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(ka0000)
【蒼乱】「崑崙基地防衛戦A トマーゾ教授確保」 リプレイ


▼ダブルグランドシナリオ「崑崙基地防衛戦」(7/26?8/16)▼
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作戦3:トマーゾ教授確保 リプレイ
- アルマ・A・エインズワース(ka4901)
- ミリア・エインズワース(ka1287)
- ジョージ・ユニクス(ka0442)
- アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
- ティス・フュラー(ka3006)
- リューリ・ハルマ(ka0502)
- コントラルト(ka4753)
- リリティア・オルベール(ka3054)
- ウィンス・デイランダール(ka0039)
- 紅薔薇(ka4766)
- ラヴィアン・リュー(kz0200)
- 真田 天斗(ka0014)
- トマーゾ・アルキミア
- 黙示騎士マクスウェル
- オウカ・レンヴォルト(ka0301)
- リュー・グランフェスト(ka2419)
- シェルミア・クリスティア(ka5955)
- 門垣 源一郎(ka6320)
- イレーヌ(ka1372)
- ソアレ・M・グリーヴ(ka2984)
- 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)
- アルスレーテ・フュラー(ka6148)
- エルバッハ・リオン(ka2434)
- 箍崎 来流未(ka2219)
- 鵤(ka3319)
- ピオス・シルワ(ka0987)
- 八代 遥(ka4481)
- 八島 陽(ka1442)
- 星野 ハナ(ka5852)
- 上泉 澪(ka0518)
- グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)
- キヅカ・リク(ka0038)
- ボルディア・コンフラムス(ka0796)
●
ハンター一同はトマーゾ教授がいるとされる造船ドックへ向かって慣れない無重力空間をもがくように進んでいた。
「ミリア、ジョージ君! これ楽しいですー!」
崑崙内は重力は無いが空気はある為、会話が可能だ。
いち早くコツを掴んだアルマ・A・エインズワース(ka4901)が、前方へ身体を前のめりに押し出すように地を蹴り、前へと進んでいく。
無邪気に喜び楽しんでいる様に見えて、その目はハンター達を狙う狂気達の接近を捕らえ、なるべく最短距離を進むべくアルマがジェットブーツを使いながら、背にミリア・エインズワース(ka1287)、さらにミリアの背にジョージ・ユニクス(ka0442)を背負うという、『親亀、子亀、孫亀』状態で3人はぐんと前へと進む。
「うわぁ!」
「おい、ジョージ! しっかり掴まってろ!」
「うぅ、はい……」
男として成長中の少年には、友人とは言え女性の背に乗るとか、その上しがみつくという事に面映ゆいものがあるが、うっかり手を離せば慣れない無重力空間ではぐれる可能性もある。
ジョージは盾を背に回し、ミリアの背にしがみつく。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は腰にロープを括り付け、【猫待月】の仲間であるティス・フュラー(ka3006)やリューリ・ハルマ(ka0502)、コントラルト(ka4753)にその先端を握らせていた。
機械脚甲「モートル」のふくらはぎから出る気流を上手く利用することで、前へと進んでいく。
コントラルトも、そんなアルトを助けようとロープの端を握ったまま、ジェットブーツを使用した上でアルトを投げた。しかし、自分を固定した状態で無ければ投げた反動で自分が逆方向へ飛んでしまう為、結局お互いを引っ張り合ってしまって上手く行かず、結局はアルトの移動制御の補助に回ることとした。
「うーん、戻ってきた筈なのに見慣れた風景というか……敵、敵、敵だらけって……こんな物騒な世界じゃなかった筈なんですけどね」
向かってくる小型狂気を斬り払いながらリリティア・オルベール(ka3054)は溜息を吐いた。
ピンボールのように通路の壁を蹴りながら、感覚は壁歩きに近いが、重力が無いとこんなにもふわふわと心許ないものなのかと不思議な心持ちで前へと進む。
ウィンス・デイランダール(ka0039)は磁力発生装置付きの靴に、脚甲、及び、機械槍「タービュレンス」の噴射口からの気流を利用しながらこの無重力空間に対応していた。
紅薔薇(ka4766)はそんな2人の後に続きながら、トマーゾ教授について思案していた。
彼は何者なのか。何を企んでいるのか。それを問う事が出来るのか。
彼らにとって近寄る小型狂気などは敵ではないが、造船ドックでは大きな破壊音が轟いていた。何かがいる。その予感を胸に、紅薔薇はどんどんと前へ進んでいく2人に置いて行かれないよう必死に宙を駆けた。
道中の小型狂気達を蹴散らしつつ、一同は比較的速やかに軍事ドームの中を駆け抜け、一つの大きな扉の前に辿り着いた。
「ここが造船ドックよ。……準備は良いわね? 行くわよ」
ラヴィアン・リュー(kz0200)がスロットにIDカードを差し込み、扉を開ける。
そしてIDカードをアルマに手渡した。
「よろしくお願いするわ」
「はい、お任せ下さい」
アルマは人懐っこい笑顔で頷いて見せた。
音も無く開かれた扉の向こうは、破壊された三番艦の大小様々な残骸や破片が宙に浮かび、視野が良くない。
頭上にはぶち抜かれた天井を覆うように蠢く狂気の歪虚達が漂っており、ハンター達は慎重にドック内へと侵入する。
何枚目だろうか。とてつもなく広い空間をふわりと漂う鉄板を押しのけ、真田 天斗(ka0014)の双眸は広いドックの端、モニターのそばにトマーゾ教授と騎士風の大きな黒い影を捕らえた。
『良く来たな、異界の救世主よ』
黒い影が一歩踏み出す。それだけで、負のマテリアルが足元から渦を巻いて立ち上るような錯覚を得る。
――これは、危険な存在だ。
ハンターなら誰しもがそう肌で感じる程に、黒い影は自分が『敵』であることを隠していない。
「オウカ・レンヴォルト……いや、御神楽謳華、だ。よろしく、な。騎士みたいの」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)が律儀にも名を名乗り、斬魔刀「祢々切丸」の柄に手を掛ける。
『おぉ、こりゃご丁寧に、どうも?』
「クリムゾンウェストが騎士、リュー・グランフェストだ。覚えとけ!」
リュー・グランフェスト(ka2419)も吼えるように名乗るとバスタードソード「ガラティン」を構えた。
「お前の、名は?」
『何、名乗るほどの者じゃねぇさ』
小馬鹿にするように黒い影は嗤う。そして、無造作に剣を振った。
大剣から生まれた赤い光は、敵に悟られないように迂回しながらトマーゾ教授への接近を図っていたシェルミア・クリスティア(ka5955)の目の前で炸裂した。
「っ!?」
『外したか。悪かったな。安心しろ、次はきちんと跡形も無く吹き飛ばしてやろう』
「このっ!」
リューが守りの構えを取りながらも正面から斬り掛かりに走る。
『そうだ、オマエ達の力とやら、見せてもらおうじゃないか』
楽しそうにリューの一撃を大剣の腹で軽々と受け止め弾き、弾かれた反動で宙へ浮いたリューへとお返しとばかりに鋭く重たい一撃を振り下ろす。
