………どぉ~~~~っこいしょおおおおおおおーーーーーっ!!」

カレンデュラ

ザッハーク

メイルストロム

 世界の終わりに似つかわしくない、若干間抜けな雄たけび。
 空から落ちてきたソレは、大地に打ち付けた拳から放つ衝撃波でシェオルを蹂躙せしめる。
「君、大丈夫!? 怪我はない!?」
 無意味な質問だ。怪我なんて、死んでループすれば治るもの。
 いや、そんなことより――こいつは誰だ? こんな事象、一度だって見たことはなかった。
 赤いスカートと髪を風に靡かせて真っすぐに笑うその身体は、シェオルの憎悪に汚染されている。
 振り返り、歪んだ左手を差し伸べる。そうしてずっと誰かに言ってほしかった、その言葉を――。
「もう大丈夫だよ。君を――助けにきたんだ!」
 手を取ろうとしたその時、少女の背後からシェオルが襲い掛かる。
 だが、その刃が少女に届くことはなかった。上空から降り注いだ閃光の雨が、次々に脅威を貫いたからだ。
「勝手に先行するのは構わんが……油断が過ぎるぞ、仇花の」
「いやー、ごめんごめん。一秒でも早く“助けにきた”って言ってあげたかったもので……」
 もう片方もやはり赤いシルエット。だが、こちらは明確にヒトですらない。
 赤い鱗を持つドラゴンは光の翼を収め、二人の傍に降り立つ。
「あんたたちは……僕たちと同じ、邪神に取り込まれた歪虚……?」
「そうだよ。そして君と同じ、間違いを自覚した“イレギュラー”さ」
 黒く闇に覆われた空に、無数の光が雪崩れてくる。
 外界からの干渉を受けて異界に産まれたひずみは、巨大なドラゴンを顕現させた。
「カレンデュラ、その少年は任せたぞ。私はメイルストロム様と合流する」
「オッケー! 気を付けてね、ザッハーク!」
 光の翼を広げ、赤い龍は飛び去って行く。
 それを見送り、赤い騎士の少女はニマリと笑う。
「さてさて少年。君の他にもいるんでしょ? この世界を変えたいと願っているイレギュラーが」
「イレギュラー……? それが、僕たちの名前……?」
「そうだよ。世界がループする限り、ここを凌いでも解決にはならない。だから……あたしたちに力を貸して」
 少女の言葉は力強く、その眼差しはとても熱い。
 だからだろうか。自然と手が伸びて、闇に歪んだ腕を掴んでしまう。
「僕たちは……どうしたらいいの? どうしたら……良かったの?」
 何度ループしてもわからないんだ。
 終わっていく世界に対して何ができたのか。どうすることが、正解だったのか――。
「簡単なことだよ」
 立ち上がった少年を、騎士は暖かく両腕で抱きしめる。
「未来を信じて、諦めないで。みんなは絶対に来てくれるから」
「みんな……?」
「私の――大事な仲間たち、だよっ!」
 過去から連なる願いを、祈りを、そして命を受け継いでくれた。
 だから逃げない。
 何が出来るのかもわからないけれど、可能性だけは、ゼロにしちゃだめだ。
「運命には負けない。そんなものはぶっ壊せるんだって、未来に教えられたから」



ファーザー

 鳴りやまぬ悲鳴と、ファーザーは向き合い続けてきた。
 そして知ってしまった。目的も願いも何もかもかなぐり捨てて、それでも他者を抹殺したいという意志を。
 どれだけ長い時間を彼らとの対話に費やしただろう。
 彼らは決して受け入れない。理屈じゃない。終わってしまった何かに縋り、新たな旅路すら否定する。
 信じたくなかった。認めたくなかった。これが既存宇宙の出した答えだと。
 人類は度し難く醜悪で、その憎悪は未来すら焼き尽くしてしまうのだと。
「今の私に……敗北者たる私に、何が出来る……?」
 可能性を信じ、可能性に敗れた。
 自ら命を絶ち、闇に支配され、摩耗しきった心に去来する願い。
「願い……願い、だと? まだこの私に、そんなものが許されるとでもいうのか?」

 勘違いするな。オマエはもう失敗した。
 出来ることなど何もない。
 運命に跪き、永劫の中で泣いて許しを乞え。
 たったひとつそれだけが、オマエに許された償いだ。

 宇宙の果て、異世界に浮かぶクリムゾンウェストを見つめ、男は無感情な瞳を細める。
(ああ――それでも。それでも許されるのなら……どうか最期に見せてほしい)
 ぼんやりと口を開き、魅了されるように。
 そっと、傷だらけの手を伸ばす。
「可能性を……宇宙の理すら覆す、高潔な魂を。この願いを託すに値する――命の答えを」



 選ぶ事すら躊躇うような、重く苦しい血の宿業。
 唯一無二の正解も、約束された未来もない。
 苦しみの中、それでも選び取ったというのなら。
 肯定しよう、その決断を。
 振り返るなかれ。
 ここに――第四の運命は開かれた。

(執筆:神宮寺飛鳥
(文責:クラウドゲート)

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