それをリューも反射的に身を捻ることで辛うじて避けるが、反動が殺せずそのまま明後日の方向へと飛んで行ってしまう。
「私達の力を見たいと言ったか?」
アルトが超重刀「ラティスムス」を抜刀し静かに歩み寄る。
「なら、提案がある」
『ほう?』
「私達がお前の予想を超えたら、今回は博士を諦め帰らないか」
アルトは博士のそばにいながらもこの黒い影が博士を殺さなかった事から一つの取引を持ちかける。
「我々の事を見たいんだろう?」
――闘ってみないか、と。
黒い影は喉の奥でくつくつと嗤ってアルトを見る。
『いいね。オレに勝つ気でいる。その無謀さがいい。面白い、いいだろう。……オマエは動くなよ、トマーゾ。巻き込まれても知らんぞ』
拘束されながらも身じろいだトマーゾ教授に釘を刺すと、黒い影は人差し指一つをクイクイッと動かし、“おいでおいで”とハンター達を挑発する。
『さぁ! 相手をしてやる! 存分に闘おう!!』
黒い影の宣言と共に、空中を漂っていた小型狂気達の視線が一斉にハンター達に降り注ぎ、同時にハンター達も一斉に動き始めた。
●
「ぐっ……あぁ……」
目の前に現れた5体の狂気達が複数の瞳で門垣 源一郎(ka6320)を捕らえた。
次の瞬間、源一郎の目の前には屍の山が広がり、それらが一斉に源一郎を見、彼に『償い』を強要する。
「源一郎!」
イレーヌ(ka1372)がすかさずキュアを唱え、源一郎を狂気の鎖から解放する。
「アイツらの目を見てはダメよ!」
ラヴィアンが狂気に侵され暴れ始めたソアレ・M・グリーヴ(ka2984)の頬を張り飛ばすと正気を取り戻させる。
「め、目を見るなって言われましても……」
レクイエムを歌い終わったルカ(ka0962)が混沌とした現状を見て嘆く。
誰もが話しには聞いていたはずだ。狂気の存在は混乱を招くと。故に、目を合わせてはいけない、彼らが発する音を聞いてはいけないと。
勿論ハンターは人並み外れた抵抗力がある。歴戦のハンターともなれば小型狂気一体を見たところで、彼らに侵食されることもほぼ無いだろう。
しかし、数が数だ。視線を逸らした所で他の個体がいれば、そして一気に複数の個体に見つめられればその分だけ不利になる。そして何より、『視線を逸らす』という明確な意識を持って行動した者が圧倒的に少なかった。
トマーゾのいる場所を目指し、ラヴィアンを護衛している者達は不意に視界に入るおぞましい狂気の姿、狂気の侵食に鋼鉄の意志で抵抗しながらも、じりじりとしか前へと進んでいく。
「ムジューリョク……ふむ、何とも摩訶不思議なものよの?」
浮遊物を利用しながら敵の視線をかいくぐり、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が味方のいない、小型狂気の群れに向かって素早くブリザードを放つ。
冷気の嵐は周囲の破片を巻き込みながら吹き荒れた。
ティスのライトニングボルトが遠くから接近する小型狂気を撃ち落とし、接近してきた小型狂気はリューリの戦槍「ボロフグイ」が貫き刺し倒す。
(何よ、せっかくリアルブルー観光のつもりで来たのに、観光どころじゃないじゃない……)
最初こそそう嘆いていたアルスレーテ・フュラー(ka6148)だが、小型狂気のレーザーに気付き、ラヴィアンを身を挺して庇う。
「怪我は?」
「大したことない、かな? ちょっと頼りないけどごめんねー」
さらに近寄ってくる小型狂気に向かって鉄扇を振りかざすと青龍翔咬波を放つ。
練り上げられたマテリアルはその直線上にいた小型狂気達を巻き込み、墜落させていく。
「いいえ、頼りにしているわ」
生真面目なラヴィアンの声に、アルスレーテは一瞬ぽかんとラヴィアンを見た後、ふわりと微笑んだ。
「私は雑魚の排除にまわりますので、あちらの強敵はお任せします」
一斉に動き出すのを見て、エルバッハ・リオン(ka2434)は仲間に向けてそう宣言すると、小型狂気が密集している箇所へとファイアーボールを撃ち込んだ。
爆発の威力に周囲に浮かぶ三番艦の破片が大きく旋回しながら四方へと飛び去っていく。
「っ! 危ない」
飛んできた巨大な鉄板を後方に飛んで避けるが、今度は下から跳ね返ってきた鉄板が迫ってきて、慌てて両足でそれを踏み付けるようにして避けた。
しかし今度はその踏みつけた反動でエルバッハの身体は更に宙を錐揉みしながら回転して明後日の方向へと飛んで行ってしまう。
「っく……何て闘いにくいの……!」
辛うじて壁に激突する前に壁に手を付いてその身を安定させると、エルバッハは壁を背にして、再びファイアーボールで小型狂気達を撃ち落としていった。
(とにかく全力移動して小型を押し退けてトマーゾに向かおう)
箍崎 来流未(ka2219)は小型の姿を見る度に、宙に浮かぶ残骸などを利用して避けながら、宙を跳躍しつつ全力で前へ前へと進んでいた。
その前に、一人の男の姿が見えた。彼は盾と杖を構えてはいたが、その背後から近付く狂気に気付いていないようだった。
「大変! 助けなきゃ!」
味方の誰ひとり、重体以上の状況には絶対にさせたくないという思いから、来流未は方向転換をかけて跳躍した。
その、目の前に別の狂気が降る様に現れる。
「!!」
咄嗟に日本刀「虎徹」を振り上げる。
「くふ……キャハハハハハハ!」
紅眼の瞳が小型狂気を捕らえ、その触手が来流未に襲いかかろうとも構わず更に高笑いと共に斬り付けていく。
鵤(ka3319)は後衛から……と思っていたものの、相手は無数に宙に浮く小型狂気。しかもドック内は広く、壁を背にすることは出来ても無重力状態では“そこが安全"である保証は無いという状況に辟易しながらも、漂う残骸に掴まりながらファイアスローワーで近付いて来た小型狂気を一気に焼き払う。
その時、背後から突如聞こえた笑い声に振り向き、間一髪で背後にいた小型狂気からのビームを盾で受けた。
「っぶなぁっ!」
冷静に周囲にいる小型狂気を3体纏めてデルタレイで貫き、声の主を見る。
「……狂気に染まっているわけじゃぁ、ないんだな……」
高笑いしながら攻撃を繰り出している来流未を見る。その攻撃対象が小型狂気であるのを見て「人騒がせな」とやや脱力しながら、ラヴィアンの周囲にいる聖導士達の方へと移動を開始した。
しかしこの直後、鵤は狂気によって精神汚染を受けた者達に囲まれるのであった。
ピオス・シルワ(ka0987)は自分が立てたアースウォールの陰に隠れながらファイアアローで狂気を狙い撃っていた。
戦場は動く。トマーゾを救いに行く者、ラヴィアンを護衛する者、あの黒い騎士のような大男を相手取る者。
そして重力が無いこの空間では壁を背にしない限り、全方向が前であり、上であり、下だった。
慣れない無重力戦の中、土の壁の上から無数の目がピオスを捕らえる。
……気がつくと、目の前には共に小型狂気を相手取って闘っていたはずの八代 遥(ka4481)がこわばった表情で自分をのぞき込んでいた。
「……僕は……?」
「あぁ、気がつかれましたか、良かった」
心から安堵したように微笑んだ遥は、見れば所々宇宙服が煤けている。
「敵の目を見ないように気を付けて下さいね」
「僕は、まさか……!!」
狂気の無数の目と目が合った所までは覚えている。しかし、今いるのは土壁からは遠く離れた天井付近で。
「すみません、止めるのにちょっと強く殴っちゃったから……痛みますか?」
言われれば後頚部が鈍い痛みを訴えるが、そんなことは問題では無かった。
「みんなは……!?」
「闘っています。……動けますか?」
ピオスは神妙な顔で頷く。それを見て、安心したように遥は目元を細めると、頷き返した。
そしてスタッフ「アライアンス」を構えドックの天井に空いた穴に向かってファイアーボールを投げつけた。
「異世界から帰ったら魔法は使えなくなってました、なんて事が無くてよかったですよ」
どうやら小型狂気はここから中へ侵入してきているらしい。
爆煙をくぐり抜け接近してきた小型狂気に向かってピオスもファイアアローを放つ。
「さあ――凍てつき焼かれ、この世界から出ていきなさい!!」
激戦が繰り広げられる中、宙を漂う人体を目にして保・はじめ(ka5800)は思わず引き寄せ、先ほど入ってきた扉のそばへと降り立った。
恐らく、ここの兵士なのだろう。どのような攻撃を受けたのかは解らないが、かなり苦悶に歪んだ表情で絶命していた。
その両目をそっと閉じてやると、兵士の宇宙服のベルトとドックの柱を結び、勝手にどこかへ行かないように固定してから、はじめは再び黒い影と闘う仲間の元へと向かうべく地を蹴った。
符を構え、投げる。強敵を前に闘う仲間へ小型狂気が横槍を入れないようにする為に。
「初めまして、アルマですー」
ようやくトマーゾの元まで辿り着いたアルマが人懐っこく笑いかけた。
「早速なんですけど、重力制御装置ってどれです?」
「あ、あぁ? それなら、あの機械だ」
顎で示された先にある機械を見て、「わふ?」と首を傾げたアルマは大きく頷いて機械へと歩み寄る。
「待て! IDカードとパスが」
「あ、ラヴィアンさんに教えて貰ってますー」
楽天的な口調でアルマは手短に答えると、すぐに機械へと向かう。
その背後を、ミリアとジョージ、そして八島 陽(ka1442)が直衛にあたる。
アルマとコントラルト、そして陽は手持ちの発煙手榴弾を1つずつ、それぞれ違う方向へ投げた。
そうすることによって、より多くの仲間に作戦がスタートしたことを知らせる目論見だ。
ティスとコントラルトはトマーゾの拘束を解こうとその背後へ回る。
その時だった、トマーゾが何かに気付き、叫んだ。
「いかん! やめるんだマクスウェル!!」
近付いて来た狂気を斬り飛ばした直後だったリューリは、何事かとトマーゾを見、そして赤い光に飲まれた。
●
星野 ハナ(ka5852)が周囲の小型狂気を巻き込みながら五色光符陣を展開する。
そのタイミングに合わせ、上泉 澪(ka0518)も全力で倒すべく一気に駆けだした。
澪の一撃を躱す事も無くその鎧で受け止めた黒い影は、事もあろうか刀身を掴んで澪ごと宙へと放り投げた。
天斗が前へと力強く踏み出し一気に間合いを詰めると、敵の懐へと飛び込みバトラー・グローブをはめた拳を繰り出した。
しかしその拳は黒い影の硬い鎧に阻まれ止まるどころか、無重力状態では反動が一切殺せず、宙返りをしながら後方へと弾き飛ばされていく。
アルトもまたエンタングルで仲間のサポートに回っていたが、そもそもこの影は攻撃を避ける、という行動を一切取っていないことに気付き、超重刀に持ち替えると、リューと共に宙に浮く残骸を上手く使いつつ、斬り掛かった。
「これ位の窮地、何度も経験してんだよっ!!」
しかしリューとアルトの連携による渾身の力を込めた一撃ですら、軽くいなされて2人揃って弾き飛ばされる。
「随分デカい剣、だな……俺も負けてはいない、ぞ」
オウカがジェットブーツで一気に距離を詰めつつ祢々切丸で斬り掛かるが、左腕一つに刃を受け止められ、さらに腹を蹴られ後ろへと吹き飛んだ。
「負けてはいないと、言ったはずだ……!」
オウカはギリギリの目算をつけ、身を捻ると漂う残骸に両足で着地する。そして一気に祢々切丸へマテリアルを流し込むと巨大化させ、届くはずの無い位置からの攻撃を仕掛けた。
『ほぅ……面白いな』
「な、に……!?」
しかしその奇襲ですら大剣の腹で受け止めると、その剣をちらりと見た。
『……こうかな?』
黒い影は全身から赤い負のマテリアルを吹き上げ、剣へとそれを注ぎ、無造作に払う。
しかしそれは超重錬成のように武器を巨大化させるのでは無く、結局は先ほどから何度も見ている負のマテリアルを剣圧で押し出す、というそれに過ぎない。
しかし、その威力は凶悪で広範囲に渡る。
周囲のハンターを巻き込みながら迫り来る赤い力。オウカは再度攻性防壁を展開するが、防ぎきれず、残骸を背にドックの端まで飛ばされていった。
「オウカ!」
トマーゾへと向かっていたイレーヌが、思わず足を止め、鮮血の帯を引きながら飛んで行くオウカを見る。
「行ってあげてください」
ここからではヒールが届かない事に気付いたソアレがその背を押し、頷く。
イレーヌは感謝を込めて頷き返すと、オウカを追い宙を飛んだ。
『上手く行かないな』
「くそっ!」
デルタレイを撃ち果たしたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が機導剣で斬り掛かる。
キヅカ・リク(ka0038)も敵の正体を見極めようとワイヤーを黒い影の右腕に絡ませ、張り付く。
『どれ』
そのワイヤーを逆に引っ張られ、慌ててワイヤーから手を離すも無重力では踏ん張ることも出来ず、グリムバルドに激突し、2人はぐるぐるともつれ合いながら飛んで行く。
そんな2人へ影は赤い剣圧を放つ。
「!」
キヅカはグリムバルドを庇いながら咄嗟に防御障壁を展開するが、砕けても尚その勢いは止まらず、甲冑の上からにもかかわらず自分の肋骨が折れる音を聞いた。
『何だ、この程度か。足りんなぁ……この程度では物足りんぞ!』
嘲るように影は大きく宙を仰ぐ。そして再び大剣に赤い光を放つ負のマテリアルが集まっていくのを感じ、ハナは目を見張る。
「今までにない負のマテリアル……! みなさん、気を付けてくださいですぅ!」
誰もが範囲攻撃に備え身構えたその時、影は高らかに声を張り上げた。
『さぁ! 踊って貰おうか、救世主ども!!』
「いかん! やめるんだマクスウェル!!」
トマーゾの叫び声が響く中、影は高笑いと共に大剣を床に突き刺した。
剣を中心に床の上を禍々しい赤い光が波のように駆け抜け広がってく。
「っ、どこまで広がって……!?」
失神したキヅカを抱いていたグリムバルドがいる壁際にまで赤い波が押し寄せ、視界が赤に染まる。
そしてグリムバルドはギチリ、と奥歯を噛み鳴らし、振動刀を手に取るとキヅカを放し壁を蹴った。
「……お前は、コロス」
そして一斉に半数以上のハンター達が各々の得物を手に黒い影――マクスウェルへ向かって突進していった。
そこには、トマーゾやラヴィアンの救助・護衛に向かっていた者も含まれる。
『笑いが止まらんな! この程度か、救世主!』
ただ無闇に突撃していくハンター達をマクスウェルは片手一つで薙ぎ払う。
「……おいコラ、クソ歪虚、テメェ俺達に何してくれやがった」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が眉間から血を流しながら、マクスウェルに問う。
ボルディアはあの光を浴びた瞬間、爆発しそうになる攻撃衝動を自分の眉間を銃床で強打することにより抑えていた。
『ほぅ……オレの能力に耐えたか』
マクスウェルはその間も斬り付けに来るアルトやリュー、天斗を軽くあしらいながらボルディアを見た。
『何、ちょっとオレを“恐ろしい物”と認識してもらっただけさ』
マクスウェルに全力で集中していた澪も、それ故に完全に我を失い、ただがむしゃらにマクスウェルへ大太刀「獅子王」を振り下ろしては、大剣に弾かれ、巨大な残骸へと叩き付けらる。
その一方でトマーゾへ向かって行っていた者の半数は、マクスウェルから距離を取るように離れ、震えていた。
「……この力、“狂気”じゃねぇ……お前、何モンだ?」
“狂気対策”として精神安定剤を持ってきていたウィンス、リリティア、紅薔薇の3人も、自分の変調に気付いた瞬間に安定剤を打ち込んだ為、正気を保ったままマクスウェルと対峙していた。
『さぁ、何だと思う?』
黒い昆虫のような仮面の下に、赤い三日月のように歪む口元が見えた気がした。
●
ミリアは赤い光に飲まれる少し前、隣に居たジョージの挙動がおかしいことに気付いた。
「ジョージ?」
伸ばした手は払われ、その瞳には狂気の色が宿っている。
「っこのバカっ!!」
殴り飛ばして正気に戻してやろうとした瞬間に、赤い光に飲まれた。
不意を突かれ、ジョージに飛び掛かられたお陰でアルマを巻き込み転倒したミリアは、マクスウェルの術にかかることなく立ち上がった。
「アルマ、大丈夫か? ……このっ!!」
ミリアはむんずと鎧の接続部を掴むと、狂気の密集している地点へとミサイル宜しくジョージを投げ飛ばした。
「イタタ……えぇ、はい、大丈夫ですよー」
機械に強かに頭をぶつけたアルマも、そのお陰で術にかかることが無いまま再び制御装置へと向かう。
シェルミアは震える手で何とか安定剤を自己注射すると、徐々に酷い震えと恐怖感が抜けて行くのが判った。
そして、過呼吸を起こしているアルスレーテの元へと走ると、両肩を強く掴み揺さぶるとその両頬を掌で包んだ。
「大丈夫、まずはゆっくり息を吐きましょう」
暫くカタカタと忙しなく揺れていた瞳に、徐々に冷静さが戻り、呼吸が安定してきた。
「……ぁ、わ、わたし……」
「みなさんをお願いします」
正気に戻ったのを見て、シェルミアは同じように震えているルカの元へと走る。
狂気による混乱で暴れる者、マクスウェルの放った赤い光により我を失っている者によって戦場は混沌としていた。特に痛いのは他者回復が出来る者が尽く敵の術中にはまってしまったことだ。
シェルミアはまず、状態回復が出来る者から正気に戻すべく駆け回った。
はじめもまた、精神汚染への備えとして持ってきていた安定剤を使い、冷静さを取り戻していた。
狂気の汚染と違い、マクスウェルの精神攻撃は“マクスウェルを排除しようと特攻する者”と“マスクウェルに怯え震える者”に分かれる特徴があった。
「仲間を攻撃しないだけ、マシとみるべきなのでしょうか……」
慣れない無重力の中、動かないオウカを抱きしめ震え泣いているイレーヌへと駆け寄ると、オウカの脈を確認し、生きている事を告げる。
「イレーヌさん、深呼吸しましょう。そして、オウカさんにヒールを。落ち着いたら、みなさんにキュアをお願いします」
冷静なはじめの対応にイレーヌも我を取り戻し、乱暴に頬を拭うと力強く頷いた。
「……わかってる、オウカはもう大丈夫。私も行くよ」
ルカはシェルミアの声により恐怖による全身の震えを抑え、何とか立ち上がった。
見れば、仲間がてんでばらばらにマクスウェルに突っかかっては、明後日の方向へと飛ばされていく。
「……しっかり、しなくちゃ……!」
ルカは自分の方へと飛ばされてきた澪へとキュアを唱え始めた。
我を失い突撃していくだけのリューリを、コバエを払うかのように剣先で払いながらマクスウェルは一歩一歩トマーゾへと歩いて行く。
逆にいち早く冷静さを取り戻した一同は、連携も何もなく、己の衝動のままにマクスウェルに突撃していく仲間のお陰で上手くタイミングが計れない。
「邪魔くせぇ!!」
ボルディアが吼えた。無計画に打ち出された仲間のファイアーボールに毛先を傷めながらも雄叫びと共に宣花大斧をマクスウェルへ叩き込むが、その一撃も剣で受け止められ弾き返される。その衝撃にボルディアの身体は宙を舞う。
(無重力状態はコイツも同じはずなのに、何でびくともしないんだ?)
残骸を掴み勢いを殺し、それを蹴ることで方向転換をして床へと降り立つと、再び駆け寄り大木を切り倒すような一撃を胴目がけて振り下ろす。
それも剣で受け止められるが、ボルディアはその時、足元から負のマテリアルが吹き上がるのを見て舌打ちした。
負のマテリアルがジェットブーツのような効果を常時発動しているらしい。
「この俺を殺してみやがれクソ歪虚ォ!」
ボルディアの咆吼に、マクスウェルは肩を揺らして嗤う。
『確かに、オマエを殺すのは骨が折れそうだ』
再び放たれた剣圧は広範囲に渡り、周囲の残骸を粉砕しながら斧で受けたボルディアを遠く反対側の壁の天井付近まで吹き飛ばした。
「……っ! 来るな……!」
アルスレーテのお陰でいち早く恐慌状態から脱した陽が近付くマクスウェルを牽制しようと龍鉱石を砕き撒く。キラキラとした輝きが陽の回りを彩るが、マクスウェルは首を傾げた。
『それがどうした?』
「!?」
確かに龍奏作戦の時、龍鉱石は特殊な効果を生み出した。しかし、それはその時限りの“奇蹟”だ。
現在の龍鉱石は身につければ抵抗力は上がるが、それ以上の効果は喪失している。
そのことを失念していた陽は放たれた一撃に攻性防壁を展開するが、陽の意識ごと遠くへ吹き飛ばした。
「あとは……このキーを入れるだけっと」
アルマは最後にもう一度、頭上高くへ向けて残りの発煙手榴弾を一斉に放り投げた。
「ミリアさん……? アルマさんっ!!」
ルカのキュアにより正気を取り戻したティスがアルマに向かって叫んだ。
「わふ?」
アルマが振り返ると、赤い瞳を狂気に染め輝かせたミリアがアルマの腹部を祢々切丸で貫いていた。
「……ないで……」
ミリアの震える呟きにアルマは目を細めると、その背に腕を回し、子をあやすようにぽんぽんと叩いた。
「大丈夫、ここにいます」
「……ぁ……あぁあああああ!!」
貫かれた所が灼熱の痛みを伴い、意識が飛びそうになる。
それでもアルマはそのまま動かず、正気を取り戻したが為に衝撃に震えるミリアをあやし、そして、最後のキーを押した。
けたたましい警報音が鳴り響くと、無重力空間だったドック内へ一挙に重力が戻った。
●
三番艦の残骸が轟音を立てながら次々に床へと叩き付けられる。
大きな残骸はその衝撃に更に砕け、ひしゃげ、飛び散り沈む。
宙に浮いていた発煙筒も煙を吐きながら地面を転がり、残骸に潰されていく。
煙による合図に気づけなかった者も、混乱していた者も、マクスウェルの術にはまっていた者も、その全てが警報音のお陰で我に返り、すんでの所で破片の直撃を間逃れていた。
そして、マクスウェルの術から解放され、発煙筒の合図に気づけた者は、重力が戻ると同時に一斉にマクスウェルへとその刃を突き立てていた。
全ての残骸が地に落ち、つかの間の静寂が広い造船ドックを支配した。
最初に動いたのは、4本の剣に刺し抜かれたマクスウェルの両肩。
『くく……くくく……アーッハッハッハッハッハ!!』
マクスウェルは何が楽しいのか、全身を揺らして嗤っていた。
各々が刃を引き抜き、距離を取ると慎重に構え直す。
「っ……バケモンが……っ!」
ウィンスが、リリティアが、紅薔薇が、澪が突き立てた刃に身を貫かれても、マクスウェルは一歩もその場から動いていなかった。
『今のは少し痛かったぞ。なるほど、良い攻撃だ』
マクスウェルが再び剣に負のマテリアルを集め始めたのを見て取り、4人はその攻撃を阻止しようと再び一斉に斬り掛かる。
『遅い』
しかし、マクスウェルの攻撃の方がコンマ1秒の差で早かった。
360度、その場で独楽のように回転すると、全周囲に赤い光が放たれ、それは4人の鎧の上からにも関わらず内臓を潰した。
その場に崩れ落ちた4人を見て、それからトマーゾの方を見て、彼の姿がハンター達の背に庇われていることを確認する。
『これが救世主の力か。いいだろう。今日の所は引き上げてやる』
「……いいのか?」
傷を抑えながら超重刀を支えに立つアルトが、冷や汗を浮かべながら問う。
『“オマエ達がオレの予想を超えたら帰る”そういう条件だっただろう? そもそも、今この場でオマエ達を全滅させた所で意味はない。元を……クリムゾンウェストを絶たねばな』
ブリザードを放とうとしていた遥も、周囲のハンターを巻き込む可能性に術を放てず、下唇を噛む。
『また逢おう、次は全力で相手をしてやる。……トマーゾ! せいぜいそいつらを鍛える事だ! オレを失望させるなよ!!』
そうマクスウェルが言うと、見守るハンター達の目の前で黒い光に吸い込まれるようにしてマクスウェルは消えた。
マクスウェルがいなくなったドック内は寒々しいほどに広い。
ただそこには乱れた呼吸音とかすかな呻き声が重苦しく響いたのだった。
ハンター一同はトマーゾ教授がいるとされる造船ドックへ向かって慣れない無重力空間をもがくように進んでいた。
「ミリア、ジョージ君! これ楽しいですー!」
崑崙内は重力は無いが空気はある為、会話が可能だ。
いち早くコツを掴んだアルマ・A・エインズワース(ka4901)が、前方へ身体を前のめりに押し出すように地を蹴り、前へと進んでいく。
無邪気に喜び楽しんでいる様に見えて、その目はハンター達を狙う狂気達の接近を捕らえ、なるべく最短距離を進むべくアルマがジェットブーツを使いながら、背にミリア・エインズワース(ka1287)、さらにミリアの背にジョージ・ユニクス(ka0442)を背負うという、『親亀、子亀、孫亀』状態で3人はぐんと前へと進む。
「うわぁ!」
「おい、ジョージ! しっかり掴まってろ!」
「うぅ、はい……」
男として成長中の少年には、友人とは言え女性の背に乗るとか、その上しがみつくという事に面映ゆいものがあるが、うっかり手を離せば慣れない無重力空間ではぐれる可能性もある。
ジョージは盾を背に回し、ミリアの背にしがみつく。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は腰にロープを括り付け、【猫待月】の仲間であるティス・フュラー(ka3006)やリューリ・ハルマ(ka0502)、コントラルト(ka4753)にその先端を握らせていた。
機械脚甲「モートル」のふくらはぎから出る気流を上手く利用することで、前へと進んでいく。
コントラルトも、そんなアルトを助けようとロープの端を握ったまま、ジェットブーツを使用した上でアルトを投げた。しかし、自分を固定した状態で無ければ投げた反動で自分が逆方向へ飛んでしまう為、結局お互いを引っ張り合ってしまって上手く行かず、結局はアルトの移動制御の補助に回ることとした。
「うーん、戻ってきた筈なのに見慣れた風景というか……敵、敵、敵だらけって……こんな物騒な世界じゃなかった筈なんですけどね」
向かってくる小型狂気を斬り払いながらリリティア・オルベール(ka3054)は溜息を吐いた。
ピンボールのように通路の壁を蹴りながら、感覚は壁歩きに近いが、重力が無いとこんなにもふわふわと心許ないものなのかと不思議な心持ちで前へと進む。
ウィンス・デイランダール(ka0039)は磁力発生装置付きの靴に、脚甲、及び、機械槍「タービュレンス」の噴射口からの気流を利用しながらこの無重力空間に対応していた。
紅薔薇(ka4766)はそんな2人の後に続きながら、トマーゾ教授について思案していた。
彼は何者なのか。何を企んでいるのか。それを問う事が出来るのか。
彼らにとって近寄る小型狂気などは敵ではないが、造船ドックでは大きな破壊音が轟いていた。何かがいる。その予感を胸に、紅薔薇はどんどんと前へ進んでいく2人に置いて行かれないよう必死に宙を駆けた。
道中の小型狂気達を蹴散らしつつ、一同は比較的速やかに軍事ドームの中を駆け抜け、一つの大きな扉の前に辿り着いた。
「ここが造船ドックよ。……準備は良いわね? 行くわよ」
ラヴィアン・リュー(kz0200)がスロットにIDカードを差し込み、扉を開ける。
そしてIDカードをアルマに手渡した。
「よろしくお願いするわ」
「はい、お任せ下さい」
アルマは人懐っこい笑顔で頷いて見せた。
音も無く開かれた扉の向こうは、破壊された三番艦の大小様々な残骸や破片が宙に浮かび、視野が良くない。
頭上にはぶち抜かれた天井を覆うように蠢く狂気の歪虚達が漂っており、ハンター達は慎重にドック内へと侵入する。
何枚目だろうか。とてつもなく広い空間をふわりと漂う鉄板を押しのけ、真田 天斗(ka0014)の双眸は広いドックの端、モニターのそばにトマーゾ教授と騎士風の大きな黒い影を捕らえた。
『良く来たな、異界の救世主よ』
黒い影が一歩踏み出す。それだけで、負のマテリアルが足元から渦を巻いて立ち上るような錯覚を得る。
――これは、危険な存在だ。
ハンターなら誰しもがそう肌で感じる程に、黒い影は自分が『敵』であることを隠していない。
「オウカ・レンヴォルト……いや、御神楽謳華、だ。よろしく、な。騎士みたいの」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)が律儀にも名を名乗り、斬魔刀「祢々切丸」の柄に手を掛ける。
『おぉ、こりゃご丁寧に、どうも?』
「クリムゾンウェストが騎士、リュー・グランフェストだ。覚えとけ!」
リュー・グランフェスト(ka2419)も吼えるように名乗るとバスタードソード「ガラティン」を構えた。
「お前の、名は?」
『何、名乗るほどの者じゃねぇさ』
小馬鹿にするように黒い影は嗤う。そして、無造作に剣を振った。
大剣から生まれた赤い光は、敵に悟られないように迂回しながらトマーゾ教授への接近を図っていたシェルミア・クリスティア(ka5955)の目の前で炸裂した。
「っ!?」
『外したか。悪かったな。安心しろ、次はきちんと跡形も無く吹き飛ばしてやろう』
「このっ!」
リューが守りの構えを取りながらも正面から斬り掛かりに走る。
『そうだ、オマエ達の力とやら、見せてもらおうじゃないか』
楽しそうにリューの一撃を大剣の腹で軽々と受け止め弾き、弾かれた反動で宙へ浮いたリューへとお返しとばかりに鋭く重たい一撃を振り下ろす。
それをリューも反射的に身を捻ることで辛うじて避けるが、反動が殺せずそのまま明後日の方向へと飛んで行ってしまう。
「私達の力を見たいと言ったか?」
アルトが超重刀「ラティスムス」を抜刀し静かに歩み寄る。
「なら、提案がある」
『ほう?』
「私達がお前の予想を超えたら、今回は博士を諦め帰らないか」
アルトは博士のそばにいながらもこの黒い影が博士を殺さなかった事から一つの取引を持ちかける。
「我々の事を見たいんだろう?」
――闘ってみないか、と。
黒い影は喉の奥でくつくつと嗤ってアルトを見る。
『いいね。オレに勝つ気でいる。その無謀さがいい。面白い、いいだろう。……オマエは動くなよ、トマーゾ。巻き込まれても知らんぞ』
拘束されながらも身じろいだトマーゾ教授に釘を刺すと、黒い影は人差し指一つをクイクイッと動かし、“おいでおいで”とハンター達を挑発する。
『さぁ! 相手をしてやる! 存分に闘おう!!』
黒い影の宣言と共に、空中を漂っていた小型狂気達の視線が一斉にハンター達に降り注ぎ、同時にハンター達も一斉に動き始めた。
●
「ぐっ……あぁ……」
目の前に現れた5体の狂気達が複数の瞳で門垣 源一郎(ka6320)を捕らえた。
次の瞬間、源一郎の目の前には屍の山が広がり、それらが一斉に源一郎を見、彼に『償い』を強要する。
「源一郎!」
イレーヌ(ka1372)がすかさずキュアを唱え、源一郎を狂気の鎖から解放する。
「アイツらの目を見てはダメよ!」
ラヴィアンが狂気に侵され暴れ始めたソアレ・M・グリーヴ(ka2984)の頬を張り飛ばすと正気を取り戻させる。
「め、目を見るなって言われましても……」
レクイエムを歌い終わったルカ(ka0962)が混沌とした現状を見て嘆く。
誰もが話しには聞いていたはずだ。狂気の存在は混乱を招くと。故に、目を合わせてはいけない、彼らが発する音を聞いてはいけないと。
勿論ハンターは人並み外れた抵抗力がある。歴戦のハンターともなれば小型狂気一体を見たところで、彼らに侵食されることもほぼ無いだろう。
しかし、数が数だ。視線を逸らした所で他の個体がいれば、そして一気に複数の個体に見つめられればその分だけ不利になる。そして何より、『視線を逸らす』という明確な意識を持って行動した者が圧倒的に少なかった。
トマーゾのいる場所を目指し、ラヴィアンを護衛している者達は不意に視界に入るおぞましい狂気の姿、狂気の侵食に鋼鉄の意志で抵抗しながらも、じりじりとしか前へと進んでいく。
「ムジューリョク……ふむ、何とも摩訶不思議なものよの?」
浮遊物を利用しながら敵の視線をかいくぐり、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が味方のいない、小型狂気の群れに向かって素早くブリザードを放つ。
冷気の嵐は周囲の破片を巻き込みながら吹き荒れた。
ティスのライトニングボルトが遠くから接近する小型狂気を撃ち落とし、接近してきた小型狂気はリューリの戦槍「ボロフグイ」が貫き刺し倒す。
(何よ、せっかくリアルブルー観光のつもりで来たのに、観光どころじゃないじゃない……)
最初こそそう嘆いていたアルスレーテ・フュラー(ka6148)だが、小型狂気のレーザーに気付き、ラヴィアンを身を挺して庇う。
「怪我は?」
「大したことない、かな? ちょっと頼りないけどごめんねー」
さらに近寄ってくる小型狂気に向かって鉄扇を振りかざすと青龍翔咬波を放つ。
練り上げられたマテリアルはその直線上にいた小型狂気達を巻き込み、墜落させていく。
「いいえ、頼りにしているわ」
生真面目なラヴィアンの声に、アルスレーテは一瞬ぽかんとラヴィアンを見た後、ふわりと微笑んだ。
「私は雑魚の排除にまわりますので、あちらの強敵はお任せします」
一斉に動き出すのを見て、エルバッハ・リオン(ka2434)は仲間に向けてそう宣言すると、小型狂気が密集している箇所へとファイアーボールを撃ち込んだ。
爆発の威力に周囲に浮かぶ三番艦の破片が大きく旋回しながら四方へと飛び去っていく。
「っ! 危ない」
飛んできた巨大な鉄板を後方に飛んで避けるが、今度は下から跳ね返ってきた鉄板が迫ってきて、慌てて両足でそれを踏み付けるようにして避けた。
しかし今度はその踏みつけた反動でエルバッハの身体は更に宙を錐揉みしながら回転して明後日の方向へと飛んで行ってしまう。
「っく……何て闘いにくいの……!」
辛うじて壁に激突する前に壁に手を付いてその身を安定させると、エルバッハは壁を背にして、再びファイアーボールで小型狂気達を撃ち落としていった。
(とにかく全力移動して小型を押し退けてトマーゾに向かおう)
箍崎 来流未(ka2219)は小型の姿を見る度に、宙に浮かぶ残骸などを利用して避けながら、宙を跳躍しつつ全力で前へ前へと進んでいた。
その前に、一人の男の姿が見えた。彼は盾と杖を構えてはいたが、その背後から近付く狂気に気付いていないようだった。
「大変! 助けなきゃ!」
味方の誰ひとり、重体以上の状況には絶対にさせたくないという思いから、来流未は方向転換をかけて跳躍した。
その、目の前に別の狂気が降る様に現れる。
「!!」
咄嗟に日本刀「虎徹」を振り上げる。
「くふ……キャハハハハハハ!」
紅眼の瞳が小型狂気を捕らえ、その触手が来流未に襲いかかろうとも構わず更に高笑いと共に斬り付けていく。
鵤(ka3319)は後衛から……と思っていたものの、相手は無数に宙に浮く小型狂気。しかもドック内は広く、壁を背にすることは出来ても無重力状態では“そこが安全"である保証は無いという状況に辟易しながらも、漂う残骸に掴まりながらファイアスローワーで近付いて来た小型狂気を一気に焼き払う。
その時、背後から突如聞こえた笑い声に振り向き、間一髪で背後にいた小型狂気からのビームを盾で受けた。
「っぶなぁっ!」
冷静に周囲にいる小型狂気を3体纏めてデルタレイで貫き、声の主を見る。
「……狂気に染まっているわけじゃぁ、ないんだな……」
高笑いしながら攻撃を繰り出している来流未を見る。その攻撃対象が小型狂気であるのを見て「人騒がせな」とやや脱力しながら、ラヴィアンの周囲にいる聖導士達の方へと移動を開始した。
しかしこの直後、鵤は狂気によって精神汚染を受けた者達に囲まれるのであった。
ピオス・シルワ(ka0987)は自分が立てたアースウォールの陰に隠れながらファイアアローで狂気を狙い撃っていた。
戦場は動く。トマーゾを救いに行く者、ラヴィアンを護衛する者、あの黒い騎士のような大男を相手取る者。
そして重力が無いこの空間では壁を背にしない限り、全方向が前であり、上であり、下だった。
慣れない無重力戦の中、土の壁の上から無数の目がピオスを捕らえる。
……気がつくと、目の前には共に小型狂気を相手取って闘っていたはずの八代 遥(ka4481)がこわばった表情で自分をのぞき込んでいた。
「……僕は……?」
「あぁ、気がつかれましたか、良かった」
心から安堵したように微笑んだ遥は、見れば所々宇宙服が煤けている。
「敵の目を見ないように気を付けて下さいね」
「僕は、まさか……!!」
狂気の無数の目と目が合った所までは覚えている。しかし、今いるのは土壁からは遠く離れた天井付近で。
「すみません、止めるのにちょっと強く殴っちゃったから……痛みますか?」
言われれば後頚部が鈍い痛みを訴えるが、そんなことは問題では無かった。
「みんなは……!?」
「闘っています。……動けますか?」
ピオスは神妙な顔で頷く。それを見て、安心したように遥は目元を細めると、頷き返した。
そしてスタッフ「アライアンス」を構えドックの天井に空いた穴に向かってファイアーボールを投げつけた。
「異世界から帰ったら魔法は使えなくなってました、なんて事が無くてよかったですよ」
どうやら小型狂気はここから中へ侵入してきているらしい。
爆煙をくぐり抜け接近してきた小型狂気に向かってピオスもファイアアローを放つ。
「さあ――凍てつき焼かれ、この世界から出ていきなさい!!」
激戦が繰り広げられる中、宙を漂う人体を目にして保・はじめ(ka5800)は思わず引き寄せ、先ほど入ってきた扉のそばへと降り立った。
恐らく、ここの兵士なのだろう。どのような攻撃を受けたのかは解らないが、かなり苦悶に歪んだ表情で絶命していた。
その両目をそっと閉じてやると、兵士の宇宙服のベルトとドックの柱を結び、勝手にどこかへ行かないように固定してから、はじめは再び黒い影と闘う仲間の元へと向かうべく地を蹴った。
符を構え、投げる。強敵を前に闘う仲間へ小型狂気が横槍を入れないようにする為に。
「初めまして、アルマですー」
ようやくトマーゾの元まで辿り着いたアルマが人懐っこく笑いかけた。
「早速なんですけど、重力制御装置ってどれです?」
「あ、あぁ? それなら、あの機械だ」
顎で示された先にある機械を見て、「わふ?」と首を傾げたアルマは大きく頷いて機械へと歩み寄る。
「待て! IDカードとパスが」
「あ、ラヴィアンさんに教えて貰ってますー」
楽天的な口調でアルマは手短に答えると、すぐに機械へと向かう。
その背後を、ミリアとジョージ、そして八島 陽(ka1442)が直衛にあたる。
アルマとコントラルト、そして陽は手持ちの発煙手榴弾を1つずつ、それぞれ違う方向へ投げた。
そうすることによって、より多くの仲間に作戦がスタートしたことを知らせる目論見だ。
ティスとコントラルトはトマーゾの拘束を解こうとその背後へ回る。
その時だった、トマーゾが何かに気付き、叫んだ。
「いかん! やめるんだマクスウェル!!」
近付いて来た狂気を斬り飛ばした直後だったリューリは、何事かとトマーゾを見、そして赤い光に飲まれた。
●
星野 ハナ(ka5852)が周囲の小型狂気を巻き込みながら五色光符陣を展開する。
そのタイミングに合わせ、上泉 澪(ka0518)も全力で倒すべく一気に駆けだした。
澪の一撃を躱す事も無くその鎧で受け止めた黒い影は、事もあろうか刀身を掴んで澪ごと宙へと放り投げた。
天斗が前へと力強く踏み出し一気に間合いを詰めると、敵の懐へと飛び込みバトラー・グローブをはめた拳を繰り出した。
しかしその拳は黒い影の硬い鎧に阻まれ止まるどころか、無重力状態では反動が一切殺せず、宙返りをしながら後方へと弾き飛ばされていく。
アルトもまたエンタングルで仲間のサポートに回っていたが、そもそもこの影は攻撃を避ける、という行動を一切取っていないことに気付き、超重刀に持ち替えると、リューと共に宙に浮く残骸を上手く使いつつ、斬り掛かった。
「これ位の窮地、何度も経験してんだよっ!!」
しかしリューとアルトの連携による渾身の力を込めた一撃ですら、軽くいなされて2人揃って弾き飛ばされる。
「随分デカい剣、だな……俺も負けてはいない、ぞ」
オウカがジェットブーツで一気に距離を詰めつつ祢々切丸で斬り掛かるが、左腕一つに刃を受け止められ、さらに腹を蹴られ後ろへと吹き飛んだ。
「負けてはいないと、言ったはずだ……!」
オウカはギリギリの目算をつけ、身を捻ると漂う残骸に両足で着地する。そして一気に祢々切丸へマテリアルを流し込むと巨大化させ、届くはずの無い位置からの攻撃を仕掛けた。
『ほぅ……面白いな』
「な、に……!?」
しかしその奇襲ですら大剣の腹で受け止めると、その剣をちらりと見た。
『……こうかな?』
黒い影は全身から赤い負のマテリアルを吹き上げ、剣へとそれを注ぎ、無造作に払う。
しかしそれは超重錬成のように武器を巨大化させるのでは無く、結局は先ほどから何度も見ている負のマテリアルを剣圧で押し出す、というそれに過ぎない。
しかし、その威力は凶悪で広範囲に渡る。
周囲のハンターを巻き込みながら迫り来る赤い力。オウカは再度攻性防壁を展開するが、防ぎきれず、残骸を背にドックの端まで飛ばされていった。
「オウカ!」
トマーゾへと向かっていたイレーヌが、思わず足を止め、鮮血の帯を引きながら飛んで行くオウカを見る。
「行ってあげてください」
ここからではヒールが届かない事に気付いたソアレがその背を押し、頷く。
イレーヌは感謝を込めて頷き返すと、オウカを追い宙を飛んだ。
『上手く行かないな』
「くそっ!」
デルタレイを撃ち果たしたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が機導剣で斬り掛かる。
キヅカ・リク(ka0038)も敵の正体を見極めようとワイヤーを黒い影の右腕に絡ませ、張り付く。
『どれ』
そのワイヤーを逆に引っ張られ、慌ててワイヤーから手を離すも無重力では踏ん張ることも出来ず、グリムバルドに激突し、2人はぐるぐるともつれ合いながら飛んで行く。
そんな2人へ影は赤い剣圧を放つ。
「!」
キヅカはグリムバルドを庇いながら咄嗟に防御障壁を展開するが、砕けても尚その勢いは止まらず、甲冑の上からにもかかわらず自分の肋骨が折れる音を聞いた。
『何だ、この程度か。足りんなぁ……この程度では物足りんぞ!』
嘲るように影は大きく宙を仰ぐ。そして再び大剣に赤い光を放つ負のマテリアルが集まっていくのを感じ、ハナは目を見張る。
「今までにない負のマテリアル……! みなさん、気を付けてくださいですぅ!」
誰もが範囲攻撃に備え身構えたその時、影は高らかに声を張り上げた。
『さぁ! 踊って貰おうか、救世主ども!!』
「いかん! やめるんだマクスウェル!!」
トマーゾの叫び声が響く中、影は高笑いと共に大剣を床に突き刺した。
剣を中心に床の上を禍々しい赤い光が波のように駆け抜け広がってく。
「っ、どこまで広がって……!?」
失神したキヅカを抱いていたグリムバルドがいる壁際にまで赤い波が押し寄せ、視界が赤に染まる。
そしてグリムバルドはギチリ、と奥歯を噛み鳴らし、振動刀を手に取るとキヅカを放し壁を蹴った。
「……お前は、コロス」
そして一斉に半数以上のハンター達が各々の得物を手に黒い影――マクスウェルへ向かって突進していった。
そこには、トマーゾやラヴィアンの救助・護衛に向かっていた者も含まれる。
『笑いが止まらんな! この程度か、救世主!』
ただ無闇に突撃していくハンター達をマクスウェルは片手一つで薙ぎ払う。
「……おいコラ、クソ歪虚、テメェ俺達に何してくれやがった」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が眉間から血を流しながら、マクスウェルに問う。
ボルディアはあの光を浴びた瞬間、爆発しそうになる攻撃衝動を自分の眉間を銃床で強打することにより抑えていた。
『ほぅ……オレの能力に耐えたか』
マクスウェルはその間も斬り付けに来るアルトやリュー、天斗を軽くあしらいながらボルディアを見た。
『何、ちょっとオレを“恐ろしい物”と認識してもらっただけさ』
マクスウェルに全力で集中していた澪も、それ故に完全に我を失い、ただがむしゃらにマクスウェルへ大太刀「獅子王」を振り下ろしては、大剣に弾かれ、巨大な残骸へと叩き付けらる。
その一方でトマーゾへ向かって行っていた者の半数は、マクスウェルから距離を取るように離れ、震えていた。
「……この力、“狂気”じゃねぇ……お前、何モンだ?」
“狂気対策”として精神安定剤を持ってきていたウィンス、リリティア、紅薔薇の3人も、自分の変調に気付いた瞬間に安定剤を打ち込んだ為、正気を保ったままマクスウェルと対峙していた。
『さぁ、何だと思う?』
黒い昆虫のような仮面の下に、赤い三日月のように歪む口元が見えた気がした。
●
ミリアは赤い光に飲まれる少し前、隣に居たジョージの挙動がおかしいことに気付いた。
「ジョージ?」
伸ばした手は払われ、その瞳には狂気の色が宿っている。
「っこのバカっ!!」
殴り飛ばして正気に戻してやろうとした瞬間に、赤い光に飲まれた。
不意を突かれ、ジョージに飛び掛かられたお陰でアルマを巻き込み転倒したミリアは、マクスウェルの術にかかることなく立ち上がった。
「アルマ、大丈夫か? ……このっ!!」
ミリアはむんずと鎧の接続部を掴むと、狂気の密集している地点へとミサイル宜しくジョージを投げ飛ばした。
「イタタ……えぇ、はい、大丈夫ですよー」
機械に強かに頭をぶつけたアルマも、そのお陰で術にかかることが無いまま再び制御装置へと向かう。
シェルミアは震える手で何とか安定剤を自己注射すると、徐々に酷い震えと恐怖感が抜けて行くのが判った。
そして、過呼吸を起こしているアルスレーテの元へと走ると、両肩を強く掴み揺さぶるとその両頬を掌で包んだ。
「大丈夫、まずはゆっくり息を吐きましょう」
暫くカタカタと忙しなく揺れていた瞳に、徐々に冷静さが戻り、呼吸が安定してきた。
「……ぁ、わ、わたし……」
「みなさんをお願いします」
正気に戻ったのを見て、シェルミアは同じように震えているルカの元へと走る。
狂気による混乱で暴れる者、マクスウェルの放った赤い光により我を失っている者によって戦場は混沌としていた。特に痛いのは他者回復が出来る者が尽く敵の術中にはまってしまったことだ。
シェルミアはまず、状態回復が出来る者から正気に戻すべく駆け回った。
はじめもまた、精神汚染への備えとして持ってきていた安定剤を使い、冷静さを取り戻していた。
狂気の汚染と違い、マクスウェルの精神攻撃は“マクスウェルを排除しようと特攻する者”と“マスクウェルに怯え震える者”に分かれる特徴があった。
「仲間を攻撃しないだけ、マシとみるべきなのでしょうか……」
慣れない無重力の中、動かないオウカを抱きしめ震え泣いているイレーヌへと駆け寄ると、オウカの脈を確認し、生きている事を告げる。
「イレーヌさん、深呼吸しましょう。そして、オウカさんにヒールを。落ち着いたら、みなさんにキュアをお願いします」
冷静なはじめの対応にイレーヌも我を取り戻し、乱暴に頬を拭うと力強く頷いた。
「……わかってる、オウカはもう大丈夫。私も行くよ」
ルカはシェルミアの声により恐怖による全身の震えを抑え、何とか立ち上がった。
見れば、仲間がてんでばらばらにマクスウェルに突っかかっては、明後日の方向へと飛ばされていく。
「……しっかり、しなくちゃ……!」
ルカは自分の方へと飛ばされてきた澪へとキュアを唱え始めた。
我を失い突撃していくだけのリューリを、コバエを払うかのように剣先で払いながらマクスウェルは一歩一歩トマーゾへと歩いて行く。
逆にいち早く冷静さを取り戻した一同は、連携も何もなく、己の衝動のままにマクスウェルに突撃していく仲間のお陰で上手くタイミングが計れない。
「邪魔くせぇ!!」
ボルディアが吼えた。無計画に打ち出された仲間のファイアーボールに毛先を傷めながらも雄叫びと共に宣花大斧をマクスウェルへ叩き込むが、その一撃も剣で受け止められ弾き返される。その衝撃にボルディアの身体は宙を舞う。
(無重力状態はコイツも同じはずなのに、何でびくともしないんだ?)
残骸を掴み勢いを殺し、それを蹴ることで方向転換をして床へと降り立つと、再び駆け寄り大木を切り倒すような一撃を胴目がけて振り下ろす。
それも剣で受け止められるが、ボルディアはその時、足元から負のマテリアルが吹き上がるのを見て舌打ちした。
負のマテリアルがジェットブーツのような効果を常時発動しているらしい。
「この俺を殺してみやがれクソ歪虚ォ!」
ボルディアの咆吼に、マクスウェルは肩を揺らして嗤う。
『確かに、オマエを殺すのは骨が折れそうだ』
再び放たれた剣圧は広範囲に渡り、周囲の残骸を粉砕しながら斧で受けたボルディアを遠く反対側の壁の天井付近まで吹き飛ばした。
「……っ! 来るな……!」
アルスレーテのお陰でいち早く恐慌状態から脱した陽が近付くマクスウェルを牽制しようと龍鉱石を砕き撒く。キラキラとした輝きが陽の回りを彩るが、マクスウェルは首を傾げた。
『それがどうした?』
「!?」
確かに龍奏作戦の時、龍鉱石は特殊な効果を生み出した。しかし、それはその時限りの“奇蹟”だ。
現在の龍鉱石は身につければ抵抗力は上がるが、それ以上の効果は喪失している。
そのことを失念していた陽は放たれた一撃に攻性防壁を展開するが、陽の意識ごと遠くへ吹き飛ばした。
「あとは……このキーを入れるだけっと」
アルマは最後にもう一度、頭上高くへ向けて残りの発煙手榴弾を一斉に放り投げた。
「ミリアさん……? アルマさんっ!!」
ルカのキュアにより正気を取り戻したティスがアルマに向かって叫んだ。
「わふ?」
アルマが振り返ると、赤い瞳を狂気に染め輝かせたミリアがアルマの腹部を祢々切丸で貫いていた。
「……ないで……」
ミリアの震える呟きにアルマは目を細めると、その背に腕を回し、子をあやすようにぽんぽんと叩いた。
「大丈夫、ここにいます」
「……ぁ……あぁあああああ!!」
貫かれた所が灼熱の痛みを伴い、意識が飛びそうになる。
それでもアルマはそのまま動かず、正気を取り戻したが為に衝撃に震えるミリアをあやし、そして、最後のキーを押した。
けたたましい警報音が鳴り響くと、無重力空間だったドック内へ一挙に重力が戻った。
●
三番艦の残骸が轟音を立てながら次々に床へと叩き付けられる。
大きな残骸はその衝撃に更に砕け、ひしゃげ、飛び散り沈む。
宙に浮いていた発煙筒も煙を吐きながら地面を転がり、残骸に潰されていく。
煙による合図に気づけなかった者も、混乱していた者も、マクスウェルの術にはまっていた者も、その全てが警報音のお陰で我に返り、すんでの所で破片の直撃を間逃れていた。
そして、マクスウェルの術から解放され、発煙筒の合図に気づけた者は、重力が戻ると同時に一斉にマクスウェルへとその刃を突き立てていた。
全ての残骸が地に落ち、つかの間の静寂が広い造船ドックを支配した。
最初に動いたのは、4本の剣に刺し抜かれたマクスウェルの両肩。
『くく……くくく……アーッハッハッハッハッハ!!』
マクスウェルは何が楽しいのか、全身を揺らして嗤っていた。
各々が刃を引き抜き、距離を取ると慎重に構え直す。
「っ……バケモンが……っ!」
ウィンスが、リリティアが、紅薔薇が、澪が突き立てた刃に身を貫かれても、マクスウェルは一歩もその場から動いていなかった。
『今のは少し痛かったぞ。なるほど、良い攻撃だ』
マクスウェルが再び剣に負のマテリアルを集め始めたのを見て取り、4人はその攻撃を阻止しようと再び一斉に斬り掛かる。
『遅い』
しかし、マクスウェルの攻撃の方がコンマ1秒の差で早かった。
360度、その場で独楽のように回転すると、全周囲に赤い光が放たれ、それは4人の鎧の上からにも関わらず内臓を潰した。
その場に崩れ落ちた4人を見て、それからトマーゾの方を見て、彼の姿がハンター達の背に庇われていることを確認する。
『これが救世主の力か。いいだろう。今日の所は引き上げてやる』
「……いいのか?」
傷を抑えながら超重刀を支えに立つアルトが、冷や汗を浮かべながら問う。
『“オマエ達がオレの予想を超えたら帰る”そういう条件だっただろう? そもそも、今この場でオマエ達を全滅させた所で意味はない。元を……クリムゾンウェストを絶たねばな』
ブリザードを放とうとしていた遥も、周囲のハンターを巻き込む可能性に術を放てず、下唇を噛む。
『また逢おう、次は全力で相手をしてやる。……トマーゾ! せいぜいそいつらを鍛える事だ! オレを失望させるなよ!!』
そうマクスウェルが言うと、見守るハンター達の目の前で黒い光に吸い込まれるようにしてマクスウェルは消えた。
マクスウェルがいなくなったドック内は寒々しいほどに広い。
ただそこには乱れた呼吸音とかすかな呻き声が重苦しく響いたのだった。
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葉槻 | 6人 |
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